@3話 恋
ー/ー
「よし、パズルできた。作り変えた」
「どれどれ……?」
出来上がりに期待いっぱいの天恵が机を挟んで前へと身を乗り出してくる。天恵の頭が真一の目の前にきて、揺れたミディアムヘアが女性らしい香りを漂わせる。『隣に来ればよいのに』なんて思ってみたりもしたけれど、もし本当に天恵が隣に来てお尻を並べるような距離になったのなら、真一は平常心ではいられないであろう。
真一は少し大きく息を吸い込んだのなら、冷静な素振りで説明した。
「これにキーワードを書いておいた。これを天恵の両親それぞれに郵送する。郵送するって言っても切手が貼ってあって、それっぽく押印されてれば大丈夫だから、狙った日に自宅のポストに入れれば良い」
「別々に? 何で?」
顔を上げた天恵の頭が真一の鼻先を掠めたので、真一はついに天恵から発せられる香りのテリトリーから顔を離した。次の台詞はわざと視線を机の上の紙に逸らして話す。
「2人に送ったら、お互いが『相手がやるだろう』ってなってしまう恐れがある。その人宛に渡されるから、『自分しかやる人はないから仕方ない』って思わせる」
「自分宛だと、何だか気になるもんね」
「同じことをやっていたことに気付いて話しが合ったとき、一気に距離が縮まる」
「うん、うん。趣味が同じ人だと親近感が湧く、恋してた時の気持ちに戻るのかな?」
「そこまで気持ちが高まれば文句なし、だけど、そう簡単にはならないだろうね、特に男の方は」
「でも、多分お母さんの方が離婚に積極的な感じもするから……お母さんがお父さんと恋してた時の気持ちが蘇れば……」
「恋、か……」
「なにかおかしい?」
「いや、女子だなって思ってさ」
「ひょっとして真一はまだ恋したことないのかな?」
「そう言う月下はどうなんだよ?」
真一の鼓動が速まる。天恵の答えを聞きたいのか、聞きたくないのか……。ここまでテンポの良かった会話が止まる。
今、2人は真一の部屋に居る、冬休み初日そして今日はクリスマス。天恵は自分の部屋に男を上げるわけにはいかなかったけれど、男子の部屋に行くのもどうかと思う。そう思いつつも、天恵は自分が男を部屋に上げなかったこと、それなのに真一は女子を部屋に入れたことで、理不尽な理屈で疑う……。
(真一が首席で入学したという噂が流れてからずっと真一に馴れ馴れしい飛田 夏陽は、この部屋に来たのであろうか?)
そんなことを思った理由は、『真一のアドバイスのおかげで夏陽の成績が上がった』という話を小耳にして、それがこの相談への要因にもなっていたからだ。余計な想像に囚われては振り払う。
(ただ、真一に迷惑が掛かってなければいいし……クラスの噂のことはもう、何が何だか良く分からない……)
それも本音だ。
「真一は女の子を部屋に入れるの、どう感じてるの?」
まさかの質問返し……。なんて答えるのが正解なのか、なんて分かるはずもない。中学のとき、真一より唯一頭の良かった蓮水だったら正答できるのであろうか? そんなつまんないことが頭を巡る。
真一も天恵も同じ地元で、中学校から一緒だ。蓮水は天恵と小学校からの同級生で恐らく蓮水は天恵のことが好きだったと思う。
「そりゃ……俺ん家の反応を見れば、そんなこと、分かるだろ」
さっきから30分に一回は、真一の母親がお茶だのお菓子だのを持ってきている。
「そっか……真一、あたしのせいで、クラスで揶揄われたりしないかな?」
「冬休みだぜ?! 月下が俺ん家に来てるの知っている奴が居たらストーカーだ。それに俺はそんなこと全然気にならない。月下の方こそまた変なこと言われないようにしないとな」
「真一、ありがと」
「……じゃあ話を戻すぞ」
「そうね、じゃあまず、この問題文をお父さんとお母さんに送ればいいのね?」
「そうだな、さっきの話から考えたら、先ずお父さんから送るのがいいかも」
「うん、そっか分かった」
もう一週間もすれば年が明ける、それは天恵の両親が離婚を示唆した年を迎えることを意味する。不謹慎ながら、真一は天恵と過ごせる時間に喜びを覚えていたのかもしれない、所詮当事者ではないのだから。
このときの真一と天恵の偽りのない気持ちは、恐らく誰にも分ろうはずもなかった。
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「よし、パズルできた。作り変えた」
「どれどれ……?」
出来上がりに期待いっぱいの天恵が机を挟んで前へと身を乗り出してくる。天恵の頭が真一の目の前にきて、揺れたミディアムヘアが女性らしい香りを漂わせる。『隣に来ればよいのに』なんて思ってみたりもしたけれど、もし本当に天恵が隣に来てお尻を並べるような距離になったのなら、真一は平常心ではいられないであろう。
真一は少し大きく息を吸い込んだのなら、冷静な素振りで説明した。
「これにキーワードを書いておいた。これを天恵の両親それぞれに郵送する。郵送するって言っても切手が貼ってあって、それっぽく押印されてれば大丈夫だから、狙った日に自宅のポストに入れれば良い」
「別々に? 何で?」
顔を上げた天恵の頭が真一の鼻先を掠めたので、真一はついに天恵から発せられる香りのテリトリーから顔を離した。次の台詞はわざと視線を机の上の紙に逸らして話す。
「2人に送ったら、お互いが『相手がやるだろう』ってなってしまう恐れがある。その人宛に渡されるから、『自分しかやる人はないから仕方ない』って思わせる」
「自分宛だと、何だか気になるもんね」
「同じことをやっていたことに気付いて話しが合ったとき、一気に距離が縮まる」
「うん、うん。趣味が同じ人だと親近感が湧く、恋してた時の気持ちに戻るのかな?」
「そこまで気持ちが高まれば文句なし、だけど、そう簡単にはならないだろうね、特に男の方は」
「でも、多分お母さんの方が離婚に積極的な感じもするから……お母さんがお父さんと恋してた時の気持ちが蘇れば……」
「恋、か……」
「なにかおかしい?」
「いや、女子だなって思ってさ」
「ひょっとして真一はまだ恋したことないのかな?」
「そう言う月下はどうなんだよ?」
真一の鼓動が速まる。天恵の答えを聞きたいのか、聞きたくないのか……。ここまでテンポの良かった会話が止まる。
今、2人は真一の部屋に居る、冬休み初日そして今日はクリスマス。天恵は自分の部屋に男を上げるわけにはいかなかったけれど、男子の部屋に行くのもどうかと思う。そう思いつつも、天恵は自分が男を部屋に上げなかったこと、それなのに真一は女子を部屋に入れたことで、理不尽な理屈で疑う……。
(真一が首席で入学したという噂が流れてからずっと真一に馴れ馴れしい|飛田 夏陽《とびだ かや》は、この部屋に来たのであろうか?)
そんなことを思った理由は、『真一のアドバイスのおかげで夏陽の成績が上がった』という話を小耳にして、それがこの相談への要因にもなっていたからだ。余計な想像に囚われては振り払う。
(ただ、真一に迷惑が掛かってなければいいし……クラスの噂のことはもう、何が何だか良く分からない……)
それも本音だ。
「真一は女の子を部屋に入れるの、どう感じてるの?」
まさかの質問返し……。なんて答えるのが正解なのか、なんて分かるはずもない。中学のとき、真一より唯一頭の良かった蓮水だったら正答できるのであろうか? そんなつまんないことが頭を巡る。
真一も天恵も同じ地元で、中学校から一緒だ。蓮水は天恵と小学校からの同級生で恐らく蓮水は天恵のことが好きだったと思う。
「そりゃ……俺ん家の反応を見れば、そんなこと、分かるだろ」
さっきから30分に一回は、真一の母親がお茶だのお菓子だのを持ってきている。
「そっか……真一、あたしのせいで、クラスで揶揄われたりしないかな?」
「冬休みだぜ?! 月下が俺ん家に来てるの知っている奴が居たらストーカーだ。それに俺はそんなこと全然気にならない。月下の方こそまた変なこと言われないようにしないとな」
「真一、ありがと」
「……じゃあ話を戻すぞ」
「そうね、じゃあまず、この問題文をお父さんとお母さんに送ればいいのね?」
「そうだな、さっきの話から考えたら、先ずお父さんから送るのがいいかも」
「うん、そっか分かった」
もう一週間もすれば年が明ける、それは天恵の両親が離婚を示唆した年を迎えることを意味する。不謹慎ながら、真一は天恵と過ごせる時間に喜びを覚えていたのかもしれない、所詮当事者ではないのだから。
このときの真一と天恵の偽りのない気持ちは、恐らく誰にも分ろうはずもなかった。