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@14話 図書館メモ

ー/ー





「天恵ちゃん、お義母さん午後からちょっと出たいんだけど、輝季のことお願いできる? 明さんは午前中から出掛けててまだ戻ってないから」


「うん、いいよ。どこ行くの?」


「ママ、どっか行くの?」


「うーん……ちょっと近所」


「僕も一緒に行く」


「テルはお姉ちゃんとお留守番してよっ」


「お姉ちゃん、遊んでくれるの?」


「いいよ! 何して遊ぶ?」


「やった! じゃあママいってらっしゃい」


 輝季の無邪気な言葉に、少しだけ表情を曇らせた灯。母心は子供たちには理解されないと思うと悲しくなる。


 蓮水と会って帰ったらすぐのことだ。まるで予知していたかのように灯は出掛けて行った。バッグには手紙は入ったままのはずである。


 気になったのは、『縁切りのお守り』を求めに行くからなのだろうか? 灯の心を推し量れない天恵は、義母()の出掛けの表情が優れていないように思えた。そしてその優れない表情は、天恵にも襲い掛かる。


 


「何これ……?!」


 そこには、蓮水と並んでベンチに座る昨日の天恵の写真がクラスの共有グループメッセージに匿名でアップされていた。


 すぐに真一に相談しようと思ったが、天恵は少し考慮して、発信した電話は蓮水へであった。


 


「蓮実?! ごめん。昨日のことだけど……うん……蓮水には迷惑かけないから……うん、ごめん。それと……」


「お姉ちゃん、早く遊ぼうよー」


 輝希が天恵のズボンを引っ張った。


 


◆◇◆◇


 


 灯は神社に来ていた。何年ぶりだろうか? 明と結婚する前、公務員試験が受かる前までの居場所だったこの神社。縁切りのお守りの場所は以前と変わってないだろうか? 真直ぐそこへ向かう。家に閉じこもっていても仕方がない、クロスワードパズルに乗せられたつもりはないが、外に出るきっかけとしたのは事実である。


 


「おや、染夜さん……じゃなく、今は何だっけかな?」


「……染夜でいいですよ。これ、頂いてもよろしいでしょうか?」


「もちろん、構わんですよ。……月下さん」


 


 染谷と呼んだのはわざとなのか? 住職の深意は計り知れない。住職が『月下』と呼んだことに驚く灯。


 お守りが手の中から逃げるように落ちた。キュアな風の音が周囲の木立が揺らしたのなら、お守りがそのまま逃げ去ってしまっても良いかもなんて思った。


 住職が優しく拾い上げる。それを受け取ったときに触れた住職の手はやけに冷たかった。


 


「このお守りは、な、『縁』だけではなく『(えん)』を切ることだってできるんぞよ?! しがらむのもまた『縁』といってなぁ……」


 住職は全て分かっている……灯はそんな気がした。


 


「……省察いたします」


「それと……これを……」


 一通の封筒が手渡される。


 


  ** 23年前 ** 


 


 学生が図書館の自習室を使うことはよくある。そして図書館側もそれは構わないが、計算などのメモを机に書く学生が多くて図書館側は困っていた。その対策で各机に図書館の裏紙をメモ用紙として各机に設置した。これが自習室を使う人に大好評で、多くの学生が訪れた。


 ある日、図書館側のミスで、裏紙にしてはいけない個人情報が載った用紙を裏紙としてメモ用紙にしてしまった。ある受験生が持って帰ったメモの裏を見たのなら、本の貸し出し名に知人の名前を発見してしまったのだ。


 その発見者が大街音穏である。


 


 その本のタイトルが『作るなら本格フランス・ガトーショコラ』、そして本を借りた名義は『染夜灯』。


 


 この件があってか、図書館からこの本の扱いが無くなったと、小さな話題になったのは少し後のことだった。


 


  

** 12/27現在 **




 


 明は図書館に来ていた。【横5 裏紙メモと個人情報】これから考えられるのはここ、図書館しかない。


 丸みの帯びた堅くない印象の外観が特徴的な図書館。中に入ると重厚な本棚にぎっしりと埋められた本たちに圧倒されてしまう。話し声も吸収してしまうような木が多く使われた内装が、気持ちを落ち着かせる。


バイクショップでは先輩とつい長話をして、時間を費やし昼飯まで一緒にしてしまった。


 


(この手紙の主は、ひょっとして灯か?)


 そう思わずにはいられない。高校3年のとき、この図書館の個人情報漏れがニュースになった。それが野球部のマネージャーだった染夜灯という身近な人間であったことが明に印象付けた。


 そして手作りガトーショコラを誰に渡すのか、と周囲はバレンタインデーを面白半分に騒ぎ立てた。


 その年の明は、受験に(ことごと)く落ちてバレンタインデーどころではなかった。中学以来、初めて2/14に誰からもチョコを貰わなかったのを思い出す。図書館の2階へ駆けあがると、自習室を見渡した。


 


(まだ同じ、あの頃と何も変わってない)


机には図書館が用意したであろう、裏紙のメモ用紙が束ねられて各机に置かれている。空いている席に座ると、メモ用紙を乱雑に捲る。もともと離婚話は灯が言い出したことだ。明は決して離婚を望んではいない。だからもし……


 


(もし、この手紙が灯からの手紙だとすれば、このクロスワードを完成させたら、ひょっとして……)


 そう期待しないこともない。理由は分からない、でもそんなのは後でいい……また離婚して、天恵を悲しませたくない。


 しかしメモを全て捲り終わっても、何もない……図書館(ここ)じゃない?! そんな考えも過る……しかし他に思い当たる場所はない。




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「天恵ちゃん、お義母さん午後からちょっと出たいんだけど、輝季のことお願いできる? 明さんは午前中から出掛けててまだ戻ってないから」
「うん、いいよ。どこ行くの?」
「ママ、どっか行くの?」
「うーん……ちょっと近所」
「僕も一緒に行く」
「テルはお姉ちゃんとお留守番してよっ」
「お姉ちゃん、遊んでくれるの?」
「いいよ! 何して遊ぶ?」
「やった! じゃあママいってらっしゃい」
 輝季の無邪気な言葉に、少しだけ表情を曇らせた灯。母心は子供たちには理解されないと思うと悲しくなる。
 蓮水と会って帰ったらすぐのことだ。まるで予知していたかのように灯は出掛けて行った。バッグには手紙は入ったままのはずである。
 気になったのは、『縁切りのお守り』を求めに行くからなのだろうか? 灯の心を推し量れない天恵は、|義母《灯》の出掛けの表情が優れていないように思えた。そしてその優れない表情は、天恵にも襲い掛かる。
「何これ……?!」
 そこには、蓮水と並んでベンチに座る昨日の天恵の写真がクラスの共有グループメッセージに匿名でアップされていた。
 すぐに真一に相談しようと思ったが、天恵は少し考慮して、発信した電話は蓮水へであった。
「蓮実?! ごめん。昨日のことだけど……うん……蓮水には迷惑かけないから……うん、ごめん。それと……」
「お姉ちゃん、早く遊ぼうよー」
 輝希が天恵のズボンを引っ張った。
◆◇◆◇
 灯は神社に来ていた。何年ぶりだろうか? 明と結婚する前、公務員試験が受かる前までの居場所だったこの神社。縁切りのお守りの場所は以前と変わってないだろうか? 真直ぐそこへ向かう。家に閉じこもっていても仕方がない、クロスワードパズルに乗せられたつもりはないが、外に出るきっかけとしたのは事実である。
「おや、染夜さん……じゃなく、今は何だっけかな?」
「……染夜でいいですよ。これ、頂いてもよろしいでしょうか?」
「もちろん、構わんですよ。……月下さん」
 染谷と呼んだのはわざとなのか? 住職の深意は計り知れない。住職が『月下』と呼んだことに驚く灯。
 お守りが手の中から逃げるように落ちた。キュアな風の音が周囲の木立が揺らしたのなら、お守りがそのまま逃げ去ってしまっても良いかもなんて思った。
 住職が優しく拾い上げる。それを受け取ったときに触れた住職の手はやけに冷たかった。
「このお守りは、な、『縁』だけではなく『|厭《えん》』を切ることだってできるんぞよ?! しがらむのもまた『縁』といってなぁ……」
 住職は全て分かっている……灯はそんな気がした。
「……省察いたします」
「それと……これを……」
 一通の封筒が手渡される。
  ** 23年前 ** 
 学生が図書館の自習室を使うことはよくある。そして図書館側もそれは構わないが、計算などのメモを机に書く学生が多くて図書館側は困っていた。その対策で各机に図書館の裏紙をメモ用紙として各机に設置した。これが自習室を使う人に大好評で、多くの学生が訪れた。
 ある日、図書館側のミスで、裏紙にしてはいけない個人情報が載った用紙を裏紙としてメモ用紙にしてしまった。ある受験生が持って帰ったメモの裏を見たのなら、本の貸し出し名に知人の名前を発見してしまったのだ。
 その発見者が大街音穏である。
 その本のタイトルが『作るなら本格フランス・ガトーショコラ』、そして本を借りた名義は『染夜灯』。
 この件があってか、図書館からこの本の扱いが無くなったと、小さな話題になったのは少し後のことだった。
** 12/27現在 **
 明は図書館に来ていた。【横5 裏紙メモと個人情報】これから考えられるのはここ、図書館しかない。
 丸みの帯びた堅くない印象の外観が特徴的な図書館。中に入ると重厚な本棚にぎっしりと埋められた本たちに圧倒されてしまう。話し声も吸収してしまうような木が多く使われた内装が、気持ちを落ち着かせる。
バイクショップでは先輩とつい長話をして、時間を費やし昼飯まで一緒にしてしまった。
(この手紙の主は、ひょっとして灯か?)
 そう思わずにはいられない。高校3年のとき、この図書館の個人情報漏れがニュースになった。それが野球部のマネージャーだった染夜灯という身近な人間であったことが明に印象付けた。
 そして手作りガトーショコラを誰に渡すのか、と周囲はバレンタインデーを面白半分に騒ぎ立てた。
 その年の明は、受験に|尽《ことごと》く落ちてバレンタインデーどころではなかった。中学以来、初めて2/14に誰からもチョコを貰わなかったのを思い出す。図書館の2階へ駆けあがると、自習室を見渡した。
(まだ同じ、あの頃と何も変わってない)
机には図書館が用意したであろう、裏紙のメモ用紙が束ねられて各机に置かれている。空いている席に座ると、メモ用紙を乱雑に捲る。もともと離婚話は灯が言い出したことだ。明は決して離婚を望んではいない。だからもし……
(もし、この手紙が灯からの手紙だとすれば、このクロスワードを完成させたら、ひょっとして……)
 そう期待しないこともない。理由は分からない、でもそんなのは後でいい……また離婚して、天恵を悲しませたくない。
 しかしメモを全て捲り終わっても、何もない……|図書館《ここ》じゃない?! そんな考えも過る……しかし他に思い当たる場所はない。