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@9話 ヤマハのオートバイ

ー/ー





「明か。懐かしいな」


「ご無沙汰です」


 ボナペティのガトーショコラを買いに行ったのが昨日、今日は午前中からクロスワードパズルを手に外へと繰り出している明。


 


「どうした? またバイク乗るのか?」


「いや、すみません。ちょっと顔出しただけです」


「なんだ、冷やかしかよ。ま、俺には事情は分からねーが来ると思ってたよ」


「ですよね……」


「ほらよ、これだ」


 YSP=ヤマハモータサイクル・スポーツ・プラザと題されたバイクショップ。2階建て、ガラス張りの店舗にはV-MAXやXJ、RZからセローなど大型からオフロードまで人気車が外から見えてファンを熱くさせる。


 この店には何とV型12気筒3,500cc、カーボンファイバーのボディで車体850kg、『OX99-11』という幻のヤマハ・100万ドルスポーツカーが展示されている。これを見たくて県外からも多くの人が訪れる。


 


 100万ドルの所有者とは思えない油まみれのツナギを着たバイク屋の店主は、これまたグリスまみれの軍手のままガレージの工具と一緒に置かれていた封筒を取って手渡す。


 


「これ、置いていったのって……」


「なんにも答えねーよ。約束したからな」


「……そうっスか……先輩のお手まで煩わせてしまって、すみませんでした。それと、ありがとうございました」


「おうよっ。またいつでも来いよ」


 


(バレンタインのガトーショコラにヤマハのSR400……そんなことまで知ってる人物って……)


 ボナペティでガトーショコラを買った明は、会計のときに次のクロスワードの鍵となる問題文を手渡された。


 


* * *


 


「お客様、ポイントカードはお持ちですか?」


「あ、いや、随分久しぶりだからもう、持ってないかな」


「昔からのお客様でしたら、『永久ポイント』もあるかも知れませんので、お電話番号を頂ければお調べいたします」


「あ、そうですか……」


 明は言われるがまま電話番号を伝えた、すると……


 


「あ、お客様、すみません。お客様がいらしたら、これを渡すよう預かっています」


 店員はレジの下から取り出した1枚の封筒を差し出した。


 


【横2の鍵 SR400】解ったら行ってみよう


 


* * * 


 


 明は高校3年、ゴールデンウイークでの強化練習試合のとき、頭部へのデッドボールを受け、脳にダメージを負った。頭葉脳挫傷、死の淵を彷徨う全治3ヶ月の重症だった。最後の夏の大会を諦めることになった明は、先輩の誘いからバイクに依存した。『摩己と慶介が別れた』という噂もあって、部内で何となくギクシャクしていたから丁度良くもあった。


 スピードのトリップ状態、明だってそれが憂さ晴らしでヤケクソの逃避行動だってのは分かっていた。


 


「剣道部は大会、どうだったの?」


「県4で負けちゃった」


「そっか……」


「野球部は3回戦負けだってね、音穏(ねおん)が言ってた……」


「……知ってる」


「ごめん……。無神経なこと言って」


「いいんだ、もうとっくに野球は諦めた」


「……進路、どうするの?」


「……普通に受験するよ。バイトとかバイクが学校にバレて夏休み明け停学くらっちゃったし、……もう推薦なんて狙えないだろうから……妲華は?」


「あたしは推薦貰って、受験戦争から早抜けするつもりよ」


「じゃあさ、俺が早く進路決まったら、さ、あの……俺のバイクで出かけない?」


「……やめておくわ。季節だってバイクじゃ寒いし、推薦がダメになっても嫌だから……」


「そっか……保母さんだっけ?」


「今は保育士っていうんですー」


 


* * * 


 


 YSPのバイクショップで貰った封筒には【横5 裏紙メモと個人情報】解けたら確認してみよう、と書かれていた。


 横2は3マス。『YSP』なのか『バイク』なのか、『ヤマハ』でも3文字……だからまだ埋めていない、アルファベットではないだろうが……。縦1で答えが決まると思われる。明はこのクロスワードパズルにどっぷりはまっていることに気付いた。そしたとりあえず、横5を解くことを優先することにした。




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「明か。懐かしいな」
「ご無沙汰です」
 ボナペティのガトーショコラを買いに行ったのが昨日、今日は午前中からクロスワードパズルを手に外へと繰り出している明。
「どうした? またバイク乗るのか?」
「いや、すみません。ちょっと顔出しただけです」
「なんだ、冷やかしかよ。ま、俺には事情は分からねーが来ると思ってたよ」
「ですよね……」
「ほらよ、これだ」
 YSP=ヤマハモータサイクル・スポーツ・プラザと題されたバイクショップ。2階建て、ガラス張りの店舗にはV-MAXやXJ、RZからセローなど大型からオフロードまで人気車が外から見えてファンを熱くさせる。
 この店には何とV型12気筒3,500cc、カーボンファイバーのボディで車体850kg、『OX99-11』という幻のヤマハ・100万ドルスポーツカーが展示されている。これを見たくて県外からも多くの人が訪れる。
 100万ドルの所有者とは思えない油まみれのツナギを着たバイク屋の店主は、これまたグリスまみれの軍手のままガレージの工具と一緒に置かれていた封筒を取って手渡す。
「これ、置いていったのって……」
「なんにも答えねーよ。約束したからな」
「……そうっスか……先輩のお手まで煩わせてしまって、すみませんでした。それと、ありがとうございました」
「おうよっ。またいつでも来いよ」
(バレンタインのガトーショコラにヤマハのSR400……そんなことまで知ってる人物って……)
 ボナペティでガトーショコラを買った明は、会計のときに次のクロスワードの鍵となる問題文を手渡された。
* * *
「お客様、ポイントカードはお持ちですか?」
「あ、いや、随分久しぶりだからもう、持ってないかな」
「昔からのお客様でしたら、『永久ポイント』もあるかも知れませんので、お電話番号を頂ければお調べいたします」
「あ、そうですか……」
 明は言われるがまま電話番号を伝えた、すると……
「あ、お客様、すみません。お客様がいらしたら、これを渡すよう預かっています」
 店員はレジの下から取り出した1枚の封筒を差し出した。
【横2の鍵 SR400】解ったら行ってみよう
* * * 
 明は高校3年、ゴールデンウイークでの強化練習試合のとき、頭部へのデッドボールを受け、脳にダメージを負った。頭葉脳挫傷、死の淵を彷徨う全治3ヶ月の重症だった。最後の夏の大会を諦めることになった明は、先輩の誘いからバイクに依存した。『摩己と慶介が別れた』という噂もあって、部内で何となくギクシャクしていたから丁度良くもあった。
 スピードのトリップ状態、明だってそれが憂さ晴らしでヤケクソの逃避行動だってのは分かっていた。
「剣道部は大会、どうだったの?」
「県4で負けちゃった」
「そっか……」
「野球部は3回戦負けだってね、|音穏《ねおん》が言ってた……」
「……知ってる」
「ごめん……。無神経なこと言って」
「いいんだ、もうとっくに野球は諦めた」
「……進路、どうするの?」
「……普通に受験するよ。バイトとかバイクが学校にバレて夏休み明け停学くらっちゃったし、……もう推薦なんて狙えないだろうから……妲華は?」
「あたしは推薦貰って、受験戦争から早抜けするつもりよ」
「じゃあさ、俺が早く進路決まったら、さ、あの……俺のバイクで出かけない?」
「……やめておくわ。季節だってバイクじゃ寒いし、推薦がダメになっても嫌だから……」
「そっか……保母さんだっけ?」
「今は保育士っていうんですー」
* * * 
 YSPのバイクショップで貰った封筒には【横5 裏紙メモと個人情報】解けたら確認してみよう、と書かれていた。
 横2は3マス。『YSP』なのか『バイク』なのか、『ヤマハ』でも3文字……だからまだ埋めていない、アルファベットではないだろうが……。縦1で答えが決まると思われる。明はこのクロスワードパズルにどっぷりはまっていることに気付いた。そしたとりあえず、横5を解くことを優先することにした。