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第2章~第10話 蛙化現象⑦~

ー/ー



 メッセージを確認した私は、すぐにアプリの通話ボタンをタップして、金野さんに連絡を取ったんだけど……。
 残念ながら、彼女が応答することは無かった。

(金野さんと早く話しをしなきゃ……)

 気持ちばかり焦りながら、学校から帰宅し、前日と同じように自室のベッドに寝そべっていると、しばらくして、スマホが、おなじみの着信音を奏でながら鳴動した。
 
 応答ボタンをタップして通話を始めると、スピーカーの向こうからは、沈んだような声が聞こえてくる。

「音無さん、連絡をくれていたんだね。ゴメンね、移動中だったから、通話ができなくて」

「いえ……気にしないで下さい。それより、金野さん。加絵留先輩とナニがあったんですか?」

「うん……皇子くんに、『何か、マリには避けられてるみたいだし、オレたち距離を置いたほうが良いのかな?』って言われたんだ……」

「そんな……どうして?」

「音無さんも見てたと思うけど、教室の前の廊下から私が走って去ったあと、彼が追い掛けて来てくれたんだ」

「はい、その場面は見てました」

「あのあと、校舎裏の冷水機のそばのところで、二人で話し合ったんだけど……皇子(おうじ)くんが、私のことを気遣って、肩のあたりに触れようとしたときに――――――突然のことだったからビックリして、小さく声を上げて、彼の手を払い除けちゃったんだ。そうしたら、皇子くん、とっても傷ついたような表情になって……」

 金野さんは、そこまで言うと、言葉に詰まって、しばらく黙り込んでしまった。
 答えは聞かずとも、おおよそわかっていたけれど、私は確認するようにたずねる。

「それで、加絵留先輩からなにか言われたんですね……?」

「うん…………『マリには避けられてるみたいだし、オレたち距離を置いたほうが良いのかな?』って……『ゴメンな、いままでイヤな想いをさせちゃったな』なんて言われたんだけど……皇子くんはナニも悪くないのに、私、ナニも言えなくて……」

 金野さんのその声は、後悔と罪悪感に苛まれているものであることが、私にはヒシヒシと感じられた。
 なぜなら、それは、ケンタの告白を断ったときの私自身の想いにそっくりだったからだ。

 相手にナニも非が無いことは自分でも良くわかっている。

 それでも、相手の好意や行動を受け止めきれない――――――。

 そんな自分の不甲斐なさを感じて、自分自身を責めてしまう。
 
 私自身の経験から、いまの金野さんがそうした心理状態に陥っているだろうということが、痛いほど伝わってきた。

「金野さん……慰めにはならないかも知れないですけど……私、金野さんの気持ち、わかるような気がします。私も幼なじみの告白を断ったときに、相手に申し訳ないという想いでいっぱいになって、ツラい気持ちになりましたから……」

 私が、声を振り絞って、そう答えると、金野さんは優しい声色で「そうなんだ……」と言ったあと、こう答えた。

「でも、私、今日のことでわかったんだ。やっぱり、自分みたいな人間は、皇子くんみたいな素敵な男子とは釣り合わないんだって……クラス旗の準備をしているときに、九院さんや桑来さんと話していたときの彼は、私と話しているときよりも、ずっと楽しそうだったから――――――」

 さっきとは一転してもの悲しげに聞こえる声に対して、異を唱えるだけの言葉を私は持っていなかった。
 なぜなら、それは、私がケンタのような体育会系の生徒に対して、常日頃から考えていることだからだ。

(ケンタには、私より相応しい女子がいるのに……)

 幼なじみの突然の告白を自分が受け入れられなかったのは、そんな風に感じているからでもあった。

「金野さんのそう考える気持ちは、私もすごく良くわかります。でも――――――」

 ネガティブで自虐的になることの多い自分が言える義理ではないけれど、親しく話し合う仲になった人に、こんな風に言われるのは、とても悲しい気持ちになることがわかった。

「もし、金野さんが加絵留先輩を嫌いになったのでなければ、このまま終わっちゃいけないと、私は思います!」

 相手の気持も考えず、思わず自分の心の中から湧き上がる気持ちをぶつけてしまったけど、不思議と後悔はなかった。このまま、金野さんと加絵留先輩の関係が終わってしまったら、彼女は、このあともずっと、「蛙化現象」に苦しむことになる、と直感的に感じたからだ。

「ううん……もう、いいよ、音無さん。もう、終わったことだから。やっぱり、私は皇子くんに相応しくなかったんだ。それだけだよ」

「いいえ、まだ終わっていないと思います。金野さんは、加絵留先輩と、どういう関係になりたいか? という質問の項目に『わからない』と答えていましたよね? 今さら、そんなこと考えても……って感じるかも知れませんけど、今後のことも考えると、自分が恋人になる人と、どんな関係になりたいかを考えておくのは無駄なことではないと思うんです」

「そう、なのかな……?」

 私の必死の言葉にも、金野さんは、まだ釈然としていないようすだったけど、それでも、言葉を続けずにはいられなかった。

「自己観察とジャーナリングの手法で、私が書くことができなかった『自分を成長させるために必要なこと』を私自身も考えてみようと思いますから……金野さんもいっしょに、『相手とどんな関係になりたかったか』を考えてくれませんか?」


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 メッセージを確認した私は、すぐにアプリの通話ボタンをタップして、金野さんに連絡を取ったんだけど……。 残念ながら、彼女が応答することは無かった。
(金野さんと早く話しをしなきゃ……)
 気持ちばかり焦りながら、学校から帰宅し、前日と同じように自室のベッドに寝そべっていると、しばらくして、スマホが、おなじみの着信音を奏でながら鳴動した。
 応答ボタンをタップして通話を始めると、スピーカーの向こうからは、沈んだような声が聞こえてくる。
「音無さん、連絡をくれていたんだね。ゴメンね、移動中だったから、通話ができなくて」
「いえ……気にしないで下さい。それより、金野さん。加絵留先輩とナニがあったんですか?」
「うん……皇子くんに、『何か、マリには避けられてるみたいだし、オレたち距離を置いたほうが良いのかな?』って言われたんだ……」
「そんな……どうして?」
「音無さんも見てたと思うけど、教室の前の廊下から私が走って去ったあと、彼が追い掛けて来てくれたんだ」
「はい、その場面は見てました」
「あのあと、校舎裏の冷水機のそばのところで、二人で話し合ったんだけど……|皇子《おうじ》くんが、私のことを気遣って、肩のあたりに触れようとしたときに――――――突然のことだったからビックリして、小さく声を上げて、彼の手を払い除けちゃったんだ。そうしたら、皇子くん、とっても傷ついたような表情になって……」
 金野さんは、そこまで言うと、言葉に詰まって、しばらく黙り込んでしまった。
 答えは聞かずとも、おおよそわかっていたけれど、私は確認するようにたずねる。
「それで、加絵留先輩からなにか言われたんですね……?」
「うん…………『マリには避けられてるみたいだし、オレたち距離を置いたほうが良いのかな?』って……『ゴメンな、いままでイヤな想いをさせちゃったな』なんて言われたんだけど……皇子くんはナニも悪くないのに、私、ナニも言えなくて……」
 金野さんのその声は、後悔と罪悪感に苛まれているものであることが、私にはヒシヒシと感じられた。
 なぜなら、それは、ケンタの告白を断ったときの私自身の想いにそっくりだったからだ。
 相手にナニも非が無いことは自分でも良くわかっている。
 それでも、相手の好意や行動を受け止めきれない――――――。
 そんな自分の不甲斐なさを感じて、自分自身を責めてしまう。
 私自身の経験から、いまの金野さんがそうした心理状態に陥っているだろうということが、痛いほど伝わってきた。
「金野さん……慰めにはならないかも知れないですけど……私、金野さんの気持ち、わかるような気がします。私も幼なじみの告白を断ったときに、相手に申し訳ないという想いでいっぱいになって、ツラい気持ちになりましたから……」
 私が、声を振り絞って、そう答えると、金野さんは優しい声色で「そうなんだ……」と言ったあと、こう答えた。
「でも、私、今日のことでわかったんだ。やっぱり、自分みたいな人間は、皇子くんみたいな素敵な男子とは釣り合わないんだって……クラス旗の準備をしているときに、九院さんや桑来さんと話していたときの彼は、私と話しているときよりも、ずっと楽しそうだったから――――――」
 さっきとは一転してもの悲しげに聞こえる声に対して、異を唱えるだけの言葉を私は持っていなかった。
 なぜなら、それは、私がケンタのような体育会系の生徒に対して、常日頃から考えていることだからだ。
(ケンタには、私より相応しい女子がいるのに……)
 幼なじみの突然の告白を自分が受け入れられなかったのは、そんな風に感じているからでもあった。
「金野さんのそう考える気持ちは、私もすごく良くわかります。でも――――――」
 ネガティブで自虐的になることの多い自分が言える義理ではないけれど、親しく話し合う仲になった人に、こんな風に言われるのは、とても悲しい気持ちになることがわかった。
「もし、金野さんが加絵留先輩を嫌いになったのでなければ、このまま終わっちゃいけないと、私は思います!」
 相手の気持も考えず、思わず自分の心の中から湧き上がる気持ちをぶつけてしまったけど、不思議と後悔はなかった。このまま、金野さんと加絵留先輩の関係が終わってしまったら、彼女は、このあともずっと、「蛙化現象」に苦しむことになる、と直感的に感じたからだ。
「ううん……もう、いいよ、音無さん。もう、終わったことだから。やっぱり、私は皇子くんに相応しくなかったんだ。それだけだよ」
「いいえ、まだ終わっていないと思います。金野さんは、加絵留先輩と、どういう関係になりたいか? という質問の項目に『わからない』と答えていましたよね? 今さら、そんなこと考えても……って感じるかも知れませんけど、今後のことも考えると、自分が恋人になる人と、どんな関係になりたいかを考えておくのは無駄なことではないと思うんです」
「そう、なのかな……?」
 私の必死の言葉にも、金野さんは、まだ釈然としていないようすだったけど、それでも、言葉を続けずにはいられなかった。
「自己観察とジャーナリングの手法で、私が書くことができなかった『自分を成長させるために必要なこと』を私自身も考えてみようと思いますから……金野さんもいっしょに、『相手とどんな関係になりたかったか』を考えてくれませんか?」