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第6話 グスタフとの対決!「カレーライス」が王宮を救う -1

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リリアーナ王女の一件以来、花子の小部屋には、王宮の侍女や下働きの人々が、こっそりと「聖女様の料理」を求めて訪れるようになっていた。

花子は、手持ちの銀貨と通販チートを駆使し、限られた食材で、故郷のシンプルなB級グルメを振る舞った。
彼らの顔に広がる笑顔を見るたびに、花子の心は満たされていった。

「聖女フローラ様、この前いただいた『たこ焼き』というものは、本当に美味でした!」

「ええ、私も! あんなに温かくて、不思議な食感のものは初めてでしたわ!」

「毎日でも食べたいです!」


そんな声を聞くたびに、花子は胸が温かくなるのを感じた。

故郷では、一人で食べ歩くことが多かった自分にとって、こうして誰かに「美味しい」を届け、喜んでもらえることが、何よりの幸福だった。

自分の存在が、この世界で少しずつ意味を持ち始めている。
自分がこの世界に転移してきたことには、きっと意味があるのだ。
そんな確かな手応えが、花子を支えていた。


しかし、そんな平穏な日々は長くは続かなかった。

ある朝、王宮全体が不穏な空気に包まれていることに、花子は気づいた。

廊下には咳き込む声が響き、顔色の悪い侍女たちが慌ただしく行き交っている。
いつもなら活気のある王宮が、まるで病に侵されたかのように静まり返っている。

重苦しい空気が、王宮全体を覆い尽くしていた。

「どうしたのですか?」

花子が声をかけると、一人の侍女が青ざめた顔で答えた。
その顔には、疲労と不安が色濃く浮かんでいる。目の下にはくっきりとした隈があり、唇は乾いてひび割れていた。

「聖女様……王宮中に、原因不明の体調不良が広がっているのです。高熱が出て、食欲もわかず……頭痛や倦怠感もひどくて、まともに動ける者がほとんどいない状況で……王宮料理長様が薬膳を試しておられますが、一向に良くなりません。」

病は瞬く間に広がり、王宮機能は麻痺寸前だった。

騎士団の兵士たちも、顔色が悪く、ぐったりとしている。
普段は屈強な彼らが、まるで張り子のように力なく壁にもたれかかっている姿は、事態の深刻さを物語っていた。

王宮料理長グスタフが、自慢の薬膳料理を病人に振る舞うが、その独特の苦味と重さで、かえって食欲を失わせているようだった。

厨房からは、薬草の煮詰まったような、重苦しい匂いが漂ってくる。
その匂いは、病人の食欲をさらに減退させるかのようだった。
王宮のあちこちから、苦しそうな呻き声が聞こえてくる。

(こんな時こそ……!)

花子の脳裏に、故郷の「国民食」が浮かんだ。

栄養満点で、消化も良く、何より病んだ体に優しく染み渡る、あの味。

それは、どんな時も日本人を支えてきた、温かくて、懐かしい味だ。

風邪をひいた時、疲れた時、いつも食卓にあった、あの料理。

熱で朦朧とする意識の中でも、一口食べれば、じんわりと体が温まり、力が湧いてくるような……そんな奇跡の料理。


花子は意を決し、王の執務室へと向かった。

扉をノックし、中へ入る。

王は、顔色を悪くした側近たちに囲まれ、困り果てた表情で座っていた。
その顔には、深い疲労と絶望の色が浮かんでいた。

「陛下! 私に、病に伏せる方々のための料理を作らせてください!」

花子の力強い声に、王は驚いた顔で花子を見た。

「聖女フローラ殿か。しかし、そなたは魔力を持たぬ聖女。料理で病が癒えるなど……そのような奇跡が、果たして……」

王の言葉には、諦めと、わずかな疑念が混じっていた。
彼の目は、花子を信じたい気持ちと、現実の厳しさの間で揺れ動いている。

その時、執務室にいたヴィクトリアが口を開いた。
彼女の顔も少し青ざめているが、その眼差しは鋭い。

「陛下。聖女フローラ殿の料理は、確かに常識外れではございますが、人を癒やす力があることは、このヴィクトリアが保証いたします。」

ヴィクトリアの言葉は、確かな響きを持っていた。

(あの焼きそばの時の……あれは、確かに私の常識を覆した。この状況で、他に打つ手はない。賭けるしかない。)

彼女の脳裏には、焼きそばを口にした時の、あの抗いがたい衝撃が蘇っていた。
騎士としての冷静な判断と、個人的な体験が、彼女に花子を推薦させたのだ。

ヴィクトリアの言葉に、王は訝しげな表情を浮かべたが、他に手立てがない状況に、藁にもすがる思いで許可を出した。

「……分かった。聖女フローラ殿、そなたに任せる。だが、もし失敗すれば……分かっているな?」

王の言葉に、花子は力強く頷いた。

「必ずや、皆さまを笑顔にしてみせます!」

花子の瞳には、迷いも恐れもなかった。

この世界で、自分が果たすべき役割が、今、目の前にある。

故郷の味で、この世界の苦しむ人々を救う。
その使命感が、花子を突き動かしていた。


厨房へと案内された花子を待ち受けていたのは、憤怒の表情を浮かべた王宮料理長、グスタフだった。
彼の顔は怒りで赤く染まり、その目は花子を射殺さんばかりに睨みつけている。

厨房の空気は、彼の怒りによって張り詰めていた。

普段は整然としているはずの厨房が、病人のための薬膳の準備で散らかり、重苦しい薬草の匂いが充満している。

「貴様か! 陛下に直訴して、このグスタフの厨房を汚そうとする不届き者は! 聖女とて、料理の道は甘くはないぞ! 私の薬膳でさえ効かぬというのに、貴様ごときに何ができるというのだ!」

グスタフは、花子が魔力を持たない「偽聖女」であること、そして自分の料理にケチをつけたことに、激しい怒りを露わにした。

彼のプライドが、花子の存在によって傷つけられているのが見て取れる。
長年王宮料理長として君臨してきた彼の絶対的な自信が、今、目の前の小娘によって揺さぶられているのだ。

彼の料理は、この国の伝統と格式そのものだった。それを「まずい」と評されたこと、そして「料理で病を治す」などという荒唐無稽な話に王が耳を傾けたこと自体が、彼には許しがたかった。

「私は、病に効く栄養満点の料理を作りたいのです。この異世界では見たことのないものですが、きっと皆さんの力になります!」



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リリアーナ王女の一件以来、花子の小部屋には、王宮の侍女や下働きの人々が、こっそりと「聖女様の料理」を求めて訪れるようになっていた。
花子は、手持ちの銀貨と通販チートを駆使し、限られた食材で、故郷のシンプルなB級グルメを振る舞った。
彼らの顔に広がる笑顔を見るたびに、花子の心は満たされていった。
「聖女フローラ様、この前いただいた『たこ焼き』というものは、本当に美味でした!」
「ええ、私も! あんなに温かくて、不思議な食感のものは初めてでしたわ!」
「毎日でも食べたいです!」
そんな声を聞くたびに、花子は胸が温かくなるのを感じた。
故郷では、一人で食べ歩くことが多かった自分にとって、こうして誰かに「美味しい」を届け、喜んでもらえることが、何よりの幸福だった。
自分の存在が、この世界で少しずつ意味を持ち始めている。
自分がこの世界に転移してきたことには、きっと意味があるのだ。
そんな確かな手応えが、花子を支えていた。
しかし、そんな平穏な日々は長くは続かなかった。
ある朝、王宮全体が不穏な空気に包まれていることに、花子は気づいた。
廊下には咳き込む声が響き、顔色の悪い侍女たちが慌ただしく行き交っている。
いつもなら活気のある王宮が、まるで病に侵されたかのように静まり返っている。
重苦しい空気が、王宮全体を覆い尽くしていた。
「どうしたのですか?」
花子が声をかけると、一人の侍女が青ざめた顔で答えた。
その顔には、疲労と不安が色濃く浮かんでいる。目の下にはくっきりとした隈があり、唇は乾いてひび割れていた。
「聖女様……王宮中に、原因不明の体調不良が広がっているのです。高熱が出て、食欲もわかず……頭痛や倦怠感もひどくて、まともに動ける者がほとんどいない状況で……王宮料理長様が薬膳を試しておられますが、一向に良くなりません。」
病は瞬く間に広がり、王宮機能は麻痺寸前だった。
騎士団の兵士たちも、顔色が悪く、ぐったりとしている。
普段は屈強な彼らが、まるで張り子のように力なく壁にもたれかかっている姿は、事態の深刻さを物語っていた。
王宮料理長グスタフが、自慢の薬膳料理を病人に振る舞うが、その独特の苦味と重さで、かえって食欲を失わせているようだった。
厨房からは、薬草の煮詰まったような、重苦しい匂いが漂ってくる。
その匂いは、病人の食欲をさらに減退させるかのようだった。
王宮のあちこちから、苦しそうな呻き声が聞こえてくる。
(こんな時こそ……!)
花子の脳裏に、故郷の「国民食」が浮かんだ。
栄養満点で、消化も良く、何より病んだ体に優しく染み渡る、あの味。
それは、どんな時も日本人を支えてきた、温かくて、懐かしい味だ。
風邪をひいた時、疲れた時、いつも食卓にあった、あの料理。
熱で朦朧とする意識の中でも、一口食べれば、じんわりと体が温まり、力が湧いてくるような……そんな奇跡の料理。
花子は意を決し、王の執務室へと向かった。
扉をノックし、中へ入る。
王は、顔色を悪くした側近たちに囲まれ、困り果てた表情で座っていた。
その顔には、深い疲労と絶望の色が浮かんでいた。
「陛下! 私に、病に伏せる方々のための料理を作らせてください!」
花子の力強い声に、王は驚いた顔で花子を見た。
「聖女フローラ殿か。しかし、そなたは魔力を持たぬ聖女。料理で病が癒えるなど……そのような奇跡が、果たして……」
王の言葉には、諦めと、わずかな疑念が混じっていた。
彼の目は、花子を信じたい気持ちと、現実の厳しさの間で揺れ動いている。
その時、執務室にいたヴィクトリアが口を開いた。
彼女の顔も少し青ざめているが、その眼差しは鋭い。
「陛下。聖女フローラ殿の料理は、確かに常識外れではございますが、人を癒やす力があることは、このヴィクトリアが保証いたします。」
ヴィクトリアの言葉は、確かな響きを持っていた。
(あの焼きそばの時の……あれは、確かに私の常識を覆した。この状況で、他に打つ手はない。賭けるしかない。)
彼女の脳裏には、焼きそばを口にした時の、あの抗いがたい衝撃が蘇っていた。
騎士としての冷静な判断と、個人的な体験が、彼女に花子を推薦させたのだ。
ヴィクトリアの言葉に、王は訝しげな表情を浮かべたが、他に手立てがない状況に、藁にもすがる思いで許可を出した。
「……分かった。聖女フローラ殿、そなたに任せる。だが、もし失敗すれば……分かっているな?」
王の言葉に、花子は力強く頷いた。
「必ずや、皆さまを笑顔にしてみせます!」
花子の瞳には、迷いも恐れもなかった。
この世界で、自分が果たすべき役割が、今、目の前にある。
故郷の味で、この世界の苦しむ人々を救う。
その使命感が、花子を突き動かしていた。
厨房へと案内された花子を待ち受けていたのは、憤怒の表情を浮かべた王宮料理長、グスタフだった。
彼の顔は怒りで赤く染まり、その目は花子を射殺さんばかりに睨みつけている。
厨房の空気は、彼の怒りによって張り詰めていた。
普段は整然としているはずの厨房が、病人のための薬膳の準備で散らかり、重苦しい薬草の匂いが充満している。
「貴様か! 陛下に直訴して、このグスタフの厨房を汚そうとする不届き者は! 聖女とて、料理の道は甘くはないぞ! 私の薬膳でさえ効かぬというのに、貴様ごときに何ができるというのだ!」
グスタフは、花子が魔力を持たない「偽聖女」であること、そして自分の料理にケチをつけたことに、激しい怒りを露わにした。
彼のプライドが、花子の存在によって傷つけられているのが見て取れる。
長年王宮料理長として君臨してきた彼の絶対的な自信が、今、目の前の小娘によって揺さぶられているのだ。
彼の料理は、この国の伝統と格式そのものだった。それを「まずい」と評されたこと、そして「料理で病を治す」などという荒唐無稽な話に王が耳を傾けたこと自体が、彼には許しがたかった。
「私は、病に効く栄養満点の料理を作りたいのです。この異世界では見たことのないものですが、きっと皆さんの力になります!」