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プロローグ 星月の御巫と黄金蝶

ー/ー




 この世界は歪んでいる。世界は誰にも知られる事なく、少しずつ歪んでいった。その歪みが目に見えるようになったのは今回の世界だ。

      **********

 古く、壁が何ヶ所も壊れて扉すら無くなったボロボロの家。少女は一人、その家で暮らしていた。

「ふきゃ⁉︎ 」

 突然壊れた壁の外から短剣が飛んできた。少女の家では短剣や石がどこからか飛んでくるのが日常茶飯事となっている。

 その理由がこの地に住む種族である神獣が正式に認めた御巫であるエクシェフィーの御巫と少女が近しい関係であるにも関わらず、少女に御巫になれるだけのの素質を見る事ができないからだ。

「みきゃ⁉︎ 」

 少女の家に再び飛んできた短剣が少女の頬を掠める。

「ふぁぁ」

 いつ何かが飛んでくるかわからない状況にいる少女は、眠くても眠る事はできない。うとうとしながらも必死に起きている。

「エレ、朝飯持ってきた」

 少女の家に先端だけ銀髪の青みがかった黒髪の少年が弁当袋を持って訪れた。

「いつもありがと」

 少女は、青みがかった黒髪の少年に眠たげな笑顔を見せた。

「気にすんな。俺にとってエレは妹のような存在なんだ。いくらでも頼ってくれ」

「うん」

 照れた表情を見せながら少女はこくりと頷いた。

 青みがかった黒髪の少年が少女と目が合うと悲しげな目を少女に向けて近づいてくる。

 弁当袋を机に置いた青みがかった黒髪の少年の冷たい手が、少女の頬に触れる。

「また、怪我してる」

 青みがかった黒髪の少年が傷になっている少女の頬をぺろっと舐めるとその傷は初めからなかったかのように綺麗に消えた。

「ありがと」

 少女がお礼を伝えると青みがかった黒髪の少年が少女の頭を撫でて、弁当袋を少女に渡した。

「食べやすくてエレの好きなもんいっぱいだからこれ食って少ししたら寝ろ。俺が側にいて守ってやるから」

「……うん」

 少女は弁当袋を受け取り、遅めの朝食を摂る。

 少女の朝食中に青みがかった黒髪の少年が、外から飛んできたもので散らかっている部屋を片付けてくれている。

「エレ、今日からはしばらく一緒にいれる」

「うん。うれしい」

 安心する時間のない一人の時間が減る。その喜びを少女は言葉にして伝える。

「ごめん。会議期間中だと外出許可もらえなくて。終わったからやっと外でれた」

「会議期間終わって外出許可って……走ってきただろ」

 高階級の神獣達が集まる会議期間。終了予定は十分ほど前。外出許可が出るのに最低でも二分はかかる。少女の家を訪れた青緑髪の少年は、徒歩五十分圏内の場所から走って五分から八分できた事になる。

 蒸し暑い外を走ってきて汗ひとつかいていない青緑髪の少年に少女は不思議な目を向けていた。

「フォル、お疲れさまなの」

 少女は、青緑髪の少年に労いの言葉を伝えると抱きついた。

「ここは神獣の地だ! 」

「御巫様の汚点は出て行け! 」

「美しく優しい御巫様と我らが神獣の王に変わって我々が制裁を加えてやる! 」

 少女の家の外に人が集まっている。全員ここで暮らし、エクシェフィーの御巫を崇める神獣達だ。

 少女をこの場所から追い出そうと集まる神獣達。少女は瞳に涙を溜めて俯いた。

「……大丈夫だよ。ゼロ、外行って」

 青緑髪の少年が突然言葉を止めた。少女は不安げな瞳で外を見た。

「貴様らここで何している。ここは俺とフォルが本家から買った土地だ。勝手に入って良いと思っているのか」

 緑髪の青年が集まっている神獣達を睨みつけている。

「黄金蝶様……」

「黄金蝶様に逆らうわけにはいかない。ここは引くぞ」

 集まっていた神獣達が一斉に逃げていく。静かになった少女の家の中に少年達とは逆方向の壁から緑髪の青年が足を踏み入れた。

「大丈夫だったか? いきなりあんなもんがきて怖かっただろう」

「ううん。ルーにぃ来てくれたから怖くない。ありがとなの。でも、そこ入口違う。扉あったのあっち」

 少女は少年達が入ってきた方を指差した。

「忘れているだろうが、ここが扉があった場所だ。しばらく見ないうちに扉までなくなっているとはな。修繕なら手伝う。力仕事であれば得意だからな」

「ま、まぁ、扉の事は一旦良いとして、修繕に関してはやっても僕らがいない間におんなじ事になるだけだろ。他に方法を考えておかないと」

「……ありがと。でも、そこまでしてもらうのは申し訳ないよ。エレ、なんにもできてないのに。みんなにもらってばかり」

 少女は両手を胸の前で握って俯いてそう言った。

「気にしなくて良いって言ってんだろ」

「でも……」

「……何もできてないか。僕らは君に何かして欲しくてこの家を与えたんじゃないよ。そんなに悩む暇あるなら好きな事でもやってみたら? 必要なものあるなら買うよ」

「そんなのないよ。エレは、このお家にいられて、みんながお話聞いてくれるだけで十分なの」

 この環境で何年も暮らしていた少女は、それ以上を望まなくなっていた。全てを諦めた目をしている。

「自分でやる事はないか……そうだな。なら、ゼロと二人で御巫候補になって御巫を目指してみる? 本来の役割の」

「えっ」

 少女は、青緑髪の少年の提案に目を見開いた。

「ああ、言い方悪かったかな。ごめん、僕も初めてで慣れてないんだ」

「……みゅ? 」

「僕の番になってよ。強制はしない。そのためには現状を変えなければならないから、今は夢物語のようなもの。その未来を信じる事が出来ないならやめておいた方が良い」

 断って良い。青緑髪の少年は少女に強制する事はない。少女の意思を尊重してくれる。

 だが、その選択肢があったとしても少女の答えは変わらない。記憶にはないほど昔からずっと、その答えは出ている。

「御巫を目指すの。フォルとずっと一緒の未来があるなら、エレはその未来を掴みたい! 」

「……俺は先にきせいじ……結婚式の練習というか、どんな感じなのか知りたい。実際に結婚するわけではなくても絆の儀くらいはできるだろ……ん? あれって御巫候補に選ばれる前提条件」

「そうだね。本来であれば衣装とかは必要ないけど、いやな記憶を少しでも嬉しい記憶に塗り替えてあげたいから、しよっか。結婚式のような衣装での誓いの儀と絆の儀」

 青緑髪の少年が笑顔で言うが少女は理解できていない。絆の儀というものを初めに提案した青みがかった黒髪の少年を見る。

「神獣の婚姻に必要な儀式二つだ」

「確か、本家に道具があったよな。当主代理様には連絡した。今すぐで良いそうだ」

「ありがと。エレがいるから転移魔法でいっか……っと、その前に」

 青緑髪の少年が少女の額に口付けをすると、少女の眠気が消えた。

「あんまりお勧めできない方法だから、今回だけ。行こっか、僕のお姫様達」

 青緑髪の少年がそう言うと、少女達は光に包まれた。

      **********

 光が消えると、立派な建物の中にいた。ここは神獣達の中で最高階級のヴァリジェーシル本家。

 本家にいる者達は皆、少女を歓迎している。

 少女は流れ作業の如く、衣装部屋に連れて行かれドレスに着替えさせられていた。

 着替えが終わると、本家当主代理が用意した会場へ案内された。

「……」

 本家についてから少女は少年達と離れていた。この会場で初めて婚姻衣装を着た少年達を目にした。

 見惚れて何も言えない少女に少年達が手を差し伸べる。

「おいで、お姫様。誓いの儀の方はやり方知っているよね? 」

「転ばねぇように気をつけろよ」

 少女は少年達の手を取り、婚姻の儀としても使われる誓いの儀を執り行う。

「星の御巫、エンジェリルナレージェ・ミュニャ・エクシェフィーは、月の御巫、ゼーシェリオンジェロー・ミュド・ロジェンドと共に、黄金蝶、フォル・リアス・ヴァリジェーシル様に身も心も捧げ、寄り添う事を誓います」

「月の御巫、ゼーシェリオンジェロー・ミュド・ロジェンドは、星の御巫、エンジェリルナレーゼ・ミュニャ・エクシェフィーと共に、黄金蝶、フォル・リアス・ヴァリジェーシル様に身も心も捧げ、寄り添う事を誓います」

「黄金蝶、フォル・リアス・ヴァリジェーシルは、星の御巫、エンジェリルナレージェ・ミュニャ・エクシェフィーと、月の御巫、ゼーシェリオンジェロー・ミュド・ロジェンドを自らの御巫とし、永遠の愛を与える事を誓います」

 共にいる事を誓う誓いの儀。この儀に関しては宣言するだけで済む。

 本来であれば宣言を聞く高階級の神獣がいるが、今回は不在だ。

「次は絆の儀。これに関しては、あの魔法具に手を翳すだけ。魔法具が光れば婚姻が認められる」

 水晶のような魔法の道具に少女達は手を翳した。

 魔法の道具は会場から漏れ出るほど強い光を放つ。

「……ジェルド……終焉の王……世界を滅ぼす……唯一姫の愛姫……創世と破壊を繰り返す世界」

 ごく稀にだが、強い絆に反応した魔法の道具は忘れられた記憶を呼び覚ます事がある。偶然にも少女達はその記憶を呼び覚ました。

「……」

「……」

「エレ、みんなが悲しい結末なんてやなの。みんながやなのに世界を滅ぼすのがやなの。誰を敵に回しても、みんなと一緒で、みんなが悲しくない未来が良い。愛姫として……エレのお願い、聞いてくれる? 」

 少女がそう尋ねると、少年達は少女に婚姻とは別の、少女にとって最も大事な事を誓った。

「当然だろ。俺がいつ起きるかわかんねぇような争い事に誰もが怯える必要がなく、笑っていられる世界にしてやる。そこでエレはみんなと一緒に笑っていれば良いんだ。もう、世界を滅ぼして悲しませない」

「うん。僕もだよ。世界を滅ぼすような事にならないようにする。君が悲しむ結末なんて、僕らも望んでないから」

 少女達は手を重ねる。魔法で隠されていた指輪が光を帯びる。

「心は常に君らと共に」

「エレとフォルと共に」

「みゅ。ゼロとフォルとともになの。ついでにらぶらぶ生活も諦めないの。ゼロと一緒に御巫になってフォルとらぶらぶしながら暮らすの」

      **********

 これは遠い昔の話。少女エンジェリアは数多に存在する世界を滅ぼす終焉の王達の唯一姫。

 遠い未来、幾度となく転生を繰り返した先にある希望の回が来る事をずっと夢見て時を過ごした。

 そして幾度となく繰り返した転生の先、その希望の回がやってきた。十六となっても記憶が戻らないエンジェリア達の転機となる回が。


次のエピソードへ進む 1話 星の居場所


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 この世界は歪んでいる。世界は誰にも知られる事なく、少しずつ歪んでいった。その歪みが目に見えるようになったのは今回の世界だ。
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 古く、壁が何ヶ所も壊れて扉すら無くなったボロボロの家。少女は一人、その家で暮らしていた。
「ふきゃ⁉︎ 」
 突然壊れた壁の外から短剣が飛んできた。少女の家では短剣や石がどこからか飛んでくるのが日常茶飯事となっている。
 その理由がこの地に住む種族である神獣が正式に認めた御巫であるエクシェフィーの御巫と少女が近しい関係であるにも関わらず、少女に御巫になれるだけのの素質を見る事ができないからだ。
「みきゃ⁉︎ 」
 少女の家に再び飛んできた短剣が少女の頬を掠める。
「ふぁぁ」
 いつ何かが飛んでくるかわからない状況にいる少女は、眠くても眠る事はできない。うとうとしながらも必死に起きている。
「エレ、朝飯持ってきた」
 少女の家に先端だけ銀髪の青みがかった黒髪の少年が弁当袋を持って訪れた。
「いつもありがと」
 少女は、青みがかった黒髪の少年に眠たげな笑顔を見せた。
「気にすんな。俺にとってエレは妹のような存在なんだ。いくらでも頼ってくれ」
「うん」
 照れた表情を見せながら少女はこくりと頷いた。
 青みがかった黒髪の少年が少女と目が合うと悲しげな目を少女に向けて近づいてくる。
 弁当袋を机に置いた青みがかった黒髪の少年の冷たい手が、少女の頬に触れる。
「また、怪我してる」
 青みがかった黒髪の少年が傷になっている少女の頬をぺろっと舐めるとその傷は初めからなかったかのように綺麗に消えた。
「ありがと」
 少女がお礼を伝えると青みがかった黒髪の少年が少女の頭を撫でて、弁当袋を少女に渡した。
「食べやすくてエレの好きなもんいっぱいだからこれ食って少ししたら寝ろ。俺が側にいて守ってやるから」
「……うん」
 少女は弁当袋を受け取り、遅めの朝食を摂る。
 少女の朝食中に青みがかった黒髪の少年が、外から飛んできたもので散らかっている部屋を片付けてくれている。
「エレ、今日からはしばらく一緒にいれる」
「うん。うれしい」
 安心する時間のない一人の時間が減る。その喜びを少女は言葉にして伝える。
「ごめん。会議期間中だと外出許可もらえなくて。終わったからやっと外でれた」
「会議期間終わって外出許可って……走ってきただろ」
 高階級の神獣達が集まる会議期間。終了予定は十分ほど前。外出許可が出るのに最低でも二分はかかる。少女の家を訪れた青緑髪の少年は、徒歩五十分圏内の場所から走って五分から八分できた事になる。
 蒸し暑い外を走ってきて汗ひとつかいていない青緑髪の少年に少女は不思議な目を向けていた。
「フォル、お疲れさまなの」
 少女は、青緑髪の少年に労いの言葉を伝えると抱きついた。
「ここは神獣の地だ! 」
「御巫様の汚点は出て行け! 」
「美しく優しい御巫様と我らが神獣の王に変わって我々が制裁を加えてやる! 」
 少女の家の外に人が集まっている。全員ここで暮らし、エクシェフィーの御巫を崇める神獣達だ。
 少女をこの場所から追い出そうと集まる神獣達。少女は瞳に涙を溜めて俯いた。
「……大丈夫だよ。ゼロ、外行って」
 青緑髪の少年が突然言葉を止めた。少女は不安げな瞳で外を見た。
「貴様らここで何している。ここは俺とフォルが本家から買った土地だ。勝手に入って良いと思っているのか」
 緑髪の青年が集まっている神獣達を睨みつけている。
「黄金蝶様……」
「黄金蝶様に逆らうわけにはいかない。ここは引くぞ」
 集まっていた神獣達が一斉に逃げていく。静かになった少女の家の中に少年達とは逆方向の壁から緑髪の青年が足を踏み入れた。
「大丈夫だったか? いきなりあんなもんがきて怖かっただろう」
「ううん。ルーにぃ来てくれたから怖くない。ありがとなの。でも、そこ入口違う。扉あったのあっち」
 少女は少年達が入ってきた方を指差した。
「忘れているだろうが、ここが扉があった場所だ。しばらく見ないうちに扉までなくなっているとはな。修繕なら手伝う。力仕事であれば得意だからな」
「ま、まぁ、扉の事は一旦良いとして、修繕に関してはやっても僕らがいない間におんなじ事になるだけだろ。他に方法を考えておかないと」
「……ありがと。でも、そこまでしてもらうのは申し訳ないよ。エレ、なんにもできてないのに。みんなにもらってばかり」
 少女は両手を胸の前で握って俯いてそう言った。
「気にしなくて良いって言ってんだろ」
「でも……」
「……何もできてないか。僕らは君に何かして欲しくてこの家を与えたんじゃないよ。そんなに悩む暇あるなら好きな事でもやってみたら? 必要なものあるなら買うよ」
「そんなのないよ。エレは、このお家にいられて、みんながお話聞いてくれるだけで十分なの」
 この環境で何年も暮らしていた少女は、それ以上を望まなくなっていた。全てを諦めた目をしている。
「自分でやる事はないか……そうだな。なら、ゼロと二人で御巫候補になって御巫を目指してみる? 本来の役割の」
「えっ」
 少女は、青緑髪の少年の提案に目を見開いた。
「ああ、言い方悪かったかな。ごめん、僕も初めてで慣れてないんだ」
「……みゅ? 」
「僕の番になってよ。強制はしない。そのためには現状を変えなければならないから、今は夢物語のようなもの。その未来を信じる事が出来ないならやめておいた方が良い」
 断って良い。青緑髪の少年は少女に強制する事はない。少女の意思を尊重してくれる。
 だが、その選択肢があったとしても少女の答えは変わらない。記憶にはないほど昔からずっと、その答えは出ている。
「御巫を目指すの。フォルとずっと一緒の未来があるなら、エレはその未来を掴みたい! 」
「……俺は先にきせいじ……結婚式の練習というか、どんな感じなのか知りたい。実際に結婚するわけではなくても絆の儀くらいはできるだろ……ん? あれって御巫候補に選ばれる前提条件」
「そうだね。本来であれば衣装とかは必要ないけど、いやな記憶を少しでも嬉しい記憶に塗り替えてあげたいから、しよっか。結婚式のような衣装での誓いの儀と絆の儀」
 青緑髪の少年が笑顔で言うが少女は理解できていない。絆の儀というものを初めに提案した青みがかった黒髪の少年を見る。
「神獣の婚姻に必要な儀式二つだ」
「確か、本家に道具があったよな。当主代理様には連絡した。今すぐで良いそうだ」
「ありがと。エレがいるから転移魔法でいっか……っと、その前に」
 青緑髪の少年が少女の額に口付けをすると、少女の眠気が消えた。
「あんまりお勧めできない方法だから、今回だけ。行こっか、僕のお姫様達」
 青緑髪の少年がそう言うと、少女達は光に包まれた。
      **********
 光が消えると、立派な建物の中にいた。ここは神獣達の中で最高階級のヴァリジェーシル本家。
 本家にいる者達は皆、少女を歓迎している。
 少女は流れ作業の如く、衣装部屋に連れて行かれドレスに着替えさせられていた。
 着替えが終わると、本家当主代理が用意した会場へ案内された。
「……」
 本家についてから少女は少年達と離れていた。この会場で初めて婚姻衣装を着た少年達を目にした。
 見惚れて何も言えない少女に少年達が手を差し伸べる。
「おいで、お姫様。誓いの儀の方はやり方知っているよね? 」
「転ばねぇように気をつけろよ」
 少女は少年達の手を取り、婚姻の儀としても使われる誓いの儀を執り行う。
「星の御巫、エンジェリルナレージェ・ミュニャ・エクシェフィーは、月の御巫、ゼーシェリオンジェロー・ミュド・ロジェンドと共に、黄金蝶、フォル・リアス・ヴァリジェーシル様に身も心も捧げ、寄り添う事を誓います」
「月の御巫、ゼーシェリオンジェロー・ミュド・ロジェンドは、星の御巫、エンジェリルナレーゼ・ミュニャ・エクシェフィーと共に、黄金蝶、フォル・リアス・ヴァリジェーシル様に身も心も捧げ、寄り添う事を誓います」
「黄金蝶、フォル・リアス・ヴァリジェーシルは、星の御巫、エンジェリルナレージェ・ミュニャ・エクシェフィーと、月の御巫、ゼーシェリオンジェロー・ミュド・ロジェンドを自らの御巫とし、永遠の愛を与える事を誓います」
 共にいる事を誓う誓いの儀。この儀に関しては宣言するだけで済む。
 本来であれば宣言を聞く高階級の神獣がいるが、今回は不在だ。
「次は絆の儀。これに関しては、あの魔法具に手を翳すだけ。魔法具が光れば婚姻が認められる」
 水晶のような魔法の道具に少女達は手を翳した。
 魔法の道具は会場から漏れ出るほど強い光を放つ。
「……ジェルド……終焉の王……世界を滅ぼす……唯一姫の愛姫……創世と破壊を繰り返す世界」
 ごく稀にだが、強い絆に反応した魔法の道具は忘れられた記憶を呼び覚ます事がある。偶然にも少女達はその記憶を呼び覚ました。
「……」
「……」
「エレ、みんなが悲しい結末なんてやなの。みんながやなのに世界を滅ぼすのがやなの。誰を敵に回しても、みんなと一緒で、みんなが悲しくない未来が良い。愛姫として……エレのお願い、聞いてくれる? 」
 少女がそう尋ねると、少年達は少女に婚姻とは別の、少女にとって最も大事な事を誓った。
「当然だろ。俺がいつ起きるかわかんねぇような争い事に誰もが怯える必要がなく、笑っていられる世界にしてやる。そこでエレはみんなと一緒に笑っていれば良いんだ。もう、世界を滅ぼして悲しませない」
「うん。僕もだよ。世界を滅ぼすような事にならないようにする。君が悲しむ結末なんて、僕らも望んでないから」
 少女達は手を重ねる。魔法で隠されていた指輪が光を帯びる。
「心は常に君らと共に」
「エレとフォルと共に」
「みゅ。ゼロとフォルとともになの。ついでにらぶらぶ生活も諦めないの。ゼロと一緒に御巫になってフォルとらぶらぶしながら暮らすの」
      **********
 これは遠い昔の話。少女エンジェリアは数多に存在する世界を滅ぼす終焉の王達の唯一姫。
 遠い未来、幾度となく転生を繰り返した先にある希望の回が来る事をずっと夢見て時を過ごした。
 そして幾度となく繰り返した転生の先、その希望の回がやってきた。十六となっても記憶が戻らないエンジェリア達の転機となる回が。