第139話 確認二人目 青春って
ー/ー「浮かない顔をしているわね」
帰り道、椎名に言われた第一声は、そんなことだった。
雨の中、傘をさして二人で横に並んで歩いていく。
「……まぁ、最近色々あってな」
「それにしても杉野、ずっと唸っていたわよ」
「まーな」
「やっぱり山路のことかしら?」
「それもある。それもあるんだが……」
歯切れの悪い俺を不思議そうに見てくる椎名。
だが、これは言えんか。
そう判断した俺は、違う話をすることにした。
「そう言えば昨日の帰り、女子で何話したん?」
「……さらりと言いづらいこと聞いてくるわね」
「あ、いや、言えないならいいけどさ」
俺の言葉に椎名はため息をついた。
はい、杉野君の悪いところ出たー。デリカシーないー。
椎名は呆れた目で俺を見ながら話し出した。
「別に大したことじゃないわよ。ただ昨日みたいなことはもうやめようって話しただけ」
「それだけ?」
「あら、そう思う?」
俺の質問に意味深な笑顔で返してくる。
なんだよ、こえーよ。
「聞かない方がいいわよ」
「……そっか」
どこか憂いを帯びながらぼそっと呟く椎名の言葉を、俺は優しく受け取った。
それが言いたくないのか言えないのかは定かではないが、それでも踏み込むべきではないことなのだろうと思った。
少しの沈黙の後、今度は椎名が切り出してきた。
「で、話し合いのタイミングをいつにするか決めたのかしら?」
「それなー。実はな」
俺は昨日のラーメン屋でのことを椎名に説明した。
それぞれに山路が辞めることを阻止するつもりがあるかどうかを確認すること。
急いては事を仕損じるとアドバイス貰ったこと。
椎名は真剣な顔になった。
「確認は大切ね。ただ私としてはあまりゆっくりしてほしくないのだけれど……」
「そうは言うけど、今のまま話し合ったってしゃーないだろ」
「……そうね」
「ちなみに椎名。山路が辞めることには――」
「私の答えは決まっているわ。全国行くのに必要ないなら止めはしないわ」
「……」
俺がその答えに寂しさを覚えていると「ただ」と椎名が続く。
「杉野、あなたが全員で目指すというなら……私も、そうでありたいとは思うわ」
「椎名……」
譲歩か葛藤か。少なくとも椎名の中にある感情の複雑さを示すには十分な言葉だった。
ゆるぎない覚悟を持ちながら、それでも椎名も迷っている。
ある種、増倉と対照的に感じた。
「まぁいいわ。なんであれ、きっと次の話し合いで決まることだもの」
「……そうだな」
俺でもそれは分かった。
確信めいたことなんて一つもないが、それでもその予感はあった。
きっと次で決まる。
「覚悟はできたかしら?」
「いいや、まだ」
「その割には余裕に見えるけど……」
「まぁ、焦っても仕方ないからな」
「そう、意外と冷静なのね」
椎名はつまらなそうに正面を向いた。
冷静か、確かにそうなのかもしれない。
先輩たちのアドバイスが効いているのだろう。
「……なぁ、椎名」
「何かしら?」
「青春ってなんだろうな……」
何の気なしに、そんなことを聞いていた。
椎名は驚いた顔を一瞬したが、すぐに表情を戻す。
変わらず前を向きながら話し出す。
「そう、ね。難しい質問だわ。その答えを確固として持つことが出来るならきっと山路と正面切って話し合えるのでしょうし、それに…………いえ、私にとっては全国を目指すことになるのかしらね」
「まぁ、そうだよな……」
「杉野、あなたにとって青春って何かしら?」
「……」
問われて改めて考える。
かつての、一年生の俺だったらきっとみんなと過ごせる日常を青春と表せただろう。
けど今の俺はどうだろうか。
頭を悩ませるが答えは出そうになかった。
いつだって、俺は真剣な話が苦手だ。
椎名の質問に答えられないまま、駅についてしまった。
「残念ね。ここまでみたいだわ」
「ああ」
「それじゃあ、また明日」
「また明日」
駅へと歩いてく椎名を俺は静かに見送った。
そして視界から消えると、スマホを取り出す。
連絡を送ると、すぐに返事が来た。
どうやら駅で待っていてくれたようだ。
線路下の駐輪場で会おうということになったので、俺は歩きだす。
雨の中、駅へと向かう人波に逆走する形で進む。
五分もせず、集合場所に着いた。
雨の日の駐輪場には、全く人がいなかった。
よく周りを見ると、一人だけ人影があった。
「早いな」
連絡を取っていた相手――樫田は既に待っていた。
線路を支えているであろう大きなコンクリートの柱に背中を預けて、俺の方を見てきた。
俺は傘を閉じて駐輪場へ入り、樫田の横まで歩いていく。
「よう、思ったより早かったな」
「そっちこそ」
「で、杉野が珍しく俺を呼ぶ理由は何だ?」
樫田はさっそく笑顔で聞いてきた。
たぶん、ある程度予測はついているだろうと思いながら、俺は要件を言う。
「分かってんだろ、田島だよ」
「まぁ、だよなー」
やっぱりそれだよなと、呟く樫田。
珍しく困っている様子だった。
「その言い草からして、杉野もそう思ったってことだよな」
「ああ…………田島の演技、あれ手抜いてるぞ」
そう、今日の稽古で俺が感じた違和感はそれだった。
田島の演技は全力じゃない。そしてそれはつまり練習になっていないことを示している。
樫田は大きなため息をついた。
「はぁ、気のせいだった良かったんだけどなー。椎名は? 何か言ってた?」
「いや、たぶん気づいているの俺とお前ぐらいだろうな」
「不幸中の幸いかもな」
「え?」
意味が分からず聞き返すと、樫田は真剣な表情になった。
「女子たちの誰かに知られたら、最悪ブチ切れ案件だぞ」
「ああ、確かに……」
言われて、その考えに至る。
なんやかんやで、女子たちは演技に関しては厳しい。
手を抜いているなんて知ったら、どうなるやら……。
今このタイミングで、別の問題を起こしてほしくはなかった。
「で、何で手を抜いてんの彼女?」
「俺が知るかよ……」
「だよなー」
それを知っていたら、ここにお前を呼んでないしな。
ただ、それと同時に気になることもある。
「樫田、みんなが手抜いているを気づいていないってことは」
「ああ、田島のやつ。相当の技量があるぞ」
帰り道、椎名に言われた第一声は、そんなことだった。
雨の中、傘をさして二人で横に並んで歩いていく。
「……まぁ、最近色々あってな」
「それにしても杉野、ずっと唸っていたわよ」
「まーな」
「やっぱり山路のことかしら?」
「それもある。それもあるんだが……」
歯切れの悪い俺を不思議そうに見てくる椎名。
だが、これは言えんか。
そう判断した俺は、違う話をすることにした。
「そう言えば昨日の帰り、女子で何話したん?」
「……さらりと言いづらいこと聞いてくるわね」
「あ、いや、言えないならいいけどさ」
俺の言葉に椎名はため息をついた。
はい、杉野君の悪いところ出たー。デリカシーないー。
椎名は呆れた目で俺を見ながら話し出した。
「別に大したことじゃないわよ。ただ昨日みたいなことはもうやめようって話しただけ」
「それだけ?」
「あら、そう思う?」
俺の質問に意味深な笑顔で返してくる。
なんだよ、こえーよ。
「聞かない方がいいわよ」
「……そっか」
どこか憂いを帯びながらぼそっと呟く椎名の言葉を、俺は優しく受け取った。
それが言いたくないのか言えないのかは定かではないが、それでも踏み込むべきではないことなのだろうと思った。
少しの沈黙の後、今度は椎名が切り出してきた。
「で、話し合いのタイミングをいつにするか決めたのかしら?」
「それなー。実はな」
俺は昨日のラーメン屋でのことを椎名に説明した。
それぞれに山路が辞めることを阻止するつもりがあるかどうかを確認すること。
急いては事を仕損じるとアドバイス貰ったこと。
椎名は真剣な顔になった。
「確認は大切ね。ただ私としてはあまりゆっくりしてほしくないのだけれど……」
「そうは言うけど、今のまま話し合ったってしゃーないだろ」
「……そうね」
「ちなみに椎名。山路が辞めることには――」
「私の答えは決まっているわ。全国行くのに必要ないなら止めはしないわ」
「……」
俺がその答えに寂しさを覚えていると「ただ」と椎名が続く。
「杉野、あなたが全員で目指すというなら……私も、そうでありたいとは思うわ」
「椎名……」
譲歩か葛藤か。少なくとも椎名の中にある感情の複雑さを示すには十分な言葉だった。
ゆるぎない覚悟を持ちながら、それでも椎名も迷っている。
ある種、増倉と対照的に感じた。
「まぁいいわ。なんであれ、きっと次の話し合いで決まることだもの」
「……そうだな」
俺でもそれは分かった。
確信めいたことなんて一つもないが、それでもその予感はあった。
きっと次で決まる。
「覚悟はできたかしら?」
「いいや、まだ」
「その割には余裕に見えるけど……」
「まぁ、焦っても仕方ないからな」
「そう、意外と冷静なのね」
椎名はつまらなそうに正面を向いた。
冷静か、確かにそうなのかもしれない。
先輩たちのアドバイスが効いているのだろう。
「……なぁ、椎名」
「何かしら?」
「青春ってなんだろうな……」
何の気なしに、そんなことを聞いていた。
椎名は驚いた顔を一瞬したが、すぐに表情を戻す。
変わらず前を向きながら話し出す。
「そう、ね。難しい質問だわ。その答えを確固として持つことが出来るならきっと山路と正面切って話し合えるのでしょうし、それに…………いえ、私にとっては全国を目指すことになるのかしらね」
「まぁ、そうだよな……」
「杉野、あなたにとって青春って何かしら?」
「……」
問われて改めて考える。
かつての、一年生の俺だったらきっとみんなと過ごせる日常を青春と表せただろう。
けど今の俺はどうだろうか。
頭を悩ませるが答えは出そうになかった。
いつだって、俺は真剣な話が苦手だ。
椎名の質問に答えられないまま、駅についてしまった。
「残念ね。ここまでみたいだわ」
「ああ」
「それじゃあ、また明日」
「また明日」
駅へと歩いてく椎名を俺は静かに見送った。
そして視界から消えると、スマホを取り出す。
連絡を送ると、すぐに返事が来た。
どうやら駅で待っていてくれたようだ。
線路下の駐輪場で会おうということになったので、俺は歩きだす。
雨の中、駅へと向かう人波に逆走する形で進む。
五分もせず、集合場所に着いた。
雨の日の駐輪場には、全く人がいなかった。
よく周りを見ると、一人だけ人影があった。
「早いな」
連絡を取っていた相手――樫田は既に待っていた。
線路を支えているであろう大きなコンクリートの柱に背中を預けて、俺の方を見てきた。
俺は傘を閉じて駐輪場へ入り、樫田の横まで歩いていく。
「よう、思ったより早かったな」
「そっちこそ」
「で、杉野が珍しく俺を呼ぶ理由は何だ?」
樫田はさっそく笑顔で聞いてきた。
たぶん、ある程度予測はついているだろうと思いながら、俺は要件を言う。
「分かってんだろ、田島だよ」
「まぁ、だよなー」
やっぱりそれだよなと、呟く樫田。
珍しく困っている様子だった。
「その言い草からして、杉野もそう思ったってことだよな」
「ああ…………田島の演技、あれ手抜いてるぞ」
そう、今日の稽古で俺が感じた違和感はそれだった。
田島の演技は全力じゃない。そしてそれはつまり練習になっていないことを示している。
樫田は大きなため息をついた。
「はぁ、気のせいだった良かったんだけどなー。椎名は? 何か言ってた?」
「いや、たぶん気づいているの俺とお前ぐらいだろうな」
「不幸中の幸いかもな」
「え?」
意味が分からず聞き返すと、樫田は真剣な表情になった。
「女子たちの誰かに知られたら、最悪ブチ切れ案件だぞ」
「ああ、確かに……」
言われて、その考えに至る。
なんやかんやで、女子たちは演技に関しては厳しい。
手を抜いているなんて知ったら、どうなるやら……。
今このタイミングで、別の問題を起こしてほしくはなかった。
「で、何で手を抜いてんの彼女?」
「俺が知るかよ……」
「だよなー」
それを知っていたら、ここにお前を呼んでないしな。
ただ、それと同時に気になることもある。
「樫田、みんなが手抜いているを気づいていないってことは」
「ああ、田島のやつ。相当の技量があるぞ」
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