@1話 計画
ー/ー
(なんで 真一にこんなこと頼んだんだっけ?)
天恵は人差し指を唇に当て、ふと回想した。
(そっか……クラスで真一だけだもんね、あたしのこと『男好き』だとか『PK女子』だとか言わないのは……それに……)
それに真一は天恵の好きな漫画のキャラと名前がほぼ被っていたから。真一のフルネームは宮東 真一、学年でもトップの頭脳の持ち主で少し変わり者である。
ペン回しは100種類ほどの回し方ができると豪語しているし、『お口の恋人』と称してガムではなく、いろんな葉っぱをよく口にしている。今時ローラーシューズを履いていたり、愛車はよくおばちゃんが乗っている三輪自転車だ。どうせならスケボーに乗っていてほしいのに。
『簡単にできることが次々と連鎖していくことで、まるで手の込んだカラクリを実行しているかのように思える、それがピタゴラスイッチ』、だからあまり難しく考えない方がいい、彼がそう言っているのを何度か聞いたことがあるけれど、それは天恵の幼馴染が中学校の卒業文集に載せた言葉だというのを天恵は知っている。
因みに天恵は好きな漫画のヒロインに憧れて空手部所属。ポニーテールをなびかせて可愛らしくなんて最初のうちだけで、真面目に練習していくと、揺れる髪が邪魔になって今はミディアム。
(中学の時もそんなに話したことなかったよなぁ……)
月下 天恵は1‐D組で浮いた存在になっている、そろそろ今年も終わりを迎える高校1年の冬休み前、『男たらし』の噂が蔓延しだしたのは学校行事が増えた2学期だった。
噂の元は、天恵が男子の前でも平気で下着を直すからだ。いいや、べつに平気ではない、男子に見られることは、やはり恥ずかしい。ただ違和感があるまましばらくモゾモゾしているくらいなら、サッと手早く済ませてしまいたい気持ちが勝っているだけだ。
(それを多分……暮田くんたちは……)
暮田は1軍の男女5人グループだ。天恵が食い込んだ下着⦅* パンツ食い込み=PKという⦆を直した場面を見られてしまったのだ。
さらに恐らくそのグループの誰か、と思われる人間が、その写真を盗撮、ネットに拡散した。
(女子だって居るんだから、そんなことぐらいわかるだろうに)
女子にとっては、そんなことは『あるある』だ。みんな男子にバレないように足を広げてみたり、しゃがんだりして少しずつ直している、それなのに……。
この手の噂は広まるのが早い。凛としたイメージのある空手部女子であるからこそのギャップと容姿の良さが噂を助長させている。女子からは『男好き』の蔑視、男子からはエロい視線を浴びた。
そして天恵が『男たらし』と言われる所以はもう一つ……。
(……はぁ……今はクラスのそんなことを気にしている場合じゃないのに……)
天恵は今、家庭環境の方がクラスカーストよりも重要だったりする。先日両親は天恵に、『来年を目処に離婚を考えている』と打ち明けた。
天恵は父親の連れ子で母親は義母だ。その2人の間に生まれた天恵と9歳差、7歳の弟輝季がいる。
◆◇◆◇
「それってもう、『弟が成人するまで待って』とかお願いする以外ないんじゃないかな?」
「そうかもしれないけど、それは嫌なの……」
「離婚って言葉を口にした以上、他者がそれを引っ込めさせるのって難しいと思うよ」
「分かってるわよ……でも……」
(何でこんな相談しちゃったんだろ……ううん、相談じゃない、話をしただけ、真一が隣の席だから)
期末テストも返却され、冬休みまで秒読みの短縮授業の放課後。明日にはもう終業式だ。教室にはもう誰もいない。
天恵は自分のスカートを強く握りしめた拳に視線を落とす。下を向いているのに、天恵を見つめる真一の視線を感じている。それがものすごく不快にさせる。区切りも音もなくスムーズに進む教室の掛け時計の秒針が、なぜだか忌々しい。この空気感に、何か言って席を立ちたい天恵。けれど同じ想いに達しない真一が話しかける。
「子供らが親の人生の重荷になりたくない、って言うんだろ? 子供にも子供の人生があるように、親にだってそれぞれの人生がある、それを子供のせいで我慢させたくない……そんなところか?!」
真一がそう言ったとき、天恵は思わず素直に頷いた。
(……どうして……?!)
少し、顔を上げる。顔を上げてみて気付く……あれほど滑らかに時計版を滑っていた秒針は、思っていたより周回が遅かったらしく、長針は2つも進んでいなかった。しかし顔を上げた理由はそれでなくて、天恵の気持ちを真一が言い当てたからだった。まるで心の内を見透かされたかのような……。
離婚が悪ではない……次のステージに進むため、それが不幸でなければ良い。誰かが家族のために犠牲になる必要はないし、ましてや子供のためとか言って欲しくない。
血や先祖、責任とか目に見えない繋がりが前進を縛り阻むのであれば、家庭は居場所ではなく、しがらみでしかない。確か以前、お父さんがそう言ってたな……天恵は思い出す。
しばらく沈黙が支配する……念入りに考えたのだろう、真一はこんな提案をしてきた。
「共通の目標、共同での作業、達成感を共有すれば連帯感、絆、扶助の気持ちが再確認されるんじゃないかな?」
「……どういうこと?」
「ピタゴラスイッチで月下の両親にミッションに挑戦してもらおう!」
これがあたしたちの計画の始まりだった。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。
(なんで 真一にこんなこと頼んだんだっけ?)
|天恵《たかえ》は人差し指を唇に当て、ふと回想した。
(そっか……クラスで真一だけだもんね、あたしのこと『男好き』だとか『PK女子』だとか言わないのは……それに……)
それに真一は天恵の好きな漫画のキャラと名前がほぼ被っていたから。真一のフルネームは|宮東 真一《くとう しんいち》、学年でもトップの頭脳の持ち主で少し変わり者である。
ペン回しは100種類ほどの回し方ができると豪語しているし、『お口の恋人』と称してガムではなく、いろんな葉っぱをよく口にしている。今時ローラーシューズを履いていたり、愛車はよくおばちゃんが乗っている三輪自転車だ。どうせならスケボーに乗っていてほしいのに。
『簡単にできることが次々と連鎖していくことで、まるで手の込んだカラクリを実行しているかのように思える、それがピタゴラスイッチ』、だからあまり難しく考えない方がいい、彼がそう言っているのを何度か聞いたことがあるけれど、それは天恵の幼馴染が中学校の卒業文集に載せた言葉だというのを天恵は知っている。
因みに天恵は好きな漫画のヒロインに憧れて空手部所属。ポニーテールをなびかせて可愛らしくなんて最初のうちだけで、真面目に練習していくと、揺れる髪が邪魔になって今はミディアム。
(中学の時もそんなに話したことなかったよなぁ……)
|月下 天恵《つきした たかえ》は1‐D組で浮いた存在になっている、そろそろ今年も終わりを迎える高校1年の冬休み前、『男たらし』の噂が蔓延しだしたのは学校行事が増えた2学期だった。
噂の元は、天恵が男子の前でも平気で下着を直すからだ。いいや、べつに平気ではない、男子に見られることは、やはり恥ずかしい。ただ違和感があるまましばらくモゾモゾしているくらいなら、サッと手早く済ませてしまいたい気持ちが勝っているだけだ。
(それを多分……暮田くんたちは……)
暮田は1軍の男女5人グループだ。天恵が食い込んだ|下着《パンツ》⦅* パンツ食い込み=PKという⦆を直した場面を見られてしまったのだ。
さらに恐らくそのグループの誰か、と思われる人間が、その写真を盗撮、ネットに拡散した。
(女子だって居るんだから、そんなことぐらいわかるだろうに)
女子にとっては、そんなことは『あるある』だ。みんな男子にバレないように足を広げてみたり、しゃがんだりして少しずつ直している、それなのに……。
この手の噂は広まるのが早い。凛としたイメージのある空手部女子であるからこそのギャップと容姿の良さが噂を助長させている。女子からは『男好き』の蔑視、男子からはエロい視線を浴びた。
そして天恵が『男たらし』と言われる所以はもう一つ……。
(……はぁ……今はクラスのそんなことを気にしている場合じゃないのに……)
天恵は今、家庭環境の方がクラスカーストよりも重要だったりする。先日両親は天恵に、『来年を目処に離婚を考えている』と打ち明けた。
天恵は父親の連れ子で母親は義母だ。その2人の間に生まれた天恵と9歳差、7歳の弟|輝季《てるき》がいる。
◆◇◆◇
「それってもう、『弟が成人するまで待って』とかお願いする以外ないんじゃないかな?」
「そうかもしれないけど、それは嫌なの……」
「離婚って言葉を口にした以上、他者がそれを引っ込めさせるのって難しいと思うよ」
「分かってるわよ……でも……」
(何でこんな相談しちゃったんだろ……ううん、相談じゃない、話をしただけ、真一が隣の席だから)
期末テストも返却され、冬休みまで秒読みの短縮授業の放課後。明日にはもう終業式だ。教室にはもう誰もいない。
天恵は自分のスカートを強く握りしめた拳に視線を落とす。下を向いているのに、天恵を見つめる真一の視線を感じている。それがものすごく不快にさせる。区切りも音もなくスムーズに進む教室の掛け時計の秒針が、なぜだか忌々しい。この空気感に、何か言って席を立ちたい天恵。けれど同じ想いに達しない真一が話しかける。
「|子供《自分》らが親の人生の重荷になりたくない、って言うんだろ? |子供《あたし》にも子供の人生があるように、親にだってそれぞれの人生がある、それを|子供《自分》のせいで我慢させたくない……そんなところか?!」
真一がそう言ったとき、天恵は思わず素直に頷いた。
(……どうして……?!)
少し、顔を上げる。顔を上げてみて気付く……あれほど滑らかに時計版を滑っていた秒針は、思っていたより周回が遅かったらしく、長針は2つも進んでいなかった。しかし顔を上げた理由はそれでなくて、天恵の気持ちを真一が言い当てたからだった。まるで心の内を見透かされたかのような……。
離婚が悪ではない……次のステージに進むため、それが不幸でなければ良い。誰かが家族のために犠牲になる必要はないし、ましてや子供のためとか言って欲しくない。
血や先祖、責任とか目に見えない繋がりが前進を縛り阻むのであれば、家庭は居場所ではなく、しがらみでしかない。確か以前、お父さんがそう言ってたな……天恵は思い出す。
しばらく沈黙が支配する……念入りに考えたのだろう、真一はこんな提案をしてきた。
「共通の目標、共同での作業、達成感を共有すれば連帯感、絆、扶助の気持ちが再確認されるんじゃないかな?」
「……どういうこと?」
「ピタゴラスイッチで月下の両親にミッションに挑戦してもらおう!」
これがあたしたちの計画の始まりだった。