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語呂合わせ

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語呂合わせ

 語呂合わせ

 一人きりの晩御飯を終えた波多野潤は、自室で携帯ゲーム機を起動させた。

 今は、難しいストーリーとかが頭に入りそうにないので、RPGやシミュレーションゲームは選ばず、パズルゲームを始める。

 やり始めた落ち物パズルも、思うようにスコアが伸びない。

 軽い苛立ちを覚えレースゲームに替えたが、そちらでもスコアが伸びない。

 何をやっても、集中が散漫になってしまう。

 苛立っていると自覚しているが、その苛立ちを制御できない自身に苛立ち、苛立ちが増幅していく。

「悪循環だな」

 ゲーム機の電源を切り、ベッドに仰向けになった潤は、珍しく独り言を零した。

 暇潰しの為ではなく、時間潰しの為に始めたゲームだったが、時間は二十分しか進んでいない。

 高校のクラスメイトに電話やメールをするテンションでもない。

 何もすることがなく、思い悩みながらベッドに寝転がっていると、玄関が開閉する音が聞こえた。

 時刻は、午後十時三十分。

 姉が帰ってきたと玄関に向かうと、玄関に立っていたのはお酒で顔を少し赤くした父、国光だった。

「どうした?」

 顔は赤くなっているが、酔った気配がなくしっかりとした口調で潤に問いかける。

「姉さんかなと思って」

「まだ、帰ってないのか?」

 潤は頷く。

「明日は休日だし、飲みにでも行ってるんだろ」

「まぁ、そうなのかな」

「真希に何か用があるのか?」

「別にないけど、どうして?」

「用があるから、玄関まで迎えに来たんじゃないのか?」

「ちょっと聞きたいことがあっただけで、用って程のことではないよ」

「そうか」

 歯切れの悪い返答だが、国光は特に気に止めず部屋に上がり、着替えを始めた。

 自室に戻り二時間ほど何もしない時間を浪費すると、再び玄関が開閉する音が聞こえた。

 国光がこんな時間に外出するはずがないので、不審者が入ってくるアクシデントがない限り、玄関を開けたのは真希だ。

「あっ……ただいまぁ」

 真希は、玄関に座っていた。

 顔も赤く、まだそんなに近寄っていないけれど、お酒の匂いが漂ってくる。

「ちょっと! 大丈夫?」

 玄関に座り込む真希に駆け寄ると、酔った影響で少したれ気味になった目で、真希が潤を見つめる。

「私?」

「他に誰がいるの?」

「私は、大丈夫じゃな~い。でも、大丈夫」

「どっちなの」

「私には、潤がいるから大丈夫」

「分かったから、そんなところに座ってないで部屋に行くよ」

「連れてって~」

 初めて見る、真希の泥酔した姿に戸惑いながらも、潤は真希を抱え部屋に運び、ベッドに寝かせた。

 これで、取り敢えずは大丈夫だろう。

 そう思っても、泥酔状態の真希が心配で傍から離れられず、潤はしばらく真希の傍にいることにした。

 大人は良いな、酒に逃げられて。

 普段はしっかり者で、明るいけれど冷静沈着なイメージだった真希が、こんなにも我を忘れ乱れられるのだから。

 ベッドに寝かせた真希は、すぐに寝息を立てた。

 静かな室内に、真希の寝息だけが聞こえる。

 規則正しく反復される真希の息遣いは、心を落ち着かせる作用があるのか、潤の苛立っていた心が少しずつ緩和されていく。

 しばらくのあいだ目を閉じて、姉の息遣いに耳を傾けていると、突然『潤』と呼ばれ、慌てて真希に視線を向ける。

 真希は、眠っていた。

 なんだ、寝言か。

 姉の寝顔を見ると、その表情は眠っているのに、どこか悲しげに見える。

 姉は、どうしてこんなになってしまうまで、お酒を飲んでしまったのだろう。

 きっと、楽しいお酒ではなかったように思える。

 真希の口が、軽く開く。

「ママ……」

 その言葉を聞き、潤は胸を締め付けられる。

 母が亡くなってから、真希は母のことを『ママ』と呼ばず『お母さん』と呼ぶようになった。

 その変化にどんな意味が込められているのかは分からないが、何かしらの決意があるのだと察し、潤も国光もあえて振れずに過ごしてきた。

 その決意が、泥酔状態で油断し切った真希に甘えを与え、無意識に弱さを出してしまっている。

「ママ……」

 再び、真希が母を呼ぶ。

 ママと呼ぶ真希の表情は、先程までの悲しげな表情が徐々に朗らかな表情に変化していく。

 きっと、夢の中で母が真希の支えになってあげているのだろう。

 思えば、母が亡くなってから一番負担がかかり、一番頑張ってきたのは真希だった。

 国光は父として経済面を支えているが、それは母が亡くなる前と変わらぬ生活サイクルだった。

 母が担ってきた役目を全て引き継ぎ、家のバランスを保っていたのは真希だ。

 頼りになるから、つい頼ってしまう。

 頼られても嫌な顔をしないで相談に乗ってくれるから、気兼ねなく愚痴や悩みを打ち明けてしまう。

 でも、真希が悩み苦しんだとき、誰が話し相手になってあげた?

 いや、悩み苦しんでも、それをずっと一人で抱え、解決してきたんだ。

 その積み重ねに耐え切れなくなり、酒に逃げてしまったのではないか。

 そう思うと、酔い潰れ母に縋る真希の姿が見ていられなくなる。

 夢の中で母に甘えられているのか、幸せそうに眠る真希の姿を横目に、潤は部屋を出て行った。

 翌日、午前十一時に真希は目を覚ました。

 休日でも普段どおり目を覚ます真希にしては珍しく、遅い目覚めになる。

 キッチンに移動すると、朝食を終えた後の食器がきちんと洗われていた。

 リビングに誰もいないのを確認し、真希は潤の部屋をノックする。

 ノックをすると、潤はすぐにドアを開け『おはよう』と頭は下げず言葉だけの挨拶をした。

「あっ、おはよう。ごめんね、朝食を作って上げられなくて」

「そんなの、平気だよ。冷凍食品のストックもあったし」

 そう言いながら、潤は真希の横をすり抜けるように部屋を出た。

「どこに行くの?」

「どこって、リビング」

 リビングに移動する潤に着いて行くように真希も移動すると、潤はリビングに移動したかと思うと、すぐにキッチンに移動しようとした。

 再び、潤の後を着いて行こうと真希が動こうとすると。

「座っててよ」

 そう、潤が笑顔で制する。

 今まで見せたことのないような、落ち着き、大人びた口調。

 驚いた真希は思わず『はい』と敬語で返事をしてしまう。

 座って大人しく待っていると、キッチンから潤が三つのお皿を持ってやってくる。

 真希の前に、チョコレートケーキを置く。

「ちょこっと嫌なことがあっても」

 次に、モンブランを置く。

「嫌なことはクリ返さないから」

 最後に、苺のショートケーキを置く。

 二人は、見つめ合う。

 しばらくの静寂。

 二人きりで見つめ合っているのに、潤と真希は二人に感じなかった。

 すぐ傍で、母が見守っている気がする。

「最後は?」

 最後に置かれた苺のショートケーキを指差し、真希が問う。

「やっぱり、思いつかないや」

 大人びた態度をとっていた潤が、普段通りに年相応な声を出し、椅子に座る。

 子供の頃、二人が落ち込んだり悲しんだとき、母は必ず二人の好物であるこの三つのケーキを買ってくれた。

 そして、潤が言った語呂合わせで二人を励ましてくれた。

 最後に苺のショートケーキを置くと、母はいつも『何も思い浮かばない』と屈託なく笑い、その笑顔に釣られ二人も笑顔になり、落ち込んでいたのが嘘のように和やかに三人でケーキを食べた。

「最後の語呂合わせは思いつかないけど、母さんはきっと凄く前向きなことを言いたかったんだと思うんだ」

「そうだね……それか、最後の語呂合わせの答えを見つける気がなかったか」

「そんないい加減な性格だったけ?」

「いい加減な性格ではなかったけど、私は最後の語呂合わせが思い浮かばなくて笑うママの顔が好きだったし、その後、何か良い語呂合わせがないか三人で話すのも楽しかった」

 気が緩んだのだろう、潤の前でママと呼んだが、気づいていないようなので潤も気づかない振りをした。

「お菓子に助けられたの、お母さんの葬式以来だな」

「葬式のとき、何かあったっけ?」

「お葬式のとき、お父さんは栗饅頭と苺大福をたくさん用意したんだよ。この二つって、つまりこういうことでしょ?」

 真希は、モンブランと苺のショートケーキを指差す。

「でも、チョコがないじゃん」

「だって、語呂合わせ的に用意できないでしょ。お母さんが死んだのは『ちょこっと嫌なこと』ではないんだから」

「そっか」

「お父さんね、私に『何も思い浮かばないが、苺にはあいつの希望が詰まっているんだと思う』て、恥ずかしそうに苺大福を渡したの。その時、お母さんはお父さんの不器用だけれど、いざという時に優しい一面に惹かれたんだろうなって、ちょっとドキドキしちゃった」

「そんなことがあったんだ」

「潤は、泣き疲れて寝ちゃってたからね」

 泣き疲れて寝ていたのではなく、悲しすぎて眠れなかった。

 ただ、悲しみ落ち込む真希の姿から目を背けたくて、自室で寝た振りをしていたとは、さすがに打ち明けられなかった。

「ケーキ、ありがとう。後で貰うね」

「今は食べないの?」

「私は大人になっちゃったから」

「甘いのが苦手になった?」

「いや、二日酔いの状態でケーキはきつい」

 と、自虐的に笑う。

「さて、次は私が潤の相談に乗ってあげる番ね」

 表情が変わり、いつもの頼りになる姉の顔に真希が戻る。

「酔って記憶が鮮明ではないけど、うっすらと潤が玄関に出迎えてくれたのは覚えてるの。私が帰ってきて玄関まで来たのは、私に用事……相談事があったからじゃない?」

「さすがに、鋭いね。でも、それはもう解決したから大丈夫」

「嘘ね」

「嘘じゃないよ」

「潤は、とても優しい子だもの。自分の悩みを解決するよりも、私の心配をずっとしてくれる子だわ。そして、優しいから私に負担がかからないように、私へ悩みを打ち明ける、相談に乗ってもらうのはやめようと考えたんじゃない?」

「考えすぎだよ」

「潤は私を心配してくれている。私も潤を心配してる。お互いが心配しあってるのに、その感情が一方通行だなんて悲しいよ。どうせなら共有しよう」

 真希が、ショートケーキの上に乗っている苺だけ食べる。

「今の私は、苺のおかげで希望に満ち溢れてるから、どんな悩み事でも大丈夫よ」

 明るく振舞う真希に負け、潤は軽く照れながら悩みを打ち明けた。

 初めて出来た恋人との、痴話喧嘩。

 潤から聞く異性への悩みに真希は驚いたものの、照れながらも好きな子との話をする姿が微笑ましく、真希の心は幸せな気分で満たされていった。





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 一人きりの晩御飯を終えた波多野潤は、自室で携帯ゲーム機を起動させた。
 今は、難しいストーリーとかが頭に入りそうにないので、RPGやシミュレーションゲームは選ばず、パズルゲームを始める。
 やり始めた落ち物パズルも、思うようにスコアが伸びない。
 軽い苛立ちを覚えレースゲームに替えたが、そちらでもスコアが伸びない。
 何をやっても、集中が散漫になってしまう。
 苛立っていると自覚しているが、その苛立ちを制御できない自身に苛立ち、苛立ちが増幅していく。
「悪循環だな」
 ゲーム機の電源を切り、ベッドに仰向けになった潤は、珍しく独り言を零した。
 暇潰しの為ではなく、時間潰しの為に始めたゲームだったが、時間は二十分しか進んでいない。
 高校のクラスメイトに電話やメールをするテンションでもない。
 何もすることがなく、思い悩みながらベッドに寝転がっていると、玄関が開閉する音が聞こえた。
 時刻は、午後十時三十分。
 姉が帰ってきたと玄関に向かうと、玄関に立っていたのはお酒で顔を少し赤くした父、国光だった。
「どうした?」
 顔は赤くなっているが、酔った気配がなくしっかりとした口調で潤に問いかける。
「姉さんかなと思って」
「まだ、帰ってないのか?」
 潤は頷く。
「明日は休日だし、飲みにでも行ってるんだろ」
「まぁ、そうなのかな」
「真希に何か用があるのか?」
「別にないけど、どうして?」
「用があるから、玄関まで迎えに来たんじゃないのか?」
「ちょっと聞きたいことがあっただけで、用って程のことではないよ」
「そうか」
 歯切れの悪い返答だが、国光は特に気に止めず部屋に上がり、着替えを始めた。
 自室に戻り二時間ほど何もしない時間を浪費すると、再び玄関が開閉する音が聞こえた。
 国光がこんな時間に外出するはずがないので、不審者が入ってくるアクシデントがない限り、玄関を開けたのは真希だ。
「あっ……ただいまぁ」
 真希は、玄関に座っていた。
 顔も赤く、まだそんなに近寄っていないけれど、お酒の匂いが漂ってくる。
「ちょっと! 大丈夫?」
 玄関に座り込む真希に駆け寄ると、酔った影響で少したれ気味になった目で、真希が潤を見つめる。
「私?」
「他に誰がいるの?」
「私は、大丈夫じゃな~い。でも、大丈夫」
「どっちなの」
「私には、潤がいるから大丈夫」
「分かったから、そんなところに座ってないで部屋に行くよ」
「連れてって~」
 初めて見る、真希の泥酔した姿に戸惑いながらも、潤は真希を抱え部屋に運び、ベッドに寝かせた。
 これで、取り敢えずは大丈夫だろう。
 そう思っても、泥酔状態の真希が心配で傍から離れられず、潤はしばらく真希の傍にいることにした。
 大人は良いな、酒に逃げられて。
 普段はしっかり者で、明るいけれど冷静沈着なイメージだった真希が、こんなにも我を忘れ乱れられるのだから。
 ベッドに寝かせた真希は、すぐに寝息を立てた。
 静かな室内に、真希の寝息だけが聞こえる。
 規則正しく反復される真希の息遣いは、心を落ち着かせる作用があるのか、潤の苛立っていた心が少しずつ緩和されていく。
 しばらくのあいだ目を閉じて、姉の息遣いに耳を傾けていると、突然『潤』と呼ばれ、慌てて真希に視線を向ける。
 真希は、眠っていた。
 なんだ、寝言か。
 姉の寝顔を見ると、その表情は眠っているのに、どこか悲しげに見える。
 姉は、どうしてこんなになってしまうまで、お酒を飲んでしまったのだろう。
 きっと、楽しいお酒ではなかったように思える。
 真希の口が、軽く開く。
「ママ……」
 その言葉を聞き、潤は胸を締め付けられる。
 母が亡くなってから、真希は母のことを『ママ』と呼ばず『お母さん』と呼ぶようになった。
 その変化にどんな意味が込められているのかは分からないが、何かしらの決意があるのだと察し、潤も国光もあえて振れずに過ごしてきた。
 その決意が、泥酔状態で油断し切った真希に甘えを与え、無意識に弱さを出してしまっている。
「ママ……」
 再び、真希が母を呼ぶ。
 ママと呼ぶ真希の表情は、先程までの悲しげな表情が徐々に朗らかな表情に変化していく。
 きっと、夢の中で母が真希の支えになってあげているのだろう。
 思えば、母が亡くなってから一番負担がかかり、一番頑張ってきたのは真希だった。
 国光は父として経済面を支えているが、それは母が亡くなる前と変わらぬ生活サイクルだった。
 母が担ってきた役目を全て引き継ぎ、家のバランスを保っていたのは真希だ。
 頼りになるから、つい頼ってしまう。
 頼られても嫌な顔をしないで相談に乗ってくれるから、気兼ねなく愚痴や悩みを打ち明けてしまう。
 でも、真希が悩み苦しんだとき、誰が話し相手になってあげた?
 いや、悩み苦しんでも、それをずっと一人で抱え、解決してきたんだ。
 その積み重ねに耐え切れなくなり、酒に逃げてしまったのではないか。
 そう思うと、酔い潰れ母に縋る真希の姿が見ていられなくなる。
 夢の中で母に甘えられているのか、幸せそうに眠る真希の姿を横目に、潤は部屋を出て行った。
 翌日、午前十一時に真希は目を覚ました。
 休日でも普段どおり目を覚ます真希にしては珍しく、遅い目覚めになる。
 キッチンに移動すると、朝食を終えた後の食器がきちんと洗われていた。
 リビングに誰もいないのを確認し、真希は潤の部屋をノックする。
 ノックをすると、潤はすぐにドアを開け『おはよう』と頭は下げず言葉だけの挨拶をした。
「あっ、おはよう。ごめんね、朝食を作って上げられなくて」
「そんなの、平気だよ。冷凍食品のストックもあったし」
 そう言いながら、潤は真希の横をすり抜けるように部屋を出た。
「どこに行くの?」
「どこって、リビング」
 リビングに移動する潤に着いて行くように真希も移動すると、潤はリビングに移動したかと思うと、すぐにキッチンに移動しようとした。
 再び、潤の後を着いて行こうと真希が動こうとすると。
「座っててよ」
 そう、潤が笑顔で制する。
 今まで見せたことのないような、落ち着き、大人びた口調。
 驚いた真希は思わず『はい』と敬語で返事をしてしまう。
 座って大人しく待っていると、キッチンから潤が三つのお皿を持ってやってくる。
 真希の前に、チョコレートケーキを置く。
「ちょこっと嫌なことがあっても」
 次に、モンブランを置く。
「嫌なことはクリ返さないから」
 最後に、苺のショートケーキを置く。
 二人は、見つめ合う。
 しばらくの静寂。
 二人きりで見つめ合っているのに、潤と真希は二人に感じなかった。
 すぐ傍で、母が見守っている気がする。
「最後は?」
 最後に置かれた苺のショートケーキを指差し、真希が問う。
「やっぱり、思いつかないや」
 大人びた態度をとっていた潤が、普段通りに年相応な声を出し、椅子に座る。
 子供の頃、二人が落ち込んだり悲しんだとき、母は必ず二人の好物であるこの三つのケーキを買ってくれた。
 そして、潤が言った語呂合わせで二人を励ましてくれた。
 最後に苺のショートケーキを置くと、母はいつも『何も思い浮かばない』と屈託なく笑い、その笑顔に釣られ二人も笑顔になり、落ち込んでいたのが嘘のように和やかに三人でケーキを食べた。
「最後の語呂合わせは思いつかないけど、母さんはきっと凄く前向きなことを言いたかったんだと思うんだ」
「そうだね……それか、最後の語呂合わせの答えを見つける気がなかったか」
「そんないい加減な性格だったけ?」
「いい加減な性格ではなかったけど、私は最後の語呂合わせが思い浮かばなくて笑うママの顔が好きだったし、その後、何か良い語呂合わせがないか三人で話すのも楽しかった」
 気が緩んだのだろう、潤の前でママと呼んだが、気づいていないようなので潤も気づかない振りをした。
「お菓子に助けられたの、お母さんの葬式以来だな」
「葬式のとき、何かあったっけ?」
「お葬式のとき、お父さんは栗饅頭と苺大福をたくさん用意したんだよ。この二つって、つまりこういうことでしょ?」
 真希は、モンブランと苺のショートケーキを指差す。
「でも、チョコがないじゃん」
「だって、語呂合わせ的に用意できないでしょ。お母さんが死んだのは『ちょこっと嫌なこと』ではないんだから」
「そっか」
「お父さんね、私に『何も思い浮かばないが、苺にはあいつの希望が詰まっているんだと思う』て、恥ずかしそうに苺大福を渡したの。その時、お母さんはお父さんの不器用だけれど、いざという時に優しい一面に惹かれたんだろうなって、ちょっとドキドキしちゃった」
「そんなことがあったんだ」
「潤は、泣き疲れて寝ちゃってたからね」
 泣き疲れて寝ていたのではなく、悲しすぎて眠れなかった。
 ただ、悲しみ落ち込む真希の姿から目を背けたくて、自室で寝た振りをしていたとは、さすがに打ち明けられなかった。
「ケーキ、ありがとう。後で貰うね」
「今は食べないの?」
「私は大人になっちゃったから」
「甘いのが苦手になった?」
「いや、二日酔いの状態でケーキはきつい」
 と、自虐的に笑う。
「さて、次は私が潤の相談に乗ってあげる番ね」
 表情が変わり、いつもの頼りになる姉の顔に真希が戻る。
「酔って記憶が鮮明ではないけど、うっすらと潤が玄関に出迎えてくれたのは覚えてるの。私が帰ってきて玄関まで来たのは、私に用事……相談事があったからじゃない?」
「さすがに、鋭いね。でも、それはもう解決したから大丈夫」
「嘘ね」
「嘘じゃないよ」
「潤は、とても優しい子だもの。自分の悩みを解決するよりも、私の心配をずっとしてくれる子だわ。そして、優しいから私に負担がかからないように、私へ悩みを打ち明ける、相談に乗ってもらうのはやめようと考えたんじゃない?」
「考えすぎだよ」
「潤は私を心配してくれている。私も潤を心配してる。お互いが心配しあってるのに、その感情が一方通行だなんて悲しいよ。どうせなら共有しよう」
 真希が、ショートケーキの上に乗っている苺だけ食べる。
「今の私は、苺のおかげで希望に満ち溢れてるから、どんな悩み事でも大丈夫よ」
 明るく振舞う真希に負け、潤は軽く照れながら悩みを打ち明けた。
 初めて出来た恋人との、痴話喧嘩。
 潤から聞く異性への悩みに真希は驚いたものの、照れながらも好きな子との話をする姿が微笑ましく、真希の心は幸せな気分で満たされていった。