第4話 リリアーナ王女の笑顔と「お好み焼き」の波紋 -1
ー/ー
翌日、花子の小部屋には、昨夜の焼きそばの余韻か、ほんのりと香ばしい匂いが漂っていた。
ヴィクトリアに「悪くはない」と言わしめたものの、王宮の者たちには知られるところではなかった……はずだった。
しかし、花子の胸には、確かな手応えがあった。
(よし、この「美味しい」は、きっとこの世界でも通用する!)
あの冷徹な騎士団長が、一瞬とはいえ驚きの表情を見せたのだ。
そして、あの醤油がもたらした奇跡。
故郷で一人、B級グルメを食べ歩いていた頃には感じられなかった、誰かに「美味しい」を届ける喜びが、花子の心を温かく満たしていた。
この異世界に転移して以来、ずっと胸の奥に澱のように溜まっていた不安や絶望が、少しずつ溶けていくのを感じる。
今日の目標は、より多くの人に、この「美味しい」を届けること。
そして、できれば王宮の上層部、ひいては王族の耳にまで、その噂を届かせたい。
そうすれば、この隔離された状況も、少しは変わるかもしれない。
(そのためには、もっとインパクトのある料理を……!)
花子の頭に浮かんだのは、やはり故郷の誇るB級グルメ、お好み焼きだった。
キャベツと卵、小麦粉を混ぜて焼くだけのシンプルな料理だが、その見た目の豪快さと、ソースとマヨネーズが織りなすハーモニーは、異世界の人々をきっと驚かせるだろう。
何より、焼いている時の、あの食欲をそそる香りがたまらない。
お祭り気分を盛り上げる、あの賑やかな匂いを、この味気ない王宮に広げたい。
通販サイトを呼び出す。
昨日の出費で銀貨はすっかり減っていた。
画面に表示される商品リストをスクロールしながら、花子は小さくため息をつく。
(うーん、何を買おうかな……。あんまり贅沢はできないけど、ここは勝負どころだよね)
残りの銀貨を数え、慎重に品定めをする。
そして、お好み焼き粉と、最後の切り札として取っておいたマヨネーズを注文した。
異世界の卵と、王宮の庭師に頼み込んで分けてもらったシャキシャキとした葉物野菜(キャベツ代わり)を手に入れ、調理に取り掛かった。
庭師は最初は怪訝な顔をしていたが、花子の熱意に押されて、しぶしぶ分けてくれたのだ。
まずは、キャベツ代わりの葉物野菜を細かく刻む。
ザクザクと小気味良い音が、静かな部屋に響く。
慣れない異世界の野菜だが、包丁の感触は故郷のキャベツと変わらない。
次に、卵を割り、粉と水を混ぜ合わせて生地を作る。
ボウルの中で、ダマにならないよう丁寧に混ぜ合わせる。
泡立て器の代わりに、通販で召喚した簡易な木べらを使う。
そして、刻んだ野菜と卵を生地に投入し、大きく混ぜる。
花子の手つきは、まるで長年慣れ親しんだ職人のように、淀みがなかった。
生地は、刻んだ野菜の緑と、卵の黄みがかった白が混ざり合い、見るからに美味しそうだ。
熱い鉄盆に、僅かな油をひき、生地を流し込む。
ジュワアアァ……!と、鉄板の上で卵と小麦粉が焼ける、食欲をそそる音が響いた。
その音は、まるで花子の心臓の鼓動とシンクロしているかのようだ。
すぐに、香ばしくもどこか甘い、ふくよかな香りが小部屋に立ち込め始める。
この香りだけで、故郷の祭りの賑わいが目に浮かぶようだった。
混ぜ合わせた生地は、白くきめ細やかな泡を立てながら、丸く、ふっくらと膨らんでいく。
表面にプツプツと小さな穴が空き、頃合いを見て、エイッと勢いよくひっくり返す。
ポンッと軽い音を立てて現れたのは、こんがりと黄金色に焼き上がった、美しい円形のお好み焼きだった。
表面には、焼けた生地の香ばしい焦げ目が食欲をそそる。
裏面からも熱が加わり、内部からもフツフツと熱が伝わる。
湯気が立ち上り、より一層香りが強くなる。
完璧な焼き色がついたお好み焼きが、目の前に現れた。
花子は満足げに頷いた。
その時だった。
コンコン、と控えめなノックの音が聞こえた。
花子が戸惑いながら扉を開けると、そこに立っていたのは、見慣れない幼い少女だった。
柔らかな金髪は光を浴びてきらめき、不安げに揺れる大きな瞳は、まるで小鹿のようだ。
豪華なドレスを身につけていることから、王族であることは明らかだった。
しかし、その顔色は、どこか青白く、病弱な印象を受ける。
「あ、あの……わたくし、リリアーナと申します。あなた様が、昨日、その……とても珍しい香りのするお料理を作られたと聞いて……」
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ヴィクトリアに「悪くはない」と言わしめたものの、王宮の者たちには知られるところではなかった……はずだった。
しかし、花子の胸には、確かな手応えがあった。
(よし、この「美味しい」は、きっとこの世界でも通用する!)
あの冷徹な騎士団長が、一瞬とはいえ驚きの表情を見せたのだ。
そして、あの醤油がもたらした奇跡。
故郷で一人、B級グルメを食べ歩いていた頃には感じられなかった、誰かに「美味しい」を届ける喜びが、花子の心を温かく満たしていた。
この異世界に転移して以来、ずっと胸の奥に澱のように溜まっていた不安や絶望が、少しずつ溶けていくのを感じる。
今日の目標は、より多くの人に、この「美味しい」を届けること。
そして、できれば王宮の上層部、ひいては王族の耳にまで、その噂を届かせたい。
そうすれば、この隔離された状況も、少しは変わるかもしれない。
(そのためには、もっとインパクトのある料理を……!)
花子の頭に浮かんだのは、やはり故郷の誇るB級グルメ、お好み焼きだった。
キャベツと卵、小麦粉を混ぜて焼くだけのシンプルな料理だが、その見た目の豪快さと、ソースとマヨネーズが織りなすハーモニーは、異世界の人々をきっと驚かせるだろう。
何より、焼いている時の、あの食欲をそそる香りがたまらない。
お祭り気分を盛り上げる、あの賑やかな匂いを、この味気ない王宮に広げたい。
通販サイトを呼び出す。
昨日の出費で銀貨はすっかり減っていた。
画面に表示される商品リストをスクロールしながら、花子は小さくため息をつく。
(うーん、何を買おうかな……。あんまり贅沢はできないけど、ここは勝負どころだよね)
残りの銀貨を数え、慎重に品定めをする。
そして、お好み焼き粉と、最後の切り札として取っておいたマヨネーズを注文した。
異世界の卵と、王宮の庭師に頼み込んで分けてもらったシャキシャキとした葉物野菜(キャベツ代わり)を手に入れ、調理に取り掛かった。
庭師は最初は怪訝な顔をしていたが、花子の熱意に押されて、しぶしぶ分けてくれたのだ。
まずは、キャベツ代わりの葉物野菜を細かく刻む。
ザクザクと小気味良い音が、静かな部屋に響く。
慣れない異世界の野菜だが、包丁の感触は故郷のキャベツと変わらない。
次に、卵を割り、粉と水を混ぜ合わせて生地を作る。
ボウルの中で、ダマにならないよう丁寧に混ぜ合わせる。
泡立て器の代わりに、通販で召喚した簡易な木べらを使う。
そして、刻んだ野菜と卵を生地に投入し、大きく混ぜる。
花子の手つきは、まるで長年慣れ親しんだ職人のように、淀みがなかった。
生地は、刻んだ野菜の緑と、卵の黄みがかった白が混ざり合い、見るからに美味しそうだ。
熱い鉄盆に、僅かな油をひき、生地を流し込む。
ジュワアアァ……!と、鉄板の上で卵と小麦粉が焼ける、食欲をそそる音が響いた。
その音は、まるで花子の心臓の鼓動とシンクロしているかのようだ。
すぐに、香ばしくもどこか甘い、ふくよかな香りが小部屋に立ち込め始める。
この香りだけで、故郷の祭りの賑わいが目に浮かぶようだった。
混ぜ合わせた生地は、白くきめ細やかな泡を立てながら、丸く、ふっくらと膨らんでいく。
表面にプツプツと小さな穴が空き、頃合いを見て、エイッと勢いよくひっくり返す。
ポンッと軽い音を立てて現れたのは、こんがりと黄金色に焼き上がった、美しい円形のお好み焼きだった。
表面には、焼けた生地の香ばしい焦げ目が食欲をそそる。
裏面からも熱が加わり、内部からもフツフツと熱が伝わる。
湯気が立ち上り、より一層香りが強くなる。
完璧な焼き色がついたお好み焼きが、目の前に現れた。
花子は満足げに頷いた。
その時だった。
コンコン、と控えめなノックの音が聞こえた。
花子が戸惑いながら扉を開けると、そこに立っていたのは、見慣れない幼い少女だった。
柔らかな金髪は光を浴びてきらめき、不安げに揺れる大きな瞳は、まるで小鹿のようだ。
豪華なドレスを身につけていることから、王族であることは明らかだった。
しかし、その顔色は、どこか青白く、病弱な印象を受ける。
「あ、あの……わたくし、リリアーナと申します。あなた様が、昨日、その……とても珍しい香りのするお料理を作られたと聞いて……」