表示設定
表示設定
目次 目次




@2話

ー/ー





「もっと月下のこと教えてよ」


「そんな風に言われると、言い難いよ……」


「じゃあさ、冬休み、月下の家に行ってもいいかな? 俺が見て勝手に感じとるからさ」


「ちょっ……簡単に女子の家に男子を呼べるわけないでしょう?!」




 尻の軽い女なんかではない、噂なんて気にしていない素振りを精一杯台詞に込めた。その反応が気になって真一の表情を盗み見る。


 


 終業式が終わった後、2人は学校から出て場所を変えていた。そこは高校生風情が学校帰りに立ち寄るような場所ではない。


 


「ごめん……こんなこと普通に女子に言わないよね……もちろん簡単に言ったつもりは無くって……相当勇気を出した言葉なんだけど……」


 最後の方は良く聞き取れないほど下を向いて自身の足元への言葉となる。そんな真一の仕草よりも、彼から出た言葉が、いやらしさの欠片もなかったことに気持ちが緩んだ。


(そっか……やっぱり話をしただけじゃない。あたしは真一に相談したんだ……だって真一はすごく真剣に考えてくれてるじゃない)


 人差し指を唇に当てるのは天恵の癖だ。


 


「ありがと、真一……」


「真一?」


「あッ……! ご、ごめん。勝手に下の名前で呼び捨てにして……あたし、どうしちゃったんだろ、あれぇ……」


『たらしこみ』丸出しの失言に、天恵の羞恥心が肉体にプレッシャーを与えてくる。ゆでダコ状態で天恵は顔を起こせないのだから、できれば真一の方が手早くドリーアウトしてもらいたい。


 ……この間から何回目だろうか? スカートのプリーツが悲鳴をあげる。今日が終われば、クリーニングに出してあげるからね、と変なことを思ったのなら、苦し紛れの会話でその場を凌ぐ。


 


「……真一って良い名前よね?!」


「俺、さ、この名前でいい思いしたことなかったんだよね」


「え? そーなの? ごめん」


 やっぱりそんな社交辞令のような言葉で、余計に気分を害してしまったかも、と後悔を重ねる。


 


「真実はひと~つ! とかいつも言われるし。毎朝パンツ一丁で体操してる有名なオヤジが近所にいてさ、そいつのせいであだ名が『パンイチ』だったこともある、って今笑ってなかったか?」


「ふぇ? 笑ってなんかないよ」


「ウソだ、笑ってんじゃん……」


「ごめん……笑わない……」


「……だから月下の家に行ってもいいかって言ったのは月下が、その……クラスで言うように簡単に思ったからじゃなくって……俺は『パンツネタ』で人をバカにするのは許さないんだ」


「……ありがとう……勝手に呼んでごめんなさい」


 焦って悩んで笑って安心したところでそんなこと言うなんて……。こんなジェットコースターには気持ちの安全バーなどついていない。


 


「いや、そーじゃなっくってさ、今日が初めて真一で良かったと思ったよ」


「それって……どーいう……?」


「これからずっと真一って呼んでもらいたいな」


「えっ?!」


 さっきと同じように全身が狂騒する。しかし少し違う……欲求不満のようにゾクっと心が浮き立つのを感じている。絶対真一には下着を直す姿を見られたくないな、と思った。それらを悟られないように、それには答えず話題を変える。真一の方も自分の台詞に照れたようで、横を向いている真一の耳が赤く熱を帯びているのが分かったから。


 


「ね、ミッションって何するの?」


「ピタゴラスイッチさ。中身はもっと月下を観察してからよく考えるよ。月下はお母さん似?」


 真一はまっすぐ天恵に向く。


 


(色っぽい答えだなぁ……)


 一つため息を吐く。そんな宣言されたら天恵の気持ちは複雑だ。『見ないで』といいたい。でも……。


 


(でも……あたしが親の離婚の相談したからこうなったわけで……)


 判ってる……今天恵が心で思ったことは建前だ……本当の『でも』の後は感情だ。理由付けなんてどうでも良いのに、しない訳にはいかない。天恵の指はまた唇に当てられる。


 もし両親が離婚したとしても最悪何とかあたしは我慢できる……けれど幼い輝季は天恵が考えている理屈なんて関係なく、離婚なんてして欲しくないって言うだろうと思う。


 


(それって、あたしは『離婚して欲しくない』理由を輝季のせいにしているだけじゃないのかな……?!)


 天恵は色んなことに理由をつけて、納得しようとしている自分が居るのに気付く。


 そんな天恵を見ている真一の視線に気が付いて、『やだ、見ないでよ』と結局言う羽目になった。




スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む @3話 恋


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「もっと月下のこと教えてよ」
「そんな風に言われると、言い難いよ……」
「じゃあさ、冬休み、月下の家に行ってもいいかな? 俺が見て勝手に感じとるからさ」
「ちょっ……簡単に女子の家に男子を呼べるわけないでしょう?!」
 尻の軽い女なんかではない、噂なんて気にしていない素振りを精一杯台詞に込めた。その反応が気になって真一の表情を盗み見る。
 終業式が終わった後、2人は学校から出て場所を変えていた。そこは高校生風情が学校帰りに立ち寄るような場所ではない。
「ごめん……こんなこと普通に女子に言わないよね……もちろん簡単に言ったつもりは無くって……相当勇気を出した言葉なんだけど……」
 最後の方は良く聞き取れないほど下を向いて自身の足元への言葉となる。そんな真一の仕草よりも、彼から出た言葉が、いやらしさの欠片もなかったことに気持ちが緩んだ。
(そっか……やっぱり話をしただけじゃない。あたしは真一に相談したんだ……だって真一はすごく真剣に考えてくれてるじゃない)
 人差し指を唇に当てるのは天恵の癖だ。
「ありがと、真一……」
「真一?」
「あッ……! ご、ごめん。勝手に下の名前で呼び捨てにして……あたし、どうしちゃったんだろ、あれぇ……」
『たらしこみ』丸出しの失言に、天恵の羞恥心が肉体にプレッシャーを与えてくる。ゆでダコ状態で天恵は顔を起こせないのだから、できれば真一の方が手早くドリーアウトしてもらいたい。
 ……この間から何回目だろうか? スカートのプリーツが悲鳴をあげる。今日が終われば、クリーニングに出してあげるからね、と変なことを思ったのなら、苦し紛れの会話でその場を凌ぐ。
「……真一って良い名前よね?!」
「俺、さ、この名前でいい思いしたことなかったんだよね」
「え? そーなの? ごめん」
 やっぱりそんな社交辞令のような言葉で、余計に気分を害してしまったかも、と後悔を重ねる。
「真実はひと~つ! とかいつも言われるし。毎朝パンツ一丁で体操してる有名なオヤジが近所にいてさ、そいつのせいであだ名が『パンイチ』だったこともある、って今笑ってなかったか?」
「ふぇ? 笑ってなんかないよ」
「ウソだ、笑ってんじゃん……」
「ごめん……笑わない……」
「……だから月下の家に行ってもいいかって言ったのは月下が、その……クラスで言うように簡単に思ったからじゃなくって……俺は『パンツネタ』で人をバカにするのは許さないんだ」
「……ありがとう……勝手に呼んでごめんなさい」
 焦って悩んで笑って安心したところでそんなこと言うなんて……。こんなジェットコースターには気持ちの安全バーなどついていない。
「いや、そーじゃなっくってさ、今日が初めて真一で良かったと思ったよ」
「それって……どーいう……?」
「これからずっと真一って呼んでもらいたいな」
「えっ?!」
 さっきと同じように全身が狂騒する。しかし少し違う……欲求不満のようにゾクっと心が浮き立つのを感じている。絶対真一には下着を直す姿を見られたくないな、と思った。それらを悟られないように、それには答えず話題を変える。真一の方も自分の台詞に照れたようで、横を向いている真一の耳が赤く熱を帯びているのが分かったから。
「ね、ミッションって何するの?」
「ピタゴラスイッチさ。中身はもっと月下を観察してからよく考えるよ。月下はお母さん似?」
 真一はまっすぐ天恵に向く。
(色っぽい答えだなぁ……)
 一つため息を吐く。そんな宣言されたら天恵の気持ちは複雑だ。『見ないで』といいたい。でも……。
(でも……あたしが親の離婚の相談したからこうなったわけで……)
 判ってる……今天恵が心で思ったことは建前だ……本当の『でも』の後は感情だ。理由付けなんてどうでも良いのに、しない訳にはいかない。天恵の指はまた唇に当てられる。
 もし両親が離婚したとしても最悪何とかあたしは我慢できる……けれど幼い輝季は天恵が考えている理屈なんて関係なく、離婚なんてして欲しくないって言うだろうと思う。
(それって、あたしは『離婚して欲しくない』理由を輝季のせいにしているだけじゃないのかな……?!)
 天恵は色んなことに理由をつけて、納得しようとしている自分が居るのに気付く。
 そんな天恵を見ている真一の視線に気が付いて、『やだ、見ないでよ』と結局言う羽目になった。