第3話 ガラクタの凱歌
ー/ー
モニターの向こう、敵プレイヤー二人のアバターが、その手に最後の切り札である爆弾を握りしめている。勝利を確信した、無慈悲な笑み。
まずい! 二発の爆弾には、絶対に耐えられない!
思考よりも先に、身体が動いていた。
僕は、ジャンク・キャッスルのハンドルを全力で前に倒し、残ったバッテリーの全てを注ぎ込む勢いで全速前進させた。狙うは、片方のプレイヤー。爆弾を投げられる前に、この鉄の塊で轢き潰す!
轟音と共に、キャッスルは敵のアバターを掠めるように吹き飛ばした。やった!
だが、その代償は大きかった。掠めた際に敵のアバターがキャッスルの車輪に引っかかり、急激に減速してしまう。その一瞬の隙を、もう片方のプレイヤーが見逃すはずもなかった。
投げられた爆弾が、完璧な放物線を描いて、僕たちのコアの真横に着弾する。
[CORE EXPOSED!]
[WARNING: PLAYER HP 1]
世界が白く染まり、凄まじい衝撃で画面全体が揺れる。『コア』を守っていた最後の装甲が吹き飛び、僕自身も爆風で瀕死の状態に陥った。
『リク!』
ディスプレーの隅で、ユイが心配そうに僕を見つめている。
——諦めてたまるか!
もはや一か八かだった。ジャンク・キャッスルを敵の要塞に向け『大砲』を最後の板目がけて撃った。あの硬い『板』の壁を壊すために。ユイも、僕の意図を汲んで『自動照準クロスボウ』を何発か放ってくれたようだが、爆風と警告音で揺れる視界の中、僕の目にはもう何も映っていなかった。
――その時だった。
敵の最後の一撃が僕のアバターを捉え、世界が完全に暗転したのと、どこか間延びした、ゲームの終了を告げるファンファーレが鳴り響いたのは、ほぼ同時だった。
——何が、起きた?
暗転した視界が、リスポーン地点の光と共に戻る。がらんとしたフィールド。静寂。そして、場違いなほど陽気な勝利のメロディー。
『リク! 勝った! 私達、勝った!』
ヘッドセットから、ユイの、今まで聞いたこともないほど弾んだ声が聞こえた。
「えっ!」――勝った? 僕たちが?
「ユイ……一体、何が起きたのか教えてくれる?」
『……クエンティンの爆弾が、敵の『コア』を吹き飛ばした! ちょっとの差で、私たちが先だった!』
「!」
なるほど。僕はようやく、全てを理解した。
僕たちのジャンク・キャッスルが、敵の注意をすべて引きつけている、まさにその瞬間に。フィールドの反対側から、僕たちのエースが、最高のタイミングで、最高の仕事をやってのけたんだ。
僕がヘッドセットを外し、現実世界に意識を戻すと、そこは静まり返っていた。いや、違う。会場全体が、一瞬の静寂の後、爆発したかのような、割れんばかりの歓声とどよめきに包まれていた。
『な、何が起こったんだー!? 今、何が起こったんだーっ!?』
『わからない! だが、勝ったのはチーム『ジャンク・キャッスル』だ! 格上のシード校『ロイヤル・ソード』を、無名のノーシードチームが破った! 大金星だ!』
解説者の、興奮しきった絶叫がブースの外から響いてくる。僕たちのブースの周りにも、信じられないといった表情の観客たちが集まってきていた。
「っしゃあ! 見たか、あのエリートどもの顔!」
クエンティンが、椅子から立ち上がって雄叫びを上げている。その顔は、汗と、涙でぐしゃぐしゃだった。
「うむ。見事な作戦だった、リク。そして、クエンティン、最後の一撃、お見事」
リョウガ先輩が、そのゴツい手で僕とクエンティンの肩を、力強く叩いた。その目も、赤く潤んでいる。
「やったじゃーん! 勝っちゃった、勝っちゃった! ねぇ、この後なんか打ち上げとか行っちゃう!?」
ミミ先輩が、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、僕たちに抱きついてきた。
僕たちは、互いの顔を見合わせた。
寄せ集めの弱小チーム。旧式の機材。誰にも期待されていなかった僕たちが、格上のシード校を、倒した。
込み上げてくる熱い感情のままに、僕とクエンティンは、どちらからともなく拳を突き出し、強く、固く、合わせる。それは、あの日の放課後の誓いよりも、ずっと重くて、温かい拳だった。
少し落ち着きを取り戻した後、僕は自分のPCの前に戻り、ジョイスティックに接続された、新品同様に輝くフィグモを、そっと手に取った。周囲の喧騒が、嘘のように遠のいていく。
「……ありがとう、ユイ。君がいてくれたおかげだ」
僕だけの、小さな声。
『ううん。リクのクラフトが、すごかったから』
フィグモから、直接脳内に響くような、優しい声が返ってきた気がした。僕たちの絆が、また一つ、深くなった瞬間だった。
ふと顔を上げると、会場の巨大スクリーンに、更新されたトーナメント表が大写しになっていた。
一回戦の勝者として、僕たちのチーム——『ジャンク・キャッスル』の名前が、確かにそこにあった。そして、その隣には、次の対戦相手の名前。
僕たちの戦いは、まだ始まったばかりだ。
だけど、今の僕たちなら。この最高の仲間たちと、最高のパートナーがいれば、どこまでだって行ける。
僕は、巨大スクリーンの向こうにいるであろう、まだ見ぬ強敵たちを思い浮かべ、不敵に、笑った。
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まずい! 二発の爆弾には、絶対に耐えられない!
思考よりも先に、身体が動いていた。
僕は、ジャンク・キャッスルのハンドルを全力で前に倒し、残ったバッテリーの全てを注ぎ込む勢いで全速前進させた。狙うは、片方のプレイヤー。爆弾を投げられる前に、この鉄の塊で轢き潰す!
轟音と共に、キャッスルは敵のアバターを掠めるように吹き飛ばした。やった!
だが、その代償は大きかった。掠めた際に敵のアバターがキャッスルの車輪に引っかかり、急激に減速してしまう。その一瞬の隙を、もう片方のプレイヤーが見逃すはずもなかった。
投げられた爆弾が、完璧な放物線を描いて、僕たちのコアの真横に着弾する。
[CORE EXPOSED!]
[WARNING: PLAYER HP 1]
世界が白く染まり、凄まじい衝撃で画面全体が揺れる。『コア』を守っていた最後の装甲が吹き飛び、僕自身も爆風で瀕死の状態に陥った。
『リク!』
ディスプレーの隅で、ユイが心配そうに僕を見つめている。
——諦めてたまるか!
もはや一か八かだった。ジャンク・キャッスルを敵の要塞に向け『大砲』を最後の板目がけて撃った。あの硬い『板』の壁を壊すために。ユイも、僕の意図を汲んで『自動照準クロスボウ』を何発か放ってくれたようだが、爆風と警告音で揺れる視界の中、僕の目にはもう何も映っていなかった。
――その時だった。
敵の最後の一撃が僕のアバターを捉え、世界が完全に暗転したのと、どこか間延びした、ゲームの終了を告げるファンファーレが鳴り響いたのは、ほぼ同時だった。
——何が、起きた?
暗転した視界が、リスポーン地点の光と共に戻る。がらんとしたフィールド。静寂。そして、場違いなほど陽気な勝利のメロディー。
『リク! 勝った! 私達、勝った!』
ヘッドセットから、ユイの、今まで聞いたこともないほど弾んだ声が聞こえた。
「えっ!」――勝った? 僕たちが?
「ユイ……一体、何が起きたのか教えてくれる?」
『……クエンティンの爆弾が、敵の『コア』を吹き飛ばした! ちょっとの差で、私たちが先だった!』
「!」
なるほど。僕はようやく、全てを理解した。
僕たちのジャンク・キャッスルが、敵の注意をすべて引きつけている、まさにその瞬間に。フィールドの反対側から、僕たちのエースが、最高のタイミングで、最高の仕事をやってのけたんだ。
僕がヘッドセットを外し、現実世界に意識を戻すと、そこは静まり返っていた。いや、違う。会場全体が、一瞬の静寂の後、爆発したかのような、割れんばかりの歓声とどよめきに包まれていた。
『な、何が起こったんだー!? 今、何が起こったんだーっ!?』
『わからない! だが、勝ったのはチーム『ジャンク・キャッスル』だ! 格上のシード校『ロイヤル・ソード』を、無名のノーシードチームが破った! 大金星だ!』
解説者の、興奮しきった絶叫がブースの外から響いてくる。僕たちのブースの周りにも、信じられないといった表情の観客たちが集まってきていた。
「っしゃあ! 見たか、あのエリートどもの顔!」
クエンティンが、椅子から立ち上がって雄叫びを上げている。その顔は、汗と、涙でぐしゃぐしゃだった。
「うむ。見事な作戦だった、リク。そして、クエンティン、最後の一撃、お見事」
リョウガ先輩が、そのゴツい手で僕とクエンティンの肩を、力強く叩いた。その目も、赤く潤んでいる。
「やったじゃーん! 勝っちゃった、勝っちゃった! ねぇ、この後なんか打ち上げとか行っちゃう!?」
ミミ先輩が、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、僕たちに抱きついてきた。
僕たちは、互いの顔を見合わせた。
寄せ集めの弱小チーム。旧式の機材。誰にも期待されていなかった僕たちが、格上のシード校を、倒した。
込み上げてくる熱い感情のままに、僕とクエンティンは、どちらからともなく拳を突き出し、強く、固く、合わせる。それは、あの日の放課後の誓いよりも、ずっと重くて、温かい拳だった。
少し落ち着きを取り戻した後、僕は自分のPCの前に戻り、ジョイスティックに接続された、新品同様に輝くフィグモを、そっと手に取った。周囲の喧騒が、嘘のように遠のいていく。
「……ありがとう、ユイ。君がいてくれたおかげだ」
僕だけの、小さな声。
『ううん。リクのクラフトが、すごかったから』
フィグモから、直接脳内に響くような、優しい声が返ってきた気がした。僕たちの絆が、また一つ、深くなった瞬間だった。
ふと顔を上げると、会場の巨大スクリーンに、更新されたトーナメント表が大写しになっていた。
一回戦の勝者として、僕たちのチーム——『ジャンク・キャッスル』の名前が、確かにそこにあった。そして、その隣には、次の対戦相手の名前。
僕たちの戦いは、まだ始まったばかりだ。
だけど、今の僕たちなら。この最高の仲間たちと、最高のパートナーがいれば、どこまでだって行ける。
僕は、巨大スクリーンの向こうにいるであろう、まだ見ぬ強敵たちを思い浮かべ、不敵に、笑った。