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第11話 候補生の休日 -1/3- ②

ー/ー



■ ■ ■

宿舎に戻ると、なにやら騒がしかった。女子達が一階に多くいて、皆ばたばたしている。
――というか、何故か、皆ドレスを着ている。
「あれ?」
外出は普通、訓練着のはずだからプラグは首を傾げた。

「あ、リルカ。どうかしたの? 皆ドレスだけど」
プラグはちょうど通りかかったリルカに尋ねた。
リルカも今日は髪を解いておしゃれをしている。濃い緑色のドレスを着ていて、こうしてみると、背は低いが大人っぽい印象がある。
「うん、今日の外出、隊長がドレスでいいよって。広場の劇、見に行くの! カタリベさんのやつ」
「ああ、そうなのか」
どうやらリズの計らいらしい。
そして外出予定で無かった女子も起き出したのだろう。リルカは急いでいるらしく、じゃあ、支度あるから、と言って歩いて言った。

女子の間を歩いて、階段を上がろうとしたら声を掛けられた。
「あ。そう言えばプラグ君、妹さんの荷物が届いてたわよ。間違って?」
――と、言ったのは濃い青髪に、眼鏡の少女、キャンベルだった。キャンベルはいつも三つ編みだが、彼女も今日は髪をほどいて、左右に黄色いリボンを付けている。深い色合いの、紫色のドレスが可愛らしい。眼鏡をかけているが目が大きいし、瞳が金色なので、色合いも良く人目を惹きそうだ。
「え?」
「それが、重くて、運ぶ時、男子がうっかりぶちまけたのよ。箱が壊れちゃって。中身が飛び出て。で、中身が間違ってて、それを見た隊長が、そうだ服を替えようと言い出したの。私寝るつもりだったけど、慌てて着替えたの」
どうやら危なかったらしい。
箱――おそらく木箱、と言う事は、サリーが言っていた荷物が届いたのだろう。
「詰め間違えたのかな?」
プラグは呟いておいた。
「一応、部屋に運んであるって――あ。ちょっと後ろ見て。髪のリボン、おかしくない?」
「あ、ちょっと緩んでる。直すよ――、……よし、いいよ」
プラグは綺麗に結び直して微笑んだ。キャンベルが笑顔になった。
「ありがと! ねえ、このドレス派手じゃない? 首都だからこのくらいは、ってお母さんが送ってきたんだけど……この色、着るの初めてなのよ」
「大丈夫だよ。凄く似合ってる」
「ならよかった! 一緒に行く人は十二時半に門前だって。あと行きたい精霊は、プレートを隊長に渡せば『闇』に入れて、連れていってくれるって。さっき集めてたわ。プラグ君はどうする?」
「うーん。迷うな……出かける予定はあるけど……劇か……精霊達は行くと思う」
プラグはとりあえず明言は避けた。
「階段広場でやってるから、もしよかったらね」
「うん、ありがとう」
プラグは言って、二階に上がって、二十五号室入った。

「お帰り、遅かったわね?」
アルスは自分の机に向かっていて、ひたすら髪の毛と格闘していた。普段も、巻き毛は一見、華やかだが寝癖が付きやすいのだ、と嘆いている。そしてナダ=エルタとラ=ヴィア、ウル=アアヤも実体化して、何やら持ち物をまとめている。コル=ナーダとイル=ナーダは霊体のまま浮いていた。
シオウはもう出て行ったようだ。

「荷物、届いてるわよ。箱が壊れちゃったんだけど、ちょっと大きいわよね?」
アルスが苦笑する。床に置かれているのだが、確かに、腰の下くらいまである大きな木箱だ。蓋は開いている。中を見るとドレスや小物がぎっしり詰まっていた。
蓋にはしっかり『プラグ・カルタ様』と書かれているので、皆が入れ間違えだと思ったのだろう。
「ああ、まとめて送ってきたんだな。置く場所がないぞ……」
「運んだ男子が――階段でぶちまけたのよ。沢山ドレスが入ってたから、隊長がよし、って言い出したらしくて。精霊達が皆に触れ回ってたわ。今日の外出は私服でいいって。精霊も霊体で連れて行くって。だから皆で支度を始めたんだけど、髪型どうしようかしら」
アルスは鏡を見ている。
「帽子を買うから、あまり上げない方がいいかも?」
「そうね。編み込みかしら。あー! 難しいのよ……こっちのがいいかしら?」
アルスは髪型の本を開いていて、頁をめくっている。勉強机の上には鏡が置かれ、色違いのリボンが並んで、櫛やピンが散乱している。
「服は決まった?」
プラグは尋ねた。アルスはまだ白い部屋着だ。この部屋着というのは、訓練着の下に着るシャツで、下は訓練着のズボンだ。アルスもすっかり慣れている。
「決まったというか、一着しかないから」
アルスは王女なのだが、一着しか服を持って来ていないらしい。元々、候補生は訓練着で過ごすと知っていたのかもしれない。それにしても荷物も少ないし、とても思い切りがいい。
「じゃあ――この中から選ぶ? たぶんアルスなら着られると思うし。そしたら髪型も決まるかも」
プラグの提案に、アルスは目を輝かせた。
「いいの!?」
「もちろん」
「ありがとう! 可愛いなって思ったのよ。見ていい!?」
「うん、どんなのが届いたかな」
プラグは一着ずつ取り出していく。

結果、箱の中には色とりどりのドレスが長袖三着、七分袖が一着。半袖が五着。小さめの鞄が三つ、靴が五足、後は夏の肌着、長袖ブラウス二枚、半袖ブラウスが三枚、夏用の外付けコルセットが二つ。夏用スカートが三枚に、春夏の巫女の付け襟。後は靴下――更に小物や装飾品の詰まった箱が、ぎっしりと入っていた。上の方の詰め方が雑だったのは一度飛び出したからだろう。
ちなみにプラグ用の物も、一応下の方に、こちらは紙で包んで入れられていた。
引っ越しでもするのか、と言う大荷物だ。
手紙も入っていて『アメルは首都の別邸に引っ越しするという設定でいきましょう。色々詰めたので、必要な物だけ手元に置いて、後は場所がなければ別邸の、私の部屋に置いて下さい。部屋は着替えや荷物置き等、自由に使って大丈夫です』と書かれていて、地図が同封されていた。相変わらず目茶苦茶だ。
しかし何故こちらに送ったのだろう? と思ったが、地図を見ると少し離れているので、いちいち取りに行くのが大変だから……かもしれない。

「きゃあ、すごい、可愛い。小物も靴も鞄もあるわ。靴は新品?」
「こんなに入れたのか」
「このドレスって、全部アメルちゃんの?」
「そうなんだけど……新しいのもあるな。あ、これはリアマのお下がりだ。見た事ある! くれたんだ。サリーは裁縫が得意で、あと服のデザインを考えるのが好きなんだ」
「それでこんなに可愛いのね――あれ、これって、ワットソニア!? 有名ブランドじゃ無い!?」
「サリーはお金持ちなんだ。そっちはたぶんラリトプール」
「わ、本当だわ! えっ、これ可愛い……見たこと無い模様!」
「格子柄? だったかな、それにする? 似合いそう」
アルスが選んだのは、大きめの白い襟が付いたドレスで、上半身は格子柄――赤茶色、白、ピンク色などの線を交差させた模様、のベストになっていて、スカートは白。ボックスプリーツの中と、裾に同じ格子模様があり、後ろに同じ柄のリボンがついていて、裏地にラリトプール、と書かれた刺繍タグがある。
格子柄は遠目では赤茶色に見える。活動的な印象なので、アルスには絶対似合う。
「ええ、これにするわ! 憧れのブランドだもの。可愛い。アメルはどうするの?」
「俺は――あ。これ……これかな。ワットソニアもいいけど、アメルはアール・ショコラも好きなんだよな。ここの夏服が可愛くて……」
プラグが選んだのは薄緑色を基調としたドレスで、白の縦縞がたくさん入っている。
袖は膨らみ、カフスから全てレースになっていて、四角い襟は白。とても涼しげだ。
どうやら、カフスや襟が取り外せるらしい。
「それも可愛いわよね! すごく可愛い色!」
「じゃあ着替えよう。時間が」
「あ、そうね」
二人は慌ただしく支度を始めた。
アルスのベッドは更衣室になっていて、今はアルスが着替えているので、プラグは外を使っている。
「よし――ラ=ヴィア、髪を」
「ミ――!」
ラ=ヴィアが水を張った洗面器を用意してくれていたので、ふたりして、水鏡を覗き込む。
『る・ふぃーら・でぃあせす!』
声を揃えて、髪を伸ばす。

「ふふ――あ、あー、私はアメル」
プラグは声を変えて、アメルの完成だ。

――『アメル』は瞬きをして鏡を覗き込み「さて、髪をどうしましょう?」と呟いた。
すかさず、ラ=ヴィアが髪を梳かしてくれる。
「プラ――アメルさん、かわいいです!」
とナダ=エルタがはしゃいだ。ナダ=エルタはプラグの襟――白くて四角くて、レースで縁取られている――を手に取って「素敵ですね!」と言ってくれた。
「ふふ、ありがとうございます」
ふと見ると、ナダ=エルタの服装がいつもと少し違っている。エプロンドレスのエプロンがなくなり、可愛い付け襟が付き、スカートには総レースの覆いが付いている。
「あら、ナダ、服を変えたのですか?」
「はい、先輩達に教わって、なんとかできました!」
精霊はこうやって、自由にお洒落を楽しんでいるが、ラ=ヴィアはいつもそのままだ。
彼女は自分の服装にこだわりがあるらしい。

「髪飾り、どうする? リボン?」
ラ=ヴィアが箱を持って来て見せた。
箱の中には、こんなに、というくらい詰め込まれている。お下がり――つまりカルタの巫女からの贈り物もある。カルタの巫女はサリチルの影響で、お洒落に敏感な分、こうして使いきれない物も出てくる。それは後輩に受け継がれ、使い回しされていく。サイズを選ばない、ブローチやネックレス、ブレスレット、留め具、手袋やスカーフ、リボンなどだ。

――アメルは『本当にお引っ越しの荷物ですわね』と思った。
「えーっと髪飾りは……あ、これにしましょう、色がお揃いだわ。少し下の方で二つに結んで……」
アメルはレースの付いた、サリチルが作ったらしい、お揃いの、縞模様のリボンを見つけて、髪に結んだ。鞄は薄茶色の小さな肩掛け鞄があったのでそれにする。薔薇の型押しがあって可愛い。
靴は鞄に似た色の物が、抜かりなく入っている。夏という言う事でブーツではなく短い紐靴だった。サイズもちょうどいい。
「そうね……カバンはこれで。サリーにお礼を言わないと……靴は……これかしら? それにしても、いっぱい……どこに置こうかしら……?」
アメルは苦笑した。全部、別邸に置いたら不便なのだが――この部屋には置けない。置き場所はリズに相談するしかない。

「巫女の襟は……付けていきましょうか」
休日なのでどちらでもいいのだが、せっかく夏用の付け襟があるのだ。この黄緑色のドレスは襟が外せるので、窮屈にもならない。
カルタでは、夏は暑いと言う事で、ケープではなく付け襟を付けていた。右肩、左肩に三角の垂れ布があり、後ろは真っ直ぐ。金色のボタンが付いていて、首元で留める。本当に『襟』と言ったささやかさだが、巫女の証しである『巫女章』のリボンと合わせるときちんと巫女に見える。
後は白い手袋をして、レースの靴下、靴を履いて、支度は完璧だ。
ちなみにストラヴェルはたまに雨が降るので、外出用のドレスは足首が見える長さになっている。足の見えないドレスは室内用か、登城用で、平民の場合、裾を引きずるドレスは晴れ着くらいしか持っていない。
雨の後は裾が汚れるし、歩きにくいしで実用性が低いのだ。しかし汚れる前提で、裾のレースや、下の方が外せる物、裾を持ち上げて、リボンで括るスカートなどはある。

ストラヴェル王国、夏の定番は、好きな色、好きな柄のスカートに夏用のコルセット、半袖の白いブラウス、靴下またはタイツに短い紐の靴、まはたショートブーツだ。
ブラウスは白以外もあり、フリルやレースがたっぷり付いている。素材は綿が多いが、稀に絹や麻もある。涼しげで、華やかなので見ていて飽きない。

「アルスお姉様、サイズはどうでしょう?」
支度が済んだので、アメルは声を掛けた。

するとカーテンの中から声がした。
「うん、いけるんだけど――ちょっと複雑。これ、貴方のサイズよね? ほとんどぴったりなんだけど……ホントにこんなに細いの?」
アルスに言われてアメルは苦笑した。
後ろはリボンで調整できるので、プラグより細いアルスなら余裕だろう。
「丈は? 大丈夫ですか」
「少し長いかしら。でも元が短めだから、大丈夫よ」
アルスがカーテンを開けて出て来た。
「……まあ! 可愛い!」
アメルは手を叩いた。このドレスは茶色っぽいので、アルスの髪色にもピッタリ合っていて、とても可愛い。
まるで本から出て来たようで、アメルは感激した。
もしかしたら、ふたりとも長い髪で、巻き毛だから、似合う服が似ているのかもしれない。アメルは濃茶の髪の毛だが、アルスは赤なので、アルスの方が華やかだ。
「はっ――紫! リボン、紫はありますか?」
アルスの瞳に合わせた物は無いだろうか、と思って箱を見ると、なんとしっかり入っていた。幅広の物で、三つ編みの先っぽに付けたら絶対可愛い。
「これで、決まりでしょう。緩く三つ編み、いえ後ろで四つ編みに。ラ=ヴィア?」
「ミ!」
ラ=ヴィアがアルスを引っ張って座らせ、髪をいじり出す。

「靴はどうします? 良ければ一足差し上げますけど……」
「ええっ? でも新品でしょ? アメルちゃん、足のサイズいくつ? プラグと一緒よね?」
「いえ、私は二十四セリチなんです」
「あら?」
アメルは手で口を隠して、こっそりと伝えた。
「ラ=ヴィアに頼んでほんのちょっとだけ、変えているんです。やっぱりサイズは重要ですから。中敷きを入れれば、アルス様も丁度良いと思います」
以前は足の大きさはそのままだったのだが、今はアメルの方が、ほんの僅かに小さくなっている。と言ってもまだ年齢的に大した違いはないのだが。今回から靴もサイズをアメルに合わせようと、サリーに二十四セリチの靴を頼んでいた。アメルは最終的に百六十三セリチのすらりとした美女という感じになる。
――プラグはこうやって、少しずつアメルの完成度を上げている。
後は胸――いっそ体ごとの変身なのだが、それはアルスに止められている。
「エッ? そうなの? 便利ねぇ……目の色も全然違うし、もう誰が見ても、貴方だって気付かないわよ。最初から可愛かったけど、もう鬘(かつら)じゃないし……」
「ふふ、そうですわね。今は丁度良いですけれど、兄はきっと、これから大きくなりますから。ラ=ヴィアのおかげです。これはいかがです? 踵も低いですし、あ、リボン付きの靴下もありますわ」
「ええっ、悪いわよ……」
「大丈夫です、試しにどうぞ。色もちょうどいいですよ」
「そう? あら、履きやすい……かも」
「歩いてみて下さい」

こうして、アルスの靴も決まった。
……アルスは遠慮して、ブーツを履こうとしたのだが、結局、貸す事に落ち着いた。
財布も持って、さて出かけよう、となったのだが。
「そういえば、一つ問題が……」
アメルは思い出して呟いた。
「どうしたの?」
「いえ、普通に着替えてしまいましたが。このまま降りると皆さんに出会います」
「あ……」
アルスが固まった。アルスもすっかり忘れていたらしい。
廊下には男子の気配があり、足音や会話が聞こえる。きっと女子が出かけるので、なら俺達も、と言う事なのだろう。
「どうしましょう?」
「裏口から入った事に――あ、いえここ男子棟よね? どうしましょう?」
「いっそ窓から入った事にしましょうか? それで窓から出ます?」
「えっ」
「トゥーワが兄を追って飛んで行ったので、追いかけて、窓から入りました?」
アメルの言葉に、アルスが声を上げて笑った。
「あははっ。ちょっと――さすがにそれは無理よ! どうしましょう……窓ね……」
アルスが、窓を開けてみる。
「……降りられる?」
屋根もなく、二階だが――今はちょうど、外に誰もいない。
「飛翔を使えば。プレートは降りてから隊長にお願いして、シオウ様に預けるとか……? シオウ様はどちらに?」
「馬を見に行くって言ってたわ。遠乗りでもするか、って。ふらっと出て行ったから、プレートの事忘れてそうね」
アルスが言った。どうやら入れ違いになっているようだ。
既に森を走っているなら、精霊に頼んでも届けるのは難しい。プレートは、一応、精霊任せではいけないと言われている。
「あら……見事に、入れ違いですわね……。届けて頂くのも難しいし……。では降りて、やはり隊長に預けましょうか?」
「……そうね、もう、そうしましょうか」
「皆様は後で隊長といらっしゃるのですか?」
振り返ってアメルが尋ねると、精霊達が頷いた。アメルは微笑んだ。

「では、窓を閉めて頂けますか? 行きましょう、ル・フィーラ!」
アメルは窓から飛び降りた。

■ ■ ■

「アルス様ー、どうぞ」
と言われたが、少々勇気が要る――しかし、訓練もしたから問題は無い……? と思って、窓枠に手を掛けて片膝を乗せた時、アルスは気が付いた。

アメル(プラグ)は忘れているようだが……ここから跳んだら、スカートの中がアメル(プラグ)に見えるのではないだろうか?

「アメルちゃん、ちょっと後ろ向いて! 悪いけどスカートが」
正直に言うと、アメルが「あっ」と声を上げた。やはり忘れていたらしい。
「短いズボンがありますから、それを履いてみては? 私も履いています」
アメルがドレスの裾を僅かに持ち上げて言った。
「えっそうなの? どれ?」
「――あ。でも、そう言えば、アルス様は普通に出て良いのでは?」
「あ」
アルスは気が付いた。アメルが部屋から出て来るのはおかしいが、アルスが出て来るのは普通だ。
「そうね、じゃあ普通に行くから待ってて!」
「はい」
可愛い返事を聞いてから振り返ると、ラ=ヴィアが短いズボンを見つけて、こちらに見せていた。
ドロワーズ……ではなくきちんとした半ズボンで、しかし素材は薄い。色は黒で裾には金色の縁取りがある。ウエストにボタンがあってすっきりと履けるようになっていて、男性用のボタンは付いていない。

「あれ、意外に可愛いわね……ちょっと履いてみようかしら……」
意外な所でプラグ――ではなくアメルの下着事情を知ってしまった。まあ、これは長さからして下着ではなく、その上に履く物だろう。
「サイズが合えば……」
腰に当ててみたところ、大丈夫そうだ。アルスは試しに履く事にした。すると意外にちょうどよく、動きやすい。
「あ、快適。もうこれでいいかも? じゃあ、跳んでみようかしら……」
正直、ちょっと、跳んでみたい。
窓の外にはまだ誰もいない。今、この瞬間しか無い、とアルスは思った。
「やっぱり行くわ! 失敗したら、受け止めて! ル・フィーラ」
意を決して、アルスはプレートを起動させた。
「えっ、あ、はい! ル・フィーラ!」
アメルが慌ててプレートを起動させる。

「行くわよ――えいっ」
アルスは飛び降り――衝撃を減らし――ちょうどアメルの上に降りた。
アメルが上手く受け止めてくれて、きれいにしっかり着地する。なんだかとても嬉しかった。
「すごい、上手くできたわ!」
「ええ、上手です――さて行きましょ……」
そこでアメルが固まった。

「こら、お前! 今、どこから降りた?」
と言ったのはリーオだった。なんとちょうど、玄関から出て来た所で、こちらを向いている。
「いえ~天気がいいので……お空から、ほほほ」
アメルが言って、急にリーオに向かって走り出す。
リーオが何事、という顔をしている間に。
「ごめんなさい、もうしませんから! これ、隊長に渡してください!」
と言って頭を下げてプレートケースを渡した。というか押しつけた。
「はぁ?」
「アルスちゃんも! 早く!」
「え、ええ?」
アルスも急いで近寄って、リーオにプレートを渡した。
「後でお兄様が反省しますから、では私達は行ってきます! お元気で……!」
アメルはびくびくしながらリーオを伺い、反応を見つつ、頭を下げつつ、立ち去り始めた。アルスはあっけに取られてリーオを見たが、リーオもぽかんとしている。
アルスも「すみませんでした……反省しますから……出かけて良いですか?」と伝えた。
絶対に出かけると言う強い意志はあって、たぶん瞳に宿っている。
リーオが頭を押さえた。
「……わかった。ったく、今日は早めに帰って、厨房を手伝うように。それでいい」
「アルス様――行きますわよ!」
アメルはもう門まで歩いている。逃げる気満々だ。
「はい……ありがとうございます――待って――アメル!」
アルスは恐縮しつつ、軽く頭を下げて、アメルの後を追った。


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宿舎に戻ると、なにやら騒がしかった。女子達が一階に多くいて、皆ばたばたしている。
――というか、何故か、皆ドレスを着ている。
「あれ?」
外出は普通、訓練着のはずだからプラグは首を傾げた。
「あ、リルカ。どうかしたの? 皆ドレスだけど」
プラグはちょうど通りかかったリルカに尋ねた。
リルカも今日は髪を解いておしゃれをしている。濃い緑色のドレスを着ていて、こうしてみると、背は低いが大人っぽい印象がある。
「うん、今日の外出、隊長がドレスでいいよって。広場の劇、見に行くの! カタリベさんのやつ」
「ああ、そうなのか」
どうやらリズの計らいらしい。
そして外出予定で無かった女子も起き出したのだろう。リルカは急いでいるらしく、じゃあ、支度あるから、と言って歩いて言った。
女子の間を歩いて、階段を上がろうとしたら声を掛けられた。
「あ。そう言えばプラグ君、妹さんの荷物が届いてたわよ。間違って?」
――と、言ったのは濃い青髪に、眼鏡の少女、キャンベルだった。キャンベルはいつも三つ編みだが、彼女も今日は髪をほどいて、左右に黄色いリボンを付けている。深い色合いの、紫色のドレスが可愛らしい。眼鏡をかけているが目が大きいし、瞳が金色なので、色合いも良く人目を惹きそうだ。
「え?」
「それが、重くて、運ぶ時、男子がうっかりぶちまけたのよ。箱が壊れちゃって。中身が飛び出て。で、中身が間違ってて、それを見た隊長が、そうだ服を替えようと言い出したの。私寝るつもりだったけど、慌てて着替えたの」
どうやら危なかったらしい。
箱――おそらく木箱、と言う事は、サリーが言っていた荷物が届いたのだろう。
「詰め間違えたのかな?」
プラグは呟いておいた。
「一応、部屋に運んであるって――あ。ちょっと後ろ見て。髪のリボン、おかしくない?」
「あ、ちょっと緩んでる。直すよ――、……よし、いいよ」
プラグは綺麗に結び直して微笑んだ。キャンベルが笑顔になった。
「ありがと! ねえ、このドレス派手じゃない? 首都だからこのくらいは、ってお母さんが送ってきたんだけど……この色、着るの初めてなのよ」
「大丈夫だよ。凄く似合ってる」
「ならよかった! 一緒に行く人は十二時半に門前だって。あと行きたい精霊は、プレートを隊長に渡せば『闇』に入れて、連れていってくれるって。さっき集めてたわ。プラグ君はどうする?」
「うーん。迷うな……出かける予定はあるけど……劇か……精霊達は行くと思う」
プラグはとりあえず明言は避けた。
「階段広場でやってるから、もしよかったらね」
「うん、ありがとう」
プラグは言って、二階に上がって、二十五号室入った。
「お帰り、遅かったわね?」
アルスは自分の机に向かっていて、ひたすら髪の毛と格闘していた。普段も、巻き毛は一見、華やかだが寝癖が付きやすいのだ、と嘆いている。そしてナダ=エルタとラ=ヴィア、ウル=アアヤも実体化して、何やら持ち物をまとめている。コル=ナーダとイル=ナーダは霊体のまま浮いていた。
シオウはもう出て行ったようだ。
「荷物、届いてるわよ。箱が壊れちゃったんだけど、ちょっと大きいわよね?」
アルスが苦笑する。床に置かれているのだが、確かに、腰の下くらいまである大きな木箱だ。蓋は開いている。中を見るとドレスや小物がぎっしり詰まっていた。
蓋にはしっかり『プラグ・カルタ様』と書かれているので、皆が入れ間違えだと思ったのだろう。
「ああ、まとめて送ってきたんだな。置く場所がないぞ……」
「運んだ男子が――階段でぶちまけたのよ。沢山ドレスが入ってたから、隊長がよし、って言い出したらしくて。精霊達が皆に触れ回ってたわ。今日の外出は私服でいいって。精霊も霊体で連れて行くって。だから皆で支度を始めたんだけど、髪型どうしようかしら」
アルスは鏡を見ている。
「帽子を買うから、あまり上げない方がいいかも?」
「そうね。編み込みかしら。あー! 難しいのよ……こっちのがいいかしら?」
アルスは髪型の本を開いていて、頁をめくっている。勉強机の上には鏡が置かれ、色違いのリボンが並んで、櫛やピンが散乱している。
「服は決まった?」
プラグは尋ねた。アルスはまだ白い部屋着だ。この部屋着というのは、訓練着の下に着るシャツで、下は訓練着のズボンだ。アルスもすっかり慣れている。
「決まったというか、一着しかないから」
アルスは王女なのだが、一着しか服を持って来ていないらしい。元々、候補生は訓練着で過ごすと知っていたのかもしれない。それにしても荷物も少ないし、とても思い切りがいい。
「じゃあ――この中から選ぶ? たぶんアルスなら着られると思うし。そしたら髪型も決まるかも」
プラグの提案に、アルスは目を輝かせた。
「いいの!?」
「もちろん」
「ありがとう! 可愛いなって思ったのよ。見ていい!?」
「うん、どんなのが届いたかな」
プラグは一着ずつ取り出していく。
結果、箱の中には色とりどりのドレスが長袖三着、七分袖が一着。半袖が五着。小さめの鞄が三つ、靴が五足、後は夏の肌着、長袖ブラウス二枚、半袖ブラウスが三枚、夏用の外付けコルセットが二つ。夏用スカートが三枚に、春夏の巫女の付け襟。後は靴下――更に小物や装飾品の詰まった箱が、ぎっしりと入っていた。上の方の詰め方が雑だったのは一度飛び出したからだろう。
ちなみにプラグ用の物も、一応下の方に、こちらは紙で包んで入れられていた。
引っ越しでもするのか、と言う大荷物だ。
手紙も入っていて『アメルは首都の別邸に引っ越しするという設定でいきましょう。色々詰めたので、必要な物だけ手元に置いて、後は場所がなければ別邸の、私の部屋に置いて下さい。部屋は着替えや荷物置き等、自由に使って大丈夫です』と書かれていて、地図が同封されていた。相変わらず目茶苦茶だ。
しかし何故こちらに送ったのだろう? と思ったが、地図を見ると少し離れているので、いちいち取りに行くのが大変だから……かもしれない。
「きゃあ、すごい、可愛い。小物も靴も鞄もあるわ。靴は新品?」
「こんなに入れたのか」
「このドレスって、全部アメルちゃんの?」
「そうなんだけど……新しいのもあるな。あ、これはリアマのお下がりだ。見た事ある! くれたんだ。サリーは裁縫が得意で、あと服のデザインを考えるのが好きなんだ」
「それでこんなに可愛いのね――あれ、これって、ワットソニア!? 有名ブランドじゃ無い!?」
「サリーはお金持ちなんだ。そっちはたぶんラリトプール」
「わ、本当だわ! えっ、これ可愛い……見たこと無い模様!」
「格子柄? だったかな、それにする? 似合いそう」
アルスが選んだのは、大きめの白い襟が付いたドレスで、上半身は格子柄――赤茶色、白、ピンク色などの線を交差させた模様、のベストになっていて、スカートは白。ボックスプリーツの中と、裾に同じ格子模様があり、後ろに同じ柄のリボンがついていて、裏地にラリトプール、と書かれた刺繍タグがある。
格子柄は遠目では赤茶色に見える。活動的な印象なので、アルスには絶対似合う。
「ええ、これにするわ! 憧れのブランドだもの。可愛い。アメルはどうするの?」
「俺は――あ。これ……これかな。ワットソニアもいいけど、アメルはアール・ショコラも好きなんだよな。ここの夏服が可愛くて……」
プラグが選んだのは薄緑色を基調としたドレスで、白の縦縞がたくさん入っている。
袖は膨らみ、カフスから全てレースになっていて、四角い襟は白。とても涼しげだ。
どうやら、カフスや襟が取り外せるらしい。
「それも可愛いわよね! すごく可愛い色!」
「じゃあ着替えよう。時間が」
「あ、そうね」
二人は慌ただしく支度を始めた。
アルスのベッドは更衣室になっていて、今はアルスが着替えているので、プラグは外を使っている。
「よし――ラ=ヴィア、髪を」
「ミ――!」
ラ=ヴィアが水を張った洗面器を用意してくれていたので、ふたりして、水鏡を覗き込む。
『る・ふぃーら・でぃあせす!』
声を揃えて、髪を伸ばす。
「ふふ――あ、あー、私はアメル」
プラグは声を変えて、アメルの完成だ。
――『アメル』は瞬きをして鏡を覗き込み「さて、髪をどうしましょう?」と呟いた。
すかさず、ラ=ヴィアが髪を梳かしてくれる。
「プラ――アメルさん、かわいいです!」
とナダ=エルタがはしゃいだ。ナダ=エルタはプラグの襟――白くて四角くて、レースで縁取られている――を手に取って「素敵ですね!」と言ってくれた。
「ふふ、ありがとうございます」
ふと見ると、ナダ=エルタの服装がいつもと少し違っている。エプロンドレスのエプロンがなくなり、可愛い付け襟が付き、スカートには総レースの覆いが付いている。
「あら、ナダ、服を変えたのですか?」
「はい、先輩達に教わって、なんとかできました!」
精霊はこうやって、自由にお洒落を楽しんでいるが、ラ=ヴィアはいつもそのままだ。
彼女は自分の服装にこだわりがあるらしい。
「髪飾り、どうする? リボン?」
ラ=ヴィアが箱を持って来て見せた。
箱の中には、こんなに、というくらい詰め込まれている。お下がり――つまりカルタの巫女からの贈り物もある。カルタの巫女はサリチルの影響で、お洒落に敏感な分、こうして使いきれない物も出てくる。それは後輩に受け継がれ、使い回しされていく。サイズを選ばない、ブローチやネックレス、ブレスレット、留め具、手袋やスカーフ、リボンなどだ。
――アメルは『本当にお引っ越しの荷物ですわね』と思った。
「えーっと髪飾りは……あ、これにしましょう、色がお揃いだわ。少し下の方で二つに結んで……」
アメルはレースの付いた、サリチルが作ったらしい、お揃いの、縞模様のリボンを見つけて、髪に結んだ。鞄は薄茶色の小さな肩掛け鞄があったのでそれにする。薔薇の型押しがあって可愛い。
靴は鞄に似た色の物が、抜かりなく入っている。夏という言う事でブーツではなく短い紐靴だった。サイズもちょうどいい。
「そうね……カバンはこれで。サリーにお礼を言わないと……靴は……これかしら? それにしても、いっぱい……どこに置こうかしら……?」
アメルは苦笑した。全部、別邸に置いたら不便なのだが――この部屋には置けない。置き場所はリズに相談するしかない。
「巫女の襟は……付けていきましょうか」
休日なのでどちらでもいいのだが、せっかく夏用の付け襟があるのだ。この黄緑色のドレスは襟が外せるので、窮屈にもならない。
カルタでは、夏は暑いと言う事で、ケープではなく付け襟を付けていた。右肩、左肩に三角の垂れ布があり、後ろは真っ直ぐ。金色のボタンが付いていて、首元で留める。本当に『襟』と言ったささやかさだが、巫女の証しである『巫女章』のリボンと合わせるときちんと巫女に見える。
後は白い手袋をして、レースの靴下、靴を履いて、支度は完璧だ。
ちなみにストラヴェルはたまに雨が降るので、外出用のドレスは足首が見える長さになっている。足の見えないドレスは室内用か、登城用で、平民の場合、裾を引きずるドレスは晴れ着くらいしか持っていない。
雨の後は裾が汚れるし、歩きにくいしで実用性が低いのだ。しかし汚れる前提で、裾のレースや、下の方が外せる物、裾を持ち上げて、リボンで括るスカートなどはある。
ストラヴェル王国、夏の定番は、好きな色、好きな柄のスカートに夏用のコルセット、半袖の白いブラウス、靴下またはタイツに短い紐の靴、まはたショートブーツだ。
ブラウスは白以外もあり、フリルやレースがたっぷり付いている。素材は綿が多いが、稀に絹や麻もある。涼しげで、華やかなので見ていて飽きない。
「アルスお姉様、サイズはどうでしょう?」
支度が済んだので、アメルは声を掛けた。
するとカーテンの中から声がした。
「うん、いけるんだけど――ちょっと複雑。これ、貴方のサイズよね? ほとんどぴったりなんだけど……ホントにこんなに細いの?」
アルスに言われてアメルは苦笑した。
後ろはリボンで調整できるので、プラグより細いアルスなら余裕だろう。
「丈は? 大丈夫ですか」
「少し長いかしら。でも元が短めだから、大丈夫よ」
アルスがカーテンを開けて出て来た。
「……まあ! 可愛い!」
アメルは手を叩いた。このドレスは茶色っぽいので、アルスの髪色にもピッタリ合っていて、とても可愛い。
まるで本から出て来たようで、アメルは感激した。
もしかしたら、ふたりとも長い髪で、巻き毛だから、似合う服が似ているのかもしれない。アメルは濃茶の髪の毛だが、アルスは赤なので、アルスの方が華やかだ。
「はっ――紫! リボン、紫はありますか?」
アルスの瞳に合わせた物は無いだろうか、と思って箱を見ると、なんとしっかり入っていた。幅広の物で、三つ編みの先っぽに付けたら絶対可愛い。
「これで、決まりでしょう。緩く三つ編み、いえ後ろで四つ編みに。ラ=ヴィア?」
「ミ!」
ラ=ヴィアがアルスを引っ張って座らせ、髪をいじり出す。
「靴はどうします? 良ければ一足差し上げますけど……」
「ええっ? でも新品でしょ? アメルちゃん、足のサイズいくつ? プラグと一緒よね?」
「いえ、私は二十四セリチなんです」
「あら?」
アメルは手で口を隠して、こっそりと伝えた。
「ラ=ヴィアに頼んでほんのちょっとだけ、変えているんです。やっぱりサイズは重要ですから。中敷きを入れれば、アルス様も丁度良いと思います」
以前は足の大きさはそのままだったのだが、今はアメルの方が、ほんの僅かに小さくなっている。と言ってもまだ年齢的に大した違いはないのだが。今回から靴もサイズをアメルに合わせようと、サリーに二十四セリチの靴を頼んでいた。アメルは最終的に百六十三セリチのすらりとした美女という感じになる。
――プラグはこうやって、少しずつアメルの完成度を上げている。
後は胸――いっそ体ごとの変身なのだが、それはアルスに止められている。
「エッ? そうなの? 便利ねぇ……目の色も全然違うし、もう誰が見ても、貴方だって気付かないわよ。最初から可愛かったけど、もう鬘(かつら)じゃないし……」
「ふふ、そうですわね。今は丁度良いですけれど、兄はきっと、これから大きくなりますから。ラ=ヴィアのおかげです。これはいかがです? 踵も低いですし、あ、リボン付きの靴下もありますわ」
「ええっ、悪いわよ……」
「大丈夫です、試しにどうぞ。色もちょうどいいですよ」
「そう? あら、履きやすい……かも」
「歩いてみて下さい」
こうして、アルスの靴も決まった。
……アルスは遠慮して、ブーツを履こうとしたのだが、結局、貸す事に落ち着いた。
財布も持って、さて出かけよう、となったのだが。
「そういえば、一つ問題が……」
アメルは思い出して呟いた。
「どうしたの?」
「いえ、普通に着替えてしまいましたが。このまま降りると皆さんに出会います」
「あ……」
アルスが固まった。アルスもすっかり忘れていたらしい。
廊下には男子の気配があり、足音や会話が聞こえる。きっと女子が出かけるので、なら俺達も、と言う事なのだろう。
「どうしましょう?」
「裏口から入った事に――あ、いえここ男子棟よね? どうしましょう?」
「いっそ窓から入った事にしましょうか? それで窓から出ます?」
「えっ」
「トゥーワが兄を追って飛んで行ったので、追いかけて、窓から入りました?」
アメルの言葉に、アルスが声を上げて笑った。
「あははっ。ちょっと――さすがにそれは無理よ! どうしましょう……窓ね……」
アルスが、窓を開けてみる。
「……降りられる?」
屋根もなく、二階だが――今はちょうど、外に誰もいない。
「飛翔を使えば。プレートは降りてから隊長にお願いして、シオウ様に預けるとか……? シオウ様はどちらに?」
「馬を見に行くって言ってたわ。遠乗りでもするか、って。ふらっと出て行ったから、プレートの事忘れてそうね」
アルスが言った。どうやら入れ違いになっているようだ。
既に森を走っているなら、精霊に頼んでも届けるのは難しい。プレートは、一応、精霊任せではいけないと言われている。
「あら……見事に、入れ違いですわね……。届けて頂くのも難しいし……。では降りて、やはり隊長に預けましょうか?」
「……そうね、もう、そうしましょうか」
「皆様は後で隊長といらっしゃるのですか?」
振り返ってアメルが尋ねると、精霊達が頷いた。アメルは微笑んだ。
「では、窓を閉めて頂けますか? 行きましょう、ル・フィーラ!」
アメルは窓から飛び降りた。
■ ■ ■
「アルス様ー、どうぞ」
と言われたが、少々勇気が要る――しかし、訓練もしたから問題は無い……? と思って、窓枠に手を掛けて片膝を乗せた時、アルスは気が付いた。
アメル(プラグ)は忘れているようだが……ここから跳んだら、スカートの中がアメル(プラグ)に見えるのではないだろうか?
「アメルちゃん、ちょっと後ろ向いて! 悪いけどスカートが」
正直に言うと、アメルが「あっ」と声を上げた。やはり忘れていたらしい。
「短いズボンがありますから、それを履いてみては? 私も履いています」
アメルがドレスの裾を僅かに持ち上げて言った。
「えっそうなの? どれ?」
「――あ。でも、そう言えば、アルス様は普通に出て良いのでは?」
「あ」
アルスは気が付いた。アメルが部屋から出て来るのはおかしいが、アルスが出て来るのは普通だ。
「そうね、じゃあ普通に行くから待ってて!」
「はい」
可愛い返事を聞いてから振り返ると、ラ=ヴィアが短いズボンを見つけて、こちらに見せていた。
ドロワーズ……ではなくきちんとした半ズボンで、しかし素材は薄い。色は黒で裾には金色の縁取りがある。ウエストにボタンがあってすっきりと履けるようになっていて、男性用のボタンは付いていない。
「あれ、意外に可愛いわね……ちょっと履いてみようかしら……」
意外な所でプラグ――ではなくアメルの下着事情を知ってしまった。まあ、これは長さからして下着ではなく、その上に履く物だろう。
「サイズが合えば……」
腰に当ててみたところ、大丈夫そうだ。アルスは試しに履く事にした。すると意外にちょうどよく、動きやすい。
「あ、快適。もうこれでいいかも? じゃあ、跳んでみようかしら……」
正直、ちょっと、跳んでみたい。
窓の外にはまだ誰もいない。今、この瞬間しか無い、とアルスは思った。
「やっぱり行くわ! 失敗したら、受け止めて! ル・フィーラ」
意を決して、アルスはプレートを起動させた。
「えっ、あ、はい! ル・フィーラ!」
アメルが慌ててプレートを起動させる。
「行くわよ――えいっ」
アルスは飛び降り――衝撃を減らし――ちょうどアメルの上に降りた。
アメルが上手く受け止めてくれて、きれいにしっかり着地する。なんだかとても嬉しかった。
「すごい、上手くできたわ!」
「ええ、上手です――さて行きましょ……」
そこでアメルが固まった。
「こら、お前! 今、どこから降りた?」
と言ったのはリーオだった。なんとちょうど、玄関から出て来た所で、こちらを向いている。
「いえ~天気がいいので……お空から、ほほほ」
アメルが言って、急にリーオに向かって走り出す。
リーオが何事、という顔をしている間に。
「ごめんなさい、もうしませんから! これ、隊長に渡してください!」
と言って頭を下げてプレートケースを渡した。というか押しつけた。
「はぁ?」
「アルスちゃんも! 早く!」
「え、ええ?」
アルスも急いで近寄って、リーオにプレートを渡した。
「後でお兄様が反省しますから、では私達は行ってきます! お元気で……!」
アメルはびくびくしながらリーオを伺い、反応を見つつ、頭を下げつつ、立ち去り始めた。アルスはあっけに取られてリーオを見たが、リーオもぽかんとしている。
アルスも「すみませんでした……反省しますから……出かけて良いですか?」と伝えた。
絶対に出かけると言う強い意志はあって、たぶん瞳に宿っている。
リーオが頭を押さえた。
「……わかった。ったく、今日は早めに帰って、厨房を手伝うように。それでいい」
「アルス様――行きますわよ!」
アメルはもう門まで歩いている。逃げる気満々だ。
「はい……ありがとうございます――待って――アメル!」
アルスは恐縮しつつ、軽く頭を下げて、アメルの後を追った。