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第1回

ー/ー



●邂  逅

 果てなく広い、茫漠とした白い空間にその()は立っていた。

 すべてが色槌せた空間。
 無音の閉ざされた空間において、まだ造りに幼さの残る男が真正面からセオドアを見つめている。

 この、白と黒の濃淡の世界で、唯一色を感じさせるその瞳が自分と全く同じ碧翠眼であることに気付いて、セオドアは安堵とともに懐かしさを感じていた。

 これは、だれよりも自分に近しい者であると。

『ようやく会えたね』

 男はそう言って、品のある、やわらかなほほえみを浮かべる。

『ずっと、きみが来るのを待っていたんだよ』

 優しい――蒼駕に勝るとも劣らない、とても優しい響きで告げたあと、しばしの間男は彼女を見つめ、そして感慨をこめた一言を口にした。

『新しい、俺』

 その発言に疑問を抱くよりも前に、胸を締め付ける強い思慕の情から、セオドアはそれが事実であると直感していた。

 これはかつての自分であり、そして現在の自分に一番近しい、もの。存在であることを、魂の奥深くでセオドアは理解していたのだ。

『さあ今こそこれを渡そう。きみの物だ。あの世界において、唯一、きみだけのために存在する、きみの一部』

 懐かしい手触りと重み。感触。
 初めての手触りなのに、それを懐かしいと感じる自分がいた。
 不思議に思い、顔を上げたセオドアの前で、男の姿が不意に乱れる。

『これで俺も安心して、消えることができる』

「って、何を――」

 驚き、目を見張るセオドアの前で、しかし男の姿は確実に透けていく。

『俺はただの幻だ。初めから。この世界に戻ってくる新しい俺に、確実にそれを渡すためだけの。
 使命が尽きれば、記憶の層壁となって消えるだけだ』

「い、いやだ! 行くな!」

 あせり、必死に留めようと手を伸ばすセオドアに、くすりと陽炎のようになった男が笑う。

『ばかを言うんじゃない。俺は、きみじゃないか。俺はもう過ぎた、終わった時間の記憶で、今ここにいる俺は、それを封じてきたただの残留思念でしかないんだ。
 そしてきみが()だ。セオドア。竜心珠の魔導杖を持つ碧翠眼の退魔師は、この世にきみ1人だけ。
 それだけの力を誇りとしてその時代を生きるか、それとも放棄し、ただの人としてその時間を終えるかは、きみ次第だよ』

 その言葉は母・アスールの言葉と重なった。
 ためらうセオドアに、もう大部分が薄れた男が、最後に厳しい表情を浮かべて警告を発する。

の言いなりにだけはならないように。さっきは助けてくれたが、それもやつなりの目的あってのことだ。
 は、絶対に俺たちの味方にはなり得ない。大体のときは従順にふるまうだろう。だが常に傍らで隙をうかがい、その存在を失念した瞬間喉笛へと食らいつく。獣と同じだ。
 決して主導権を渡してはいけないよ』

「あいつ? あいつとはだれだ? どういう意味――」

 問い返す。その前で男の姿はふっと掻き消えて、もうどこからも気配を感じることはできなくなる。
 今はもう、自分1人。

「ジンユウ……」

 セオドアは、熱くなった目頭に腕を当てて、その場に立ち尽くしていた。


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●邂  逅
 果てなく広い、茫漠とした白い空間にその|男《・》は立っていた。
 すべてが色槌せた空間。
 無音の閉ざされた空間において、まだ造りに幼さの残る男が真正面からセオドアを見つめている。
 この、白と黒の濃淡の世界で、唯一色を感じさせるその瞳が自分と全く同じ碧翠眼であることに気付いて、セオドアは安堵とともに懐かしさを感じていた。
 これは、だれよりも自分に近しい者であると。
『ようやく会えたね』
 男はそう言って、品のある、やわらかなほほえみを浮かべる。
『ずっと、きみが来るのを待っていたんだよ』
 優しい――蒼駕に勝るとも劣らない、とても優しい響きで告げたあと、しばしの間男は彼女を見つめ、そして感慨をこめた一言を口にした。
『新しい、俺』
 その発言に疑問を抱くよりも前に、胸を締め付ける強い思慕の情から、セオドアはそれが事実であると直感していた。
 これはかつての自分であり、そして現在の自分に一番近しい、もの。存在であることを、魂の奥深くでセオドアは理解していたのだ。
『さあ今こそこれを渡そう。きみの物だ。あの世界において、唯一、きみだけのために存在する、きみの一部』
 懐かしい手触りと重み。感触。
 初めての手触りなのに、それを懐かしいと感じる自分がいた。
 不思議に思い、顔を上げたセオドアの前で、男の姿が不意に乱れる。
『これで俺も安心して、消えることができる』
「って、何を――」
 驚き、目を見張るセオドアの前で、しかし男の姿は確実に透けていく。
『俺はただの幻だ。初めから。この世界に戻ってくる新しい俺に、確実にそれを渡すためだけの。
 使命が尽きれば、記憶の層壁となって消えるだけだ』
「い、いやだ! 行くな!」
 あせり、必死に留めようと手を伸ばすセオドアに、くすりと陽炎のようになった男が笑う。
『ばかを言うんじゃない。俺は、きみじゃないか。俺はもう過ぎた、終わった時間の記憶で、今ここにいる俺は、それを封じてきたただの残留思念でしかないんだ。
 そしてきみが|今《・》だ。セオドア。竜心珠の魔導杖を持つ碧翠眼の退魔師は、この世にきみ1人だけ。
 それだけの力を誇りとしてその時代を生きるか、それとも放棄し、ただの人としてその時間を終えるかは、きみ次第だよ』
 その言葉は母・アスールの言葉と重なった。
 ためらうセオドアに、もう大部分が薄れた男が、最後に厳しい表情を浮かべて警告を発する。
『《《あいつ》》の言いなりにだけはならないように。さっきは助けてくれたが、それもやつなりの目的あってのことだ。
 《《あれ》》は、絶対に俺たちの味方にはなり得ない。大体のときは従順にふるまうだろう。だが常に傍らで隙をうかがい、その存在を失念した瞬間喉笛へと食らいつく。獣と同じだ。
 決して主導権を渡してはいけないよ』
「あいつ? あいつとはだれだ? どういう意味――」
 問い返す。その前で男の姿はふっと掻き消えて、もうどこからも気配を感じることはできなくなる。
 今はもう、自分1人。
「ジンユウ……」
 セオドアは、熱くなった目頭に腕を当てて、その場に立ち尽くしていた。