@10話
ー/ー
12/27 明より一日遅れること昨日から休みに入った灯。公務員である灯は例年29日から休みに入るが、それが月曜日のため、溜まっていた有給休暇を取得した。
何となく得をした気持ちの灯りだったが、手紙を一読したけれど無造作にバッグに突っ込んだままだ。義母、灯の方は最初の問題を【縦9の鍵 お札と出会い、助務】解ったら行ってみて欲しい、と明とは違うキーワードを届けてある。
(時期的には悪くないタイミング。でも、お義母さんも動く気ないなぁ……真一に相談してみよう)
そう思って真一に連絡してみたけど、メッセージが読まれないまま数時間が過ぎてしまう。落ち着かない天恵は気分転換に外を歩く。乾燥した快晴の地元を湿った表情で歩いていると、バッタリ蓮水と出会った。
「月下?!」
「あ、蓮水」
「どうしたんだい? 浮かない顔してさ」
蓮水も計画を知っている、だから天恵の気持ちは簡単に蓮水流れ落ちた。気が付いたら真一に相談しようと思っていたことを蓮水に話していた。
「うん、ゴラスワード・パズルのことなんだけど……」
「ゴラスワード・パズル?」
「あ、うん、真一が造語で『ピタゴラスワード・パズル』作戦って命名したの」
「だろうね……」
蓮水は不敵に笑う。ある種の余裕がある人種の仕草に思える、そういうところ、何となく真一も似ている。
「フルネームだと長いから、ピタゴラスワードとゴラスワードパズル、どっちがいいかな?」
蓮水はそれには答えずに、天恵に心配してる内容を話せ、と促す。こういう無駄を削ぎ落し省略する淡白な所は、いかにもロジカル思考男子だな、と感じる。
「……ふーん……そうか……月下のお義母さんを……それなら……」
** 11年前 ① **
「ようこそお参りくださいました」
「あ……はい……どうも……」
言葉の表情が暗い。男は下を向きその上夕暮れだが、顔も同様に違いなかった。
「あの……すみません、えっとその、お守りとか、お札とか探しているんですけど……」
「あ、はい。御祈願はどのような御利益をお探しでしょうか?」
「……恥ずかしい話ですが……妻が、その……」
「あ、浮気封じ祈願のご神符ですね?」
「そ、そうです、それです」
男が顔をあげた。その男は明だった。ここは神社で、お正月でもなければ参拝客は外に無く、閑散としている。そして巫女は染夜灯だった。
「あれ? 月下先輩?」
「え? あ、あれ? 染夜、さん……? なにしてんだ?」
「あ、わたし? わたしは今ここでバイト……違った……助務をしてます」
「巫女さん? バイト? 助務?」
「神社ではアルバイトって言わなくて、バイトのことを助務って言うんです」
「働いている? 幼稚園は?」
明はそう言いながら振り返った。今年の業務を終えたであろう園児たちの声も聞こえてくるはずもないのに、それでも通りの向こう側に見える幼稚園の方に顔を向けた。
「辞めました。長く務めるには私立の幼稚園より公立の方がいいから、公務員試験を受けるために今はバイトしながら勉強中!」
そう言いながら灯も明が見ていた方へと顔を移した。それは通りを一本隔てたお向かいさんの幼稚園。今でも時折園児たちの賑やかな声が参拝者の心を癒すこともある。複雑な思いが少しの時間、灯の視線をとどまらせる。
「そっか……なんか残念だな」
「保育士を辞めるわけじゃないですから」
「……まぁ……」
保育士さんと聞いて摩己を思い出す……その言葉と一緒にここへ来た目的も思い出したのなら、思考も会話も止まる。それを察したかのように灯が職務に戻る。
「ところで先輩、浮気封じの……」
「あ、恥ずかしいところ見られちゃったな……」
「いくらになるのかな?」
「え……っと初穂料は……はい、こちらに2千円お納めください」
灯がお金を収めると、探していた話題を思い出したように言葉を投げてくる。
「あ、先輩。神社の駐車場にバイク止まってるの気付きませんでした?」
「え? ごめん、分かんない……いや、止めてあったかも」
明は記憶を探る、そして閃いた。脳裏に描いたのは隅に止めてあったオートバイ、それはヤマハSR400だったに違いない。灯はさっきと同じように明の心の内を分かっているかのようなタイミングで繋ぐ。
「それ、わたしのバイクなんです」
「え?!」
「先輩、少し待ってられませんか? わたし、もうすぐバイト……違った助務終わりなんです」
そう言って2人は懐かしさのまま、松代飯店に辿り着くのである。このとき天恵が5歳になる年で、灯はすでに28歳になっていて、明は30歳。摩己はまだ誕生日を迎える前の29歳だった。そしてこの年に摩己が浮気相手と共に事故死することを、まだ誰も想像できるはずもなかった。
摩己が亡くなったのは深夜のアンダーパスの通り、公園側の並木に車が突っ込んで亡くなった。
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12/27 明より一日遅れること昨日から休みに入った灯。公務員である灯は例年29日から休みに入るが、それが月曜日のため、溜まっていた有給休暇を取得した。
何となく得をした気持ちの灯りだったが、手紙を一読したけれど無造作にバッグに突っ込んだままだ。義母、灯の方は最初の問題を【縦9の鍵 お|札《ふだ》と出会い、助務】解ったら行ってみて欲しい、と明とは違うキーワードを届けてある。
(時期的には悪くないタイミング。でも、お義母さんも動く気ないなぁ……真一に相談してみよう)
そう思って真一に連絡してみたけど、メッセージが読まれないまま数時間が過ぎてしまう。落ち着かない天恵は気分転換に外を歩く。乾燥した快晴の地元を湿った表情で歩いていると、バッタリ蓮水と出会った。
「月下?!」
「あ、蓮水」
「どうしたんだい? 浮かない顔してさ」
蓮水も計画を知っている、だから天恵の気持ちは簡単に|蓮水《そっちへ》流れ落ちた。気が付いたら真一に相談しようと思っていたことを蓮水に話していた。
「うん、ゴラスワード・パズルのことなんだけど……」
「ゴラスワード・パズル?」
「あ、うん、真一が造語で『ピタゴラスワード・パズル』作戦って命名したの」
「だろうね……」
蓮水は不敵に笑う。ある種の余裕がある人種の仕草に思える、そういうところ、何となく真一も似ている。
「フルネームだと長いから、ピタゴラスワードとゴラスワードパズル、どっちがいいかな?」
蓮水はそれには答えずに、天恵に心配してる内容を話せ、と促す。こういう無駄を削ぎ落し省略する淡白な所は、いかにもロジカル思考男子だな、と感じる。
「……ふーん……そうか……月下のお義母さんを……それなら……」
** 11年前 ① **
「ようこそお参りくださいました」
「あ……はい……どうも……」
言葉の表情が暗い。男は下を向きその上夕暮れだが、顔も同様に違いなかった。
「あの……すみません、えっとその、お守りとか、お札とか探しているんですけど……」
「あ、はい。御祈願はどのような御利益をお探しでしょうか?」
「……恥ずかしい話ですが……妻が、その……」
「あ、浮気封じ祈願のご神符ですね?」
「そ、そうです、それです」
男が顔をあげた。その男は明だった。ここは神社で、お正月でもなければ参拝客は外に無く、閑散としている。そして巫女は染夜灯だった。
「あれ? 月下先輩?」
「え? あ、あれ? 染夜、さん……? なにしてんだ?」
「あ、わたし? わたしは今ここでバイト……違った……助務をしてます」
「巫女さん? バイト? 助務?」
「神社ではアルバイトって言わなくて、バイトのことを助務って言うんです」
「働いている? 幼稚園は?」
明はそう言いながら振り返った。今年の業務を終えたであろう園児たちの声も聞こえてくるはずもないのに、それでも通りの向こう側に見える幼稚園の方に顔を向けた。
「辞めました。長く務めるには私立の幼稚園より公立の方がいいから、公務員試験を受けるために今はバイトしながら勉強中!」
そう言いながら灯も明が見ていた方へと顔を移した。それは通りを一本隔てたお向かいさんの|幼稚園《前職場》。今でも時折園児たちの賑やかな声が参拝者の心を癒すこともある。複雑な思いが少しの時間、灯の視線をとどまらせる。
「そっか……なんか残念だな」
「保育士を辞めるわけじゃないですから」
「……まぁ……」
保育士さんと聞いて摩己を思い出す……その言葉と一緒にここへ来た目的も思い出したのなら、思考も会話も止まる。それを察したかのように灯が職務に戻る。
「ところで先輩、浮気封じの……」
「あ、恥ずかしいところ見られちゃったな……」
「いくらになるのかな?」
「え……っと初穂料は……はい、こちらに2千円お納めください」
灯がお金を収めると、探していた話題を思い出したように言葉を投げてくる。
「あ、先輩。神社の駐車場にバイク止まってるの気付きませんでした?」
「え? ごめん、分かんない……いや、止めてあったかも」
明は記憶を探る、そして閃いた。脳裏に描いたのは隅に止めてあったオートバイ、それはヤマハSR400だったに違いない。灯はさっきと同じように明の心の内を分かっているかのようなタイミングで繋ぐ。
「それ、わたしのバイクなんです」
「え?!」
「先輩、少し待ってられませんか? わたし、もうすぐバイト……違った助務終わりなんです」
そう言って2人は懐かしさのまま、松代飯店に辿り着くのである。このとき天恵が5歳になる年で、灯はすでに28歳になっていて、明は30歳。摩己はまだ誕生日を迎える前の29歳だった。そしてこの年に摩己が浮気相手と共に事故死することを、まだ誰も想像できるはずもなかった。
摩己が亡くなったのは深夜のアンダーパスの通り、公園側の並木に車が突っ込んで亡くなった。