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第2章~第9話 蛙化現象⑥~

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 金野(こんの)さんといっしょにネコ先輩からアドバイスをもらって、その対策を行った翌日の放課後、私は彼女といっしょに前日のお互いのメッセージについて話し合おうと第二理科室に集まっていた。

「音無さんは、スゴイね。ちゃんと、相手の男の子と、どんな関係になりたいか考えることが出来てて……」

「いや……私は、幼なじみとこれまでの関係を変えたくないってだけなので……金野さんの方こそ、『自分を成長させるために必要なこと』をちゃんと考えることが出来ていて、スゴイなと思いました。正直なところ、私は、『自分を成長させる必要があるの?』って思ってるので……」

 それは、私の偽らざる本音だった。彼の想いを受け止められないというケンタに対する罪悪感はあるものの、

(それは、私が成長しないといけないことなのか――――――?)

という想いもまた、ぬぐえなかった。

「とにかく、私は自分がどんな風に成長するべきなのか、まったくわからないので……金野さんが自分を成長させたい、という想いに協力させてもらいたいと思います! 迷惑じゃないですか?」

 私がたずねると、金野さんは、

「私なんかのために……ありがとう。迷惑じゃないよ」

と、はにかんだような表情を見せた。

「ありがとうございます! でも、金野さんが書いていた『色んな人とコミュニケーションを取って、他人と接する経験を増やすこと』って、そんなに簡単なことじゃないと思うんですけど……私に協力できることってありますか?」

「そうだね……たしかに、簡単なことじゃない、とは思うけど――――――クラス旗のデザインも決まったし、このあと、クラスのメンバーで集まって、制作に取り掛かる予定なんだ。良ければ、音無さんも見に来る? この前の会議の時も見に来てくれていたから、みんな歓迎してくれると思うよ」

 笑顔で誘ってくれる金野さんに、

(また、私がお邪魔しても良いのかな?)

と遠慮する気持ちがありつつも、

(金野さんのコミュニケーションの手助けになるなら……)

と考えて、今回も2年1組の教室に同行させてもらうことにした。
 そのことを準備室にいるネコ先輩に伝えてから、私は金野さんと一緒に一学年上の生徒が集まっているという放課後の教室に向かう。

 階段を上がって、2年生の教室が連なっている廊下に進むと、そこでクラス旗になる大きな白い布を広げながら、何人かの生徒が談笑していた。その中には、背が高く顔立ちの整った二人の男子生徒に加えて、クラスの中心人物である九院さんや、桑来さんも混じっていた。

 そこで、メンバーに声をかけようと、クラス委員の金野さんが笑顔を作って手を上げた瞬間、ひとりの男子が女子たちに語りかける声が耳に入ってきた。

「なあなあ、ちょっと、聞いてくれよ。皇子(おうじ)、委員長の金野ちゃんと付き合ってるのに、最近、避けられるって、悩んでるんよ。おまえ、絶対、相手が嫌がることしただろう?」

 ザ・陽キャラという感じの男子生徒が、もう一人の男子に絡みながら、女子に話しかけると、加恵留先輩と思われる物静かな雰囲気の男子は、

「うるせぇよ、タカシ! いちいち、他人に話すんじゃねぇ」

と、迷惑そうに、タカシと呼んだ男子が絡ませた腕をほどく。

「え〜? なんなら、アタシらで話し聞こうか?」

 明るい髪色が特徴の九院さんが苦笑しながら答える。
 それらの一連の流れを私は、気まずい思いで見守ることしか出来ない。

(あぁ、マズいな。これは……)

 私のような教室で影が薄い側の生徒が、もっとも苦手とするシチュエーションで、自分のことが話題にされたとなれば、その場で表情を取りつくろうことすら出来ない。そして、それは、おそらく、金野さんも――――――。

 そう感じたのと、ほぼ同時に、談笑していたメンバーが、私の隣にいるクラスメートに気がついた。

「あっ、委員長!」

 誰が、そう呼びかけたのかはわからないけれど、貼り付いたような表情の金野さんは、その声に反応するように、クルリとクラスメートたちに背を向けて、教室とは逆の方に駆け出し、階段を降りて行った。

「おい、皇子。追いかけなくて良いのかよ?」

 さすがに、間が悪いと感じたのか、気まずそうな表情を浮かべるタカシと呼ばれていた上級生は、加恵留先輩に声をかけ、加恵留先輩自身も、

「わかってるよ!」

と短く答えて駆け出し、あっという間に、私の横を走り去って行った。

 なんとなく居心地の悪い空気が廊下に流れる中、気を取り直すような明るい声で、桑来さんが私に声をかけてきた。

「あっ、ネズコちゃんじゃん? どしたん、また、ウチらのクラスを覗きに来たの?」

「えっ? あ〜、そのつもりだったんですけど……招待してくれた先輩が居ないみたいなので、今日は、遠慮させてもらいますね」

 自分で言ってても意味のわからない言い訳で取りつくろいながら、私もこの場を立ち去ることにした。

(金野さん、大丈夫かな?)

 心配で頭がいっぱいになりながら、校内を探し回ったものの、私は金野さんの姿も加恵留先輩の姿も見つけることが出来ない……。

 そして、校内探索に疲れた私が、自宅に戻ろうと学校の校門を出ようとしたとき、スマホに一件のメッセージが届いた。

 =============
 今日はゴメンね。
 加恵留くんと話し合って
 お互いに距離をとることに
 なりました
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 |金野《こんの》さんといっしょにネコ先輩からアドバイスをもらって、その対策を行った翌日の放課後、私は彼女といっしょに前日のお互いのメッセージについて話し合おうと第二理科室に集まっていた。
「音無さんは、スゴイね。ちゃんと、相手の男の子と、どんな関係になりたいか考えることが出来てて……」
「いや……私は、幼なじみとこれまでの関係を変えたくないってだけなので……金野さんの方こそ、『自分を成長させるために必要なこと』をちゃんと考えることが出来ていて、スゴイなと思いました。正直なところ、私は、『自分を成長させる必要があるの?』って思ってるので……」
 それは、私の偽らざる本音だった。彼の想いを受け止められないというケンタに対する罪悪感はあるものの、
(それは、私が成長しないといけないことなのか――――――?)
という想いもまた、ぬぐえなかった。
「とにかく、私は自分がどんな風に成長するべきなのか、まったくわからないので……金野さんが自分を成長させたい、という想いに協力させてもらいたいと思います! 迷惑じゃないですか?」
 私がたずねると、金野さんは、
「私なんかのために……ありがとう。迷惑じゃないよ」
と、はにかんだような表情を見せた。
「ありがとうございます! でも、金野さんが書いていた『色んな人とコミュニケーションを取って、他人と接する経験を増やすこと』って、そんなに簡単なことじゃないと思うんですけど……私に協力できることってありますか?」
「そうだね……たしかに、簡単なことじゃない、とは思うけど――――――クラス旗のデザインも決まったし、このあと、クラスのメンバーで集まって、制作に取り掛かる予定なんだ。良ければ、音無さんも見に来る? この前の会議の時も見に来てくれていたから、みんな歓迎してくれると思うよ」
 笑顔で誘ってくれる金野さんに、
(また、私がお邪魔しても良いのかな?)
と遠慮する気持ちがありつつも、
(金野さんのコミュニケーションの手助けになるなら……)
と考えて、今回も2年1組の教室に同行させてもらうことにした。
 そのことを準備室にいるネコ先輩に伝えてから、私は金野さんと一緒に一学年上の生徒が集まっているという放課後の教室に向かう。
 階段を上がって、2年生の教室が連なっている廊下に進むと、そこでクラス旗になる大きな白い布を広げながら、何人かの生徒が談笑していた。その中には、背が高く顔立ちの整った二人の男子生徒に加えて、クラスの中心人物である九院さんや、桑来さんも混じっていた。
 そこで、メンバーに声をかけようと、クラス委員の金野さんが笑顔を作って手を上げた瞬間、ひとりの男子が女子たちに語りかける声が耳に入ってきた。
「なあなあ、ちょっと、聞いてくれよ。|皇子《おうじ》、委員長の金野ちゃんと付き合ってるのに、最近、避けられるって、悩んでるんよ。おまえ、絶対、相手が嫌がることしただろう?」
 ザ・陽キャラという感じの男子生徒が、もう一人の男子に絡みながら、女子に話しかけると、加恵留先輩と思われる物静かな雰囲気の男子は、
「うるせぇよ、タカシ! いちいち、他人に話すんじゃねぇ」
と、迷惑そうに、タカシと呼んだ男子が絡ませた腕をほどく。
「え〜? なんなら、アタシらで話し聞こうか?」
 明るい髪色が特徴の九院さんが苦笑しながら答える。
 それらの一連の流れを私は、気まずい思いで見守ることしか出来ない。
(あぁ、マズいな。これは……)
 私のような教室で影が薄い側の生徒が、もっとも苦手とするシチュエーションで、自分のことが話題にされたとなれば、その場で表情を取りつくろうことすら出来ない。そして、それは、おそらく、金野さんも――――――。
 そう感じたのと、ほぼ同時に、談笑していたメンバーが、私の隣にいるクラスメートに気がついた。
「あっ、委員長!」
 誰が、そう呼びかけたのかはわからないけれど、貼り付いたような表情の金野さんは、その声に反応するように、クルリとクラスメートたちに背を向けて、教室とは逆の方に駆け出し、階段を降りて行った。
「おい、皇子。追いかけなくて良いのかよ?」
 さすがに、間が悪いと感じたのか、気まずそうな表情を浮かべるタカシと呼ばれていた上級生は、加恵留先輩に声をかけ、加恵留先輩自身も、
「わかってるよ!」
と短く答えて駆け出し、あっという間に、私の横を走り去って行った。
 なんとなく居心地の悪い空気が廊下に流れる中、気を取り直すような明るい声で、桑来さんが私に声をかけてきた。
「あっ、ネズコちゃんじゃん? どしたん、また、ウチらのクラスを覗きに来たの?」
「えっ? あ〜、そのつもりだったんですけど……招待してくれた先輩が居ないみたいなので、今日は、遠慮させてもらいますね」
 自分で言ってても意味のわからない言い訳で取りつくろいながら、私もこの場を立ち去ることにした。
(金野さん、大丈夫かな?)
 心配で頭がいっぱいになりながら、校内を探し回ったものの、私は金野さんの姿も加恵留先輩の姿も見つけることが出来ない……。
 そして、校内探索に疲れた私が、自宅に戻ろうと学校の校門を出ようとしたとき、スマホに一件のメッセージが届いた。
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 今日はゴメンね。
 加恵留くんと話し合って
 お互いに距離をとることに
 なりました
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