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死者の森

ー/ー



白くて濃い霧。背の高い木々がおおい茂っていて足元の土は少しぬかるんでいる。視界は三メートルほどだろうか。空が曇りだからなのか、それとも夜が近いのか、よくわからないけれど薄暗い森の中で大勢の人が一つの列となって並んでいる。
私もそのうちの一人なのだけれど何のために並んでいるのかはわからない。
列は少し前に進んでは止まるのを繰り返していて、みんなは猫背気味に頭を項垂れながらトボトボと前に進んでいく。

しばらくすると列の先頭の人の影がぼんやりと見えてきて何やら大きな台の上に仰向けに寝かされているようだった。台の横には幽霊のように大きく揺れる影がこれもまた大きくて何か長い刃物のようなものを持っている様子が見える。
台の上に寝かされた人はその幽霊のような影に何か一言言われてから大きな刃物で頭を刎ねられているみたいだった。
それが順番に繰り返される。
頭が刎ねられる度にドスンッと鈍い音がジメジメとした暗い森の中に響く。
それを見た時不思議と全てのことを理解した。


「あぁそうか、ここは死後の世界なんだ。あの死神は次の来世を告げた後、ここに並んでいる死者の首を刎ねるんだ」


恐怖心は微塵もなかった。むしろ真っ先に頭に浮かんだのは次のことだった。


「そうだとしたら私は絶対にあの死神になりたい来世を伝えなくちゃ」


私の前の人の首が刎ねられて、その血が私の顔に飛び散っても私は瞬き一つせずに落ち着いていた。
死者が寝かされている台は古木が組まれて作られた簡素なもので、この森の湿気と大勢の死者の血を染み込ませて腐り切り、物凄い臭気を放っていた。
死神だと思っていた影は真っ黒なローブを頭から被った、全身シワだらけの痩せ細った不機嫌そうな老婆だった。
手に持っていたのは血みどろに汚れて歯も所々に欠けている大きな斧だった。


「こんなに弱々しくて今にも折れてしまいそうなしわくちゃな細い腕でどうしてこんなに重そうな斧を振れるのだろう」


と一瞬思ったけれど、そんなことはどうでもよかった。私にはそんなことより伝えなければならないことがある。
私は促されるでもなく自ら進んで台の上に仰向けになって老婆に話しかけた。


「あの、」


老婆は私の声など無視して血でねちょねちょになった斧を黒い土と赤い血が混じったドス黒く汚い雑巾で面倒くさそうに適当に拭いている。


「あの、私、生まれ変わったらディズニーランドのスズメになりたいんですけど」


ディズニーランドのスズメはただの思いつきで言ったことではない。生まれ変わったら何になりたいか、学校の授業で先生が生徒全員にそう問いかけた時以来私は毎日ずっと真剣に考え続けて決めた答えだ。
ディズニーランドのスズメは美味しそうに道端に落ちたポップコーンを食べて、みるからに幸せそうな贅沢な体型をしている。
ポップコーンはエリアと時期によって様々なフレーバーがあるし、毎日飽きることなく好きなだけ食べ歩き(飛び歩き?)が出来る。
たくさんの人間に囲まれて外敵の心配もせずに砂浴びだって出来るし、何よりも私は幼い頃からずっと空を自由に飛んでみたいと思っていたのだ。
あのデップリとした福代かな体型のスズメが自由に空を飛べるのかはわからないけれど。
お金持ちの家の飼い猫なんて、きっとなりたい希望者が多くて私なんか落選しちゃう。そんな競争率の高いポジションに比べたらこんなピンポイントなお願い、聞いてもらえるはずでしょう?
そういえばこの老婆はとても長い鼻をしている、まさにディズニー映画に出てくる魔女そのものだ。
斧を拭き終わった老婆はぶっきらぼうに言い放った。


「何言ってんだい!あんたの来世はもう決まってるんだよ!」


えっ、嘘でしょ?、そう思って


「何なんですか?」


と慌てて聞くと


「きのこだよ!」


と私の顔に唾を撒き散らして怒鳴りながら大きな斧を振り下ろした。


「え、きのこ?」


そう思ったか思わないうちに老婆に振り下ろされた斧によって私の首はズドンと切り落とされた。
それと同時に夢から目を覚ました私は


「きのこかー。。。」


と小さく独り言を吐き、何とも言えない一日をしょうがなく始めることにした。


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白くて濃い霧。背の高い木々がおおい茂っていて足元の土は少しぬかるんでいる。視界は三メートルほどだろうか。空が曇りだからなのか、それとも夜が近いのか、よくわからないけれど薄暗い森の中で大勢の人が一つの列となって並んでいる。
私もそのうちの一人なのだけれど何のために並んでいるのかはわからない。
列は少し前に進んでは止まるのを繰り返していて、みんなは猫背気味に頭を項垂れながらトボトボと前に進んでいく。
しばらくすると列の先頭の人の影がぼんやりと見えてきて何やら大きな台の上に仰向けに寝かされているようだった。台の横には幽霊のように大きく揺れる影がこれもまた大きくて何か長い刃物のようなものを持っている様子が見える。
台の上に寝かされた人はその幽霊のような影に何か一言言われてから大きな刃物で頭を刎ねられているみたいだった。
それが順番に繰り返される。
頭が刎ねられる度にドスンッと鈍い音がジメジメとした暗い森の中に響く。
それを見た時不思議と全てのことを理解した。
「あぁそうか、ここは死後の世界なんだ。あの死神は次の来世を告げた後、ここに並んでいる死者の首を刎ねるんだ」
恐怖心は微塵もなかった。むしろ真っ先に頭に浮かんだのは次のことだった。
「そうだとしたら私は絶対にあの死神になりたい来世を伝えなくちゃ」
私の前の人の首が刎ねられて、その血が私の顔に飛び散っても私は瞬き一つせずに落ち着いていた。
死者が寝かされている台は古木が組まれて作られた簡素なもので、この森の湿気と大勢の死者の血を染み込ませて腐り切り、物凄い臭気を放っていた。
死神だと思っていた影は真っ黒なローブを頭から被った、全身シワだらけの痩せ細った不機嫌そうな老婆だった。
手に持っていたのは血みどろに汚れて歯も所々に欠けている大きな斧だった。
「こんなに弱々しくて今にも折れてしまいそうなしわくちゃな細い腕でどうしてこんなに重そうな斧を振れるのだろう」
と一瞬思ったけれど、そんなことはどうでもよかった。私にはそんなことより伝えなければならないことがある。
私は促されるでもなく自ら進んで台の上に仰向けになって老婆に話しかけた。
「あの、」
老婆は私の声など無視して血でねちょねちょになった斧を黒い土と赤い血が混じったドス黒く汚い雑巾で面倒くさそうに適当に拭いている。
「あの、私、生まれ変わったらディズニーランドのスズメになりたいんですけど」
ディズニーランドのスズメはただの思いつきで言ったことではない。生まれ変わったら何になりたいか、学校の授業で先生が生徒全員にそう問いかけた時以来私は毎日ずっと真剣に考え続けて決めた答えだ。
ディズニーランドのスズメは美味しそうに道端に落ちたポップコーンを食べて、みるからに幸せそうな贅沢な体型をしている。
ポップコーンはエリアと時期によって様々なフレーバーがあるし、毎日飽きることなく好きなだけ食べ歩き(飛び歩き?)が出来る。
たくさんの人間に囲まれて外敵の心配もせずに砂浴びだって出来るし、何よりも私は幼い頃からずっと空を自由に飛んでみたいと思っていたのだ。
あのデップリとした福代かな体型のスズメが自由に空を飛べるのかはわからないけれど。
お金持ちの家の飼い猫なんて、きっとなりたい希望者が多くて私なんか落選しちゃう。そんな競争率の高いポジションに比べたらこんなピンポイントなお願い、聞いてもらえるはずでしょう?
そういえばこの老婆はとても長い鼻をしている、まさにディズニー映画に出てくる魔女そのものだ。
斧を拭き終わった老婆はぶっきらぼうに言い放った。
「何言ってんだい!あんたの来世はもう決まってるんだよ!」
えっ、嘘でしょ?、そう思って
「何なんですか?」
と慌てて聞くと
「きのこだよ!」
と私の顔に唾を撒き散らして怒鳴りながら大きな斧を振り下ろした。
「え、きのこ?」
そう思ったか思わないうちに老婆に振り下ろされた斧によって私の首はズドンと切り落とされた。
それと同時に夢から目を覚ました私は
「きのこかー。。。」
と小さく独り言を吐き、何とも言えない一日をしょうがなく始めることにした。