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第8話 死闘

ー/ー



「ぎゃあああああ!?」

 何人かの兵の悲鳴が響いた。
 もっとも、悲鳴を上げてのたうちまわれる者は、まだまだ生きている分マシだろう。悲鳴を上げる間もなく全身を焼かれて絶命した者もいるようだ。

 如月自身はこの対策のために用意してあった大甕に飛び込んで無事だった。
 夜斗(やと)が火炎を放つことは分かっていたので、その対策のために多くの甕を用意し、水を張っておいたのだ。
 だが、これほど広範囲に放つことが出来るとは思ってもいなかった。
 かつて戦った日斗(にと)は、洞窟の中で戦ったことや、戦ったのが師と自分だけだったから、そうしなかったのか。

『小賢しい。我が炎に抗うとは』

 ざっと見まわす。動ける兵はすでに半分程度か。
 だが、まだ十分な数がいるとは言える。
 勝ち目はまだある。

「射かけろ!」

 如月の声に、射手がはっとなったように次々に矢を番え、放つ。
 それは正確に狙いを定めたものではないが、それでも十以上の矢が次々と飛来するのだ。おそらく先に数本受けた時点で、漆が塗られているのは夜斗(やと)も気付いているだろう。
 だから当然、無視はできない。
 身体をくねらせ、移動し、矢を避けようとする。

 そして蛇が移動しようとすれば、当然だが頭が地面に近付くことになる。
 それこそが、如月の狙いだった。

 夜斗(やと)の弱点は、頭。
 正しくは、牙。

 日斗(にと)は、師が捨て身で攻撃した際、牙を傷つけられた。
 その際、火炎が暴発し、日斗(にと)は自爆したのである。
 慌てて逃げようとした日斗(にと)に対して、如月がさらにその牙を叩き折った結果、火炎それ自体が日斗(にと)の全身を焼き尽くして倒せたのだ。
 どうやら、あれの牙は火炎を制御するための何かなのだろう。
 その事実を夜斗(やと)自身が知っているかは分からないが、いずれにせよ地面に頭が近付けば、攻撃の機会が出来る。

 如月は矢が降る場に突っ込んだ。
 ここからは運だ。
 兵には、自分が突っ込んでも気にせず矢を射放しろと言ってある。
 矢が尽きれば、夜斗(やと)は攻撃をするために鎌首をもたげるだろう。
 だがそうなれば、頭の位置が上がり、如月の攻撃は届かない。
 だから、夜斗(やと)には移動し続けてもらう必要があるのだ。
 移動していても、夜斗(やと)の移動速度はそこまで速くはない。
 そして夜斗(やと)は、矢が降り注ごうが、必ず如月を狙ってくるのだ。

『小賢しい! 死ね、人間!』

 正面から夜斗(やと)の首が迫る。
 首で攻撃する以上、つまりは如月を食らうつもりだ。
 そうなれば当然、牙が露出するので、その瞬間を狙おうとして――。
 如月は、夜斗(やと)の口の端から、赤い輝きが漏れているのに気付いた。

(まずい――!!)

 反射的に、如月は横に飛びのいた。
 直後、如月が立っていた場所を直線状の火線が抜ける。
 あの場に立っていたら、確実に炎を受けて死んでいた。

 だが、飛びのいた時に体勢が崩れてしまい、その立て直しに一瞬かかる。
 そしてその隙を逃す夜斗(やと)ではなく――。

「おりゃああ!!!!」

 如月に迫る首。その横合いから、強烈な音と共に大太刀が振り下ろされた。

『があ!?』

 斬ったのは、兵の一人。如月に――妖切りに――対しても隔意がなく、ざっくばらんに声をかけてきてくれた一人だ。
 刃が四尺(百二十センチ)はあるその大太刀には、無論たっぷりと漆が塗られている。
 そしてそれは、蛇の鱗をも切り裂き、鮮血を散らせた。

『おのれぇ!!』

 その瞬間、蛇の身体が大きく、まるで痙攣でもしたかのようにブレた。
 それが、最初に矢を受けた時の動きだと気付くのに数瞬。
 直後、その場にいた者は、如月を含めて全員が弾き飛ばされていた。

「ぐは!?」

 何が起きたのかと理解が出来ないまま、如月は厩の飼葉の中に突っ込んだ。
 ただ、これは相当に運が良かったといえる。
 他の者は、吹き飛ばされて壁に激突し、中には壁と共に崩れてそのまま見えなくなっていた。

(実質、体当たりの直撃を受けたような……ものか)

 おそらく夜斗(やと)は、身体を痙攣させるように震わせることで、蛇の胴を左右に思いっきり振ったのだ。
 結果、蛇の近くにいた者はことごとくその胴に激突し、吹き飛ばされたのだろう。
 狙いを定めるわけではなくても、あの巨体であれば近くにいる者はどうやっても巻き込まれる。
 回避など出来るわけもない。

 そして十分な勢いがあるわけではないとはいえ、あの巨体での一撃は、人間には十分な威力がある。
 少なくとも、馬に激突された程度の衝撃はあった。

『おのれ……たかが人間が……我に傷を負わせるなど……もう良い。全てを殺し尽くして――ぬ!?』
「残念だが、私はまだ生きている。まず私を殺すのだろう?」

 如月は全身の痛みをこらえて夜斗(やと)の前に立った。
 先ほど吹き飛ばされた際に、少なくとも骨にヒビくらいは入ったのだろう。
 あちこちに激痛が走る。
 だが、まだ動ける。
 おそらく時間が経てば痛みはさらに増し、動くことすらできなくなるだろう。
 つまりもう、時間は残されていないが、どちらにせよこちらも限界だ。

「さあ、どうする。お前は私を食らうのではないのか」

 すでに周囲には兵はいない。先の一撃は、どうやらすべての兵が巻き込まれていたらしい。
 全員が死んでいるとは思わないが、動ける者もいないだろう。
 そして、すでに邸にもかなり火が回っている。
 雫姫は無事だろうか、というのが心配ではあるが、火が点く可能性は事前に示唆してあったし、八次もいる。無事であると信じるしかないだろう。

『良かろう――ならば望み通り、汝を食ろうてやろう。安心せよ。無駄に苦しめはせん。ほんの一瞬で、涅槃へ旅立たせてくれる!』

 夜斗(やと)が鎌首をもたげる。
 そしてそこから、矢のような勢いで首が迫ってきた。
 普通の蛇であればその速さは文字通り矢のような勢いであり、とてもではないが見切れるものではない。

 だが、夜斗(やと)の巨大な大きさでは、その速度は騎馬が飛び込んでくる、せいぜいその倍程度。
 その巨体にしては速いが、見えないというほどではない。
 とはいえ、その速度で、文字通り人間を丸呑みに出来るほどの巨大な蛇の頭が迫るというのは、それだけで心胆寒からしめるものではあるが――。

 瞬間、如月の脳裏に雫の姿が浮かんだ。
 花畑で、如月が編んだ花冠を頭にのせた彼女が微笑んだ様子は、本当に美しく、そして愛らしいと思えた。

 彼女がいなければ、今自分は生きていなかった。
 その恩を返すために、彼女を守るために、ここへ来たのだ。
 今ここで、自分が食われれば彼女を救うことは出来ない。
 命に代えても、ここで夜斗(やと)は倒さなければならないのだ。
 だから――。

 蛇の巨大な口が目の前に迫る。
 この状態で、牙に刀を当てても十分な一撃にならず、せいぜい傷つけるだけだろう。
 だが、日斗(にと)と戦った時と異なり、ここは屋外。
 もし逃げられて、再び夜斗(やと)が襲来するとなれば、今度こそ勝ち目はない。
 だから、確実に一撃で終わらせる必要がある。

 如月は、突っ込んでくる夜斗(やと)の首に対して、避けることも逃げることもせず――一瞬かがんで何かを拾った直後、前に突っ込んだ。
 だが、すでに口を開けている夜斗(やと)は、その動きは自らの口に邪魔されて、十分には見えない。
 だから、如月が刀のほかに、もう一つ大きな棒状のものを持っていたことに気付けなかった。

 重さ三貫(約十キロ)、長さ六尺(約百八十センチ)にもなる、総身鉄誂えの槍。
 こんなものを使う人間はまずいない、戦場(いくさば)で馬にまたがった武士がたまに使う程度の特殊な槍だ。
 この家に置いてあったそれは、元は武門の家柄だった久遠院家のものだったらしいが、今回、如月はこれをずっと持ち出していたのだ。
 そして、夜斗(やと)の前に立つ際に、地面に置いておいたのである。

 蛇の口が迫る。
 夜斗(やと)は、如月を確実にその口でとらえるべく大きく開いていたが、如月はそこに飛び込んだ。
 だが、如月が前に飛び込んだことで、夜斗(やと)が想定しているより一瞬早く、如月の身体は蛇の口の中に入る。
 すぐさまその口を閉じようとした夜斗(やと)は、しかし口に激痛を感じて閉じることが出来なかった。
 槍が文字通りつっかえ棒のように夜斗(やと)の口が閉じるのを妨害していたのである。
 そしてその予想外の状態に、夜斗(やと)の動きは一瞬止まり――如月の目の前に、蛇の牙があった。

「破ぁ!!」

 身体の痛みを全て無視して、如月は刀を、真一文字に振り抜いた。
 その軌道上にあるのは、蛇の巨大な二本の牙。
 それを刀は、容赦なく両方とも叩き折った。

『があ!?』

 その瞬間、まるで爆発したかのように炎が溢れた。
 その圧力はすさまじく、至近距離で浴びた如月はその勢いで吹き飛ばされ、地面に転がった。

「あ、が」

 先に炎を避けるために全身に水を浴びていたとはいえ、その威力は桁違いで、顔は覆ったものの、激痛が全身を襲う。

 だが、それ以上に致命的な状態になっているのは、夜斗(やと)だった。

『ガアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 夜斗(やと)の全身が炎に包まれている。
 あの日斗(にと)と同じだ。
 牙のあった場所から際限なく炎が噴き出し、しかし制御できずにその身を焼いている。
 あまりにも不謹慎ながら、巨大な蛇焼きが出来そうだと如月は思ってしまった。
 とても不味そうだが。

 のたうちまわる夜斗(やと)だが、その炎の勢いはとどまることを知らず、やがて地面に倒れると、そのままびくり、びくりと震えるだけになった。

「勝った……か」

 これを勝ったと言っていいのかと思うような状態だが、それでも如月は生きている。
 周囲を見ると、兵も数人は生きているようだ。

 全身の痛みに堪えて立ち上がると――邸から人が出てくるのが見えた。
 雫と八次だろう。
 最後の報告をするため、如月は刀を杖代わりにして何とか倒れぬようにして、二人が来るのを待つのだった。



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 何人かの兵の悲鳴が響いた。
 もっとも、悲鳴を上げてのたうちまわれる者は、まだまだ生きている分マシだろう。悲鳴を上げる間もなく全身を焼かれて絶命した者もいるようだ。
 如月自身はこの対策のために用意してあった大甕に飛び込んで無事だった。
 夜斗《やと》が火炎を放つことは分かっていたので、その対策のために多くの甕を用意し、水を張っておいたのだ。
 だが、これほど広範囲に放つことが出来るとは思ってもいなかった。
 かつて戦った日斗《にと》は、洞窟の中で戦ったことや、戦ったのが師と自分だけだったから、そうしなかったのか。
『小賢しい。我が炎に抗うとは』
 ざっと見まわす。動ける兵はすでに半分程度か。
 だが、まだ十分な数がいるとは言える。
 勝ち目はまだある。
「射かけろ!」
 如月の声に、射手がはっとなったように次々に矢を番え、放つ。
 それは正確に狙いを定めたものではないが、それでも十以上の矢が次々と飛来するのだ。おそらく先に数本受けた時点で、漆が塗られているのは夜斗《やと》も気付いているだろう。
 だから当然、無視はできない。
 身体をくねらせ、移動し、矢を避けようとする。
 そして蛇が移動しようとすれば、当然だが頭が地面に近付くことになる。
 それこそが、如月の狙いだった。
 夜斗《やと》の弱点は、頭。
 正しくは、牙。
 日斗《にと》は、師が捨て身で攻撃した際、牙を傷つけられた。
 その際、火炎が暴発し、日斗《にと》は自爆したのである。
 慌てて逃げようとした日斗《にと》に対して、如月がさらにその牙を叩き折った結果、火炎それ自体が日斗《にと》の全身を焼き尽くして倒せたのだ。
 どうやら、あれの牙は火炎を制御するための何かなのだろう。
 その事実を夜斗《やと》自身が知っているかは分からないが、いずれにせよ地面に頭が近付けば、攻撃の機会が出来る。
 如月は矢が降る場に突っ込んだ。
 ここからは運だ。
 兵には、自分が突っ込んでも気にせず矢を射放しろと言ってある。
 矢が尽きれば、夜斗《やと》は攻撃をするために鎌首をもたげるだろう。
 だがそうなれば、頭の位置が上がり、如月の攻撃は届かない。
 だから、夜斗《やと》には移動し続けてもらう必要があるのだ。
 移動していても、夜斗《やと》の移動速度はそこまで速くはない。
 そして夜斗《やと》は、矢が降り注ごうが、必ず如月を狙ってくるのだ。
『小賢しい! 死ね、人間!』
 正面から夜斗《やと》の首が迫る。
 首で攻撃する以上、つまりは如月を食らうつもりだ。
 そうなれば当然、牙が露出するので、その瞬間を狙おうとして――。
 如月は、夜斗《やと》の口の端から、赤い輝きが漏れているのに気付いた。
(まずい――!!)
 反射的に、如月は横に飛びのいた。
 直後、如月が立っていた場所を直線状の火線が抜ける。
 あの場に立っていたら、確実に炎を受けて死んでいた。
 だが、飛びのいた時に体勢が崩れてしまい、その立て直しに一瞬かかる。
 そしてその隙を逃す夜斗《やと》ではなく――。
「おりゃああ!!!!」
 如月に迫る首。その横合いから、強烈な音と共に大太刀が振り下ろされた。
『があ!?』
 斬ったのは、兵の一人。如月に――妖切りに――対しても隔意がなく、ざっくばらんに声をかけてきてくれた一人だ。
 刃が四尺《百二十センチ》はあるその大太刀には、無論たっぷりと漆が塗られている。
 そしてそれは、蛇の鱗をも切り裂き、鮮血を散らせた。
『おのれぇ!!』
 その瞬間、蛇の身体が大きく、まるで痙攣でもしたかのようにブレた。
 それが、最初に矢を受けた時の動きだと気付くのに数瞬。
 直後、その場にいた者は、如月を含めて全員が弾き飛ばされていた。
「ぐは!?」
 何が起きたのかと理解が出来ないまま、如月は厩の飼葉の中に突っ込んだ。
 ただ、これは相当に運が良かったといえる。
 他の者は、吹き飛ばされて壁に激突し、中には壁と共に崩れてそのまま見えなくなっていた。
(実質、体当たりの直撃を受けたような……ものか)
 おそらく夜斗《やと》は、身体を痙攣させるように震わせることで、蛇の胴を左右に思いっきり振ったのだ。
 結果、蛇の近くにいた者はことごとくその胴に激突し、吹き飛ばされたのだろう。
 狙いを定めるわけではなくても、あの巨体であれば近くにいる者はどうやっても巻き込まれる。
 回避など出来るわけもない。
 そして十分な勢いがあるわけではないとはいえ、あの巨体での一撃は、人間には十分な威力がある。
 少なくとも、馬に激突された程度の衝撃はあった。
『おのれ……たかが人間が……我に傷を負わせるなど……もう良い。全てを殺し尽くして――ぬ!?』
「残念だが、私はまだ生きている。まず私を殺すのだろう?」
 如月は全身の痛みをこらえて夜斗《やと》の前に立った。
 先ほど吹き飛ばされた際に、少なくとも骨にヒビくらいは入ったのだろう。
 あちこちに激痛が走る。
 だが、まだ動ける。
 おそらく時間が経てば痛みはさらに増し、動くことすらできなくなるだろう。
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 全員が死んでいるとは思わないが、動ける者もいないだろう。
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 夜斗《やと》が鎌首をもたげる。
 そしてそこから、矢のような勢いで首が迫ってきた。
 普通の蛇であればその速さは文字通り矢のような勢いであり、とてもではないが見切れるものではない。
 だが、夜斗《やと》の巨大な大きさでは、その速度は騎馬が飛び込んでくる、せいぜいその倍程度。
 その巨体にしては速いが、見えないというほどではない。
 とはいえ、その速度で、文字通り人間を丸呑みに出来るほどの巨大な蛇の頭が迫るというのは、それだけで心胆寒からしめるものではあるが――。
 瞬間、如月の脳裏に雫の姿が浮かんだ。
 花畑で、如月が編んだ花冠を頭にのせた彼女が微笑んだ様子は、本当に美しく、そして愛らしいと思えた。
 彼女がいなければ、今自分は生きていなかった。
 その恩を返すために、彼女を守るために、ここへ来たのだ。
 今ここで、自分が食われれば彼女を救うことは出来ない。
 命に代えても、ここで夜斗《やと》は倒さなければならないのだ。
 だから――。
 蛇の巨大な口が目の前に迫る。
 この状態で、牙に刀を当てても十分な一撃にならず、せいぜい傷つけるだけだろう。
 だが、日斗《にと》と戦った時と異なり、ここは屋外。
 もし逃げられて、再び夜斗《やと》が襲来するとなれば、今度こそ勝ち目はない。
 だから、確実に一撃で終わらせる必要がある。
 如月は、突っ込んでくる夜斗《やと》の首に対して、避けることも逃げることもせず――一瞬かがんで何かを拾った直後、前に突っ込んだ。
 だが、すでに口を開けている夜斗《やと》は、その動きは自らの口に邪魔されて、十分には見えない。
 だから、如月が刀のほかに、もう一つ大きな棒状のものを持っていたことに気付けなかった。
 重さ三貫《約十キロ》、長さ六尺《約百八十センチ》にもなる、総身鉄誂えの槍。
 こんなものを使う人間はまずいない、戦場《いくさば》で馬にまたがった武士がたまに使う程度の特殊な槍だ。
 この家に置いてあったそれは、元は武門の家柄だった久遠院家のものだったらしいが、今回、如月はこれをずっと持ち出していたのだ。
 そして、夜斗《やと》の前に立つ際に、地面に置いておいたのである。
 蛇の口が迫る。
 夜斗《やと》は、如月を確実にその口でとらえるべく大きく開いていたが、如月はそこに飛び込んだ。
 だが、如月が前に飛び込んだことで、夜斗《やと》が想定しているより一瞬早く、如月の身体は蛇の口の中に入る。
 すぐさまその口を閉じようとした夜斗《やと》は、しかし口に激痛を感じて閉じることが出来なかった。
 槍が文字通りつっかえ棒のように夜斗《やと》の口が閉じるのを妨害していたのである。
 そしてその予想外の状態に、夜斗《やと》の動きは一瞬止まり――如月の目の前に、蛇の牙があった。
「破ぁ!!」
 身体の痛みを全て無視して、如月は刀を、真一文字に振り抜いた。
 その軌道上にあるのは、蛇の巨大な二本の牙。
 それを刀は、容赦なく両方とも叩き折った。
『があ!?』
 その瞬間、まるで爆発したかのように炎が溢れた。
 その圧力はすさまじく、至近距離で浴びた如月はその勢いで吹き飛ばされ、地面に転がった。
「あ、が」
 先に炎を避けるために全身に水を浴びていたとはいえ、その威力は桁違いで、顔は覆ったものの、激痛が全身を襲う。
 だが、それ以上に致命的な状態になっているのは、夜斗《やと》だった。
『ガアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
 夜斗《やと》の全身が炎に包まれている。
 あの日斗《にと》と同じだ。
 牙のあった場所から際限なく炎が噴き出し、しかし制御できずにその身を焼いている。
 あまりにも不謹慎ながら、巨大な蛇焼きが出来そうだと如月は思ってしまった。
 とても不味そうだが。
 のたうちまわる夜斗《やと》だが、その炎の勢いはとどまることを知らず、やがて地面に倒れると、そのままびくり、びくりと震えるだけになった。
「勝った……か」
 これを勝ったと言っていいのかと思うような状態だが、それでも如月は生きている。
 周囲を見ると、兵も数人は生きているようだ。
 全身の痛みに堪えて立ち上がると――邸から人が出てくるのが見えた。
 雫と八次だろう。
 最後の報告をするため、如月は刀を杖代わりにして何とか倒れぬようにして、二人が来るのを待つのだった。