■ ■ ■
「ははは、ふふふ、あははは……っ」
結界の一角から、突然、鈴を転がすような笑い声が聞こえきて、アルスは思わず顔を上げた。
ナージャも手を止めて、声のする方を見るとプラグやアドニス、ガーラ達が、お腹を抱えて笑っていた。事務クラスの男子二人も一緒になって笑っている。プラグ含め男子はほとんど爆笑だ。
アドニスは何故か可愛い日傘を振っている。
ナージャが「珍しい……」と呟いた。
言いたい事は分かった。
アルスもプラグがあんなに笑うのを見るのは初めてなのだ。
「……プラグって声を出して笑えるのね。いつも難しい顔ばかりだから。何か辛いのかと思ったわ」
アルスは言った。プラグはいつも、何か思い詰めたような表情をしている。笑う事もあるがこんな風に声を上げて笑うとは思わなかった。
ひとしきり笑った後、プラグはアドニスと何か話していた。
その顔の楽しそうな顔と来たら。こちらまで嬉しくなるような。不思議な魅力があった。
皆が黙ってしまったので、二人の会話が聞こえて来た。
「でもよくできてる、さすがニア=エルタだ。きっとこだわりがあるんだろうな」
「ですね、いやー、僕はあきらめて、これ使います」
「いやそれは……ふふ、ふふっ。似合ってるぞ」
冗談など言い出したプラグに、全員が、しばらく固まっていた。
■ ■ ■
アドニスが日傘を出した後、プラグは思わず笑ってしまい、作り直し組は皆で笑った。
その後、アドニスはもう一回挑戦したが、やはり日傘だったのでまた笑う事になった。
作り変えをした候補生は、なんとアドニス以外はできていた。
リゼラまで「ほら、できた~……でしょ? 一名除く! あははは!」と言って爆笑していた。
「アドニスはもう仕方無いわ。普通の剣で行きましょう」
リゼラが口元を押さえながら言った。
アドニス自身も笑いながら「はい、そうします」と答えて、ニア=エルタに声をかけ、今度は普通の精霊剣を作った。
プラグは上手く行ったので、ナダ=エルタを褒めちぎった。
「できたな、偉いぞナダ=エルタ。そっくりな剣だ! 完璧だ!」
アドニスに頼んで少し手合わせして貰ったが、強度も十分あり、問題はなさそうだった。
氷の剣は、どことなく誇らしげに輝いて見える。
――細工の精度を見ても、ナダ=エルタは器用かもしれない。
作り直した他の候補生達も、小さい方が楽、と言っていた。小さい方が霊力が少なくて済むというのは確からしい。
そうこうするうちに、結界は今日はここまで、となった。巫女に礼を言う。
「次なんだっけ?」「赤プレートの練習」「中庭か」「確かそう」と皆が移動を始める。
「私達は座学ね」「楽しかった!」「短い方が楽ね」「じゃあまた!」とキールや幾人かが手を振ったので、プラグは「うん」と言って手を振り返して分かれた。
「――あ。ちょっと片付け手伝ってくれる? まだ時間あるわよね?」
リゼラに言われてプラグは当然頷いた。少し早めに終わったので、手伝っても大丈夫だろう。プラグ、アドニスを含め近くにいた五人で、武器の片付けを手伝った。台車に武器を乗せて、大きな敷布を協力して畳んだ。
「二人とも、こっちもお願い。向こうの武器庫まで、手伝って」
「あ、はい……運びますよ」
リゼラには大きいのでプラグは請け負った。
武器庫は宿舎の側にあるので、プラグが荷車を引いて、アドニスが後ろから支えた。
残り三人もそれぞれ、荷物を抱えている。改めて見ると結構な量だ。
「そういえば……結局、リズ、隊長と、アプリアさんは何しに来たんだろうな?」
プラグは首を傾げた。いつの間にかいなくなっていた。
「見学ですかね?」
次の瞬間、プラグは深くしゃがんだ。
左側から飛んで来て、頭上を通り過ぎた物を見て、嘘だろうと思った。
――雷矢だ。
「避けろ! ル・フィーラ!」
皆に向けて言って、自分はそのまま台車の持ち手をくぐって、周囲を確認した。
プラグは短剣を抜き、同時に盾のプレートを取り出して展開し、他の候補生の周囲に透明な障壁を出した。起動状態の『盾』のプレートが宙に浮く。
「アドニス、見えたか?」
「――あっちです、でも誰も……これ実習!?」
アドニスが言ったが、姿も気配もない。
「さっきのあれだ! 何かで隠れてる。盾出して警戒しろ!」
プラグは言った。これから奪います、と言って――油断させておいて、という。
確かに意地が悪いというか回りくどいというか。後ろの三人もそれぞれ盾を出したので、プラグは霊力を調整して『盾』の範囲を自分の周囲に狭め、周囲の気配に集中する。
アドニスも盾を起動させて、短剣を抜いて舌打ちする。
「通りで、おかしいと思った。剣の数が多すぎたから怪しいなって」
「それは俺も思った。さすがに露骨だ」
プラグは言った。
「来ないな……リゼラさん?」
プラグはリゼラを振り返った。
「あーバレたわね。いいわ、ここはもう合格。多分無理だわ。で、皆――こんな感じで、いきなり来るから。気を付けて。あ、でも雷矢はちょっとやりすぎよね。良く避けられたわね?」
「雷はどうしても、音が聞こえますから。金矢だったら不味かった……と養父が……」
「ええ……まあそうだけど。とりあえず片付けはしてくれる……? あもう、大丈夫だから。皆、片付け手伝ってー!」
リゼラがパン、パンと手を打つと、少し離れた所から、急に姿を現したのは――。
一人は金髪の巻き毛、青い瞳の、見知らぬ男性隊士と。
もう一人は弓矢を持ったキール・マエストスだった。
「キール?」
プラグは驚いた。キールとは先程分かれたばかりだ。
キールは青ざめて震えている。
「当たらなくて良かった~!! ああああ、良かったぁ……! 隊長が、当てる気で狙えって……! 雷矢って早いのよ……」
「ああ……なるほど……だから肩を狙ったのか……」
キールは事前に聞いていて、終了と同時に、プラグを追っていたのだろう。狙いが頭かと思ったら肩で、伏せた時に冷やっとしたのだ。
「ごめんね~~!! 避けてくれてありがとう……!」
「気にしないで――」
プラグは左に振り向き、順手に持った短刀で、低い位置から来た刃を止めた。
「今の何で分かったの」
「足音」
そこにいたのはリルカ・ラ・ハーパーだった。
プラグは溜息を吐いた。念の為、納刀せずにいて良かった。
「それだけ?」
「あと……プレート狙ったから。その一足分」
左側を狙うと言う事は、目的はプレートだ。それにしても、中々鋭い攻撃だ。刺すとまではいかないが斬るつもりで来た。
プラグは溜息を吐いて、終わらせてくれ、という気持ちを込めて納刀した。
「君達が慣れて来たら恐すぎる……刺さないでくれよ」
「私は貴方が恐いわ……。大丈夫、刺さったら、治療はするから……あと、初回だけだって聞いたわ」
リルカが肩を落とした。
「うーん。なるほど、音消ししたら良い線行くかしら? プラグは大変だけど頑張ってね。さぁ、皆で片付けましょう」
リゼラの言葉に全員、息を吐いた。
■ ■ ■
「あ~くそ、プラグあの野郎。避けやがった! クソッ! やっぱあの二人じゃだめか……」
リズは武器庫の屋根に立ち、望遠鏡を使って候補生達の様子を見ていた。
他にアプリアとエドナクがいて、エドナクは『メオン=リンド(知恵/追跡)』のプレートを起動させ、宙に浮かぶ個別の光を追い、アプリアは『ルア=アアヤ(旋風)』のプレートを使って三人を見えなくしている。
『追跡』のプレートは、精霊結晶を埋め込んだ物や、結晶を持っている人物の場所を把握できる便利なプレートだ。
精霊に位置を聞くこともできるが、今のようにプレートを起動させて、地図や記憶と照らし合わせて見る事もできる。精霊結晶の色は全て微妙に違い、色には番号が振ってあり、対応する人物の居場所が分かる仕組みになっている。
ただし、メオン=リンドに聞いてもおおよその距離、方向しか分からないので、距離感が測りにくく、プレートを起動させた時に見える空中図は、無数の光が点在し更に分かりにくい。その為、空間や距離の認識力が高い者でなければ上手く扱えない。表示する結晶は番号で選べるものの、色を覚える記憶力、と三百近い色を見分ける識別力が必要だ。
――対応は表を作ればいいので、今は渡したばかりなので、エドナクも表を見ているが、(この表は短剣の配布の際に、コリントが作っていた物だ)隊士が持つ結晶の色は全て記憶しているという。
ちなみに追跡の精霊結晶の効果は永久ではなく、霊力を注がないでいると一年ほどで効力を失う。
姿を隠す、消す、見えにくくするプレートはかなり貴重で、現在登録されている五枚のうち、この四枚がこの騎士団にある。うち二枚は他国のクロスティア騎士団から『決闘(ゼラルート)』で奪ったプレートで、ほぼ独占と言っていい。
リズの『ギナ=ミミム(闇)』アプリアの『ルア=アアヤ(旋風)』、キールと一緒にいた男性隊士、ピオン・デュロの『リエンヌ=アアヤ(風光)』、リルカの『ジュリ=アアヤ(風采)』だ。
――どれも姿を消す効果はあるものの、それぞれ微妙に消し方が違う。
『闇』は、闇で覆い隠す。これは別空間にすっぽり隠してしまう、非常に強力な効果だ。しかし不便もあって、使用者とギナ=ミミム以外は、外の様子が見えるだけで、術を解いてもらって、外に出るまで、外の物に触れたり、話し掛けたり、攻撃する事ができない。
一時的な牢獄や、リズが許せば仮眠室としても使える。
元々、悪一族の為の『揺りかご』だったらしい。
……欠点は、とても『暗い』事。
確かに、外の景色は見えるのだが……闇だからか、外が昼間でも、外の景色は常に夜。
灯りは持ち込めないので、不便と言えば不便だが、勿論、寝るのには最適だ。
リズはこれを使って、昼でも安眠している。謹慎中のリーオはここに入れられた。腹も減らないし、トイレに行きたくなることもないので、鍛練するか、寝るしか無い。
『旋風(せんぷう)』は、これはかなり便利な効果で、対象に風の霊力を纏わせて、姿を完全に消す事ができる。一番静かで、気配も音も無い。ただし霊力の関係で、人間の場合は一度に四人が限界。精霊の場合も同じ程度の人数で、霊体でなければ完全には隠せない。
――実体化した精霊を隠した場合は、力が強い精霊……例えば『闇』や『公正』には、気配が感じられたり、見えたりするらしい。
元々『旋風』は『飛翔のプレート』の元になった『つむじ風』と似たような効果の精霊だった。
効果は単純に風で攻撃する、それだけだった。
しかし『つむじ風』よりも強力な、熱をはらんだ霊力の渦が発生するので、それをアプリアが『ルア=アアヤ』と共に特訓をして、一年かけて改良した。
精霊は自分の力を改良し、新しい力を得ることがある。新たな使い方を考えるのも、精霊使いの役割だ。
『リエンヌ=アアヤ(風/風光)』は、フォーンやユノの同期、十七歳のピオン・デュロが持つ精霊で、周囲の景色を真似て――溶け込む事ができる。こちらは範囲が広いので、上手く使えば部隊を全部隠せる。
ただし、消せるのは姿だけなので、音でプラグに見抜かれた。
『ジュリ=アアヤ(風采)』は、自分の姿を目立たなくする効果がある。こちらは存在感を薄め、気付かれにくくするだけなので、やはり音でばれてしまった。後は、霊力や殺気が漏れるので、そちらで気づかれた可能性もある。
……『風采』の『姿を目立たなくする』する効果は、実はおまけで、本来使うべきは『自分の容姿を変える』効果だ。
実際に姿が変わる訳で無く、自分の見た目を相手に勘違いさせる事ができる。
体格は変えられないが『髪の色』『目の色』『顔立ち』『服装』は、プレートが発動している限り、相手には違った色――精霊と術者が見せたい姿に見える。
服装は本当に簡単な、似た色、例えば青を黒と思わせる、程度しかできないが、これは着替えれば済むので、髪や目、顔立ちの印象を変えるのに使う。要するに暗殺には向いている。
ちなみに――『イダル=セセナ(善/公正)』や『ミュル=セセナ(善/正義)』にはこうした、隠匿を見破る力がある。
つまり、相手が見破るプレートを持っていたら、逆に危険にさらされる。
それを念頭に置いて使うなら、どれも凄まじい効果を発揮する。
「今年は凄いですね。あちらではシオウ君がユノさんに勝ちましたよ。秒殺です」
アプリアが言った。
「おーシオウな。あいつ、ヤベーよな、どんなだった?」
リズがそちらを見ると、ユノが地面に転がっていて、シオウが足で踏んでいる。
「頭上から来た『落石』を軽々避けて、ユノさんを投げ飛ばしましたね。避けたのも凄いですが、ユノさんの場所が分かったのはもっと凄いですね。本当に勘が良くて、まるで野生動物のようです」
アプリアが感心したように言った。
別の場所を見ていたエドナクが声を上げる。
「ん!? あの王女、中々やるな……『葉風』をちゃっかり避けたぞ今。すげぇな。なんで分かった? トロそうなのに――あ、でも奪われたか、惜しい!」
「王女か。あれ、意外といけるかもなぁ。見た目はトロそうだけど……素質はさすが王族だ」
リズが頷いた。
「彼女はどうします。特別訓練に入れます?」
アプリアが尋ねる。
「まだちょっと早いか……まあなんだかんだで、気合いで付いてきそう感はあるか……今年の女子はペイト、ナージャ、アルス、キール、リルカ以外は駄目だな。この五人でまとめて特別訓練だ」
「アドニス王子は? さっきはプラグが裁いちまったが……冷静だし、悪く無い」
エドナクが言った。
「うーん。あいつ、アドニスはかなり良いんだが、シオウ、プラグとはまだだな。今年はあの二人がアレだからな……あれだけ分けて、男子の上位は当分まとめて、でいいだろ。順当に強くなったら、合流で。どいつが残るやら……」
リズの言葉に、エドナクが笑う。
「ま、今年は男子も良いのが多い。どれが残っても、まあ使えそうだ……五人なのが勿体ないくらいだ。来年に分配できんもんかね」
「見込みのあるやつは、また黒に突っ込んどきゃいい」
リズが答えた。アプリアが溜息を吐く。
「黒ですか? あそこもいい加減、まとまりが無くて困りますよ。プラグ君を入れるって本気ですか? 白でいいでしょう彼は?」
「それがなー。だいぶ変態なんだよあいつ」
リズは腰を下ろして、胡座を掻いた。
実は、精霊騎士になれるのは上位五名――というのは嘘だ。
五位以下になった者も、場合によっては採用する。
ストラヴェル・クロスティア騎士団の部隊は三つ。
白、灰、黒。
白部隊の隊長は、リーオ・インタル、副隊長はノム・ルネ・ラ・エアリ公爵。
ここは見た目が華やかな『真面目部隊』だ。
貴族を納得させる為や、外交の為の部隊でもあり、貴族は大抵ここに入れて、さくさくと近衛を支配する。貴族馬鹿には貴族が一番効くのだ。
――勿論、その実力はお飾りではない。
副隊長のノム・ルネ・ラ・エアリは、薔薇のような真紅の髪と、明るい緑の目を持つ希代の美青年で、若干二十三歳。貴族女性に大人気で『ルネ様』と呼ばれている。
ルネは既に公爵位を継いでいて、城下で似顔絵が売られるほどの人気隊士だ。
総隊長のリズ、白部隊隊長のリーオと並ぶ『看板隊士』と言っても良い。
性格は――『若干』の鬼畜さはあるものの、真面目で優しく、ぶっちゃけつまらない。
おそらく二十歳以上では一番強い。実力は、リズの次ではなかろうか……。
ちなみにリズは十九歳だから、十代の最強はまだリズだ。
――ルネはリズ以外で、唯一、プラグに勝てそうな正真正銘の『化け物』でもある。
だが……プラグに勝てるがシオウには負ける気がする。これは実力では無く相性だ。
逆にリズはシオウには勝てるが、プラグには負けるだろう。プラグをたたきのめす事はできても、真剣勝負や決闘(ゼラルート)となると……性格が合わないというか、気が削がれるというか、やりにくくて仕方無い。
リーオは言うまでもなく、真面目、堅物を人に作ったお手本だ。
実力は確かだし、怒ると怖い。田舎で教師をしていたが、素手で木を引っこ抜いたとか、岩をたたき割ったとか、変な武勇伝がついていた。
リズは「あのひょろい体格で?」と思ったのだが……試しに戦ったら普通に強かったので、問答無用で引っ張ってきた。どこかでうっかり精霊の血が入ったとか、そんな物だと思っている。
――灰部隊。
ここはもう少し、荒っぽい者が集まる。中途半端と言えばいいか。
隊長はエドナク・イタリー。副隊長はアプリア・ナナ。
隊長のエドナクは現在三十五歳。当時としてはかなり若い、十六歳でクロスティアに入団した。
いわゆる古参の実力者で、古くからの隊士や近衛からの信頼も篤い。
彼とリーオがいなければ、クロスティア騎士団、近衛騎士団、領土騎士団は年中対立し、ストラヴェル王国は空中分解すると言われている。
無尽蔵の霊力と、意外に細かい霊力調整で『メオン=リンド(知恵/追跡)』のプレートを使いこなす。精霊騎士にしては体格が良く、大きな武器も扱えるので、大剣を持つ精霊が来たらとりあえず渡している。
副隊長のアプリアは現在二十歳で、リズが隊長になった年の候補生だった。
性格が良く、実力が飛び抜けていたので、あと顔が好みで胸がでかかったので、首席で取った後、すぐに灰部隊の副隊長にした。そうしたらとても優秀で、頭は良いし、『旋風』のプレートを改良するし、エドナクの補佐も完璧だし、皆を良くまとめるし、何でもできるので重宝している。
灰部隊の隊士達は、真面目かと言われるとそうでもなく、狂っているかと言われれば……まとも。常識人や苦労人が多い印象だ。まともな感性の、平民出身隊士が良く突っ込まれている。ある意味、個性のごった煮で非常に味わい深い。リズもお気に入りの部隊だ。
そして黒部隊。
ここはもう意味不明だ。
毎年五名までに採りきれなかった者で、特に惜しい者をこっそり入れて、こっそり鍛えている。
実はアストラ王城のクロスティア騎士団は、ここと密接に繋がっている。
名目上の隊長は、アルベル・パルティ・ゼ・ライン・アストラ。
黒髪を肩まで伸ばした、イかれた美少年だ。
旧アストラ国系の王族なのだが、性格はヤバい。
口癖は「骨見せて」「いつか理想の骨格が見つかったら、その人と入れ替わるんだ」「頭はどうしようか」。
……現在、十六歳のはずだが、どう見ても十歳位にしか見えない。これは精霊の血が濃く出たためと言われている。
いわゆる天才だが、とにかく陰湿で病的で気持ち悪い。『闇』の精霊『ギナ=ミミム』が健康に見える程だ。
総隊長がリズになった後、役職が欲しいと言ってきたので適当に黒部隊を作って、国内外の諜報活動を任せた。本人はいい遊び道具、くらいに思っているだろう。
リズは毎度求婚されるほど気に入られているのだが、見た目の年齢が対象外だ。
『黒』の副隊長はソール・ルサルカ。
この人物の事を、リズはよく知らない。本当に存在するのか? と怪しんでいる。
実際のつなぎ役は、シュー・ミサンガという、アプリアと同期の、すごく強いのにすごく普通ぽく見える女性だ。試しに送ったら気に入られて、そのまま、ずっとアストラ城にいる。
アストラにいる黒部隊やクロスティアの騎士は隠密行動が多く、何をやっているのかは分からない。たまに情報をくれるのでとりあえず役立っている。
首都にいる黒部隊はリズが隊長として指示を出している。それが平和で素晴らしい。プラグは黒に入れるつもりだが、まあ、首都に置けば安全だろう。
……万一、プラグがアストラ城に行くことがあって、万一、アルベルに骨を気に入られてしまったら、中身が入れ替わって帰ってくるかもしれないが、それはそれで……見てみたい気もする。
まあ、リズはあの城には近寄りたくないと思っているし、首都の黒部隊にもあえて近寄らせていない。
「ええ……? そうなんですか? 真面目そうなのに……見かけによらないのですね」
プラグが変態だと聞いてアプリアが苦笑する。
「隊長に言われるなんてよっぽどだな。そうは見えないんだが……綺麗な顔して……ルネみたいな、鬼畜変態美形趣味とかか? あの年で? なんてこった……」
エドナクが嘆いた。
リズは口の端を上げた。
「まだ披露はできないが。そのうち分かる。そうだなぁ……アルベルよりは健康だ」
アプリアが首を傾げて考えた。
「健康な変態趣味……? なんでしょう。あ。猟奇趣味とかですか? 実は血を見るのが大好きで……夜な夜な、あるいは白昼……人を殺しに出歩いている……とか? でも、それだと犯罪者なので、血を飲むのが健康にいいと信じているとか? いえ飲んでしまっては不健康ですね。全身に生き血を塗ってあの容姿を保っているとか? これでしょう」
アプリアの言葉に、リズは一瞬、真顔になった。血風呂に入るプラグを想像してしまった。
「いや、アイツにそれあったらどん引きする。ま、今は気にすんな。とりあえず、鍛えねぇと」
「ああ――ルネは、そういや戻ってたな。って言うか、本当にやるのか?」
エドナクが言った。
「ああ。……ふふっ、くぅ~~~……楽しみだぜ~! ひひ、ひひひッ」
リズは笑いを堪えきれない。エドナクが溜息を吐く。
「やれやれ……程々にな……」
「プラグ君もお気の毒に……」
エドナクとアプリアが溜息を吐いた。
「それにしても……他は皆さん、良く引っかかりますね。毎度の事ですが……今日は特に、良い具合に気が抜けていたんでしょう。プラグ君のおかげです、ねぇ。何だか、私も気が抜けました」
アプリアが微笑んだ。
「はぁ。まぁ、あの毛虫、馬鹿だから。お遊び気分でいやがる。マジしばくぞクソゴミクソ野郎……! アイツのおかげでめんどくせぇんだよ! ああぁあああ! 心底ムカツク! ×すぞ!」
リズはそれからしばらく悪態を吐きまくって、アプリアに「相変わらず、口が悪い。駄目ですよ」と言われた。
リズは手を降ろして、目線を鋭くした。
「……もう、のんびりしてる暇はねぇ。全力で鍛える! 今年はいつもの三倍だ!」
エドナクが呆れ、アプリアが嬉しそうに微笑んだ。