@ 22話
ー/ー
「灯、知ってるか? 俺たちが結婚式をやった、帝郷ホテルが人気になってるって」
灯は松代飯店から渡された封筒、次のクロスワードパズルの鍵を思い出していた。鍵は【縦6の鍵 家族になった場所】とある。ここで明と同じタイミングで同じ鍵が手渡されていることは互いに知る由もないが、今のこの明の言動と明の今日の行動を考えたなら、このクロスワードパズルを明も行っているのでは? と推察する。間違いなくこのキーワードの答えはたった今、明が話題にあげた結婚式場・帝郷ホテルを指すはずだから。
「……へぇ……そうなんだ……」
だから灯はわざと生返事で返す。それと共に今日は少しばかり気持ちが日常と異なっているのを感じている。
(明日は帝郷ホテルを覗いてみようかな)
2人がシンクロしているとは思いもよらない。明もクロスワードパズルのキーワードは分かったと言える。それは2人とも解が見えていない【横3】の鍵が分からなくとも、である。だから2人ともホテルに行く必要はない。
つまりは明の言葉は探りだ。それが分かったからこその灯りの生返事。なぜなら『帝郷』とは『気づき』が何よりの真理と言えるからである。
【日常に忙殺され振り回され心のゆとりを失くしてしまい、周囲の素晴らしさを見落としていた自身に気付いたとき、雲に乗って帝郷へと旅立つ】と故事にある。
「ねぇ、お父さん、お義母さん。帝郷ホテルのランチバイキング話題になってるから、明日みんなで行かない? ケーキとかも食べ放題よ?!」
天恵は打算的に輝季の気持ちをくすぐる。都合よく明がホテルの話題を出したので、天恵はその機に乗じたわけだ。しかしそれこそは灯に差出人が誰かを確信に至らしめた。
「行きたい! 行きたい!」
輝季が天恵に賛同する。輝季のピュアな存在が両親を動かした。
「じゃあ、折角だから行こうか、な灯」
ホテルでの会食が決まってから、天恵は気付く。そして急いで真一に連絡を入れる。
「真一ごめん。急なんだけどさ、明日家族で帝郷ホテルのランチに行くことになったの」
「明日? ランチ?」
「キーワードどうしたらいいかな?」
「また急だな……用意はしてあるけど、どうやって渡すか、だな」
「ごめん……」
「天恵が悪いわけではないよ。ボナペティの時のように会計時とかで渡せるよう考えてみる」
こんなにも早くパズルが進むとは思っていなかった真一・天恵は伝のないこのホテルには、次のキーワードの封筒がまだ用意できていなかった。
◇◆◇◆
日本で6箇所目のスーパージャイロラダーが配置された消防本部があるこの町の、一番高い建物である帝郷ホテル。50m級のはしご車が届く14階建てで、季節ごとに変わる夜のライトアップも町の夜を素敵に演出してくれる。
(真一……?!)
家族乗りのバンやいかにもカップルが乗り付けたであろうオープンカー、プレイボーイなスポーツセダンが並ぶホテルの駐車場の隅、駐輪場に真一の愛車らしき三輪自転車が止めてあった気がした。
12/28 真一からのスタンバイOKのメッセージはまだ届かない。月下家族はもうホテルに入る。レストランはホテルの2階、もう時間はない。気が急く天恵、そのとき携帯電話が名探偵のテーマ音と共に着信を知らせる。その画面に『真一』と表示されているのが目に入る前にメッセージを開く。
【とりあえずホテルのビュッフェ、家族水入らずで楽しんでどうぞ】とあった。
(どういうこと?)
そのまんま一言返信を入れる。天恵がホテルの売店横のエスカレーターを上がっていくとき、ピタゴラスイッチのメロディが聞こえて、人差し指を唇から放した。
ふとその方向、売店の方へと目を置くと、そこには売店内をローラーシューズで滑走しながらポケットのデバイスを取り出す真一らしき姿が目に留まった。
(え?!)
慌ててエスカレーターから身を乗り出して振り返る。想いや気持ちを解さないエスカレーターは無情に昇っていく。その先にあるのは天恵の、いや月下家の感情をも加味したかのような複雑な料理の多くが出迎えていた。
話題になっていたわりに、ホテルのビュッフェは混み合っていなかった。
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灯は松代飯店から渡された封筒、次のクロスワードパズルの鍵を思い出していた。鍵は【縦6の鍵 家族になった場所】とある。ここで明と同じタイミングで同じ鍵が手渡されていることは互いに知る由もないが、今のこの明の言動と明の今日の行動を考えたなら、このクロスワードパズルを明も行っているのでは? と推察する。間違いなくこのキーワードの答えはたった今、明が話題にあげた結婚式場・帝郷ホテルを指すはずだから。
「……へぇ……そうなんだ……」
だから灯はわざと生返事で返す。それと共に今日は少しばかり気持ちが日常と異なっているのを感じている。
(明日は帝郷ホテルを覗いてみようかな)
2人がシンクロしているとは思いもよらない。明もクロスワードパズルのキーワードは分かったと言える。それは2人とも解が見えていない【横3】の鍵が分からなくとも、である。だから2人ともホテルに行く必要はない。
つまりは明の言葉は探りだ。それが分かったからこその灯りの生返事。なぜなら『帝郷』とは『気づき』が何よりの真理と言えるからである。
【日常に忙殺され振り回され心のゆとりを失くしてしまい、周囲の素晴らしさを見落としていた自身に気付いたとき、雲に乗って帝郷へと旅立つ】と故事にある。
「ねぇ、お父さん、お義母さん。帝郷ホテルのランチバイキング話題になってるから、明日みんなで行かない? ケーキとかも食べ放題よ?!」
天恵は打算的に輝季の気持ちをくすぐる。都合よく明がホテルの話題を出したので、天恵はその機に乗じたわけだ。しかしそれこそは灯に差出人が誰かを確信に至らしめた。
「行きたい! 行きたい!」
輝季が天恵に賛同する。輝季のピュアな存在が両親を動かした。
「じゃあ、折角だから行こうか、な灯」
ホテルでの会食が決まってから、天恵は気付く。そして急いで真一に連絡を入れる。
「真一ごめん。急なんだけどさ、明日家族で帝郷ホテルのランチに行くことになったの」
「明日? ランチ?」
「キーワードどうしたらいいかな?」
「また急だな……用意はしてあるけど、どうやって渡すか、だな」
「ごめん……」
「天恵が悪いわけではないよ。ボナペティの時のように会計時とかで渡せるよう考えてみる」
こんなにも早くパズルが進むとは思っていなかった真一・天恵は伝のないこのホテルには、次のキーワードの封筒がまだ用意できていなかった。
◇◆◇◆
日本で6箇所目のスーパージャイロラダーが配置された消防本部があるこの町の、一番高い建物である帝郷ホテル。50m級のはしご車が届く14階建てで、季節ごとに変わる夜のライトアップも町の夜を素敵に演出してくれる。
(真一……?!)
家族乗りのバンやいかにもカップルが乗り付けたであろうオープンカー、プレイボーイなスポーツセダンが並ぶホテルの駐車場の隅、駐輪場に真一の愛車らしき三輪自転車が止めてあった気がした。
12/28 真一からのスタンバイOKのメッセージはまだ届かない。月下家族はもうホテルに入る。レストランはホテルの2階、もう時間はない。気が急く天恵、そのとき携帯電話が名探偵のテーマ音と共に着信を知らせる。その画面に『真一』と表示されているのが目に入る前にメッセージを開く。
【とりあえずホテルのビュッフェ、家族水入らずで楽しんでどうぞ】とあった。
(どういうこと?)
そのまんま一言返信を入れる。天恵がホテルの売店横のエスカレーターを上がっていくとき、ピタゴラスイッチのメロディが聞こえて、人差し指を唇から放した。
ふとその方向、売店の方へと目を置くと、そこには売店内をローラーシューズで滑走しながらポケットのデバイスを取り出す真一らしき姿が目に留まった。
(え?!)
慌ててエスカレーターから身を乗り出して振り返る。想いや気持ちを解さないエスカレーターは無情に昇っていく。その先にあるのは天恵の、いや月下家の感情をも加味したかのような|複雑な《手の込んだ》料理の多くが出迎えていた。
話題になっていたわりに、ホテルのビュッフェは混み合っていなかった。