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4話 現状

ー/ー




 魔法車を降りると、軍部の制服を着た青年が迎えにきていた。
 離れていても分かる高身長、赤茶色の髪。フュリーナから聞いてはいたけど、まさか魔法車の停車場の外で待っているとは。

 彼はリーグリード。中央区の軍部で大活躍していると数年前に噂は聞いている。今はどうなのか知らないけど。

「お久しぶりです、ベレンジェア様。フュリも久しぶり」

 なんか僕邪魔じゃないかな。両片想いの二人が数年ぶりに会うというのに、二人っきりじゃないって。本人達は否定するだろうけど、どう見ても邪魔な気がする。

 話だけ聞いたらとっとと軍部向かうか。

「うん。久しぶり。中央の軍部だと忙しいだろうけど、今日は休みをもらえたの? 」

「はい……その、最近は数年前とは違い、なんというか、中央に所属できた事を自慢して、通常業務をやらない者達が増えているんです」

 そんな事していれば、本来上が注意するはず。それを放って上は何をしているんだか。

 リーグのような立場だと、高階級と会う機械が少ないだろうからこれは実際に行って確かめた方が早いかな。

「ありがと。リーグ、ちゃんとフュリーナを守ってあげなよ。僕はこれから中央の軍部を実際に見てみるから」

「あ、あの」

「大丈夫。必要とあれば主様に協力を仰ぐとか、少し話をするとか、現状回復の手助けはしてあげるから」

 リーグは軍部の現状を良いと思っていないみたい。真面目だから、どうにかできたらと彼なりに動いてはいたんだろう。

 それでも、どうにもできない現状に悩まされていたのかな。隠しきれていない。僕に縋るような目を。

 そういえば、ここの見回りって中央担当だったと思うだけど見かけないね。通常業務をやらないって、報告書の作成とかの部屋に篭りっきりの書類作業だけじゃないのか。

 見回りを怠れば何かあった際に被害が大きくなるから毎日見回りを欠かさずやるようにって、僕が軍部で教官まがいな事をやっていた時は毎日聞かされていたんだけど。

 今ではそういうのすらないのかな。
 不幸中の幸いと言って良いのか、軍部が何も動いていなくてもこの辺は平穏そう。

 停車場の周りだけかもしれないから少し遠回りして都の様子を見ながら行こうかな。

「休暇なんだったら休暇らしく楽しみなよ。フュリーナと一緒に買い物とかして。軍部の事は忘れて」

 こうでも言っておかないと軍部の事ばかり考えるだろうから。それだけ言い残して中央区の宮へ向かう。

「……は、はい! ありがとうございます」

 遠くに居ても聞こえそうなリーグの大きな声。信じてくれたのかな、声音から不安を感じない。

「……クリー、護衛はリーグに任せて。話がしたい」

「……少し離れた場所で」

 今日のフュリーナの護衛担当のクリーに同行してもらう。ルノに同行してもらうのが一番良かったんだけど、今は引き継ぎ作業で忙しいだろうから。

 クリーのように補助魔法師の影護衛は誰にも聞こえないように小声で言っても、音魔法で声を拾ってくれて返事もくれる。

 主様に近い関係でないと返事が返ってくる事はまずないんだけど。
 そもそも、そうでなければ護衛をつけている事なんて知られていないか。

 少し離れた場所をどこにするかはクリーに任せるとして、僕は普通に中央区の宮に向かって歩いていようかな。

      **********

 歩いていても相変わらず中央区の制服が見当たらない。多くの人がそれが普通かのように生活している。

 時々、リーグ様が見回りに来ないと不安を口にする人は見かけるけど、他の軍部所属の名前は出てきていない。

「……リーグだけです。見回りを休暇以外毎日していたのは……休暇の日も、買い物に来たと言いながら、見回りをしていました……道も、軍部が何も言わないので」

 もう姿を見せて良いと判断したんだろう。クリーが出てきた。

 普段整備された道を歩かないから意識していなかったけど、クリーに言われて地面を見てみる。

 普通の人なら歩きづらそうなくらい、道が割れている。

「ふきゃん」

 帽子を被った幼い女の子が割れた道につまづいて転んだ。都は安全だから子供一人でいる事は、数年前は良くあったけど、今日歩いていて初めて見かけた。

「大丈夫? 」

 僕がしゃがんで女の子に手を差し伸べると、顔を上げた女の子が僕をじっと見つめた。

 帽子で髪を隠していたけど、僅かに見えるピンク色の前髪に珍しい二色のグラデーションの愛らしい瞳。

「……しゃぁーーーーーー! 」

 突然立ち上がった女の子が、僕から逃げるように走り出した。というか、ほんとに逃げたんだと思う。

 でも、またすぐにつまづいて、僕の方を見て逃げ出す。

 女の子を見ながら僕は、なぜ逃げるのかと理解できず、しばらくしゃがんだまま止まっていた。

「……あれ、姫様ですよね? なぜいるんですか? 」

「僕が聞きたいよ。しかも、僕だと判断するなり逃げ出すって……まぁ、双子宮にいけば会えるから良いけどさ。それより、ここ整備するように頼んだ方が良さそうだね」

 あの子が元々転びやすいというのもあるんだろうけど、他にも転ぶ人は大勢いそう。特に子供は、はしゃいで走り回ってつまずいて転ぶなんて、整備されていてもありえる話だというのに。

 転んで怪我をする子供を増やさないためにも、道の整備は優先した方が良いだろう。

 双子宮へ行ってあげたいけど、行けるのはもう少しあとになりそうかな。
 今日中には行けるとは思うけど。

「……とりあえず宮に向かうか。あの子は自分でこれたなら帰れると思うから」

 立ち上がって歩き出そうとすると、あの子が戻ってきた。

「……しゃぁーーー! 」

 花を僕に渡してまた逃げていく。きた目的は僕がこないからって何しているのか確かめるためか。

 あの子は花を介して外を視る事ができるから。それを使って僕の事を見ていようという魂胆だと思う。

 だとすればさっきはなんで逃げたんだか。普通に急に出会ってびっくりしただけなのかな。

「……行こっか」

「……はい」

 あの子の事は一旦おいて、今度こそ中央区の宮へ向かって、再び歩き出した。

 それにしても、なんで目が合う度に威嚇されないといけなかったんだろう。初めはびっくりして威嚇したのかなってなるけど、二度目は絶対違う。

「……ベレンジェア様、あちらを……現在、他の区の宮所属の者が、ああして私服で見回りをしています……制服を着て見回りをしていると……中央区の宮の者が見回りするなというので」

 都の方は宮がいくつもあるからそういう面倒事があるのか。別にどこの宮がどこを担当しても良いと思うけど。

 西南区の軍部の子かな。私服だから制服で見分けられない。

 二人組で買い物のように見せかけて見回りをしている。

「おっ、クリーじゃん。同僚と仲良くお出かけか? 」

「ひさー。クリーをこんなところで見かけるなんて珍しい」

「……違う。ベレンジェア家の方。中央区の宮に用がある」

 明るく挨拶をしてきた二人が、中央区の宮という言葉を聞いて険しい表情を見せる。

「ベレンジェア様でしたか。あそこはやめた方が良いですよ」

「ええ。あそこはもうどうにもできません。かつて都の宮を回っては、多くの軍部所属の神獣達に恐怖を与えていたあの方がいれば……」

 うん。別に恐怖を与えていたわけじゃないから。普通に訓練の教官頼まれてやっていただけだから。

「……きっと主様がどうにかしてくれる。だから、もう少し辛抱」

「そ、そうだな。中央区に行く途中に邪魔をして申し訳ありません。おれたちは、業務に戻ります」

 何年もこの状態で、今更どうにかできると思っていないんだろう。俯いて、少し悲しそうにしている。もう諦めているみたい。

「……変えるよ。他の区にしばらく迷惑かけるだろうけど、総入れ替えをしてでも変える。ヴァリジェーシルの名にかけて。だから、もう少しだけ待っていて」

 ほんとはだめなんだけど、どうして自分達がと言わずに頑張ってくれているんだ。だから、それに応えてあげたくなった。

 僕の言葉に希望を持ってくれたのか、顔を上げてくれた。

「僕らは宮に行かないとだから。僕の言動について他言しないように」

 僕がそう言うと、二人はこくこくと頷いていた。


次のエピソードへ進む 5話 天女


みんなのリアクション


 魔法車を降りると、軍部の制服を着た青年が迎えにきていた。
 離れていても分かる高身長、赤茶色の髪。フュリーナから聞いてはいたけど、まさか魔法車の停車場の外で待っているとは。
 彼はリーグリード。中央区の軍部で大活躍していると数年前に噂は聞いている。今はどうなのか知らないけど。
「お久しぶりです、ベレンジェア様。フュリも久しぶり」
 なんか僕邪魔じゃないかな。両片想いの二人が数年ぶりに会うというのに、二人っきりじゃないって。本人達は否定するだろうけど、どう見ても邪魔な気がする。
 話だけ聞いたらとっとと軍部向かうか。
「うん。久しぶり。中央の軍部だと忙しいだろうけど、今日は休みをもらえたの? 」
「はい……その、最近は数年前とは違い、なんというか、中央に所属できた事を自慢して、通常業務をやらない者達が増えているんです」
 そんな事していれば、本来上が注意するはず。それを放って上は何をしているんだか。
 リーグのような立場だと、高階級と会う機械が少ないだろうからこれは実際に行って確かめた方が早いかな。
「ありがと。リーグ、ちゃんとフュリーナを守ってあげなよ。僕はこれから中央の軍部を実際に見てみるから」
「あ、あの」
「大丈夫。必要とあれば主様に協力を仰ぐとか、少し話をするとか、現状回復の手助けはしてあげるから」
 リーグは軍部の現状を良いと思っていないみたい。真面目だから、どうにかできたらと彼なりに動いてはいたんだろう。
 それでも、どうにもできない現状に悩まされていたのかな。隠しきれていない。僕に縋るような目を。
 そういえば、ここの見回りって中央担当だったと思うだけど見かけないね。通常業務をやらないって、報告書の作成とかの部屋に篭りっきりの書類作業だけじゃないのか。
 見回りを怠れば何かあった際に被害が大きくなるから毎日見回りを欠かさずやるようにって、僕が軍部で教官まがいな事をやっていた時は毎日聞かされていたんだけど。
 今ではそういうのすらないのかな。
 不幸中の幸いと言って良いのか、軍部が何も動いていなくてもこの辺は平穏そう。
 停車場の周りだけかもしれないから少し遠回りして都の様子を見ながら行こうかな。
「休暇なんだったら休暇らしく楽しみなよ。フュリーナと一緒に買い物とかして。軍部の事は忘れて」
 こうでも言っておかないと軍部の事ばかり考えるだろうから。それだけ言い残して中央区の宮へ向かう。
「……は、はい! ありがとうございます」
 遠くに居ても聞こえそうなリーグの大きな声。信じてくれたのかな、声音から不安を感じない。
「……クリー、護衛はリーグに任せて。話がしたい」
「……少し離れた場所で」
 今日のフュリーナの護衛担当のクリーに同行してもらう。ルノに同行してもらうのが一番良かったんだけど、今は引き継ぎ作業で忙しいだろうから。
 クリーのように補助魔法師の影護衛は誰にも聞こえないように小声で言っても、音魔法で声を拾ってくれて返事もくれる。
 主様に近い関係でないと返事が返ってくる事はまずないんだけど。
 そもそも、そうでなければ護衛をつけている事なんて知られていないか。
 少し離れた場所をどこにするかはクリーに任せるとして、僕は普通に中央区の宮に向かって歩いていようかな。
      **********
 歩いていても相変わらず中央区の制服が見当たらない。多くの人がそれが普通かのように生活している。
 時々、リーグ様が見回りに来ないと不安を口にする人は見かけるけど、他の軍部所属の名前は出てきていない。
「……リーグだけです。見回りを休暇以外毎日していたのは……休暇の日も、買い物に来たと言いながら、見回りをしていました……道も、軍部が何も言わないので」
 もう姿を見せて良いと判断したんだろう。クリーが出てきた。
 普段整備された道を歩かないから意識していなかったけど、クリーに言われて地面を見てみる。
 普通の人なら歩きづらそうなくらい、道が割れている。
「ふきゃん」
 帽子を被った幼い女の子が割れた道につまづいて転んだ。都は安全だから子供一人でいる事は、数年前は良くあったけど、今日歩いていて初めて見かけた。
「大丈夫? 」
 僕がしゃがんで女の子に手を差し伸べると、顔を上げた女の子が僕をじっと見つめた。
 帽子で髪を隠していたけど、僅かに見えるピンク色の前髪に珍しい二色のグラデーションの愛らしい瞳。
「……しゃぁーーーーーー! 」
 突然立ち上がった女の子が、僕から逃げるように走り出した。というか、ほんとに逃げたんだと思う。
 でも、またすぐにつまづいて、僕の方を見て逃げ出す。
 女の子を見ながら僕は、なぜ逃げるのかと理解できず、しばらくしゃがんだまま止まっていた。
「……あれ、姫様ですよね? なぜいるんですか? 」
「僕が聞きたいよ。しかも、僕だと判断するなり逃げ出すって……まぁ、双子宮にいけば会えるから良いけどさ。それより、ここ整備するように頼んだ方が良さそうだね」
 あの子が元々転びやすいというのもあるんだろうけど、他にも転ぶ人は大勢いそう。特に子供は、はしゃいで走り回ってつまずいて転ぶなんて、整備されていてもありえる話だというのに。
 転んで怪我をする子供を増やさないためにも、道の整備は優先した方が良いだろう。
 双子宮へ行ってあげたいけど、行けるのはもう少しあとになりそうかな。
 今日中には行けるとは思うけど。
「……とりあえず宮に向かうか。あの子は自分でこれたなら帰れると思うから」
 立ち上がって歩き出そうとすると、あの子が戻ってきた。
「……しゃぁーーー! 」
 花を僕に渡してまた逃げていく。きた目的は僕がこないからって何しているのか確かめるためか。
 あの子は花を介して外を視る事ができるから。それを使って僕の事を見ていようという魂胆だと思う。
 だとすればさっきはなんで逃げたんだか。普通に急に出会ってびっくりしただけなのかな。
「……行こっか」
「……はい」
 あの子の事は一旦おいて、今度こそ中央区の宮へ向かって、再び歩き出した。
 それにしても、なんで目が合う度に威嚇されないといけなかったんだろう。初めはびっくりして威嚇したのかなってなるけど、二度目は絶対違う。
「……ベレンジェア様、あちらを……現在、他の区の宮所属の者が、ああして私服で見回りをしています……制服を着て見回りをしていると……中央区の宮の者が見回りするなというので」
 都の方は宮がいくつもあるからそういう面倒事があるのか。別にどこの宮がどこを担当しても良いと思うけど。
 西南区の軍部の子かな。私服だから制服で見分けられない。
 二人組で買い物のように見せかけて見回りをしている。
「おっ、クリーじゃん。同僚と仲良くお出かけか? 」
「ひさー。クリーをこんなところで見かけるなんて珍しい」
「……違う。ベレンジェア家の方。中央区の宮に用がある」
 明るく挨拶をしてきた二人が、中央区の宮という言葉を聞いて険しい表情を見せる。
「ベレンジェア様でしたか。あそこはやめた方が良いですよ」
「ええ。あそこはもうどうにもできません。かつて都の宮を回っては、多くの軍部所属の神獣達に恐怖を与えていたあの方がいれば……」
 うん。別に恐怖を与えていたわけじゃないから。普通に訓練の教官頼まれてやっていただけだから。
「……きっと主様がどうにかしてくれる。だから、もう少し辛抱」
「そ、そうだな。中央区に行く途中に邪魔をして申し訳ありません。おれたちは、業務に戻ります」
 何年もこの状態で、今更どうにかできると思っていないんだろう。俯いて、少し悲しそうにしている。もう諦めているみたい。
「……変えるよ。他の区にしばらく迷惑かけるだろうけど、総入れ替えをしてでも変える。ヴァリジェーシルの名にかけて。だから、もう少しだけ待っていて」
 ほんとはだめなんだけど、どうして自分達がと言わずに頑張ってくれているんだ。だから、それに応えてあげたくなった。
 僕の言葉に希望を持ってくれたのか、顔を上げてくれた。
「僕らは宮に行かないとだから。僕の言動について他言しないように」
 僕がそう言うと、二人はこくこくと頷いていた。