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第2章~第2話 選択のオーバーロード仮説②~

ー/ー



 その日、部員勧誘のための会議(と言っても雑談レベルのことしか話してないけど……)を切り上げた私たちは、桑来さんの父親が経営するというスーパーマーケットに向かった。

 隣の市の山手側にあるスーパー『ル・グルメゾン』は、学校の最寄りのバス停から路線バスに乗って、40分ほどの場所にあった。高級住宅街の一角にあるためか、私や家族が日常的に利用しているごく普通のスーパーマーケットとは違い、外観からしてオシャレな雰囲気が漂っている。

 高級食材が味わえるという本格中華料理店が同居している建物の1階の店舗を訪ねると、桑来さんが連絡をしていたのか、店舗のバックヤードでは、お店の責任者のような人が私たちを出迎えてくれた。

「お待ちしておりました。エリア責任者の猪狩(いかり)です。わざわざ、お越しいただき、ありがとうございます」

 スーパーの経営やマーケティングなんて、まるっきり縁がなさそうな高校生を相手にしても、丁寧な姿勢を崩さない責任者の猪狩さんに恐縮しつつ、私たちは、

「よろしくお願いします」

と、緊張しながらあいさつする。
 ただ、こんなときでも、生物心理学研究会の代表者だけは、そうしたプレッシャーを意に介さないように、飄々とした態度で、スーパーの店内のようすを見渡している。

「まずは、カレーフェアの売り場を見せてもらえますか?」

 言葉遣いこそ、いつもより丁寧なものの、相変わらず年上の人間にも物怖じしない言動でたずねたネコ先輩に応じるように、猪狩さんは、私たち生物心理学研究会のメンバー四人と、一緒に着いてきた桑来さんをフェアの売り場に案内してくれた。

「うわ〜、すごい!」

 店舗入り口近くの全国ご当地カレーフェアの特設コーナーを目にした私は、感嘆の声を上げる。
 その一角には、試食コーナーも併設され、桑来さんが言っていたように、商品棚には50近くの銘柄のレトルトカレーが、ところ狭しと並んでいた。

 北は北海道から、南は沖縄まで――――――。
 文字どおり、日本全国各地のご当地カレーが集結しているようすは、壮観と言える。

 ただ、売り場の迫力に対して、夕方でお客が多い時間帯であるにもかかわらず、カレーのパッケージを手に取る人間は、まばらな印象だ。

「どれも、美味しそうですね! でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 私が、素直な感想を口にすると、ネコ先輩がニヤリとほくそ笑んだような気がした。
 一方、私が思わず漏らした一言を耳にした猪狩さんは、

「そう言ってもらえると嬉しいんですが――――――自分を含めて、ウチの目利きのバイヤーたちが、全国のカレーを食べ回って集めた商品なので……」

と言って、寂しそうに微笑んだ。
 そんな責任者の言葉に、「ふむ……」と、うなずいたネコ先輩は、表情を変えないまま語る。

「この売り場を見て、売り上げが振るわない理由がわかりました。具体的な改善策は、バックヤードで話しをさせてもらって良いですか?」

 彼女の言葉に、桑来さんが、こっそりと私に耳打ちしてくる。

「ちょっと、朱令陣(しゅれじん)が言ってることって、マジなの? 売り場を見ただけで、カレーが売れない理由がわかるなんて天才じゃん!」

「たしかに、私も信じられないですけど、宇佐美先生のお悩みを一発で解決しちゃったのは事実なので……」

 かなり怪しげな回答内容ではあったものの、現実として、2年生の担任教師の相談事は、短期間で解決に至ったため、その現場をそばで見ていた立場の人間として、ネコ先輩の実績(?)は伝えておこうと思った。

「たしかに、朱令陣(しゅれじん)先輩の話しは面白いもんね。ちょっと、怪しいけど……」

 ニコニコと笑いながら会話に加わって、私に同調するような佳衣子の言葉に対して、日辻先輩は、穏やかな笑みを浮かべたような気がした。

 その表情が気になりながらも、先を行くネコ先輩と猪狩さんに続いて、私たちはバックヤードの食品在庫置き場に移動する。そこには、売り場に出されている数の数倍のレトルトカレーの段ボール箱が、うず高く積み上げれていた。

「わぁ、すごい……」

 さっき、売り場を見たときと同じような内容ながら、少し引き気味に言葉を発すると、悩み深そうな猪狩さんが、

「これだけの在庫を売り切らないといけないんですよ……」

と言ってチカラ無く笑う。

(ネコ先輩は、気にしていないようだけど、こんなにたくさんの商品を売り切るなんて可能なのかな?)

 私が、そんな風に疑問に感じていると、その圧倒的な在庫量にも、動揺したようすが微塵もない上級生は、

「いまの売り場面積を多少、小さくすることは可能ですか?」

と、猪狩さんにたずねる。

「えぇ、元々、売り場面積の割りに売り上げが上がってませんから、今週末を前にカレーフェアの売り場は、縮小するつもりでした」

「それは、都合が良い!」

 またしても、ほくそ笑むようにつぶやく、ネコ先輩に私は問いかけた。

「ネコ先輩、自信満々ですけど、本当にこの商品の山を売り切る方法なんてあるんですか?」

 すると、ニヤリと笑った上級生は、得意げに「もちろんだよ」と、答える。

「ネズコくん、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言っていたのは、キミ自身じゃないか? 全国カレーフェアの売り上げ改善策の極意は、ズバリ、キミが語った言葉の中にある」

「えっ? えぇ〜!?」

 何気なく発した自分の一言の中に、そんな極意とやらが隠されていたなんて……。

 驚く私を尻目に、ネコ先輩は猪狩さんに具体的な方策を説明する。
 そして、不敵な笑みを浮かべて、いつものように宣言した。

「舞台は整った――――――さぁ、()()()()()だよ」


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 その日、部員勧誘のための会議(と言っても雑談レベルのことしか話してないけど……)を切り上げた私たちは、桑来さんの父親が経営するというスーパーマーケットに向かった。
 隣の市の山手側にあるスーパー『ル・グルメゾン』は、学校の最寄りのバス停から路線バスに乗って、40分ほどの場所にあった。高級住宅街の一角にあるためか、私や家族が日常的に利用しているごく普通のスーパーマーケットとは違い、外観からしてオシャレな雰囲気が漂っている。
 高級食材が味わえるという本格中華料理店が同居している建物の1階の店舗を訪ねると、桑来さんが連絡をしていたのか、店舗のバックヤードでは、お店の責任者のような人が私たちを出迎えてくれた。
「お待ちしておりました。エリア責任者の|猪狩《いかり》です。わざわざ、お越しいただき、ありがとうございます」
 スーパーの経営やマーケティングなんて、まるっきり縁がなさそうな高校生を相手にしても、丁寧な姿勢を崩さない責任者の猪狩さんに恐縮しつつ、私たちは、
「よろしくお願いします」
と、緊張しながらあいさつする。
 ただ、こんなときでも、生物心理学研究会の代表者だけは、そうしたプレッシャーを意に介さないように、飄々とした態度で、スーパーの店内のようすを見渡している。
「まずは、カレーフェアの売り場を見せてもらえますか?」
 言葉遣いこそ、いつもより丁寧なものの、相変わらず年上の人間にも物怖じしない言動でたずねたネコ先輩に応じるように、猪狩さんは、私たち生物心理学研究会のメンバー四人と、一緒に着いてきた桑来さんをフェアの売り場に案内してくれた。
「うわ〜、すごい!」
 店舗入り口近くの全国ご当地カレーフェアの特設コーナーを目にした私は、感嘆の声を上げる。
 その一角には、試食コーナーも併設され、桑来さんが言っていたように、商品棚には50近くの銘柄のレトルトカレーが、ところ狭しと並んでいた。
 北は北海道から、南は沖縄まで――――――。
 文字どおり、日本全国各地のご当地カレーが集結しているようすは、壮観と言える。
 ただ、売り場の迫力に対して、夕方でお客が多い時間帯であるにもかかわらず、カレーのパッケージを手に取る人間は、まばらな印象だ。
「どれも、美味しそうですね! でも、|こ《・》|れ《・》|だ《・》|け《・》|あ《・》|っ《・》|た《・》|ら《・》、|ど《・》|れ《・》|を《・》|買《・》|っ《・》|た《・》|ら《・》|良《・》|い《・》|か《・》|迷《・》|っ《・》|ち《・》|ゃ《・》|い《・》|そ《・》|う《・》」
 私が、素直な感想を口にすると、ネコ先輩がニヤリとほくそ笑んだような気がした。
 一方、私が思わず漏らした一言を耳にした猪狩さんは、
「そう言ってもらえると嬉しいんですが――――――自分を含めて、ウチの目利きのバイヤーたちが、全国のカレーを食べ回って集めた商品なので……」
と言って、寂しそうに微笑んだ。
 そんな責任者の言葉に、「ふむ……」と、うなずいたネコ先輩は、表情を変えないまま語る。
「この売り場を見て、売り上げが振るわない理由がわかりました。具体的な改善策は、バックヤードで話しをさせてもらって良いですか?」
 彼女の言葉に、桑来さんが、こっそりと私に耳打ちしてくる。
「ちょっと、|朱令陣《しゅれじん》が言ってることって、マジなの? 売り場を見ただけで、カレーが売れない理由がわかるなんて天才じゃん!」
「たしかに、私も信じられないですけど、宇佐美先生のお悩みを一発で解決しちゃったのは事実なので……」
 かなり怪しげな回答内容ではあったものの、現実として、2年生の担任教師の相談事は、短期間で解決に至ったため、その現場をそばで見ていた立場の人間として、ネコ先輩の実績(?)は伝えておこうと思った。
「たしかに、|朱令陣《しゅれじん》先輩の話しは面白いもんね。ちょっと、怪しいけど……」
 ニコニコと笑いながら会話に加わって、私に同調するような佳衣子の言葉に対して、日辻先輩は、穏やかな笑みを浮かべたような気がした。
 その表情が気になりながらも、先を行くネコ先輩と猪狩さんに続いて、私たちはバックヤードの食品在庫置き場に移動する。そこには、売り場に出されている数の数倍のレトルトカレーの段ボール箱が、うず高く積み上げれていた。
「わぁ、すごい……」
 さっき、売り場を見たときと同じような内容ながら、少し引き気味に言葉を発すると、悩み深そうな猪狩さんが、
「これだけの在庫を売り切らないといけないんですよ……」
と言ってチカラ無く笑う。
(ネコ先輩は、気にしていないようだけど、こんなにたくさんの商品を売り切るなんて可能なのかな?)
 私が、そんな風に疑問に感じていると、その圧倒的な在庫量にも、動揺したようすが微塵もない上級生は、
「いまの売り場面積を多少、小さくすることは可能ですか?」
と、猪狩さんにたずねる。
「えぇ、元々、売り場面積の割りに売り上げが上がってませんから、今週末を前にカレーフェアの売り場は、縮小するつもりでした」
「それは、都合が良い!」
 またしても、ほくそ笑むようにつぶやく、ネコ先輩に私は問いかけた。
「ネコ先輩、自信満々ですけど、本当にこの商品の山を売り切る方法なんてあるんですか?」
 すると、ニヤリと笑った上級生は、得意げに「もちろんだよ」と、答える。
「ネズコくん、|こ《・》|れ《・》|だ《・》|け《・》|あ《・》|っ《・》|た《・》|ら《・》、|ど《・》|れ《・》|を《・》|買《・》|っ《・》|た《・》|ら《・》|良《・》|い《・》|か《・》|迷《・》|っ《・》|ち《・》|ゃ《・》|い《・》|そ《・》|う《・》と言っていたのは、キミ自身じゃないか? 全国カレーフェアの売り上げ改善策の極意は、ズバリ、キミが語った言葉の中にある」
「えっ? えぇ〜!?」
 何気なく発した自分の一言の中に、そんな極意とやらが隠されていたなんて……。
 驚く私を尻目に、ネコ先輩は猪狩さんに具体的な方策を説明する。
 そして、不敵な笑みを浮かべて、いつものように宣言した。
「舞台は整った――――――さぁ、|実《・》|証《・》|の《・》|時《・》|間《・》だよ」