@15話
ー/ー
灯は住職から受け取った封を開けた。
【横5 裏紙メモとガトーショコラ】確認してみてください
とある。
それを見て灯は、住職の手がやけに冷たかったのは、恐らく灯が来るのをこの寒空の中ずっと待っていたのではないだろうか? そう感じざるを得なかった。
……なぜ?
灯は図書館へと向かった。
(この手紙は何? 何故そんなことを知っているの?)
これは摩己の呪いだろうか? 灯はそんな考えが脳裏を掠めて身震いする。
(自習室って2階だったよね?!)
久しぶりの図書館だった。以前は足繫く通ったが、やはりあの事件の後は足が遠のいていたこの図書館。自習室へ上がる前に館内を一廻り懐かしむ。『作るなら本格フランス・ガトーショコラ』を探してみたが、その本は見つからず、検索しても該当は無かった。代わりにもっと作りたくなるくらいポップなショコラティエ監修の本が並んでいた。
◆◇◆◇
「そうか、白紙になってるメモ側じゃなくて、裏紙になった印刷側がこの事件の端緒。つまりは……」
メモ用紙をひっくり返して捲っていく。
「あった!」
思わず大きな声をあげてしまい、周囲から視線を被って小さくなる。それでも印刷面を捲っていくと文字に印がつけられていて、それを表の1枚目にメモを取る。それらを辿れば……【横4の鍵 新入園。再会の場といえば?】と読み解けた。
瞬殺でワードは埋まる。明は『お静かにお願いします』という係員の注意に頭を下げてみたものの、階段を音を立てて走り去る。
(あれ?)
騒がしい男の後姿に瞬間、夫・明の姿を感じたけれど、
(まさかね……)
と否定した笑みを払いながら2階へと昇る階段に踏み出した。そして明同様に、同じ【横4】の鍵を目にした灯は、明を追うように同じ道を歩き出した。
** 明 29歳 **
「それでは新入園のお子様の入場です」
アナウンスがやっと過ごしやすくなった春の空気に乗って、頭の上を流れたのなら、父兄たちは一斉に同じ方向へ熱視線を放つ。
我が子を動画や写真に収めるエゴがぶつかりあい息苦しいほどだ。それとは対照的な摩己の態度が、目を惹いている。いいや態度だけではない、服装も周囲は清楚なフォーマルを意識されているが、摩己のそれは艶がある。明は他の父兄だけでなく、保育士先生たちからも視線を感じ取っていた。
「入園おめでとうございます」
園長が挨拶を話し始めたとき、明は気付いた。
「なぁ、摩己。あそこに居る先生、同じ高校に居なかった?」
「えー?! なによ……?!」
興味無さそうに摩己は明の指す保育士を見た後、面倒くさそうに入園式のパンフレットに目を通す。
「名前、染夜灯……って……」
「やっぱり」
「……あたしも知ってるわ、この子」
摩己は少し退屈が紛れたようだった。
自身の高校卒業以来、初めて見た染夜灯は、社会の先輩たちに磨かれたのか、子供を預かる責任からなのか、マネージャーで見ていた高校時代よりも凛と構えている。思えば野球部員たちの方が、今いる幼稚園生たちよりも不純に甘えていたはずで、質が悪い。
(きっと良い保育士なんだろうな……)
明のそんな眼差しとは別に、隣から摩己の好奇な熱視線が送られている。灯も肌身に感じ取ったのだろう、先ず明と目がかち合う。慌てて挨拶を続ける園長先生を向いたけれども、気になって恐る恐る顔を戻したのなら、灯はまだこちらを見ていたので、頭を下げた。
その後摩己とも目がぶつかったのであろう、灯は明同様に頭を下げて前を向いた。それと同時に摩己も灯の方から顔の向きを戻した。摩己がうっすらと笑みを浮かべていたのが印象的だった、そして確かにこう言った。
「残念ね、幼稚園にはお迎えが無くって……」
明が摩己のこの言葉の意味を知るのに、それほど時間を要しなかった。
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灯は住職から受け取った封を開けた。
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とある。
それを見て灯は、住職の手がやけに冷たかったのは、恐らく灯が来るのをこの寒空の中ずっと待っていたのではないだろうか? そう感じざるを得なかった。
……なぜ?
灯は図書館へと向かった。
(この手紙は何? 何故そんなことを知っているの?)
これは摩己の呪いだろうか? 灯はそんな考えが脳裏を掠めて身震いする。
(自習室って2階だったよね?!)
久しぶりの図書館だった。以前は足繫く通ったが、やはりあの事件の後は足が遠のいていたこの図書館。自習室へ上がる前に館内を一廻り懐かしむ。『作るなら本格フランス・ガトーショコラ』を探してみたが、その本は見つからず、検索しても該当は無かった。代わりにもっと作りたくなるくらいポップなショコラティエ監修の本が並んでいた。
◆◇◆◇
「そうか、白紙になってるメモ側じゃなくて、裏紙になった印刷側がこの事件の端緒。つまりは……」
メモ用紙をひっくり返して捲っていく。
「あった!」
思わず大きな声をあげてしまい、周囲から視線を被って小さくなる。それでも印刷面を捲っていくと文字に印がつけられていて、それを表の1枚目にメモを取る。それらを辿れば……【横4の鍵 新入園。再会の場といえば?】と読み解けた。
瞬殺でワードは埋まる。明は『お静かにお願いします』という係員の注意に頭を下げてみたものの、階段を音を立てて走り去る。
(あれ?)
騒がしい男の後姿に瞬間、夫・明の姿を感じたけれど、
(まさかね……)
と否定した笑みを払いながら2階へと昇る階段に踏み出した。そして明同様に、同じ【横4】の鍵を目にした灯は、明を追うように同じ道を歩き出した。
** 明 29歳 **
「それでは新入園のお子様の入場です」
アナウンスがやっと過ごしやすくなった春の空気に乗って、頭の上を流れたのなら、父兄たちは一斉に同じ方向へ熱視線を放つ。
我が子を動画や写真に収めるエゴがぶつかりあい息苦しいほどだ。それとは対照的な摩己の態度が、目を惹いている。いいや態度だけではない、服装も周囲は清楚なフォーマルを意識されているが、摩己のそれは艶がある。明は他の父兄だけでなく、保育士先生たちからも視線を感じ取っていた。
「入園おめでとうございます」
園長が挨拶を話し始めたとき、明は気付いた。
「なぁ、摩己。あそこに居る先生、同じ高校に居なかった?」
「えー?! なによ……?!」
興味無さそうに摩己は明の指す保育士を見た後、面倒くさそうに入園式のパンフレットに目を通す。
「名前、染夜灯……って……」
「やっぱり」
「……あたしも知ってるわ、この子」
摩己は少し退屈が紛れたようだった。
自身の高校卒業以来、初めて見た染夜灯は、社会の先輩たちに磨かれたのか、子供を預かる責任からなのか、マネージャーで見ていた高校時代よりも凛と構えている。思えば野球部員たちの方が、今いる幼稚園生たちよりも不純に甘えていたはずで、質が悪い。
(きっと良い保育士なんだろうな……)
明のそんな眼差しとは別に、隣から摩己の好奇な熱視線が送られている。灯も肌身に感じ取ったのだろう、先ず明と目がかち合う。慌てて挨拶を続ける園長先生を向いたけれども、気になって恐る恐る顔を戻したのなら、灯はまだこちらを見ていたので、頭を下げた。
その後摩己とも目がぶつかったのであろう、灯は明同様に頭を下げて前を向いた。それと同時に摩己も灯の方から顔の向きを戻した。摩己がうっすらと笑みを浮かべていたのが印象的だった、そして確かにこう言った。
「残念ね、幼稚園にはお迎えが無くって……」
明が摩己のこの言葉の意味を知るのに、それほど時間を要しなかった。