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2話 辺境の宮

ー/ー




 ギュリエンでは、神獣達が使っていた階級制度を元に仕事場がある程度決まる。

 一定以上の階級になると、ギュリエンを守り支えるためのギュシェルという組織で働く必要がある。ギュシェルに加入している者は皆、各地に配置されている宮に所属する事になっている。

 僕は、栄えている都からは離れた宮の管理を任されていた。

 現在僕が所属するその宮に勤めているのは、僕を入れて二人だけ。

 僕は誰もいない静かな執務室で書類の山を片付けていた。

 ほとんどがギュシェルの仕事関連の書類。でも、一部違うものが混ざっている。

 ギュシェルでは請け負う事のできない危険任務や知識を必要とする調査とかを代わりに請け負う組織ギュゼル。そっちの方の書類がいくつか置かれている。

 両方最終的には主様へ提出するからまとめていても問題ない。

「……」

 ある程度片付けも終わって、窓を見る。外は薄暗い。そろそろ終業時間だろう。

 コンコン

 扉が叩かれる音が聞こえた。ここで働いているもう一人、彼女が僕に何か用があるんだろう。終業報告はしなくて良いと前から言っているから。

 見えるとこにギュゼル関連の書類がないか念のため確認しておく。

「入って良いよ」

 ギュゼル関連の書類は全て隠れているのを確認してから彼女を招き入れた。

「失礼します」

 礼儀正しく、見るからにお淑やかな彼女が扉を開けて執務室へ入る。手には一枚の紙を持っている。その紙が用件なんだろう。

「あの、主様の名で異動命令が届きました」

 主様名義で異動命令を出すのは珍しい事ではあるけど、僕が相手だと珍しくもない事になるのかな。主様が名義の仕事以外で面倒なものは全部断ってきているから。

 彼女から異動命令の書類を受け取って確認する。

【フォル・リアス・ベレンジェア
 フュリーナ・エンス・ミンスト
 以下二名に異動を命ずる

 フォル・リアス・ベレンジェア 異動先 双子宮

 フュリーナ・エンス・ミンスト 異動先 都中央区宮 軍部

 氷月 聖愛日までに異動するように】

 二日しか猶予がない。ここからだと半日くらいかかるから今日中にも向かわないとか。

 しかも、双子宮はあまり良い噂がない場所だ。主様の命でなければ行く事なんてないだろうね。

 僕の方は、面倒ごとを押し付けられている可能性があるけど、彼女は出世したと言っても良いだろう。何もなく、都から離れた辺境の宮から都への異動というだけでも。

 フュリーナ・エンス・ミンスト。空色の髪に橙の瞳。

 神獣というのは大まかな種。神獣と呼ばれる中でもどの種なのかは詮索しないというのがギュリエンの決まり。でも、外見だけである程度候補を絞る事ができるし、僕はギュリエンの住民の名簿を見る事ができるから知っている。

 一番希少な黄金蝶よりかは希少度は低いけど、こうして表に出ているのは珍しい種ではあるのかな。

 希少度と能力の高さ、階級の高さとかは所属に関係ない。都へ行かせたいのは別の理由だろう。

 軍部にしたのは意外……ではないのか。あそこには

「想い人と一緒の職場になれるなんて良かったじゃん」

 フュリーナが片想い中の相手がいるから。

「彼とはそんな関係ではありません。ただの、幼馴染です」

 頬を赤くしてそう言っているけど、フュリーナの両片想……片想いは有名だと気づいているんだか。

「ベレンジェア様こそ、都に恋人でもいるのではないんですか? その指輪、婚約指輪だと噂されてますよ」

 ここへくる前、僕は主宮にいた。その時にお揃いで買った指輪を数年経った今でもつけている。

 フュリーナは言い返してやったみたいな感じを出しているけど、僕のこれは公に言えないだけで恥ずかしい事でもなんでもないだよなぁ。

 どう返すか迷う事ではあるんだけど。

「これは昔、ずっと一緒の証って拾ってきた子供と交換しただけだよ」

 もちろん、その子供が好きで黄金蝶と御巫候補なんて障害がなければ相応関係になりたいとも思っているけど。

 そこまでは言えないから黙っている。言えば、僕の隠し事がバレるから。

「……これ」

 主様は僕にだけ伝えたかったんだろう。僕の持つ認証で別の文章が見れる仕掛けになっている。

 しかもご丁寧に認証所持者にだけしか見えず、周りに人がいてもなんて書いてあるのか知られない仕掛けだ。

【フュリーナの護衛は主宮に所属する精鋭達に任せる。それと、中央区の軍部に寄って現場を見てきて欲しい。必要であれば教育も頼みたい。双子宮へは、そちらが終了次第向かって欲しい】

 中央区は全ての部署が上位階級の推薦と聞いている。上位階級の推薦者が態度が悪いなんて事滅多にないんだけど。

「フュリーナ、軍部に行くの付き合うよ。久々に挨拶しに行きたいから」

「そうですよね。ベレンジェア様は、主様からの命で何度か訓練の教官を務めていたとリーグから聞いています。久しぶりに教え子達に会いたいですよね。私、急いで支度して参ります。ゆっくりお話する時間を設けるため、早く参りましょう」

 そういうわけじゃないんだけど。変な気を使わせちゃったかな。

 それにしても、フュリーナの様子を見るとあの話は広まっていないのか。僕が軍部の訓練を見ていた頃、異動願いが大量に出されていたって話。

 大量異動願いを知っていても、その真相が訓練に参加してほとんどの子が厳しすぎるとか言って、逃げるように離れていったとは知らない可能性もあるけど。

 フュリーナが寮へ戻って荷物をまとめている間に、僕は書類を全部主様へ送りつけておくか。

 特殊な結界で転移魔法を使うのは禁止されているけど、転送魔法は禁止されていない。

 転送魔法だと送る事のできる量が限られるけど、何回かに分ければ全部送る事はできる。

 その分魔力を使うけど。

 主様が定めている上限が十枚くらいだから、百回くらい使えば全部送れるかな。

 一回ずつだとフュリーナがくるまでに終わらないだろうから二十回ずつやっていくか。

 ついでに連絡魔法具を準備しておこう。僕の予想だと一回目が送られてきたのに気づいてすぐに連絡がくると思うんだ。なんで一気にこんな量送っているのかって。

 偶然不在で気づかなければ連絡は来ないだろうけど。

      **********

 連絡は来ないまま、転送魔法での書類送りが終わってフュリーナが戻ってきた。

「おかえり。リーグに連絡したの? 」

「はい。ベレンジェア様が一緒だと伝えたのですが、都の入り口付近で明日の早朝待っていると仰ってました」

 それはちょうど良いな。彼から軍部へ行きながら事前に現状を聞く事ができる。
 実際に見ないと分からない部分もあるだろうけど、話で聞かなければ分からない部分もあるだろうから。

「あの、ベレンジェア様は寮に荷物を取りに戻らなくてよろしいのですか? 」

「うん。寮に私物は置いてないから」

 私物を置かないどころか使った事すらないという事は黙っておく。

 日中はギュシェルとして仕事、夜はギュゼルとして仕事。寝る時は基本ここ。

 休暇もギュゼルの仕事があるから、趣味の時間とかなく、私物を持ち込んでいない。
 だからフュリーナが荷物をまとめている間に書類を送れたんだ。

「そういえば、魔法車の時間って覚えてる? 最終回には間に合うと思うけど」

「はい。一時間後に最終回が止まるのでまだ時間に余裕があります」

「ついでに乗り方とかも」

「えっと、ここにくる時に乗らなかったんですか? 」

 転移魔法できたから、なんて言えるはずない。本来使えないんだから。

「主様が全部やってくれたから」

 って事にしておこう。

「そうだったんですか。私もそこまで多くはないですが、使っているので教えますね」

「うん。ありがと」

 疑われていなさそう。

 身分証があれば大丈夫とか聞いているから、すぐに出せるようにしておくか。

「フュリーナ、早めにいって売店で何か買おう」

「はい」


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 ギュリエンでは、神獣達が使っていた階級制度を元に仕事場がある程度決まる。
 一定以上の階級になると、ギュリエンを守り支えるためのギュシェルという組織で働く必要がある。ギュシェルに加入している者は皆、各地に配置されている宮に所属する事になっている。
 僕は、栄えている都からは離れた宮の管理を任されていた。
 現在僕が所属するその宮に勤めているのは、僕を入れて二人だけ。
 僕は誰もいない静かな執務室で書類の山を片付けていた。
 ほとんどがギュシェルの仕事関連の書類。でも、一部違うものが混ざっている。
 ギュシェルでは請け負う事のできない危険任務や知識を必要とする調査とかを代わりに請け負う組織ギュゼル。そっちの方の書類がいくつか置かれている。
 両方最終的には主様へ提出するからまとめていても問題ない。
「……」
 ある程度片付けも終わって、窓を見る。外は薄暗い。そろそろ終業時間だろう。
 コンコン
 扉が叩かれる音が聞こえた。ここで働いているもう一人、彼女が僕に何か用があるんだろう。終業報告はしなくて良いと前から言っているから。
 見えるとこにギュゼル関連の書類がないか念のため確認しておく。
「入って良いよ」
 ギュゼル関連の書類は全て隠れているのを確認してから彼女を招き入れた。
「失礼します」
 礼儀正しく、見るからにお淑やかな彼女が扉を開けて執務室へ入る。手には一枚の紙を持っている。その紙が用件なんだろう。
「あの、主様の名で異動命令が届きました」
 主様名義で異動命令を出すのは珍しい事ではあるけど、僕が相手だと珍しくもない事になるのかな。主様が名義の仕事以外で面倒なものは全部断ってきているから。
 彼女から異動命令の書類を受け取って確認する。
【フォル・リアス・ベレンジェア
 フュリーナ・エンス・ミンスト
 以下二名に異動を命ずる
 フォル・リアス・ベレンジェア 異動先 双子宮
 フュリーナ・エンス・ミンスト 異動先 都中央区宮 軍部
 氷月 聖愛日までに異動するように】
 二日しか猶予がない。ここからだと半日くらいかかるから今日中にも向かわないとか。
 しかも、双子宮はあまり良い噂がない場所だ。主様の命でなければ行く事なんてないだろうね。
 僕の方は、面倒ごとを押し付けられている可能性があるけど、彼女は出世したと言っても良いだろう。何もなく、都から離れた辺境の宮から都への異動というだけでも。
 フュリーナ・エンス・ミンスト。空色の髪に橙の瞳。
 神獣というのは大まかな種。神獣と呼ばれる中でもどの種なのかは詮索しないというのがギュリエンの決まり。でも、外見だけである程度候補を絞る事ができるし、僕はギュリエンの住民の名簿を見る事ができるから知っている。
 一番希少な黄金蝶よりかは希少度は低いけど、こうして表に出ているのは珍しい種ではあるのかな。
 希少度と能力の高さ、階級の高さとかは所属に関係ない。都へ行かせたいのは別の理由だろう。
 軍部にしたのは意外……ではないのか。あそこには
「想い人と一緒の職場になれるなんて良かったじゃん」
 フュリーナが片想い中の相手がいるから。
「彼とはそんな関係ではありません。ただの、幼馴染です」
 頬を赤くしてそう言っているけど、フュリーナの両片想……片想いは有名だと気づいているんだか。
「ベレンジェア様こそ、都に恋人でもいるのではないんですか? その指輪、婚約指輪だと噂されてますよ」
 ここへくる前、僕は主宮にいた。その時にお揃いで買った指輪を数年経った今でもつけている。
 フュリーナは言い返してやったみたいな感じを出しているけど、僕のこれは公に言えないだけで恥ずかしい事でもなんでもないだよなぁ。
 どう返すか迷う事ではあるんだけど。
「これは昔、ずっと一緒の証って拾ってきた子供と交換しただけだよ」
 もちろん、その子供が好きで黄金蝶と御巫候補なんて障害がなければ相応関係になりたいとも思っているけど。
 そこまでは言えないから黙っている。言えば、僕の隠し事がバレるから。
「……これ」
 主様は僕にだけ伝えたかったんだろう。僕の持つ認証で別の文章が見れる仕掛けになっている。
 しかもご丁寧に認証所持者にだけしか見えず、周りに人がいてもなんて書いてあるのか知られない仕掛けだ。
【フュリーナの護衛は主宮に所属する精鋭達に任せる。それと、中央区の軍部に寄って現場を見てきて欲しい。必要であれば教育も頼みたい。双子宮へは、そちらが終了次第向かって欲しい】
 中央区は全ての部署が上位階級の推薦と聞いている。上位階級の推薦者が態度が悪いなんて事滅多にないんだけど。
「フュリーナ、軍部に行くの付き合うよ。久々に挨拶しに行きたいから」
「そうですよね。ベレンジェア様は、主様からの命で何度か訓練の教官を務めていたとリーグから聞いています。久しぶりに教え子達に会いたいですよね。私、急いで支度して参ります。ゆっくりお話する時間を設けるため、早く参りましょう」
 そういうわけじゃないんだけど。変な気を使わせちゃったかな。
 それにしても、フュリーナの様子を見るとあの話は広まっていないのか。僕が軍部の訓練を見ていた頃、異動願いが大量に出されていたって話。
 大量異動願いを知っていても、その真相が訓練に参加してほとんどの子が厳しすぎるとか言って、逃げるように離れていったとは知らない可能性もあるけど。
 フュリーナが寮へ戻って荷物をまとめている間に、僕は書類を全部主様へ送りつけておくか。
 特殊な結界で転移魔法を使うのは禁止されているけど、転送魔法は禁止されていない。
 転送魔法だと送る事のできる量が限られるけど、何回かに分ければ全部送る事はできる。
 その分魔力を使うけど。
 主様が定めている上限が十枚くらいだから、百回くらい使えば全部送れるかな。
 一回ずつだとフュリーナがくるまでに終わらないだろうから二十回ずつやっていくか。
 ついでに連絡魔法具を準備しておこう。僕の予想だと一回目が送られてきたのに気づいてすぐに連絡がくると思うんだ。なんで一気にこんな量送っているのかって。
 偶然不在で気づかなければ連絡は来ないだろうけど。
      **********
 連絡は来ないまま、転送魔法での書類送りが終わってフュリーナが戻ってきた。
「おかえり。リーグに連絡したの? 」
「はい。ベレンジェア様が一緒だと伝えたのですが、都の入り口付近で明日の早朝待っていると仰ってました」
 それはちょうど良いな。彼から軍部へ行きながら事前に現状を聞く事ができる。
 実際に見ないと分からない部分もあるだろうけど、話で聞かなければ分からない部分もあるだろうから。
「あの、ベレンジェア様は寮に荷物を取りに戻らなくてよろしいのですか? 」
「うん。寮に私物は置いてないから」
 私物を置かないどころか使った事すらないという事は黙っておく。
 日中はギュシェルとして仕事、夜はギュゼルとして仕事。寝る時は基本ここ。
 休暇もギュゼルの仕事があるから、趣味の時間とかなく、私物を持ち込んでいない。
 だからフュリーナが荷物をまとめている間に書類を送れたんだ。
「そういえば、魔法車の時間って覚えてる? 最終回には間に合うと思うけど」
「はい。一時間後に最終回が止まるのでまだ時間に余裕があります」
「ついでに乗り方とかも」
「えっと、ここにくる時に乗らなかったんですか? 」
 転移魔法できたから、なんて言えるはずない。本来使えないんだから。
「主様が全部やってくれたから」
 って事にしておこう。
「そうだったんですか。私もそこまで多くはないですが、使っているので教えますね」
「うん。ありがと」
 疑われていなさそう。
 身分証があれば大丈夫とか聞いているから、すぐに出せるようにしておくか。
「フュリーナ、早めにいって売店で何か買おう」
「はい」