@ 33話
ー/ー
「千晶、いるんだろ? 僕は暖空にキチンと想いを告げた。次は君の番だ」
「え?!」
暖空は驚いて顔を上げる。その視線の先から千晶が現れる。僕は知っていた。出会ったあの日だってそう、千晶はいつだって暖空を見守っている。
「千晶……」
「ちっ、気付いてたのかよ」
バツが悪いようで頭を掻きながら僕らの前へと歩み寄る、多分僕はもう千晶の視界に入ってない、暖空の前で立ち止まる。
「暖空……ごめんな、俺、拗ねててよ。ここ数年ずっと勝てなくて、ずっと3位とか4位ばっかりで……好きな女に負けてるのが、何かその、恥ずかしくてさ。男の俺が得意のスキーで女に負けてるっつーのが、さ」
「千晶……」
「暖空だってスランプで苦しんでるっつーのに……カッコ悪ぃーな俺……」
「……ううん」
千晶だって同じだ……僕からすれば『成功者』でも、あの人と同じく前に進む努力を、その意志を持つ者は僕と同じようにもがいている。
どんなにカッコ悪くったって気持ちの入った言葉は相手に伝わる。そこにはあの時のようなぬるくて薄っぺらいコーヒーなんてない……。本物の味わいだ。千晶にだって出会ったときと同じようにカッコよくあって欲しい。
「俺、暖空が好きだ、モーグルと同じくらい」
「うん……私も……千晶が好き……飛ぶのと同じくらい……」
二人は笑顔を交わした。きっと二人ともその笑顔が今まで以上の力になるに違いない。そっと立ち去る僕に気付いた千晶が僕の背中に声を投げた。
「空澄! サンキューな! お礼は2回戦できっちり返すぜ! お前に負けないすげぇエア飛んで、優勝してやるんだ!」
ジャンプと共に巻き上げた雪が太陽の光を浴びてキラキラと舞う。それを身体一杯に浴びながら表現するトリックはバックスクラッチャーコザック。ゲレンデが掛ける魔法は暖空を生き生きと魅力的に見せる。
ウサギが跳ねるようにコブからコブへと暖空の滑りは楽しそうに見える。暖空は滑っているとき、頭に歌が流れているという。その歌声までもが聞こえてきそうな楽しさが伝わってくる。
再び舞う雪の結晶たちに照らされた暖空。空に大きく大の字を刻んだ第二エアのツイスタースプレッドは、暖空を眩しく煌めかせてまさしく女神の降臨を思わせた。
この日暖空が見せたこの二つのエアは、あの時の長野五輪の上村愛子と同じ……きっと暖空からのメッセージだったんだと思う。青空のベンチに腰掛けた暖空から送られてきたメッセージ……。
結果は4位。それでも暖空の笑顔は誰よりも輝いて見えた。一番高い段に乗っている人よりも。
それを見て僕はまた、暖空に恋をした。
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「え?!」
暖空は驚いて顔を上げる。その視線の先から千晶が現れる。僕は知っていた。出会ったあの日だってそう、千晶はいつだって暖空を見守っている。
「千晶……」
「ちっ、気付いてたのかよ」
バツが悪いようで頭を掻きながら僕らの前へと歩み寄る、多分僕はもう千晶の視界に入ってない、暖空の前で立ち止まる。
「暖空……ごめんな、俺、拗ねててよ。ここ数年ずっと勝てなくて、ずっと3位とか4位ばっかりで……好きな女に負けてるのが、何かその、恥ずかしくてさ。男の俺が得意のスキーで女に負けてるっつーのが、さ」
「千晶……」
「暖空だってスランプで苦しんでるっつーのに……カッコ悪ぃーな俺……」
「……ううん」
千晶だって同じだ……僕からすれば『成功者』でも、あの人と同じく前に進む努力を、その意志を持つ者は僕と同じようにもがいている。
どんなにカッコ悪くったって気持ちの入った言葉は相手に伝わる。そこにはあの時のようなぬるくて薄っぺらいコーヒーなんてない……。本物の味わいだ。千晶にだって出会ったときと同じようにカッコよくあって欲しい。
「俺、暖空が好きだ、モーグルと同じくらい」
「うん……私も……千晶が好き……飛ぶのと同じくらい……」
二人は笑顔を交わした。きっと二人ともその笑顔が今まで以上の力になるに違いない。そっと立ち去る僕に気付いた千晶が僕の背中に声を投げた。
「空澄! サンキューな! お礼は2回戦できっちり返すぜ! お前に負けないすげぇエア飛んで、優勝してやるんだ!」
ジャンプと共に巻き上げた雪が太陽の光を浴びてキラキラと舞う。それを身体一杯に浴びながら表現するトリックはバックスクラッチャーコザック。ゲレンデが掛ける魔法は暖空を生き生きと魅力的に見せる。
ウサギが跳ねるようにコブからコブへと暖空の滑りは楽しそうに見える。暖空は滑っているとき、頭に歌が流れているという。その歌声までもが聞こえてきそうな楽しさが伝わってくる。
再び舞う雪の結晶たちに照らされた暖空。空に大きく大の字を刻んだ第二エアのツイスタースプレッドは、暖空を眩しく煌めかせてまさしく女神の降臨を思わせた。
この日暖空が見せたこの二つのエアは、あの時の長野五輪の上村愛子と同じ……きっと暖空からのメッセージだったんだと思う。青空のベンチに腰掛けた暖空から送られてきたメッセージ……。
結果は4位。それでも暖空の笑顔は誰よりも輝いて見えた。一番高い段に乗っている人よりも。
それを見て僕はまた、暖空に恋をした。