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第5話 奇妙な敵兵

ー/ー



 堤防の上に立ち、海岸を振り返った麻乃の目に飛び込んできたのは、これまでに見たことがない数の戦艦と、船からこぼれ落ちるように砂浜に降り立ったロマジェリカ国の兵だった。

 黒い船体に赤い帆を張った戦艦が、水平線の向こうまで続いている。その数は優に五十隻を超えているだろう。普段なら十隻程度の小規模な襲撃だったのに、今日は明らかに様子が違う。波間に揺れる船影を見つめながら、麻乃は胸の奥に嫌な予感を抱いていた。

 藤川麻乃(ふじかわあさの)が隊長として受け持っている部隊は第七部隊。隣には第四部隊が立ち並んでいる。第四部隊は安倍修治(あべしゅうじ)が隊長だ。

 西浜、南浜、北浜の各詰所で、敵国の襲来を阻むために待機する部隊の組み合わせは、一番巫女であるシタラの占筮(せんぜい)によって、吉凶を見て取り決められていた。麻乃と修治の部隊は、ほぼ毎回と言っていいほど一緒の組になっている。

 シタラの占いは的中率が高く、これまでの戦いでも最適な配置を示してくれた。麻乃と修治の相性の良さも、きっと占いで見抜かれているのだろう。

 ほかの誰と組むことになってもうまくやれるつもりでいるけれど、昔から一緒に過ごしてきた修治と組むことで、わずかな不安もかき消され、いつでも心強さを感じている。お互いの動きを熟知しているからこそ、一ミリの不安を感じることなく背中を預けることができる。

 とは言え、今日の敵襲はいつもと大きく違う。
 とにかく敵兵の数が多い。
 海を渡ってくるせいか、いつもは一万には及ばない程度の数だったのが、今日はゆうに一万を超えている。南浜や北浜に比べると、格段に狭いのが西浜の入り江だ。そのせいで、視覚的にも余計に敵兵が多く感じるのだろう。

「なんだ……? 今日はやけに多いな」

「うん、多いねぇ」

 普段はあまり感情を顔に出すことの少ない修治が、唖然とした表情で海岸線を眺めている。麻乃もざっと海岸を見渡して答えた。敵兵たちは統制も取れずに砂浜を埋め尽くしている。その中には、いつものロマジェリカ兵とは明らかに違う者たちも混じっているようだった。服装も武器も統一されておらず、まるで寄せ集めの軍団のようだ。
 それでも妙に気負っているのか、勢いだけはあるようで、どの兵も既に武器を振り上げるようにして走ってくる。

「予備隊は?」

「今日は北浜で朝からジャセンベルと交戦中みたい。残りは南浜と中央。あたしらだけじゃキツイかな?」

 修治の表情が一瞬曇る。ジャセンベルは大陸の中でも特に手強い相手だ。予備隊がそちらに回されているとなると、こちらの戦力は心許ない……とでも思っているんだろうか?
 だとすれば、麻乃にとっては不本意だ。予備隊になど頼らずとも、このくらい蹴散らす自信があるというのに。それでも念のため、心にもないことを口にした。

「監視隊に連絡して中央に援軍の要請入れておく?」

 口調で麻乃の不満を感じ取ったのか、修治は問いかけた麻乃に視線を向けると、フッと表情を緩めた。

「ふん……まぁ、大したことはないだろう。腕の見せどころだな。銃や弓隊はいないようだし、さっさと散らしてお帰りいただこうか。麻乃、おまえは左手を頼む。俺たちは右手に向かう」

「わかった。じゃ、あとで」

 後ろに控えている隊員たちを振り返り、海岸の左手を守る指示を出して堤防から飛び降りた。高さ三メートルほどの堤防から軽やかに着地し、砂浜に足を着けた瞬間、敵兵の放つ殺気を肌で感じた。向かってくる敵兵を前に臆するものは一人もいない。
 麻乃の隊員たちは皆、幼い頃から剣術の訓練を積んできた精鋭揃いだ。恐れを知らない目で敵を見据え、得物を構えている。

 ――堤防の向こう側へは、決して敵兵を通さない――

 いつでも隊員たちの誰もが強い思いを抱いて戦い続けている。この思いこそが、彼らの力の源泉だった。


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 堤防の上に立ち、海岸を振り返った麻乃の目に飛び込んできたのは、これまでに見たことがない数の戦艦と、船からこぼれ落ちるように砂浜に降り立ったロマジェリカ国の兵だった。
 黒い船体に赤い帆を張った戦艦が、水平線の向こうまで続いている。その数は優に五十隻を超えているだろう。普段なら十隻程度の小規模な襲撃だったのに、今日は明らかに様子が違う。波間に揺れる船影を見つめながら、麻乃は胸の奥に嫌な予感を抱いていた。
 |藤川麻乃《ふじかわあさの》が隊長として受け持っている部隊は第七部隊。隣には第四部隊が立ち並んでいる。第四部隊は|安倍修治《あべしゅうじ》が隊長だ。
 西浜、南浜、北浜の各詰所で、敵国の襲来を阻むために待機する部隊の組み合わせは、一番巫女であるシタラの|占筮《せんぜい》によって、吉凶を見て取り決められていた。麻乃と修治の部隊は、ほぼ毎回と言っていいほど一緒の組になっている。
 シタラの占いは的中率が高く、これまでの戦いでも最適な配置を示してくれた。麻乃と修治の相性の良さも、きっと占いで見抜かれているのだろう。
 ほかの誰と組むことになってもうまくやれるつもりでいるけれど、昔から一緒に過ごしてきた修治と組むことで、わずかな不安もかき消され、いつでも心強さを感じている。お互いの動きを熟知しているからこそ、一ミリの不安を感じることなく背中を預けることができる。
 とは言え、今日の敵襲はいつもと大きく違う。
 とにかく敵兵の数が多い。
 海を渡ってくるせいか、いつもは一万には及ばない程度の数だったのが、今日はゆうに一万を超えている。南浜や北浜に比べると、格段に狭いのが西浜の入り江だ。そのせいで、視覚的にも余計に敵兵が多く感じるのだろう。
「なんだ……? 今日はやけに多いな」
「うん、多いねぇ」
 普段はあまり感情を顔に出すことの少ない修治が、唖然とした表情で海岸線を眺めている。麻乃もざっと海岸を見渡して答えた。敵兵たちは統制も取れずに砂浜を埋め尽くしている。その中には、いつものロマジェリカ兵とは明らかに違う者たちも混じっているようだった。服装も武器も統一されておらず、まるで寄せ集めの軍団のようだ。
 それでも妙に気負っているのか、勢いだけはあるようで、どの兵も既に武器を振り上げるようにして走ってくる。
「予備隊は?」
「今日は北浜で朝からジャセンベルと交戦中みたい。残りは南浜と中央。あたしらだけじゃキツイかな?」
 修治の表情が一瞬曇る。ジャセンベルは大陸の中でも特に手強い相手だ。予備隊がそちらに回されているとなると、こちらの戦力は心許ない……とでも思っているんだろうか?
 だとすれば、麻乃にとっては不本意だ。予備隊になど頼らずとも、このくらい蹴散らす自信があるというのに。それでも念のため、心にもないことを口にした。
「監視隊に連絡して中央に援軍の要請入れておく?」
 口調で麻乃の不満を感じ取ったのか、修治は問いかけた麻乃に視線を向けると、フッと表情を緩めた。
「ふん……まぁ、大したことはないだろう。腕の見せどころだな。銃や弓隊はいないようだし、さっさと散らしてお帰りいただこうか。麻乃、おまえは左手を頼む。俺たちは右手に向かう」
「わかった。じゃ、あとで」
 後ろに控えている隊員たちを振り返り、海岸の左手を守る指示を出して堤防から飛び降りた。高さ三メートルほどの堤防から軽やかに着地し、砂浜に足を着けた瞬間、敵兵の放つ殺気を肌で感じた。向かってくる敵兵を前に臆するものは一人もいない。
 麻乃の隊員たちは皆、幼い頃から剣術の訓練を積んできた精鋭揃いだ。恐れを知らない目で敵を見据え、得物を構えている。
 ――堤防の向こう側へは、決して敵兵を通さない――
 いつでも隊員たちの誰もが強い思いを抱いて戦い続けている。この思いこそが、彼らの力の源泉だった。