僕には知識だけで、コブを滑ったことも無ければエアなんて飛んだこともない。
それでもこの一瞬で僕をモーグルの世界へ踏み出す決意をさせたのは、小・中と友達もいない、勝ちか負けか、悪いか正しいか、全てを白か黒かに色分けする競争社会の中で、他の色を見られると思ったから。あんな風に飛べたら吹っ切れるかもと思ったから。あの子と一緒に滑りたかったから。
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小さい頃、僕は足が速かった。
運動会のリレーのアンカーも務めた。一位で回ってきたバトンを受け取ったはずがバトンを落とした。どっちが悪かったのか僕には分からない、けれども皆はぼくの所為だと言った。そしてそのせいでリレーは負けた。
合奏コンクールも僕が要らぬところでリコーダーを鳴らしてしまい学年最下位になった。そうやって僕は皆の信頼を失っていった。
「空澄が入ると大事なところでミスが出るんだよな」
「疫病神なんじゃね?」
そんな風に影で言われていたのを知っている。僕は『負け』の象徴だ。
友達五人で学校で禁止されていた病院の跡地へと肝試しに行った時も、僕以外の四人だけ職員室に呼ばれて怒られた。何故だか分からないけれど僕は怒られるのを免れた。
「アイツだけ影が薄いから気付かれないじゃね?」
「うそ?! 他の人には見えないのかも」
「アイツこそ幽霊だ」
「俺たちが呼ばれたとき、名乗り出れば見直したのに。アイツだけズルいよ」
「あんな奴、仲間じゃねーよな」
「アイツは卑怯者だ」
僕の周りから友達は離れて行った。僕の見る景色はどんどん暗く沈んで行った。