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@11話 灯

ー/ー





 松代飯店は満席だった。店主から、入り口近くの椅子で席が空くのを待つよう伝えられる前に、灯は勝手知ったる我が家のように順番待ちに名前を書いて座った。明がそれに倣って椅子に座ろうとしたときだった。


 


「あ、ここ! 彼女たち連れなんです」


 4人席のテーブルに1人で座っていた女性が手を挙げた。声に気付いた店主と明・灯の3人は手の主を見る。


 


「月下くん、それと灯ちゃん!」


「音穏先輩!」「あ、大街?!」


 その手の主は大街 音穏(おおまち ねおん)。明と同学年の野球部の女子マネ。そして摩己と同じ大学で自称、摩己の親友である。


 


「聞き覚えのあるバイクの音が聞こえたから、もしかして? と思って入口見てたんだ。そうしたら入って来たんが月下くんだったからびっくりした。で、灯ちゃんと一緒だし、2度びっくりよ」


「ですよねー」


「まだよく来るのか? ここ」


「そんな来れるわけないじゃない、灯ちゃんだってそうでしょ?」


「わたしは……まだチョイチョイと」


 彼女たちは男子たちと合わせるのが上手かったから、野球部の連中とも松代飯店には顔を出していたのは知っている。


 


「学生大盛無料、まだやってんだ」


「先輩ラーメン大盛ですか?」


「もう学生じゃないよ」


「月下くん、学生の時だってここの大盛食べてなかったじゃん」


「何で知ってんだ?」


「摩己の親友だって……知ってるでしょ?」


「…………そうだったな」


「え? 摩己さんって?」


 こういう時は、さっきまで鋭かった灯の超能力は働かないのだろうか? 話を切って欲しいと思う。その気持ちが大きかったせいか、灯が摩己の名前に対する反応がただの『誰?』と違うのに気付かなった明。


 


「俺の妻……」


「じゃあ、さっきのご神符って……」


「ご神符?」


「あ、いや、何でもないんだよ」


 必死に隠そうとした明を無視した音穏が、灯にばらしてしまう。明は相席したことを後悔した。


 


「あー……そーいうこと。だから2人が一緒に居るって訳ね」


 音穏は摩己の不倫事情をどこまで知っているのだろうか? 明は自分が知っている以上の情報を音穏から聞けるのではないか、と期待が湧き起こらなったわけがない。恥も外聞もなく音穏の次の言葉を待ったが、それは明の期待外れだった。


 


「灯ちゃんも高校時代月下くんのこと好きだったものね」


「えーやだ、音穏先輩やめてくださいよー」


 灯は明が卒業の時に告白している。それはお互い周知の事実だから隠しようもない。


 


「灯ちゃんがヤマハのオートバイ、S……何とかって名前の……」


「SR400?!」


「そう、それ乗ったらいいってのだって私が教えてあげたんだから」


「え?」


「音穏先輩っ!」


「それに図書館で摩己も灯ちゃんと同じ『作るなら本格フランス・ガトーショコラ』を図書館で借りてたこと教えてあげたでしょ?!」


「大街それ、どういうことだ?」




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 松代飯店は満席だった。店主から、入り口近くの椅子で席が空くのを待つよう伝えられる前に、灯は勝手知ったる我が家のように順番待ちに名前を書いて座った。明がそれに倣って椅子に座ろうとしたときだった。
「あ、ここ! 彼女たち連れなんです」
 4人席のテーブルに1人で座っていた女性が手を挙げた。声に気付いた店主と明・灯の3人は手の主を見る。
「月下くん、それと灯ちゃん!」
「音穏先輩!」「あ、大街?!」
 その手の主は|大街 音穏《おおまち ねおん》。明と同学年の野球部の女子マネ。そして摩己と同じ大学で自称、摩己の親友である。
「聞き覚えのあるバイクの音が聞こえたから、もしかして? と思って入口見てたんだ。そうしたら入って来たんが月下くんだったからびっくりした。で、灯ちゃんと一緒だし、2度びっくりよ」
「ですよねー」
「まだよく来るのか? ここ」
「そんな来れるわけないじゃない、灯ちゃんだってそうでしょ?」
「わたしは……まだチョイチョイと」
 彼女たちは男子たちと合わせるのが上手かったから、野球部の連中とも松代飯店には顔を出していたのは知っている。
「学生大盛無料、まだやってんだ」
「先輩ラーメン大盛ですか?」
「もう学生じゃないよ」
「月下くん、学生の時だってここの大盛食べてなかったじゃん」
「何で知ってんだ?」
「摩己の親友だって……知ってるでしょ?」
「…………そうだったな」
「え? 摩己さんって?」
 こういう時は、さっきまで鋭かった灯の超能力は働かないのだろうか? 話を切って欲しいと思う。その気持ちが大きかったせいか、灯が摩己の名前に対する反応がただの『誰?』と違うのに気付かなった明。
「俺の妻……」
「じゃあ、さっきのご神符って……」
「ご神符?」
「あ、いや、何でもないんだよ」
 必死に隠そうとした明を無視した音穏が、灯にばらしてしまう。明は相席したことを後悔した。
「あー……そーいうこと。だから2人が一緒に居るって訳ね」
 音穏は摩己の不倫事情をどこまで知っているのだろうか? 明は自分が知っている以上の情報を音穏から聞けるのではないか、と期待が湧き起こらなったわけがない。恥も外聞もなく音穏の次の言葉を待ったが、それは明の期待外れだった。
「灯ちゃんも高校時代月下くんのこと好きだったものね」
「えーやだ、音穏先輩やめてくださいよー」
 灯は明が卒業の時に告白している。それはお互い周知の事実だから隠しようもない。
「灯ちゃんがヤマハのオートバイ、S……何とかって名前の……」
「SR400?!」
「そう、それ乗ったらいいってのだって私が教えてあげたんだから」
「え?」
「音穏先輩っ!」
「それに図書館で摩己も灯ちゃんと同じ『作るなら本格フランス・ガトーショコラ』を図書館で借りてたこと教えてあげたでしょ?!」
「大街それ、どういうことだ?」