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5話 天女

ー/ー




 中央区の宮へ着いたけど、誰もいない。みんな仕事しているからというわけではなさそう。

 まずはこうなった原因を上層部に問い出すのが良いかな。

 宮の中は僕がいた頃と変わっていないから部屋を間違える心配はないくいけた。

 机の上には書類が散らかっっている。何人か人はいるけどみんなやる気がなさそうで何もせずただ座っている。
 通常業務が面倒だからというより、何かに怯えているようにも見える。

 散らかっている書類を見ると、一番古いので三年前のかな。

「クリー、三年前に中央区で何かあったの? 」

「三年前……確かその頃に中央区の者達が魔の森に魔物討伐に赴いたはずです。こちらの報告書がそれかと」

 三年前の報告書がまだ残っているとは。報告書を書いてあるという事はそれまではまともに仕事をしていたという事だろうけど、提出していないのならこの期間が今のようになるきっかけだったのかな。

 どういう訳があってこうなったのか聞きたいけど、話ができそうにない。

 当時何かあって今もそれが幻覚で見えているのか、時々何か言っているけど聞き取れない。音魔法を使えば聞き取れはするんだろうけど。

 仕方ないから魔法使おうかな。話を聞かない限りどうする事もできないから。

「あら、せっかくいらしたのでしたら、お茶でもいかがです? 」

 中央区の制服を着ている女性が薬が入っている便を持って部屋を訪れた。
 彼女は軍部ではなく魔法研究部所属だったはずだけど、僕がいない間に変わったのかな。

 彼女は机に瓶を置いて、散らかっている書類のいくつかを僕に渡した。

 その書類には軍部の現状を変えるようにと主様から要求文が書かれている。
 その中に少しだけ、魔物討伐の話がある。

 どうやら、中央区が担当した魔物が偶然にも魔の森で凶暴化した魔物だったらしい。書類にはそれだけしか書かれていない。

「お茶の誘いは嬉しいんだけど、先にこれどうにかしないと」

「それはわたくしもしておりましたが、どんな魔法でも回復しませんでしたわ。フュリがいてくれれば少しは回復するかもしれませんが」

 フュリーナは防御魔法系統と結界魔法系統は得意だけど、回復魔法系統に関しては簡単な怪我を治す程度だからこれは無理だろうね。解呪魔法系統に至ってはできないって本人が話していた。

 僕も解呪魔法系統に関してはそこまで得意とは言えないけど。

 今回は解呪と回復両法必要なのかな。しかも外相じゃなくて精神となると、ギュリエンにいる魔法師でできる人は少ないだろうね。

「……僕のお姫様、見てるなら少しだけ協力して。僕が魔法を使うのを周りには見えなくして欲しいんだ」

 さっき会った時に威嚇されているから頼みを聞いてくれるかは分からない。聞いてくれなければ自分でどうにかすれば良いだけだけど……久々に魔法使いまくってるからなぁ。

 このくらいなら大丈夫だとは思うけど。

『……しゃ……しゃぁーーーーー! ……ぴぇ』

 威嚇しながらも頼みを聞いてくれた。誰にも見られないように僕を中心に霧がかかる。

 これで、あの魔法を使える。

「ありがと」

 非常に珍しく、禁止指定の魔法。そもそも使える人なんていないから伝説上の魔法なんて呼ばれている生命魔法。

 小さな淡い緑色の花と黄色の花。癒しの花と解呪の花。普通に魔法を使うよりもこっちの方が効果が高い。

 花を宙に翳すと花びらが舞い、花が消える。

 僕のお姫様……あの子はこの光景が好きらしい。花を介して見てくれている事を願うよ。

 霧が消える。

「……ぁ……えっと……自分は……ひぃ」

「ここは中央の宮の中だよ。魔物はいない」

「あっ……そ、そうだったか」

 とりあえずこれで話は聞けるかな。というか、一人とは言え、すぐに回復して話せる状態になるとは。

 復帰できるかどうかは別問題だけど。

 一度魔物に恐怖心を植え付けられれば、魔法で安定を図っても魔物の前に立つのは難しいだろう。何年も努力して克服した事例はいくつかあるけど。

 すぐに何事もなく魔物の前に立ったなんて事例は、黄金蝶以外で聞いた事ないかな。

「……えっ、えええええええええええ⁉︎ な、なぜ、なぜ貴方様が⁉︎ 」

 まずい。十年以上前に主宮に勤めていたのか。もしくは、そこに用があって通っていて見かけたのか。

 僕が訓練を見ていた頃にはいなかったから、僕を知っているのはそれ以外考えられない。

「はじめまして。僕はフォル・リアス・ベレンジェア。主様の命により、中央区の軍部を視察にきたんだ」

「……えっ? ベレンジェア? あの」

「ベ・レ・ン・ジェ・アだよ」

 余計な事は言わせない。バレても焦る事なく笑顔で対応する。まぁ、笑顔を作っているのはここまで、だけど。

 ここからは主様からの直命であり、ギュゼルの仕事だから。

「……はい。そういう事にしておきます。それと、視察だなんて言い方をしなくても分かりますよ。あの、話す前に頼があります。自分は主宮でしばらく魔物克服訓練を経てここへ戻るだけでしょう。ですが、他の者は」

「しばらくは休暇扱いで復帰できるようなら別部署へ異動できるようにしておく。主様は怒っているんじゃなくて心配しているだけだ。今回の件で君らへの処遇はないだろう。だから、話してもらえる? 三年前の事」

 あの人が怒るとこなんてほとんど見た事ない。あるとすれば、僕の御巫候補達に対して神獣達がとった行動についてくらいかな。

 今回も、書面ではあったけど、怒っているというより、心配しているのが大きいようだった。彼らとは別のとこで頭を悩ませている感じもあったけど。

「……三年前のあれは、いつか起こる事がその日に起きただけに過ぎません。それより前からここへ配属される者達がまともに訓練を受けないような者ばかりになりました。我々も訓練を受けるように言っていましたが、皆話を聞かず……そんな状態で魔物討伐を言い渡され、訓練の大事さを知る良い機会かと思われましたが、魔物は精神に影響を及ぼす魔物でして……部下を守ろうとしてこの有様です」

「でしたら尚更おかしいですわ。なぜ、そんな状態で負傷者がいなかったのですの? 」

 負傷者がいない? 精神的な部分に関しては見えないから換算されていない。だとしても、そんな状態で魔物討伐に赴いて負傷者がいないのは不自然すぎる。

 それに、魔物討伐が成功した事も。

「それが、天女様がお助けになられたとしか分からないのです。あの時、我々の前に美しい髪をした天女様が使いを連れて現れたのです。天女様は大変澄んで美しい声で我々に声をかけてくださいました。あれがなければ帰ってくる事はできなかったでしょう」

 天女、か。そう見えただけで、ギュリエンにいる誰かが助けたんだろう。

 他の軍部の救援はなかったんだろう。あればミュンティンは把握しているはずだ。

 だとすれば、魔の森にいて、人助けができるだけの能力を持っているなんて……あの子ら以外いるはずがない。

「……それって、双子姫様では? 」

「だろうね。あの威嚇姫だ。あの子らが助けたなら負傷者がいないのも納得できる……にしても、面倒な事になったな。ほんとに半数以上自分から異動届け出すかもしれない方法使うしかないよ」

「……ミュン、ベレンジェア様にやらせるとやりすぎるから」

「そうですわね。ベレンジェア様は早く双子宮へ行ってくださいませ。後の事は我々でどうにかできますわ。むしろ、わたくしは得意分野ですの」

 そっか。ミュンティンが軍部に入らなかったのって、僕と似た理由だった。

 ミュンティンの場合は人が辞めるこちはないんだけど。だから、今回の場合、大幅な異動という最終手段をとって他の区に迷惑をかけない分彼女の方が適任かな。

「うん。任せるよ」

「ええ。そうしてください。ついでに主様への報告もしておきますわ」

「ありがと」

 後の事全部ミュンティンがやってくれるとは。今度良いお茶用意しておくか。

『……ぴぇ……しゃ……しゃぁーーー! 』

 また花から威嚇してる。なんか、威嚇の前に悲しそうな声が聞こえたけど何かあったのかな。

「一時間くらいで着くと思うから」

『ぴゅ……ぴゅぅ』

 これで締め出しとかはされないよね? あの子の気分次第でされる可能性もあるけど。


次のエピソードへ進む 6話 双子宮


みんなのリアクション


 中央区の宮へ着いたけど、誰もいない。みんな仕事しているからというわけではなさそう。
 まずはこうなった原因を上層部に問い出すのが良いかな。
 宮の中は僕がいた頃と変わっていないから部屋を間違える心配はないくいけた。
 机の上には書類が散らかっっている。何人か人はいるけどみんなやる気がなさそうで何もせずただ座っている。
 通常業務が面倒だからというより、何かに怯えているようにも見える。
 散らかっている書類を見ると、一番古いので三年前のかな。
「クリー、三年前に中央区で何かあったの? 」
「三年前……確かその頃に中央区の者達が魔の森に魔物討伐に赴いたはずです。こちらの報告書がそれかと」
 三年前の報告書がまだ残っているとは。報告書を書いてあるという事はそれまではまともに仕事をしていたという事だろうけど、提出していないのならこの期間が今のようになるきっかけだったのかな。
 どういう訳があってこうなったのか聞きたいけど、話ができそうにない。
 当時何かあって今もそれが幻覚で見えているのか、時々何か言っているけど聞き取れない。音魔法を使えば聞き取れはするんだろうけど。
 仕方ないから魔法使おうかな。話を聞かない限りどうする事もできないから。
「あら、せっかくいらしたのでしたら、お茶でもいかがです? 」
 中央区の制服を着ている女性が薬が入っている便を持って部屋を訪れた。
 彼女は軍部ではなく魔法研究部所属だったはずだけど、僕がいない間に変わったのかな。
 彼女は机に瓶を置いて、散らかっている書類のいくつかを僕に渡した。
 その書類には軍部の現状を変えるようにと主様から要求文が書かれている。
 その中に少しだけ、魔物討伐の話がある。
 どうやら、中央区が担当した魔物が偶然にも魔の森で凶暴化した魔物だったらしい。書類にはそれだけしか書かれていない。
「お茶の誘いは嬉しいんだけど、先にこれどうにかしないと」
「それはわたくしもしておりましたが、どんな魔法でも回復しませんでしたわ。フュリがいてくれれば少しは回復するかもしれませんが」
 フュリーナは防御魔法系統と結界魔法系統は得意だけど、回復魔法系統に関しては簡単な怪我を治す程度だからこれは無理だろうね。解呪魔法系統に至ってはできないって本人が話していた。
 僕も解呪魔法系統に関してはそこまで得意とは言えないけど。
 今回は解呪と回復両法必要なのかな。しかも外相じゃなくて精神となると、ギュリエンにいる魔法師でできる人は少ないだろうね。
「……僕のお姫様、見てるなら少しだけ協力して。僕が魔法を使うのを周りには見えなくして欲しいんだ」
 さっき会った時に威嚇されているから頼みを聞いてくれるかは分からない。聞いてくれなければ自分でどうにかすれば良いだけだけど……久々に魔法使いまくってるからなぁ。
 このくらいなら大丈夫だとは思うけど。
『……しゃ……しゃぁーーーーー! ……ぴぇ』
 威嚇しながらも頼みを聞いてくれた。誰にも見られないように僕を中心に霧がかかる。
 これで、あの魔法を使える。
「ありがと」
 非常に珍しく、禁止指定の魔法。そもそも使える人なんていないから伝説上の魔法なんて呼ばれている生命魔法。
 小さな淡い緑色の花と黄色の花。癒しの花と解呪の花。普通に魔法を使うよりもこっちの方が効果が高い。
 花を宙に翳すと花びらが舞い、花が消える。
 僕のお姫様……あの子はこの光景が好きらしい。花を介して見てくれている事を願うよ。
 霧が消える。
「……ぁ……えっと……自分は……ひぃ」
「ここは中央の宮の中だよ。魔物はいない」
「あっ……そ、そうだったか」
 とりあえずこれで話は聞けるかな。というか、一人とは言え、すぐに回復して話せる状態になるとは。
 復帰できるかどうかは別問題だけど。
 一度魔物に恐怖心を植え付けられれば、魔法で安定を図っても魔物の前に立つのは難しいだろう。何年も努力して克服した事例はいくつかあるけど。
 すぐに何事もなく魔物の前に立ったなんて事例は、黄金蝶以外で聞いた事ないかな。
「……えっ、えええええええええええ⁉︎ な、なぜ、なぜ貴方様が⁉︎ 」
 まずい。十年以上前に主宮に勤めていたのか。もしくは、そこに用があって通っていて見かけたのか。
 僕が訓練を見ていた頃にはいなかったから、僕を知っているのはそれ以外考えられない。
「はじめまして。僕はフォル・リアス・ベレンジェア。主様の命により、中央区の軍部を視察にきたんだ」
「……えっ? ベレンジェア? あの」
「ベ・レ・ン・ジェ・アだよ」
 余計な事は言わせない。バレても焦る事なく笑顔で対応する。まぁ、笑顔を作っているのはここまで、だけど。
 ここからは主様からの直命であり、ギュゼルの仕事だから。
「……はい。そういう事にしておきます。それと、視察だなんて言い方をしなくても分かりますよ。あの、話す前に頼があります。自分は主宮でしばらく魔物克服訓練を経てここへ戻るだけでしょう。ですが、他の者は」
「しばらくは休暇扱いで復帰できるようなら別部署へ異動できるようにしておく。主様は怒っているんじゃなくて心配しているだけだ。今回の件で君らへの処遇はないだろう。だから、話してもらえる? 三年前の事」
 あの人が怒るとこなんてほとんど見た事ない。あるとすれば、僕の御巫候補達に対して神獣達がとった行動についてくらいかな。
 今回も、書面ではあったけど、怒っているというより、心配しているのが大きいようだった。彼らとは別のとこで頭を悩ませている感じもあったけど。
「……三年前のあれは、いつか起こる事がその日に起きただけに過ぎません。それより前からここへ配属される者達がまともに訓練を受けないような者ばかりになりました。我々も訓練を受けるように言っていましたが、皆話を聞かず……そんな状態で魔物討伐を言い渡され、訓練の大事さを知る良い機会かと思われましたが、魔物は精神に影響を及ぼす魔物でして……部下を守ろうとしてこの有様です」
「でしたら尚更おかしいですわ。なぜ、そんな状態で負傷者がいなかったのですの? 」
 負傷者がいない? 精神的な部分に関しては見えないから換算されていない。だとしても、そんな状態で魔物討伐に赴いて負傷者がいないのは不自然すぎる。
 それに、魔物討伐が成功した事も。
「それが、天女様がお助けになられたとしか分からないのです。あの時、我々の前に美しい髪をした天女様が使いを連れて現れたのです。天女様は大変澄んで美しい声で我々に声をかけてくださいました。あれがなければ帰ってくる事はできなかったでしょう」
 天女、か。そう見えただけで、ギュリエンにいる誰かが助けたんだろう。
 他の軍部の救援はなかったんだろう。あればミュンティンは把握しているはずだ。
 だとすれば、魔の森にいて、人助けができるだけの能力を持っているなんて……あの子ら以外いるはずがない。
「……それって、双子姫様では? 」
「だろうね。あの威嚇姫だ。あの子らが助けたなら負傷者がいないのも納得できる……にしても、面倒な事になったな。ほんとに半数以上自分から異動届け出すかもしれない方法使うしかないよ」
「……ミュン、ベレンジェア様にやらせるとやりすぎるから」
「そうですわね。ベレンジェア様は早く双子宮へ行ってくださいませ。後の事は我々でどうにかできますわ。むしろ、わたくしは得意分野ですの」
 そっか。ミュンティンが軍部に入らなかったのって、僕と似た理由だった。
 ミュンティンの場合は人が辞めるこちはないんだけど。だから、今回の場合、大幅な異動という最終手段をとって他の区に迷惑をかけない分彼女の方が適任かな。
「うん。任せるよ」
「ええ。そうしてください。ついでに主様への報告もしておきますわ」
「ありがと」
 後の事全部ミュンティンがやってくれるとは。今度良いお茶用意しておくか。
『……ぴぇ……しゃ……しゃぁーーー! 』
 また花から威嚇してる。なんか、威嚇の前に悲しそうな声が聞こえたけど何かあったのかな。
「一時間くらいで着くと思うから」
『ぴゅ……ぴゅぅ』
 これで締め出しとかはされないよね? あの子の気分次第でされる可能性もあるけど。