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@ 7話

ー/ー





 僕の憧れの存在のあの人も、虐められていたのをモーグルと出会い人生を変えた。あの人に姿をダブらせた暖空との出会いが、きっと僕を変えてくれるに違いない……負けてばかりの暗い色の世界から抜け出るきっかけに違いない、そう思った。


 


「ぼ、僕もモーグル……やってみ」


「おーい、暖空! 何やってんだよ」


 


 声と共に僕たちの前に表れた男は、不機嫌そうに僕を見下ろした。白と黒で言ったら間違いなく白……勝ち組にいるであろう雰囲気を辺りに発散している。


 彼がここに着いたとたん、幾らかの湿気をもっていた空気が軽くなったのを感じる。きっと暖空もその一人だったように感じた。


 


「あ、千晶! ごめんごめん」


 


 何故なら、僕なんかに向ける他所行きの笑顔なんかではない。暖空が『千晶』と呼んだそいつに向けた笑顔の方が『憧れのあの人』に似ていたから。


 


 


「お前……見ない顔だな、都会者(とかいもん)か? 都会者がコース外で何やってんだよ、しかも一人で……。困るんだよな、上手い振りして恰好つけて遭難とかする奴……迷惑なんだよね、実際『自己責任』なんて言っておいて、こっちは放っておくわけにもいかないんだから」


 


「僕はそんなんじゃ……」


 


 反論しようとした僕の目の端が、暖空の表情を拾う。心配そうに見つめる目は恐らく『アイツ』と同じ風に思っているのかな? そう思って言葉を呑み込んだ。


 だってコース外で新雪にハマって遭難しかけた……必死に出てきたところを見られている。


 


 


「バックカントリーの基本は複数人だ。滑るのも順番。みんなで滑って雪崩にでも巻き込まれたら誰も助ける人が居ないだろ? だから俺は暖空が滑るのを、上で見ていたんだ。ったく素人が」


 


「千晶言いすぎっ! ごめんね冴木君。千晶は昔から口悪いの……あ、アイツは碓氷千晶(うすいちあき)って言うの。名前は女の子みたいなのに、ね。よろしくね」


 


「女みたいって言うな!」


「僕は、冴木空澄」


「空澄……こいつだって女みたいな名前じゃねぇか。身体だって小さい」


「ね、モーグル、やってみない?! 長野オリンピック見てたんでしょ?」


てたんでしょ?」


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 僕の憧れの存在のあの人も、虐められていたのをモーグルと出会い人生を変えた。あの人に姿をダブらせた暖空との出会いが、きっと僕を変えてくれるに違いない……負けてばかりの暗い色の世界から抜け出るきっかけに違いない、そう思った。
「ぼ、僕もモーグル……やってみ」
「おーい、暖空! 何やってんだよ」
 声と共に僕たちの前に表れた男は、不機嫌そうに僕を見下ろした。白と黒で言ったら間違いなく白……勝ち組にいるであろう雰囲気を辺りに発散している。
 彼がここに着いたとたん、幾らかの湿気をもっていた空気が軽くなったのを感じる。きっと暖空もその一人だったように感じた。
「あ、千晶! ごめんごめん」
 何故なら、僕なんかに向ける他所行きの笑顔なんかではない。暖空が『千晶』と呼んだそいつに向けた笑顔の方が『憧れのあの人』に似ていたから。
「お前……見ない顔だな、|都会者《とかいもん》か? 都会者がコース外で何やってんだよ、しかも一人で……。困るんだよな、上手い振りして恰好つけて遭難とかする奴……迷惑なんだよね、実際『自己責任』なんて言っておいて、こっちは放っておくわけにもいかないんだから」
「僕はそんなんじゃ……」
 反論しようとした僕の目の端が、暖空の表情を拾う。心配そうに見つめる目は恐らく『アイツ』と同じ風に思っているのかな? そう思って言葉を呑み込んだ。
 だってコース外で新雪にハマって遭難しかけた……必死に出てきたところを見られている。
「バックカントリーの基本は複数人だ。滑るのも順番。みんなで滑って雪崩にでも巻き込まれたら誰も助ける人が居ないだろ? だから俺は暖空が滑るのを、上で見ていたんだ。ったく素人が」
「千晶言いすぎっ! ごめんね冴木君。千晶は昔から口悪いの……あ、アイツは|碓氷千晶《うすいちあき》って言うの。名前は女の子みたいなのに、ね。よろしくね」
「女みたいって言うな!」
「僕は、冴木空澄」
「空澄……こいつだって女みたいな名前じゃねぇか。身体だって小さい」
「ね、モーグル、やってみない?! 長野オリンピック見てたんでしょ?」
てたんでしょ?」