@ 23話 涙
ー/ー
同じく高校一年冬……猪苗代での大会に僕は参加していた。日本では大きい大会の一つだ。こういう大会で結果を残しF.I.Sというポイントを重ねることでナショナルチームへの道は開ける。海外の大会の方が日本の大会よりそのポイントが獲得できるが、僕のバイト代では国際大会なんていけやしない。
当面の目標はそのポイントを稼ぎ、ナショナルチームへ入ることだ。ナショナルチームに入れば『憧れのあの人』に会うことだってできるかもしれない。
久しぶりに会う千晶。間近に見た千晶は背も伸び、日焼けした肌は男っぷりを増していて、トッププレーヤーの貫禄を纏っていた。僕には相変わらず自信に溢れた千晶のままだが、やはり暖空には少し余所余所しい。そう感じたものの、今日の僕は僕自身に手いっぱい。
暖空と千晶を前に大会で僕のモーグルを披露するなんて……先日のGスラロームとは別人の滑りを見せなくっちゃな。クロスカントリーでは恥ずかしい姿を見せちゃったけど……今日の僕の気合の入りは、一味も二味も違う。
「久しぶりだな! 上手くなったか? 今日楽しみにしてるぜ」
「頑張ろうね」
暖空は相変わらず笑顔で迎えてくれた。……まだまだナショナルチームなんて遠い存在だけれども……今日のところは暖空の笑顔で満足だ。暖空の笑顔は雪を温かく感じさせる。
競技が始まる。
僕は迷わず左のフォールラインを選択する。千晶が滑ったコースだからだ。千晶の滑走を思い出す。振り子のように規則的に蹴り返される膝は全くブレることなく膝下だけがダンスをしているようで、小さく雪飛沫が舞ってモーグルの方がまるで波打つように動いて見えた。
長い時間座っているだけで歪んでくる体幹……モーグル選手は馬術や他の競技選手に比べても圧倒的に膝や足首のクッションを使いこなし、頭はほぼブレない。
千晶の第一エアは立ち技でダブルツイスター(* 上半身と下半身を逆方向に捻る)そしてセカンドはバックフリップアイアンクロスと難易度は高くない。これはエアー点は25%だからタイムとターンに力点を置く千晶らしい選択だ。難易度の高いエアーは高さがないと難しい、そして高さが出れば出る程タイムは嵩む。
千晶の滑りは僕の理想の滑りとも言えた。
僕もエアは千晶と同じトリックにしよう、と心に決める。
スタートラインに着いた。あれ? 膝が揺れている。ストックを持つ手が小刻みに震えている……僕、緊張している……?
フォールラインを見失う……さっき迄、千晶の残像が見えているかのように自分が通るべき道が見えていたのに……。
重心が前に傾いた。スタートを切ってしまった、心はまだ定まっていないのに……。
視界があっという間に狭くなる。傾斜に釣られて加速していく。さらに狭くなる視界。いきなりその視界にコブが飛び込んできた。
あっ!!――――僕は転倒していた。
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当面の目標はそのポイントを稼ぎ、ナショナルチームへ入ることだ。ナショナルチームに入れば『憧れのあの人』に会うことだってできるかもしれない。
久しぶりに会う千晶。間近に見た千晶は背も伸び、日焼けした肌は男っぷりを増していて、トッププレーヤーの貫禄を纏っていた。僕には相変わらず自信に溢れた千晶のままだが、やはり暖空には少し余所余所しい。そう感じたものの、今日の僕は僕自身に手いっぱい。
暖空と千晶を前に大会で僕のモーグルを披露するなんて……先日のGスラロームとは別人の滑りを見せなくっちゃな。クロスカントリーでは恥ずかしい姿を見せちゃったけど……今日の僕の気合の入りは、一味も二味も違う。
「久しぶりだな! 上手くなったか? 今日楽しみにしてるぜ」
「頑張ろうね」
暖空は相変わらず笑顔で迎えてくれた。……まだまだナショナルチームなんて遠い存在だけれども……今日のところは暖空の笑顔で満足だ。暖空の笑顔は雪を温かく感じさせる。
競技が始まる。
僕は迷わず左のフォールラインを選択する。千晶が滑ったコースだからだ。千晶の滑走を思い出す。振り子のように規則的に蹴り返される膝は全くブレることなく膝下だけがダンスをしているようで、小さく雪飛沫が舞って|モーグル《こぶ》の方がまるで波打つように動いて見えた。
長い時間座っているだけで歪んでくる体幹……モーグル選手は馬術や他の競技選手に比べても圧倒的に膝や足首のクッションを使いこなし、頭はほぼブレない。
千晶の第一エアは|立ち技《アップライト》でダブルツイスター(* 上半身と下半身を逆方向に捻る)そしてセカンドはバックフリップアイアンクロスと難易度は高くない。これはエアー点は25%だからタイムとターンに力点を置く千晶らしい選択だ。難易度の高いエアーは高さがないと難しい、そして高さが出れば出る程タイムは嵩む。
千晶の滑りは僕の理想の滑りとも言えた。
僕もエアは千晶と同じトリックにしよう、と心に決める。
スタートラインに着いた。あれ? 膝が揺れている。ストックを持つ手が小刻みに震えている……僕、緊張している……?
フォールラインを見失う……さっき迄、千晶の残像が見えているかのように自分が通るべき道が見えていたのに……。
重心が前に傾いた。スタートを切ってしまった、心はまだ定まっていないのに……。
視界があっという間に狭くなる。傾斜に釣られて加速していく。さらに狭くなる視界。いきなりその視界にコブが飛び込んできた。
あっ!!――――僕は転倒していた。