拝啓。春風そよぎ、小鳥のさえずりが心地よい今日この頃。一分後のキミにおかれましては、いかがお過ごしでしょうか。
無機質な機械音に包まれ、定期的に鳴る電子音を聞きながら、僕はこの手紙をしたためています。
やせ細ってろくに動かない僕の手では、紙に文字を記すことも、スマホに文字を打ち込むことも叶わないので、頭に繋がれた電極を通して、思い浮かべた文章を、画面上に直接表示させているのですが……。
一分後のキミは、今どんなことを考えていますか?
やはり僕と同じように、今にも消えそうなこの命の灯を、ただ他人事《ひとごと》のように見つめているだけのなのでしょうか。それとも、「やっぱりもっと生きたい」と、悔しがって泣いているのでしょうか。
お医者様は、お母さんたちに「今夜が峠です」と言ってましたが、たぶん僕の命はそこまで長く持ちません。一晩と言わず、次の瞬間にでもフッと消えてしまうでしょう。
だからこそ、キミに尋ねたいのです。
一分後のキミ。僕は、この先どうなるのでしょう?
病院のベッドの上でしか生きられない体になって五年。お医者様はいろいろ手を尽くしてくれたみたいだけど、僕の病気は治ってくれませんでした。
お父さんもお母さんも、「いつかきっとよくなる」と僕を励ましてくれたけど。僕にはわかっていたんです。そんな日は、絶対に来ないと……。
本当は春風を浴びてなんていないし、小鳥のさえずりだって聞こえてきません。
僕が浴びることができるのは、白い天井からそそぐ蛍光灯の明かりと、お医者様や看護師さんが近くに来た時の、ほんのちょっとの風くらいだし。
僕に聞こえるのは、心臓の代わりに働いてくれている機械と、呼吸を続けさせてくれる機械、そして心臓が動いていることを示してくれる機械の音だけです。
退屈な毎日でした。
あまりに退屈だったから、もう死んでしまってもいいのではないかと考えたこともあります。
でも自分では何もできないことは、キミならわかってくれますよね?
ああ――
書いてる間にもう一分経っちゃうね――
僕がキミに追いついちゃう――
じゃあ今、僕が考えていることが――
キミの考えていることなんだ――
ああ、うん――
よくわかったよ――
僕《キミ》は――
こんなにも生きていたかったんだ――
閑静な住宅街にある、白い外壁が綺麗な一軒の家。
その窓際に、きれいな額に入れられた手紙が一通。開け放たれた窓から入った春風を浴びて、小鳥のさえずりを聞いていた。