「行くぞ、ユイ! サポートを頼む!」
『OK、リク! 任せて!』
僕は昨夜、今から作る城のようなクラフトをユイに見せていた。僕の頭に浮かんだイメージを、彼女は脳波コントロールマウスから読み取って完璧に解釈し、次に必要なパーツ、接着すべき最適な角度を、ディスプレーの視界に次々と示していく。僕はもう、何も考えない。ただ、ひたすらスキルを発動し、ユイが示してくれる光のガイドに合わせて、ブロックや板を組み上げていくだけだ。
『な、なんだぁ!? チーム『ジャンク・キャッスル』のクラフター、信じられないスピードで組み上げていく!』
解説が驚愕の声を上げる。
とどめを刺そうとウィングスーツで急降下してきた『ロイヤル・ソード』のエースアタッカーが、目の前の光景に驚愕し、動きを止めた。
ついさっきまでただのガラクタの山だったものが、青白いクラフトライトの光に包まれ、意思を持ったかのように蠢き、変形し、雄々しく立ち上がる。
無骨な『ブロック』で固められた装甲。地面をがっしりと掴む、六輪の大きな『タイヤ』。そして、天に向かって突き出された一本の『大砲』と、不気味に旋回する複数の『自動照準』つき『クロスボウ』。
その中心には、僕たちの命そのものである『コア』が、頑丈なフレームに守られる形で鎮座していた。
それは、瓦礫のようなパーツから生まれ落ちた獣。無骨な移動要塞——『ジャンク・キャッスル』。
「さあ、ショータイムだ」
僕は、むき出しの操縦席に飛び乗り、『ハンドル』をガシリと掴んだ。ジョイスティックに接続されたフィグモが淡く光り、僕の視界の隅に、パートナーであるユイのホログラムが姿を現す。
『リク? ……次は何をする?』
僕はニヤッと笑い、
「敵を蹴散らす!」
僕の言葉が終わらぬうちに、ユイが制御する『大砲』と『自動照準クロスボウ』が、空中で呆然とする『ロイヤル・ソード』のエースアタッカーを捉え、容赦ない集中砲火を浴びせた。抵抗する間もなく、彼の身体は光の粒子となって霧散する。
[ENEMY PLAYER DOWN! HP 0]
「いくぞ!」
ハンドルを倒すと、ジャンク・キャッスルは巨大なタイヤを軋ませ、地響きを立てて前進を開始した。その動きは、洗練された兵器とは程遠い、荒々しく重々しい、まさしく鉄の暴獣だ。
「な、なんだあの城は、デカけりゃ良いってもんじゃないぞ!」
「そうだ! 止めるぞ! あの中にコアがあるんだ!」
残りの二人が放つ矢が、キャッスルの装甲に突き刺さる。だが、そんな豆鉄砲のような攻撃ではびくともしない。僕が狙いを定めるより早く、ユイが制御する砲塔が火を噴き、一人をいとも簡単に蹴散らした。
[ENEMY PLAYER DOWN! HP 0]
「ミミ先輩!」
「OK!リクっち!」
僕の短い指示に、ミミ先輩が即応する。彼女は、残った最後の一人の背後に素早く回り込み、弓と斬撃で揺さぶる。敵がミミ先輩に対応しようと振り向いた瞬間、その隙を、キャッスルの『自動照準クロスボウ』が見逃すはずもなかった。放たれた矢が、正確に敵の背中を射抜く。
[ENEMY PLAYER DOWN! HP 0]
敵チーム、全滅。ジャンク・キャッスルの圧倒的な存在感が、戦場を完全に支配していた。
『すごい! あの『ロイヤル・ソード』を、一気に逆転したぞ!』
『これがチーム『ジャンク・キャッスル』の、本当の実力だというのかー!』
解説者の興奮した声が、ヘッドセットから響き渡る。
僕たちは敵の防衛ラインを蹴散らし、ついに『ロイヤル・ソード』の固定要塞の目前まで肉迫した。勝利が、すぐそこまで見えていた。
『やったね、リク!』ユイが自分のことのように喜ぶ。『でも、バッテリー消費が激しい! 残量、58%!』
「大丈夫だ、このまま押し切る!」
だが、敵も黙って負けてくれるほど、甘くはなかった。
『リク! 敵プレイヤー、二体リスポーンした。もう一体も、すぐにリスポーンする』
ユイの冷静な警告が、僕の昂りを鎮める。
僕は指示を飛ばした。
「リョウガ先輩、城を守って! ミミ先輩は背後に回り込んで攻撃、こっちの砲撃に巻き込まれないように!」
「了解!」
僕はユイの助けを借りて、再度クラフトスキルを発動。有り合わせのパーツで自爆ドローンを即席で組み上げると、敵の固定要塞めがけて放った。
同時に、ここが畳み掛けるチャンスとばかりに、僕は『ジャンク・キャッスル』を敵の固定要塞へとさらに近づけ、『大砲』の照準を合わせた。
リスポーンした敵プレイヤーたちが、今度はこちらの動きを読んで、一気に詰めてくる。
だが、僕はそれらを無視した。狙いはただ一つ、敵の要塞だけだ。
自爆ドローンが敵要塞に着弾し、轟音と共にブロックの壁を一枚引っ剥がした。
しかし、ほぼ同時に、敵の固定要塞からも『大砲』の報復が飛んでくる。凄まじい衝撃がキャッスルを襲い、僕たちのブロックの壁も一枚、無残に吹き飛んだ。
「おわっ! すまんリク!」
その爆風に巻き込まれ、盾となっていたリョウガ先輩が倒された。
「トドメだ!」
僕は、構わず『大砲』を撃ち込んだ。敵要塞のブロックの壁が、完全に破壊される。
——しかし、その奥にはまだ板の壁があった。くそっ!
「ごめん、リクっち!」
背後から、ミミ先輩の悲痛な声。
ふと気づくと、敵のプレイヤー二人に、懐まで潜り込まれていた。
彼らの手には、最後の切り札である、手持ちの爆弾が握られている。その目が、勝利を確信して、ギラリと光った。