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第8話 突然の死

ー/ー



 直後、麻乃の右肩を掴んだ手に引き寄せられ、倒れるようにして何かにもたれかかった。顔の横から空を切って誰かの腕が伸び、正面の敵兵が吹き飛んだ。強烈な一撃で、敵兵は数メートル先まで吹き飛ばされ、砂浜に叩きつけられた。

「麻乃、大丈夫かい?」

「穂高! どうしてここに……」

 肩を引き寄せたのは、麻乃と同じ蓮華で第八部隊隊長である上田穂高(うえだほだか)だった。穂高は上着の袖を裂いて麻乃の肩口を強めに縛り、落とした刀を拾ってきてくれた。その手際の良さに、麻乃は改めて穂高の冷静さを実感した。

 穂高はすぐに第八部隊の隊員たちに指示を出し始め、隊員たちは援護と救助に散っていった。

「西詰所の監視隊から中央に連絡があったんだよ。敵艦の数が多いってね。俺と梁瀬(やなせ)さん、今日は休みで中央にいたから連絡を受けてすぐに来たんだ」

「そうか……ありがとう、本当に助かったよ」

 第八部隊の隊員たちが加勢してくれたことで、一気に敵兵の数が減って見える。何より心強いのは、怪我を負った隊員たちを堤防まで速やかに撤退させることができていることだった。穂高たちの到着により、戦況は明らかに好転している。

「急いで来てみて良かったよ。それより、敵兵の様子がおかしいって?」

「そう! あいつら、斬り倒しても起き上がってくるんだよ……」

 喉から血を溢れさせても立ち上がる敵兵を思い出しながら、麻乃は穂高に話した。あの光景は、どれだけ時間が経っても忘れることはできないだろう。

「うん、梁瀬さんがね、敵兵は何か術にでもかけられているんじゃないか、って言っていたよ」

「術……? そうかもしれないけど……確実に仕留めたはずなのに起き上がってくるような、そんな術があるのかな?」

 穂高はまだ止まない弓の攻撃を、器用に槍で払い落とした。

「起き上がってくる? それで足を狙っているのか。それにしても……仕留めても起き上がってくるっていうのは一体……」

 穂高の言葉は、新たに飛来した矢の束によって遮られた。二人は身を寄せ合って矢の雨を凌ぎながら、この異常な戦いの正体を探ろうとしていた。

 炎の壁の向こうで響く隊員たちの声、海面を照らす戦艦の灯り、そして敵兵たちの不気味な沈黙。すべてが麻乃の心に不安を刻み込んでいく。普通の戦いなら、これほど長時間続くことはない。敵も味方も、どこか消耗戦の様相を呈していた。

 それでも今、穂高の頼もしい存在が、絶望的な状況に一筋の光を与えてくれた。

「とにかく、いったん隊員たちを安全な場所へ避難させよう。この異常な敵兵のことは、その後でゆっくり考えればいい」

 穂高の冷静な判断に、麻乃は深くうなずいた。

「そうだね。まずは仲間の命を優先しよう」

 二人は互いに頷き合うと、炎の海と化した戦場で、残された隊員たちの救出に向かった。戦いはまだ終わらない。しかし、少なくとも一人ではないという安心感が、麻乃の心を支えていた。


-----


 麻乃は穂高と共に海岸を見渡した。もうすぐ潮が引き始めるはずで、いつもならその前に敵兵を撤退させるけれど、今日はなかなか引き下がらない。

 射掛けられた弓の数を思えば、まだかなりの兵が控えているだろう。あんなにも戦艦の数が多いのは、そのためでもあるのか。

 ロマジェリカの敵兵に対して、こちらは今、半数ほどしか残っていないだろう……。その隊員たちも疲弊していて、ほとんどが矢を避けきれずに腕や足に怪我を負っている。穂高たちの部隊が加わったとはいえ、麻乃たちの分が悪いのは明らかだ。

 今は、まだ炎が邪魔をしているからか、敵艦から援軍が出てくる様子は見られないけれど、潮が引いて足場が広がれば必ず出てくるに違いない。恐らく次に出てくる部隊こそが、いつもの正規軍だ。

 たとえ先の対処が難しいと感じても、黙って侵入を許すことなどあり得ない。

(堤防の向こうへは……一歩たりとも行かせるわけにはいかないんだ……)

 敵艦の動きを一瞬でも見逃すまいと睨み据えていると、背後でざわめきが起こり、誰かが穂高を呼んだ。その慌てぶりに嫌な予感がして、穂高と共に堤防まで駆け戻った。

 呆然と立ち尽くしている第八部隊の隊員たちをかき分けて前に出ると、麻乃の隊員たちが胸を掻きむしって痙攣している。何人かは青白い顔で泡を吹き、倒れたまま動かない。

「何? 一体、何があったの!」

 気を失っている隊員の頬を叩き、その手を握って麻乃は大声で名前を呼び掛けた。

「これは……何があったんだ?」

「わかりません。急に苦しみだして……」

「まさか……毒矢か! 誰か、修治さんの部隊へ連絡を! それから、彼らは医療所に連れて……」

 穂高が言い終わる前に、苦しんでいた隊員たちも次々と息を引き取った。その場にいる全員が、突然のことに呆然としたまま、誰も口を開くこともできずに立ち尽くした。麻乃自身も目の前で起こったことを受け止めることができず、見開かれたままの隊員の目をじっと見つめた。麻乃が握りしめていた隊員の手も、まったく力を感じない。残っているのは重力に引かれる重みだけだった。


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次のエピソードへ進む 第9話 苦渋の決断


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 直後、麻乃の右肩を掴んだ手に引き寄せられ、倒れるようにして何かにもたれかかった。顔の横から空を切って誰かの腕が伸び、正面の敵兵が吹き飛んだ。強烈な一撃で、敵兵は数メートル先まで吹き飛ばされ、砂浜に叩きつけられた。
「麻乃、大丈夫かい?」
「穂高! どうしてここに……」
 肩を引き寄せたのは、麻乃と同じ蓮華で第八部隊隊長である|上田穂高《うえだほだか》だった。穂高は上着の袖を裂いて麻乃の肩口を強めに縛り、落とした刀を拾ってきてくれた。その手際の良さに、麻乃は改めて穂高の冷静さを実感した。
 穂高はすぐに第八部隊の隊員たちに指示を出し始め、隊員たちは援護と救助に散っていった。
「西詰所の監視隊から中央に連絡があったんだよ。敵艦の数が多いってね。俺と|梁瀬《やなせ》さん、今日は休みで中央にいたから連絡を受けてすぐに来たんだ」
「そうか……ありがとう、本当に助かったよ」
 第八部隊の隊員たちが加勢してくれたことで、一気に敵兵の数が減って見える。何より心強いのは、怪我を負った隊員たちを堤防まで速やかに撤退させることができていることだった。穂高たちの到着により、戦況は明らかに好転している。
「急いで来てみて良かったよ。それより、敵兵の様子がおかしいって?」
「そう! あいつら、斬り倒しても起き上がってくるんだよ……」
 喉から血を溢れさせても立ち上がる敵兵を思い出しながら、麻乃は穂高に話した。あの光景は、どれだけ時間が経っても忘れることはできないだろう。
「うん、梁瀬さんがね、敵兵は何か術にでもかけられているんじゃないか、って言っていたよ」
「術……? そうかもしれないけど……確実に仕留めたはずなのに起き上がってくるような、そんな術があるのかな?」
 穂高はまだ止まない弓の攻撃を、器用に槍で払い落とした。
「起き上がってくる? それで足を狙っているのか。それにしても……仕留めても起き上がってくるっていうのは一体……」
 穂高の言葉は、新たに飛来した矢の束によって遮られた。二人は身を寄せ合って矢の雨を凌ぎながら、この異常な戦いの正体を探ろうとしていた。
 炎の壁の向こうで響く隊員たちの声、海面を照らす戦艦の灯り、そして敵兵たちの不気味な沈黙。すべてが麻乃の心に不安を刻み込んでいく。普通の戦いなら、これほど長時間続くことはない。敵も味方も、どこか消耗戦の様相を呈していた。
 それでも今、穂高の頼もしい存在が、絶望的な状況に一筋の光を与えてくれた。
「とにかく、いったん隊員たちを安全な場所へ避難させよう。この異常な敵兵のことは、その後でゆっくり考えればいい」
 穂高の冷静な判断に、麻乃は深くうなずいた。
「そうだね。まずは仲間の命を優先しよう」
 二人は互いに頷き合うと、炎の海と化した戦場で、残された隊員たちの救出に向かった。戦いはまだ終わらない。しかし、少なくとも一人ではないという安心感が、麻乃の心を支えていた。
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 麻乃は穂高と共に海岸を見渡した。もうすぐ潮が引き始めるはずで、いつもならその前に敵兵を撤退させるけれど、今日はなかなか引き下がらない。
 射掛けられた弓の数を思えば、まだかなりの兵が控えているだろう。あんなにも戦艦の数が多いのは、そのためでもあるのか。
 ロマジェリカの敵兵に対して、こちらは今、半数ほどしか残っていないだろう……。その隊員たちも疲弊していて、ほとんどが矢を避けきれずに腕や足に怪我を負っている。穂高たちの部隊が加わったとはいえ、麻乃たちの分が悪いのは明らかだ。
 今は、まだ炎が邪魔をしているからか、敵艦から援軍が出てくる様子は見られないけれど、潮が引いて足場が広がれば必ず出てくるに違いない。恐らく次に出てくる部隊こそが、いつもの正規軍だ。
 たとえ先の対処が難しいと感じても、黙って侵入を許すことなどあり得ない。
(堤防の向こうへは……一歩たりとも行かせるわけにはいかないんだ……)
 敵艦の動きを一瞬でも見逃すまいと睨み据えていると、背後でざわめきが起こり、誰かが穂高を呼んだ。その慌てぶりに嫌な予感がして、穂高と共に堤防まで駆け戻った。
 呆然と立ち尽くしている第八部隊の隊員たちをかき分けて前に出ると、麻乃の隊員たちが胸を掻きむしって痙攣している。何人かは青白い顔で泡を吹き、倒れたまま動かない。
「何? 一体、何があったの!」
 気を失っている隊員の頬を叩き、その手を握って麻乃は大声で名前を呼び掛けた。
「これは……何があったんだ?」
「わかりません。急に苦しみだして……」
「まさか……毒矢か! 誰か、修治さんの部隊へ連絡を! それから、彼らは医療所に連れて……」
 穂高が言い終わる前に、苦しんでいた隊員たちも次々と息を引き取った。その場にいる全員が、突然のことに呆然としたまま、誰も口を開くこともできずに立ち尽くした。麻乃自身も目の前で起こったことを受け止めることができず、見開かれたままの隊員の目をじっと見つめた。麻乃が握りしめていた隊員の手も、まったく力を感じない。残っているのは重力に引かれる重みだけだった。