1話 花々
ー/ー枯れた花々に破壊された建物。ここ一体はどこもこんな感じ。全てが枯れ果て、何もなくなった場所。
雨が降る事もないから、地面は乾いている。
かつてこの場所は、一部の神獣達が平穏に暮らすための場所があったけど、忘れ去られるほど昔の話。今では、この場所を覚えている一部の人達は何も産む事のない死の大地と呼んでいる。
「ぷにゅぷにゅ……また加護が安定していないの。今回は前回より深刻。エレのお祈りだけじゃどうにもならないの」
この場所が再び生命を芽吹くために今日はこの場所を訪れている。
「ふにゅふにゅ」と言いながら、長い髪を揺らすお姫様が僕に悲しそうな顔を見せる。
お姫様は、この場所に生命を芽吹かせるための唯一の希望。
枯れた花々に視線を移したお姫様から、涙がこぼれ落ちる。
お姫様の隣に来た氷の弟王が、何も言わずにそっとお姫様の手を握った。
「ぷにゅ。諦めないの。エレだって、ここが前みたいな場所になって欲しいの。それに、エレはエリエミシェスの当主……愛姫なんだから、みんなのお願いを叶えるの。フォルのお願い叶える」
涙を拭いて、可能性を探ってくれるお姫様を見守る。今回のような事は、お姫様にしか分からない事が多く、僕にはそれしかできない。
お姫様が突然僕の左手を握った。その小さくれる柔らかい手は少し震えている。
何か方法を思いついたのだろう。その方法は、お姫様には荷が重く、失敗する可能性があるのだろう。
僕を見つめるお姫様の瞳は、不安で揺れている。
僕が頼めば、どれだけ難しい事でも頑張ってくれる。だから、方法があるなら試して欲しいと言えば良い。
分かってるのに、その言葉が出ない。
失敗した時のお姫様の事を想像すると、言って良いのか迷う。
「……俺のエレはすごいんだ。俺がついていれば失敗なんてしないんだ。俺らがついていれば失敗しないんだ。したとしても俺らがなんとかするから失敗した事にならないんだ」
僕らじゃどうにもできない事だから、お姫様を頼っているというのに。なんとかするなんて簡単に言う氷の弟王。
でも、今のお姫様にはその言葉が必要だったんだろう。不安が少し消えて、安心したような顔をしている。
「そうだね。みんな一緒なんだ。君が失敗しても、みんなでどうにかする方法くらい思いつくよ。最後に成功させれば、失敗なんてなかった事にできるから」
「……ふにゅ。なのなの。それに、みんなにわざわざ時間作ってきてもらってるのに何もしないなんてエレ的にやな事なの。他でもないフォルの頼みなのに何もできないエレじゃないの……と言う事で、成功したご褒美はちゅぅとお風呂一緒とねむねむ一緒」
何か企んでいる感じの笑顔を作るお姫様は、外見年齢十六歳。転生を繰り返し、その記憶もある僕らにとって年齢は関係ないんだけど。
十六歳は多くの場所で成人の儀をする年齢なのに、まだ子供の時のような事を僕に要求している。
「良いよ。いくらでもしてあげる」
僕がそう言うと、自分から要求したくせに、お姫様は頬を赤くして氷の弟王の背に隠れた。
隠れながらもチラチラと僕の事を見るお姫様は、しばらくすると、氷の弟王から離れた。
この場所に再び生命を芽吹かせるために加護を定着させる儀を始めるのだろう。収納魔法から魔法杖を取り出している。
少し緊張しているんだろうか、ぎこちない動きで前に歩き出す。
数歩歩いたところで、僕らの方へ振りかえった。
「えっと、今から加護を定着させるの。少しだけ説明するのは。みんなが加護を与えて、エレがその加護達にここにいて欲しい事をお願いするの。お願いするのには、最速で二時間はかかるらしいの。愛姫……エリエミシェス家の能力が関係するから、エレにはできるかどうか分からないけどがんばるの」
お姫様が愛姫として言葉を発する時は、普段とは違う口調で言う。でも、今回は愛姫としてではなく、お姫様個人としてという事なのだろう。いつも通りの口調で、まっすぐ僕らを見てそう言った。
儀式の内容は詳しく説明していないけど、僕ら全員そういう儀式がある程度には聞いた事がある。それがどんな効果をもたらすかとかは初めて知ったけど。
「星の姫様……エレシェフィール・ノーヴァルディア・エリエミシェス。エリエミシェス家百代目当主に導きの言葉を与えてください」
お姫様が、導きの言葉を唱えた時が儀式開始の合図。僕らは、お姫様の合図がいつきても良いよう準備しておく。
お姫様のような言葉を聞く祈りは必要なく、加護の量の調整だけだから、僕らの方はすぐに終わる。お姫様の方は、愛姫としての能力が試される第一関門。能力が高ければ早く終わるんだろう。
「……」
まだ、儀式が始まったわけではない。今は準備段階。
だというのに、お姫様を包み込むような優しい風が吹く。きらきらした光が枯れた花々を包み込む。
お姫様は、当主として能力が低い可能性があると言われていたけど、そうであればこの光景は見る事ができないだろう。
「愛の輝きにより、彼の願い叶い、世界は輝きを取り戻す」
お姫様は歌うように導きの言葉を唱えた。それを合図に、僕らはこの場所に加護を与える。
ただ与えるだけなら、すぐにどこかへ消えてしまう。この場所はそういう場所だ。
でも、お姫様が加護をこの場所に引き留めて定着するように語りかける。
他のみんなには見えていないだろうけど、僕にはお姫様と対話している光が視える。その光は、お姫様に好意的で、願いを聞いてくれている。
光は、少しずつお姫様から離れていっている。離れているけど、消えていない。
ありえないような事は、一度だけではなかった。
お姫様の周りの枯れた花々が突然息を吹き返したかのようにかつての姿を取り戻した。いくら加護が定着したとしても、これだけ早くに効果が出る事も、枯れた花々が再び咲く事もない。
これは奇跡と言って良いんだろう。
「……成功なの。すごいの」
これだけの事を成したお姫様は、いつもと変わらない笑顔で、真っ先に僕に抱きついてきた。
「あのね、みんな知りたがっていたの。きっと、みんなにはここを知らない王達も含まれているの。どうしてこうなったのか。こうなる前はどんな場所だったのか。エレ達を含めたギュゼルの歩んできた道を知りたがってる」
「良いよ。教えても」
またおんなじ事を繰り返さないためにも。この場所で起きた事を知っておくべきだと思う。
「ふにゅ。なら、エレはフォルが見てきたものを映し出すの。フォルがどんなふうに想って、この場所で暮らしてきたのか。それがエレ達にとって良い事だと思うから。みんなが、フォルの大切を知るために」
僕らは、他者との関わりを持つべきではない。大切な人なんて作るべきではない。
それを知っておきながらもできなかった僕を誰も責めはしなかった。むしろ、今度は自分達も一緒に守ると言ってくれた。
だからこそ、お姫様は必要だと思ったんだろう。僕が、どういう人達とどうして一緒に居たいと思ったのかを。
「……フォルも協力するの。エレ一人でそんな魔法使えないの。使えていたとしても、協力するの。エレをぎゅぅしていろなの」
魔法を使いづらくしているだけな気がするけど、お姫様が僕から離れないから、抱っこしてあげる。この方がまだ魔法使いやすいだろうから。
少し不服そうなお姫様が、魔法杖を握って過去を視せる魔法を使う。
まだ、この場所が豊かで一部の神獣達が助け合いながら暮らしていた、神獣達と双子姫のギュリエンと呼ばれていた時を。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
枯れた花々に破壊された建物。ここ一体はどこもこんな感じ。全てが枯れ果て、何もなくなった場所。
雨が降る事もないから、地面は乾いている。
かつてこの場所は、一部の神獣達が平穏に暮らすための場所があったけど、忘れ去られるほど昔の話。今では、この場所を覚えている一部の人達は何も産む事のない死の大地と呼んでいる。
「ぷにゅぷにゅ……また加護が安定していないの。今回は前回より深刻。エレのお祈りだけじゃどうにもならないの」
この場所が再び生命を芽吹くために今日はこの場所を訪れている。
「ふにゅふにゅ」と言いながら、長い髪を揺らすお姫様が僕に悲しそうな顔を見せる。
お姫様は、この場所に生命を芽吹かせるための唯一の希望。
お姫様は、この場所に生命を芽吹かせるための唯一の希望。
枯れた花々に視線を移したお姫様から、涙がこぼれ落ちる。
お姫様の隣に来た氷の弟王が、何も言わずにそっとお姫様の手を握った。
「ぷにゅ。諦めないの。エレだって、ここが前みたいな場所になって欲しいの。それに、エレはエリエミシェスの当主……愛姫なんだから、みんなのお願いを叶えるの。フォルのお願い叶える」
涙を拭いて、可能性を探ってくれるお姫様を見守る。今回のような事は、お姫様にしか分からない事が多く、僕にはそれしかできない。
お姫様が突然僕の左手を握った。その小さくれる柔らかい手は少し震えている。
何か方法を思いついたのだろう。その方法は、お姫様には荷が重く、失敗する可能性があるのだろう。
僕を見つめるお姫様の瞳は、不安で揺れている。
僕が頼めば、どれだけ難しい事でも頑張ってくれる。だから、方法があるなら試して欲しいと言えば良い。
分かってるのに、その言葉が出ない。
失敗した時のお姫様の事を想像すると、言って良いのか迷う。
「……俺のエレはすごいんだ。俺がついていれば失敗なんてしないんだ。俺らがついていれば失敗しないんだ。したとしても俺らがなんとかするから失敗した事にならないんだ」
僕らじゃどうにもできない事だから、お姫様を頼っているというのに。なんとかするなんて簡単に言う氷の弟王。
でも、今のお姫様にはその言葉が必要だったんだろう。不安が少し消えて、安心したような顔をしている。
「そうだね。みんな一緒なんだ。君が失敗しても、みんなでどうにかする方法くらい思いつくよ。最後に成功させれば、失敗なんてなかった事にできるから」
「……ふにゅ。なのなの。それに、みんなにわざわざ時間作ってきてもらってるのに何もしないなんてエレ的にやな事なの。他でもないフォルの頼みなのに何もできないエレじゃないの……と言う事で、成功したご褒美はちゅぅとお風呂一緒とねむねむ一緒」
何か企んでいる感じの笑顔を作るお姫様は、外見年齢十六歳。転生を繰り返し、その記憶もある僕らにとって年齢は関係ないんだけど。
十六歳は多くの場所で成人の儀をする年齢なのに、まだ子供の時のような事を僕に要求している。
「良いよ。いくらでもしてあげる」
僕がそう言うと、自分から要求したくせに、お姫様は頬を赤くして氷の弟王の背に隠れた。
隠れながらもチラチラと僕の事を見るお姫様は、しばらくすると、氷の弟王から離れた。
この場所に再び生命を芽吹かせるために加護を定着させる儀を始めるのだろう。収納魔法から魔法杖を取り出している。
少し緊張しているんだろうか、ぎこちない動きで前に歩き出す。
数歩歩いたところで、僕らの方へ振りかえった。
「えっと、今から加護を定着させるの。少しだけ説明するのは。みんなが加護を与えて、エレがその加護達にここにいて欲しい事をお願いするの。お願いするのには、最速で二時間はかかるらしいの。愛姫……エリエミシェス家の能力が関係するから、エレにはできるかどうか分からないけどがんばるの」
お姫様が愛姫として言葉を発する時は、普段とは違う口調で言う。でも、今回は愛姫としてではなく、お姫様個人としてという事なのだろう。いつも通りの口調で、まっすぐ僕らを見てそう言った。
儀式の内容は詳しく説明していないけど、僕ら全員そういう儀式がある程度には聞いた事がある。それがどんな効果をもたらすかとかは初めて知ったけど。
「星の姫様……エレシェフィール・ノーヴァルディア・エリエミシェス。エリエミシェス家百代目当主に導きの言葉を与えてください」
お姫様が、導きの言葉を唱えた時が儀式開始の合図。僕らは、お姫様の合図がいつきても良いよう準備しておく。
お姫様のような言葉を聞く祈りは必要なく、加護の量の調整だけだから、僕らの方はすぐに終わる。お姫様の方は、愛姫としての能力が試される第一関門。能力が高ければ早く終わるんだろう。
「……」
まだ、儀式が始まったわけではない。今は準備段階。
だというのに、お姫様を包み込むような優しい風が吹く。きらきらした光が枯れた花々を包み込む。
お姫様は、当主として能力が低い可能性があると言われていたけど、そうであればこの光景は見る事ができないだろう。
「愛の輝きにより、彼の願い叶い、世界は輝きを取り戻す」
お姫様は歌うように導きの言葉を唱えた。それを合図に、僕らはこの場所に加護を与える。
ただ与えるだけなら、すぐにどこかへ消えてしまう。この場所はそういう場所だ。
でも、お姫様が加護をこの場所に引き留めて定着するように語りかける。
他のみんなには見えていないだろうけど、僕にはお姫様と対話している光が視える。その光は、お姫様に好意的で、願いを聞いてくれている。
光は、少しずつお姫様から離れていっている。離れているけど、消えていない。
ありえないような事は、一度だけではなかった。
お姫様の周りの枯れた花々が突然息を吹き返したかのようにかつての姿を取り戻した。いくら加護が定着したとしても、これだけ早くに効果が出る事も、枯れた花々が再び咲く事もない。
これは奇跡と言って良いんだろう。
「……成功なの。すごいの」
これだけの事を成したお姫様は、いつもと変わらない笑顔で、真っ先に僕に抱きついてきた。
「あのね、みんな知りたがっていたの。きっと、みんなにはここを知らない|王達《みんな》も含まれているの。どうしてこうなったのか。こうなる前はどんな場所だったのか。エレ達を含めたギュゼルの歩んできた道を知りたがってる」
「良いよ。教えても」
またおんなじ事を繰り返さないためにも。この場所で起きた事を知っておくべきだと思う。
「ふにゅ。なら、エレはフォルが見てきたものを映し出すの。フォルがどんなふうに想って、この場所で暮らしてきたのか。それがエレ達にとって良い事だと思うから。みんなが、フォルの大切を知るために」
僕らは、他者との関わりを持つべきではない。大切な人なんて作るべきではない。
それを知っておきながらもできなかった僕を誰も責めはしなかった。むしろ、今度は自分達も一緒に守ると言ってくれた。
だからこそ、お姫様は必要だと思ったんだろう。僕が、どういう人達とどうして一緒に居たいと思ったのかを。
「……フォルも協力するの。エレ一人でそんな魔法使えないの。使えていたとしても、協力するの。エレをぎゅぅしていろなの」
魔法を使いづらくしているだけな気がするけど、お姫様が僕から離れないから、抱っこしてあげる。この方がまだ魔法使いやすいだろうから。
少し不服そうなお姫様が、魔法杖を握って過去を視せる魔法を使う。
まだ、この場所が豊かで一部の神獣達が助け合いながら暮らしていた、神獣達と双子姫のギュリエンと呼ばれていた時を。