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1話 星の居場所

ー/ー




 灯りがなく、窓から入る光だけが光源の薄暗い静かな部屋の中。カシカシと心地良いペンの音が奏でられている。

 ここはとある大陸にある大国リブイン王国。人間が建国した人間達が住む国。

 今のリブイン王国にはかつてないほどの大金を手にしている。その金を産んでいるのはエンジェリアと呼ばれている一人の少女。

 エンジェリアがいるこの部屋は、リブイン王国の王宮、一部の者以外は知らない秘密の通路から行く事ができる小さな部屋。

「ふみゅ……ねむ……」

 エンジェリアは長時間座っていると腰を痛めそうな硬い椅子の上に座り、眠い目を開けながら本の復元を行なっている。
 この本の復元がリブイン王国に多大な財をもたらすこの国ではエンジェリアにしか出来ない作業。

「ぴゅにゅ。がんばったの」

 本日分の本の復元作業を終わらせたエンジェリアは「みゅー」と身体を伸ばしてから立ち上がった。

 エンジェリアは眠るためにベッドがない代わりにある硬いソファの方へ向かおうとして目の前の惨状を見る。

「足の踏み場ない」

 ただでさえ狭い部屋に大量の本。エンジェリアの十六歳にしては小さな足ですら床が見える場所が少なく本を踏んでしまいそうだ。

「ぷにゅぅ、おやすみなのー」

 無事硬いソファまで移動して、寝転がり瞼を閉じて眠るエンジェリア。彼女の一日は毎日こうして終わりを告げる。

      **********

 いつもであれば、部屋に閉じ篭もる毎日。だが、今日は違う。エンジェリアにとって楽しみである気分転換に外に出る事ができる日。

 エンジェリアはいつもの散歩道を歩いている。

 歩きやすいよう石で整備された道、道を挟むようにある花壇には色とりどりの花が咲いている。

 花は誰も手入れをしていないが、一輪たりとも枯れる事なく今日も美しく咲いている。全て違う特定の環境下でしか咲かない花ばかりだというのに。

「みんな今日もきれいなの。いつもきれいでいてくれてありがと」

 散歩の度、こうして花々に声をかけるのもエンジェリアの習慣だ。

「けほっ、けほっ」

 突然咳き込んだエンジェリア。口を抑えた手にはベッタリと赤い液体が付いている。

「……くす」

 エンジェリアの持つ魔力疾患による発作。現在の技術では治療法どころか原因すら見つかっていない不治の病。発症例も少なく、年齢を重ねるごとに酷くなる発作に耐えて十六まで成長した事例はリブイン王国ではエンジェリア以外ない。

 気休めではあるが、発作を抑えるための薬を国王からもらっているエンジェリアは薬をポケットから出そうとするが入っていない。

「……」

 発作で意識が朦朧としているエンジェリア。だが、声が届く範囲に人などいない。いたとしても助けになどこないだろう。

 発作は数時間すれば収まる。この散歩道はエンジェリアが攫われないように結界魔法がかけられている。たとえ意識を失おうと、今のエンジェリアが気にする事は何一つない。

 立っていられなくなったエンジェリアがその場で座り込む。そこにあり得ない人影ができた。

「落ち着いて」

 特殊な透明なヴェールで顔を隠した人物。機械音が混じったかのような声で発せられた一言。その言葉を聞いただけでエンジェリアは感じた事のない懐かしさと安心感を覚えた。

 その感情が生まれたのが理解できないエンジェリアの手を顔を隠した人物が握った。

「大丈夫だよ」

 手袋越しで僅かに伝わる温もり。婚約者がいるため拒まなければいけないと頭では理解しつつ、その手を、その温もりを拒む事などできなかった。

「ゆっくりで良いから、力を抜いて僕に身体を預けて」

 エンジェリアにはその言葉を無視する事が出来ない。顔を隠した人物の言葉に従う。

「君の中で溜まりすぎているものを一気に外に出すから疲れると思う。少しだけ我慢して」

 エンジェリアの身体に溜まっている発作の元となっているものが一気に身体から離れた。

 発作によるものなのか、それが一気に消えた影響なのか、動けないほどの怠さがエンジェリアを襲う。

「もう大丈夫だよ。それと、ごめん。君をここにいさせる事は出来ないんだ」

 エンジェリアの身体が浮く。顔を隠した人物に抱き上げられ、あたりが光に包み込まれる。

      **********

 気がつくとエンジェリアの記憶にある限り、本ですら見た事もないような広い部屋の中にいる。
 突然景色が変わった事に戸惑うエンジェリアは、顔を隠した人物に、記憶にある限りでは出会った事もないような大きなふかふかベッドの上に寝かせられる。

「大丈夫? 転移魔法に慣れてない人って酔う事があるらしいけど」

 心配しているような声で言う顔を隠した人物に、発作の後だからかぼんやりとした頭でエンジェリアはこくりと頷いた。

 顔を隠した人物が特殊な透明なヴェールを取る。青緑色の髪に緑色の瞳の少年? エンジェリアは無意識に外見の特徴を見て種族を考察した。

 だが、そんな種族に心あたりはなくすぐに諦める。

「はじめましてになるのかな。僕はフォル・リアス・ベレンジェア。突然ここへ連れてきた事に関しては謝罪するよ。その件とか聞きたい事あると思うけど、今は休んでほしい。必ず話をすると約束するから」

 特殊な透明なヴェールは変声機の役割でもあったのだろう。顔を見せたフォルと名乗った少年? の声は美しく、中性的だ。

 フォルは些細な所作が高位貴族を思わせる。エンジェリアが本の中でしか見た事もないほどの。
 
「フォル、帰ってんなら声くらいかけろ……って、なんで人間の姫がここに」

 先端の銀髪が目立つ青みがかった黒髪の少年が突然部屋を訪れた。青みがかった黒髪の少年はエンジェリアを敵視しているのか睨んでいる。

「丁度良かった。ゼノン、この子の事少しだけ見といてくれる? 薬とってくるから」

 フォルがそう言ってエンジェリアと青みがかった黒髪の少年を残して部屋を出た。

 エンジェリアはフォルがいなくなると、両膝を曲げて布団をぎゅっと握って青みがかった黒髪の少年を睨んだ。

「リブスに帰して‼︎ 」

「しゃぁー」と威嚇しながらエンジェリアは青みがかった黒髪の少年を警戒している。

「フォルに言えよ。いくらいやでもあいつが連れてきたのにあいつの許可なしに帰せねぇよ」

「帰して! エレはあそこでいっぱいいっぱいお金を稼いで愛されるの! 」

「金があればなんでも手に入るって? 人間の姫つぅのはほんっとうに世間知らずでわがままだな」

 青緑髪の少年が嫌悪の表情をエンジェリアに向けている。エンジェリアは気にせずに言葉を紡ぐ。

「お金をいっぱいいっぱい稼いだら愛してくれるって言っていたの! 今は婚約者様も王様もきてすらくれないけど、お金が足りないからだもん! お金もっといっぱい貯めれば愛してくれるの! 」

 その言葉は青みがかった黒髪の少年に向けてでもありエンジェリア自身に向けてでもあった。フォルに助けてもらった事により疑念を持ちはじめたのを消すために。

 だが、一度生まれた疑念を簡単に消す事はできない。

「愛されるの……だから、邪魔しないで」

 青みがかった黒髪の少年がエンジェリアに戸惑う様子を見せる。彼が声を出す前に扉が開いた。

「エレの薬、とってきたよ」

 フォルが戻るとエンジェリアは先ほどまでの態度が嘘のように静かになった。

「……ゼノン、この子は人間じゃないし、あの国に攫われて監禁されてたんだ。君のきらいなタイプじゃない」

「あ、ああ……えっと、姫、ごめん、俺、誤解して酷い態度とった」

 青みがかった黒髪の少年が泣きそうな表情で謝った。

「……エレの食事とってくるから。ゼノン、仲良くしてなよ」

 そう言ってフォルが再び部屋を出た。エンジェリアはフォルがいなくなると青みがかった黒髪の少年を睨む。

「しゃぁー! エレをリブスに帰して‼︎ エレはあそこで……愛されて……」

 エンジェリアに必要な薬すらまともにくれず、無くならないように発作の時意外飲めなかった。だが、ここでは何もしてないのに薬をくれる。食事まで。

 身体は素直なんだろう。エンジェリアの瞳からぽたぽやと涙が溢れ落ちる。

 泣いているエンジェリアに青みがかった黒髪の少年が慌てた様子で縫いぐるみをくれる。

「あっ、えっと、なんでかわかんねぇが、好きって思ったから」

 初めてもらう優しさにエンジェリアは微笑んだ。その顔は赤く、熱を帯びている。

「しゃぁ……ありがとなの。エレ、フォルすき。あなたきらい。エレはね、エンジェリルナレーゼなの。エンジェリアで良いの。きらいでも教えるのが礼儀なんだって本に書いてあった」

「本? ……そうか。監禁されて、まともな教育すら受けてねぇんだな。俺はゼノン。よろしくな、エンジェリア」

 ゼノンと名乗った少年がそう言って、エンジェリアが動かなくても届く位置で手を差し出す。エンジェリアは名乗る以上の礼儀を知らず「べぇ」と舌を出して、その手を無視した。

「仲良くする気ないの。フォルに頼まれて仲良くするゼノンきらい」

「さっきからなんでそんなにきらってんだ? 俺、フォル恋愛対象に見てねぇから」

「信じないの」

 エンジェリアはそう言って「しゃぁー、しゃぁー」と猫のように威嚇をする。

「ゼノン、エレと仲良くしてって言ったよね? 」

 再びフォルが戻ってきてエンジェリアはおとなしくなる。

「違う。仲良くしないのあっち。ついでにいじめられてんの俺」

「エレ、ごめんね。ゼノンにはちゃんと言い聞かせておくから」

 どこか楽しそうにそう言うフォルにエンジェリアは喜んでいる。

「エレ、フォルにお世話されたい。フォルすき。ゼノンきらい」

「……おかしいな。エレは警戒心が強くてこのくらいで懐かないのに……まさか」

 フォルに手がエンジェリアの額に触れる。

「……やっぱり熱ある。これが原因か」

「ああ、熱出た時って人恋しくなるよな……ん? なんで俺」

「なんでだろうね。転生前は兄妹みたいだったのに」

 エンジェリアの額に冷たい布を置かれる。側には大量の縫いぐるみが置かれる。

 それをしているのはエンジェリアがきらいと言っているゼノンだ。

「どうして優しくするの? お金? お金ほしいから? 」

 エンジェリアは戸惑いながらゼノンに尋ねた。

「そんなもんいらねぇよ。今までろくなやつに会わなかったんだな。そうだな……優しくされるのが嬉しいからか? 自分が貰った優しさを誰かに渡す。そんな優しい世界が良いからな。変えようと思うならまずは自分から、だろ? 」

「……おかしなゼノンなの……みゃ⁉︎ おかしゼノンなの⁉︎ 」

「……クッキー今度作ってやる」

「すきなの! 」

 エンジェリアの一言で何かを察したゼノンをエンジェリアはベッドに招き入れた。そして、隣に来たゼノンを抱き枕にする。

「すき。ぎゅぅなの。フォルは反対側」

「うん。ふふっ、昔のエレみたいで可愛い」

 フォルがエンジェリアの側に来る。

「……なぁ、こいつの発作魔力疾患だろ? こんな症状出るのか? 」

「うん。君と逆の体質だから。魔力の吸収量が極端に多くて身体が耐えきれなくなってるんだ。それをどうにかすれば普通の生活がおくれるだろうね」

「体質? 病気じゃ」

 エンジェリアの知る魔力疾患は未知であり不治の病。普通の生活など夢のような話だった。

 それが良くなると聞いて、僅かに希望が生まれる。

「うん。魔力疾患は原石だよ。ちゃんと魔力の扱いを学んで、対策さえしておけばここまで酷くはならないんだ」

「……悪いものじゃなかったんだ」

 エンジェリアは安心すると眠気が押し寄せてきた。

「少し眠りな」

「うん」

 エンジェリアはにっこりと笑ってゆっくりと瞼を閉じた。


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みんなのリアクション


 灯りがなく、窓から入る光だけが光源の薄暗い静かな部屋の中。カシカシと心地良いペンの音が奏でられている。
 ここはとある大陸にある大国リブイン王国。人間が建国した人間達が住む国。
 今のリブイン王国にはかつてないほどの大金を手にしている。その金を産んでいるのはエンジェリアと呼ばれている一人の少女。
 エンジェリアがいるこの部屋は、リブイン王国の王宮、一部の者以外は知らない秘密の通路から行く事ができる小さな部屋。
「ふみゅ……ねむ……」
 エンジェリアは長時間座っていると腰を痛めそうな硬い椅子の上に座り、眠い目を開けながら本の復元を行なっている。
 この本の復元がリブイン王国に多大な財をもたらすこの国ではエンジェリアにしか出来ない作業。
「ぴゅにゅ。がんばったの」
 本日分の本の復元作業を終わらせたエンジェリアは「みゅー」と身体を伸ばしてから立ち上がった。
 エンジェリアは眠るためにベッドがない代わりにある硬いソファの方へ向かおうとして目の前の惨状を見る。
「足の踏み場ない」
 ただでさえ狭い部屋に大量の本。エンジェリアの十六歳にしては小さな足ですら床が見える場所が少なく本を踏んでしまいそうだ。
「ぷにゅぅ、おやすみなのー」
 無事硬いソファまで移動して、寝転がり瞼を閉じて眠るエンジェリア。彼女の一日は毎日こうして終わりを告げる。
      **********
 いつもであれば、部屋に閉じ篭もる毎日。だが、今日は違う。エンジェリアにとって楽しみである気分転換に外に出る事ができる日。
 エンジェリアはいつもの散歩道を歩いている。
 歩きやすいよう石で整備された道、道を挟むようにある花壇には色とりどりの花が咲いている。
 花は誰も手入れをしていないが、一輪たりとも枯れる事なく今日も美しく咲いている。全て違う特定の環境下でしか咲かない花ばかりだというのに。
「みんな今日もきれいなの。いつもきれいでいてくれてありがと」
 散歩の度、こうして花々に声をかけるのもエンジェリアの習慣だ。
「けほっ、けほっ」
 突然咳き込んだエンジェリア。口を抑えた手にはベッタリと赤い液体が付いている。
「……くす」
 エンジェリアの持つ魔力疾患による発作。現在の技術では治療法どころか原因すら見つかっていない不治の病。発症例も少なく、年齢を重ねるごとに酷くなる発作に耐えて十六まで成長した事例はリブイン王国ではエンジェリア以外ない。
 気休めではあるが、発作を抑えるための薬を国王からもらっているエンジェリアは薬をポケットから出そうとするが入っていない。
「……」
 発作で意識が朦朧としているエンジェリア。だが、声が届く範囲に人などいない。いたとしても助けになどこないだろう。
 発作は数時間すれば収まる。この散歩道はエンジェリアが攫われないように結界魔法がかけられている。たとえ意識を失おうと、今のエンジェリアが気にする事は何一つない。
 立っていられなくなったエンジェリアがその場で座り込む。そこにあり得ない人影ができた。
「落ち着いて」
 特殊な透明なヴェールで顔を隠した人物。機械音が混じったかのような声で発せられた一言。その言葉を聞いただけでエンジェリアは感じた事のない懐かしさと安心感を覚えた。
 その感情が生まれたのが理解できないエンジェリアの手を顔を隠した人物が握った。
「大丈夫だよ」
 手袋越しで僅かに伝わる温もり。婚約者がいるため拒まなければいけないと頭では理解しつつ、その手を、その温もりを拒む事などできなかった。
「ゆっくりで良いから、力を抜いて僕に身体を預けて」
 エンジェリアにはその言葉を無視する事が出来ない。顔を隠した人物の言葉に従う。
「君の中で溜まりすぎているものを一気に外に出すから疲れると思う。少しだけ我慢して」
 エンジェリアの身体に溜まっている発作の元となっているものが一気に身体から離れた。
 発作によるものなのか、それが一気に消えた影響なのか、動けないほどの怠さがエンジェリアを襲う。
「もう大丈夫だよ。それと、ごめん。君をここにいさせる事は出来ないんだ」
 エンジェリアの身体が浮く。顔を隠した人物に抱き上げられ、あたりが光に包み込まれる。
      **********
 気がつくとエンジェリアの記憶にある限り、本ですら見た事もないような広い部屋の中にいる。
 突然景色が変わった事に戸惑うエンジェリアは、顔を隠した人物に、記憶にある限りでは出会った事もないような大きなふかふかベッドの上に寝かせられる。
「大丈夫? 転移魔法に慣れてない人って酔う事があるらしいけど」
 心配しているような声で言う顔を隠した人物に、発作の後だからかぼんやりとした頭でエンジェリアはこくりと頷いた。
 顔を隠した人物が特殊な透明なヴェールを取る。青緑色の髪に緑色の瞳の少年? エンジェリアは無意識に外見の特徴を見て種族を考察した。
 だが、そんな種族に心あたりはなくすぐに諦める。
「はじめましてになるのかな。僕はフォル・リアス・ベレンジェア。突然ここへ連れてきた事に関しては謝罪するよ。その件とか聞きたい事あると思うけど、今は休んでほしい。必ず話をすると約束するから」
 特殊な透明なヴェールは変声機の役割でもあったのだろう。顔を見せたフォルと名乗った少年? の声は美しく、中性的だ。
 フォルは些細な所作が高位貴族を思わせる。エンジェリアが本の中でしか見た事もないほどの。
「フォル、帰ってんなら声くらいかけろ……って、なんで人間の姫がここに」
 先端の銀髪が目立つ青みがかった黒髪の少年が突然部屋を訪れた。青みがかった黒髪の少年はエンジェリアを敵視しているのか睨んでいる。
「丁度良かった。ゼノン、この子の事少しだけ見といてくれる? 薬とってくるから」
 フォルがそう言ってエンジェリアと青みがかった黒髪の少年を残して部屋を出た。
 エンジェリアはフォルがいなくなると、両膝を曲げて布団をぎゅっと握って青みがかった黒髪の少年を睨んだ。
「リブスに帰して‼︎ 」
「しゃぁー」と威嚇しながらエンジェリアは青みがかった黒髪の少年を警戒している。
「フォルに言えよ。いくらいやでもあいつが連れてきたのにあいつの許可なしに帰せねぇよ」
「帰して! エレはあそこでいっぱいいっぱいお金を稼いで愛されるの! 」
「金があればなんでも手に入るって? 人間の姫つぅのはほんっとうに世間知らずでわがままだな」
 青緑髪の少年が嫌悪の表情をエンジェリアに向けている。エンジェリアは気にせずに言葉を紡ぐ。
「お金をいっぱいいっぱい稼いだら愛してくれるって言っていたの! 今は婚約者様も王様もきてすらくれないけど、お金が足りないからだもん! お金もっといっぱい貯めれば愛してくれるの! 」
 その言葉は青みがかった黒髪の少年に向けてでもありエンジェリア自身に向けてでもあった。フォルに助けてもらった事により疑念を持ちはじめたのを消すために。
 だが、一度生まれた疑念を簡単に消す事はできない。
「愛されるの……だから、邪魔しないで」
 青みがかった黒髪の少年がエンジェリアに戸惑う様子を見せる。彼が声を出す前に扉が開いた。
「エレの薬、とってきたよ」
 フォルが戻るとエンジェリアは先ほどまでの態度が嘘のように静かになった。
「……ゼノン、この子は人間じゃないし、あの国に攫われて監禁されてたんだ。君のきらいなタイプじゃない」
「あ、ああ……えっと、姫、ごめん、俺、誤解して酷い態度とった」
 青みがかった黒髪の少年が泣きそうな表情で謝った。
「……エレの食事とってくるから。ゼノン、仲良くしてなよ」
 そう言ってフォルが再び部屋を出た。エンジェリアはフォルがいなくなると青みがかった黒髪の少年を睨む。
「しゃぁー! エレをリブスに帰して‼︎ エレはあそこで……愛されて……」
 エンジェリアに必要な薬すらまともにくれず、無くならないように発作の時意外飲めなかった。だが、ここでは何もしてないのに薬をくれる。食事まで。
 身体は素直なんだろう。エンジェリアの瞳からぽたぽやと涙が溢れ落ちる。
 泣いているエンジェリアに青みがかった黒髪の少年が慌てた様子で縫いぐるみをくれる。
「あっ、えっと、なんでかわかんねぇが、好きって思ったから」
 初めてもらう優しさにエンジェリアは微笑んだ。その顔は赤く、熱を帯びている。
「しゃぁ……ありがとなの。エレ、フォルすき。あなたきらい。エレはね、エンジェリルナレーゼなの。エンジェリアで良いの。きらいでも教えるのが礼儀なんだって本に書いてあった」
「本? ……そうか。監禁されて、まともな教育すら受けてねぇんだな。俺はゼノン。よろしくな、エンジェリア」
 ゼノンと名乗った少年がそう言って、エンジェリアが動かなくても届く位置で手を差し出す。エンジェリアは名乗る以上の礼儀を知らず「べぇ」と舌を出して、その手を無視した。
「仲良くする気ないの。フォルに頼まれて仲良くするゼノンきらい」
「さっきからなんでそんなにきらってんだ? 俺、フォル恋愛対象に見てねぇから」
「信じないの」
 エンジェリアはそう言って「しゃぁー、しゃぁー」と猫のように威嚇をする。
「ゼノン、エレと仲良くしてって言ったよね? 」
 再びフォルが戻ってきてエンジェリアはおとなしくなる。
「違う。仲良くしないのあっち。ついでにいじめられてんの俺」
「エレ、ごめんね。ゼノンにはちゃんと言い聞かせておくから」
 どこか楽しそうにそう言うフォルにエンジェリアは喜んでいる。
「エレ、フォルにお世話されたい。フォルすき。ゼノンきらい」
「……おかしいな。エレは警戒心が強くてこのくらいで懐かないのに……まさか」
 フォルに手がエンジェリアの額に触れる。
「……やっぱり熱ある。これが原因か」
「ああ、熱出た時って人恋しくなるよな……ん? なんで俺」
「なんでだろうね。転生前は兄妹みたいだったのに」
 エンジェリアの額に冷たい布を置かれる。側には大量の縫いぐるみが置かれる。
 それをしているのはエンジェリアがきらいと言っているゼノンだ。
「どうして優しくするの? お金? お金ほしいから? 」
 エンジェリアは戸惑いながらゼノンに尋ねた。
「そんなもんいらねぇよ。今までろくなやつに会わなかったんだな。そうだな……優しくされるのが嬉しいからか? 自分が貰った優しさを誰かに渡す。そんな優しい世界が良いからな。変えようと思うならまずは自分から、だろ? 」
「……おかしなゼノンなの……みゃ⁉︎ おかしゼノンなの⁉︎ 」
「……クッキー今度作ってやる」
「すきなの! 」
 エンジェリアの一言で何かを察したゼノンをエンジェリアはベッドに招き入れた。そして、隣に来たゼノンを抱き枕にする。
「すき。ぎゅぅなの。フォルは反対側」
「うん。ふふっ、昔のエレみたいで可愛い」
 フォルがエンジェリアの側に来る。
「……なぁ、こいつの発作魔力疾患だろ? こんな症状出るのか? 」
「うん。君と逆の体質だから。魔力の吸収量が極端に多くて身体が耐えきれなくなってるんだ。それをどうにかすれば普通の生活がおくれるだろうね」
「体質? 病気じゃ」
 エンジェリアの知る魔力疾患は未知であり不治の病。普通の生活など夢のような話だった。
 それが良くなると聞いて、僅かに希望が生まれる。
「うん。魔力疾患は原石だよ。ちゃんと魔力の扱いを学んで、対策さえしておけばここまで酷くはならないんだ」
「……悪いものじゃなかったんだ」
 エンジェリアは安心すると眠気が押し寄せてきた。
「少し眠りな」
「うん」
 エンジェリアはにっこりと笑ってゆっくりと瞼を閉じた。