翌日。
場所を中庭から、湖の側、広い平地に移し、引き続き精霊剣の授業が行われた。
今日も昨日と同じく、三人の見習い巫女モニカ、エリザベッタ、ソーニャ。見守り役としてミンツィアが来ている。
隊士も引き続き、リゼラ、コリント、フォーン、ユノの四人だ。
後は何故かアプリアとリズがいて、背後からのんびり見学している。
――まさか暇だったから、という事はあるまい。
何かしらの判断をするつもりなのだろうと、皆、気を引き締めている。
「じゃあ、精霊武器の作り直しについて説明します。皆、もうちょっと前に詰めて。前の方の人は座って。そうだ、巫女さん達を前にしてあげて。せっかくだから、ついでに聞いててね」
リゼラが生徒達を呼び、一番前に巫女が来る。
リゼラの前には、白い敷布が四枚敷いてあって、店かと思うほどの短剣が並んでいた。
――どれも鞘付きで、中央二つの敷布にある短剣は鞘から出した状態で、外側の敷布にある短剣は鞘に入ったまま並べてある。
敷布一枚につき二十本から三十本並んでいる。下手したら百本以上あるのではないか。
柄の色が微妙に違う物や、短剣、のくくりに入るが、少し長めの物も、短めの物もある。装飾もあったりなかったり。刃の形も様々で、同じ物が十本あったり、ばらばらだったり、統一感はあまりない。
「えー、昨日、リズ隊長達と相談した結果、武器は自由に使って良い事になりました。武器庫から運んで来たんだけど、結構あるから好きな物を選んでね。この武器はストックだったり、プレート狩り犯の武器だったり、殉職した隊士の物だったり、近衛の余りだったりと色々だけど、ま、気にしないで。一応、百本くらいあるから、もう全員にあげます」
リゼラの言葉に、皆が「え?」という反応をして、少しざわついた。
「ええっとね、一応、ちゃんと使えそうなのを選んで来たから。これは精霊剣の注意なんだけど、精霊剣は聖域でしか使えないから、みんな常に、長剣、短剣は携帯するの。特に、短剣は持ち歩きになれる意味でも、いいんじゃないかって。余ってるし」
リゼラの横でコリントが補足する。
「普通、押収した武器は売ったりするんだが、まあ余ってるしな。近衛からもいらないって渡された」
「勿論、候補生用の練習剣もあるんだけど、あれは備品だから持ち歩き禁止なのよ。いい剣なんだけどね。これは精霊騎士、というかプレート使いとしての心構えなんだけど――巫女さんは知っていると思うけど、最近『プレート狩り』が横行しています」
リゼラが続ける。
「『プレート狩り』っていうのは、他人のプレートを奪って、自分の物にしちゃうこと。皆さんは、いま自分達の精霊と、仮契約を結んでいます。これは友達として手伝ってもいいよっていう契約で、双方の同意があれば解除が可能です。これとは別に本契約があって、これは人か精霊、どちらかが死なない限り解けません。だから、プレート狩りをする悪い人は、持ち主を殺して、プレートを奪います。一応、殺さず持ち主を変える方法もあるみたいなんだけど、それは難しいから、今は考えなくていいわ。これで――大体分かった?」
コリントが苦笑する。
「それじゃ分からないって――要するに、プレートを持つ以上は警戒しろってことだな。と言う事で……はぁ。本当にやるんですか? って感じだが、これから日常生活で、俺、リゼラ、あとフォーンさんと、ユノさん。あと十七歳組の残り三人の隊士が不規則に、お前達のプレートを狙う。まあ風呂とか、食事中とか油断してたらだけどな。あ、でも睡眠中はまだ無しだから寝てくれ。奪った物は直ぐ返却するが。奪われたら森を一周だ。だから皆、プレートケースは常に身に着けるように。風呂に入るときは持って入らなくてもいいが、誰か見張りを立てるように。休日は守れそうなやつに預けて外出だ」
リゼラも、少し呆れた顔をしている。
「そうやってちょっとずつ慣らす作戦なの。だから短剣はその時、自由に使って大丈夫です。外出時も短剣は持ち歩くようにね。あ、鞘は一応ついてるから。フォーンさんにベルトに付ける下緒(さげお)をもらってね。どれも大差無いと思うわ」
リゼラは最後の方でもうどうにでもなれ、という顔をしていた。
コリントも溜息を吐いた。
「とにかく、がんばって常に身に着けるように。悪いな適当で……じゃあどうする?」
「そうね、とりあえず巫女さんから選びましょう。巫女さんもあげるわ。いらないかもしれないけど、もらってね」
驚く程の適当さに、子供の巫女達が驚いてミンツィアを見た。
ミンツィアは少し、うーん、と考えてから「では、頂きましょうか。一緒に選びましょう」と言った。
「あ、ミンツィアさんもどれか一本どうぞ」
「あら、いいんですの?」
「ええ、在庫処分ですから――あ、この剣、卒業しても記念にあげるから。いらない人は返しても良いけどね。お土産に持っていって――別の巫女さんにも渡しますから、遠慮せずに」
リゼラが言った。
「まあ。では選びましょう」
ミンツィアが微笑んだ。
「……短剣って、どういうの選べばいいんですか?」
モニカが戸惑った様子でミンツィアに尋ねた。選ぼうにも選択肢が多すぎる。
「そうですね、女性の場合はあまり大きくない方がいいですね。私が選んでもいいかしら?」
「はい! おねがいします……!」
そしてミンツィアは、軽そうな短剣を四本選んだ。
「これでいいんじゃないかしら? では、私達はこれで」
順に三人に渡して、残った一本を自分用にして「御礼を言ってね」と言った。
三人の巫女は目を輝かせて「ありがとうございます!」と言った。
「じゃあ。順番は適当に前の人から。精霊剣の作り直しなら形に拘りたいんだけどね、まあ、いっか。イメージのお手本だからね! さ、一列目の人から。適当でいいわよもう。とりあえず、近いのから取っていって」
相当、雑に分配が始まり、ほとんど近くにあった物から取っていった。
プラグは後ろの方にいたので、『これでいいのだろうか』と思いながら眺めていた。
すると霊体のナダ=エルタが『ここって、すごく緩いですよね……』と言ってきたので頷いた。
しかし、短剣と言えど立派な凶器だ。短剣ごとに管理番号がついているらしく、コリントが誰がどの剣を持って行ったか、手元の一覧表に記録していた。
分かりにくかった場合は候補生に見せてもらったり、剣番号をリゼラに聞いたりと、大変な作業だが、コリントは着実に、素早くにこなしていた。まめな性格らしい。リゼラと二人三脚、と言った様子で、無駄が無く、とても息が合っている。
「そう言えば、セラ国ではどうだったんだ……? 君は持ち主はいなかったのか?」
気になって尋ねると、ナダ=エルタは軽く首を振った。
『私は厨房の仕事を契約なしで手伝ってる状態だったので、本当にいつの間にか盗まれました。セラ国のプレート管理所に泥棒が入った、ってここに来てから聞きましたけど』
「え。それは大変じゃ無いか? 仮にも城なのに」
『ええ。大変なんですけど、私の保管場所は、お城って言うか、食事を作る建物の、横にあった小さな管理所で。その時盗まれたのは私だけだったんですよ。盗りやすい所にあったみたいで。たぶん内部犯って聞いています。……えーって感じです。プレートを持ち出されて、一キロ離れたところでプレートに収まって。すぐ売られて、ストラヴェルに来て、プレート狩り犯というか不法所持者が持っていたのを、ここの人達が回収したらしいです。ちゃんと契約していれば持ち主に返されるんですが、一応、私の話を聞いて、厨房に問い合わせたら、別にどうぞ役立てて下さい、って感じだったらしくて……しょんぼりです。私がお城にいたのは、二ヶ月くらいで、それから一年半くらい経ってましたから……』
ナダ=エルタが項垂れる。
プラグは、しばらく掛ける言葉が見つからなかった。
「そうか……大変だったんだな……でも本当に運が良かったな。ちゃんとしたところに回収されて」
『はい、プラグさんにも会えましたし、先輩達も優しいし! おやつも出るし! ここは気に入ってます』
ナダ=エルタは僅か二年前に誕生した精霊だ。他の精霊にとっては末っ子で、可愛くて仕方無いだろう。
プラグは、この精霊が辛い思いをしなくて良かった、と思ってほっとした。誰かが金に困って盗んだなら、売られた場所が良かったのだろう。組織犯でなくて良かった。
「良かったな。あ、番がきた」
ちょうど順番が来たので、見ると、思っていたより良い剣が並んでいる。
「あれ?」
と首を傾げてリゼラを見たが、リゼラはそっぽを向いて口笛を吹いている。
とりあえず一番近い物を一つ手に取り、列を離れた。
「……これ新品だな……あと、柄頭に結晶が入ってる。追跡できるんだろう」
後ろの方で、他の候補生に聞こえないようにぼそりと呟いた。
『え? そうなんですか?』
「ここは本当に、油断できないな……」
プラグはしみじみと言った。
『へぇー』
全員に行き渡った後、リゼラが前を向いた。
「では。変だなって思った人もいるかもしれませんけど。その剣、実は新品です――そして柄頭に『追跡』の精霊結晶が埋め込まれています! ってことで、この剣を持っている限り、私達は、貴方達がどこにいるか分かります。この騎士団の正式な剣はすべてこうなっているので、金持ち道楽だと思って下さい! ――それを踏まえて、形が気に入らない人は、もう一回交換してください! 余ってますから!」
プラグは、リゼラさん達も大変だな、と思った。
■ ■ ■
実際見ると、短剣の種類は二、三種類程度で、鞘も、数種類のどれかに収まる造りになっている。
どれも良い剣だったので、交換する者は少なかったが、プラグは自分の短剣を眺めた。
ごく一般的な、諸刃の短剣だが、やや細身だ。
「……俺はじゃあ、交換しようか。君が作りやすい物に。実体化する?」
ナダ=エルタがそわそわしているので言ってみたら、すぐに頷いて実体化した。
「――はい。でもプラグさんが使いやすい形の方がいいです。それはどうですか?」
「悪く無いけど。片刃がいいかな」
「じゃあそれでいいです。そっくりな物を作った方が、使いやすいですよね? 日常とそうじゃ無い時用に」
「そうかも。でも、できる?」
「わからないですけど、初めては、そのまま作る方がきっとやりやすいです」
ナダ=エルタの言葉にプラグは納得した。
「それもそうか」
皆、選び直したり、ベルトの下緒を調整したりしている。
分からない者は隊士達に聞いていた。リズとアプリアは相変わらず後ろの方にいる。
プラグが敷布に近づくと、リゼラが話しかけて来た。
「プラグとナダは交換するの?」
「はい、片刃の方がいいかなって。いいのあります?」
「あら、片刃? 片刃ってあったかしら……おまけで何本か作ったけど……ああ、ここね」
リゼラの足元に三本、置いてあった。
「リゼラさんが作ったんですか?」
「少し彫って、結晶をはめただけよ。ホントは、皆で結構前から準備してたのよ。もう、ここって回りくどいのよ。特に隊長。わりとねちっこいのよ……。余った分は来年用になるわ。多めに作っておいたから、縁があったら、来年頑張ってね」
「お疲れ様です……」
プラグは同情した。
三本の短剣を眺める。どれも片刃だが真ん中以外の二本は少し長い。
「ナダは気に入ったのある?」
「――んーわかんないです。お任せします」
「そっか」
プラグは眺めて、一番短い、真ん中の短剣を手に取ってみた。
順手と、逆手に変えて持ってみたが悪く無い。
「これかな。使いやすそうだ」
刃渡りは二十セリチ少し無い程度。柄は十セリチほどで、柄の幅は三セリチほど。とてもしっかりしている。片刃で、途中までは直刃だが、刃渡りの三分の二程から、先端に向かってゆるく弧を描き、切っ先は尖っている。柄には銀色の、しっかりした鍔(ガード)がついていて、柄はやや太めで黒色。柄には網のような溝があり、溝の内側は白く塗ってある。装飾は鍔(ガード)に溝があるくらいで、ほとんどないが、柄頭に埋め込まれた、小さな緑の精霊結晶が見える。
「あっそれはいい剣よ。良く切れると思う。でも扱いは難しいわ。こだわりがあるの?」
「重さもいいし。大きくも無いし、丈夫そうだし。バランスもいいし。柄頭も邪魔にならないし。気に入りました。背中につけて、携帯できそうなのが一番です」
「結構、激しい性格なのね。すぱっと行きたいタイプ?」
「わかります? 手加減はしますけど」
「ああ、だから片刃。貴方とは良いお茶が飲めそうだわ――他にも変えたい子は遠慮なく。分からなかったら聞いてね」
リゼラが微笑んだ。
その後、フォーンに下緒もらいに行くと、フォーンが候補生達に説明していた。
「右利きの場合は、プレートケースは左に付けるのが使いやすいかな。剣を持っていても左手で取り出せるから。短剣は好きな位置に付けて。君はどこ?」
フォーンがプラグに尋ねた。
「後ろに着けたいです」
「ああ、じゃあこの辺のベルトで……なんとかなる?」
「ありがとうございます。やってみます」
プラグは二本のベルトを受け取って、ベルトを外して鞘を付けた。鞘にはきちんとベルト通しが付いていて、すんなり取り付けられた。落ちないように少し持ち手の方を上げ、しっかり止めて、再び腰に巻く。
「いいかな」
抜いてみて確認する。アメルの時も腰の後ろに短剣を入れているので、慣れている。
「――候補生の皆さん、そろそろ、こちら集まって下さい!」
するとユノが真っ直ぐに手を挙げた。
ユノは白いマントを脱いで、赤紫色の隊服だけになった。ポニーテイルが揺れ、意外に見事なスタイルが披露される。
隊服のウエストには白いベルトがあり、プレートケースも白色だった。
隊服――前合わせの長い裾が斜め右上がりにカットされた、左右非対称のデザインは、灰色の縁取りも相まってずいぶんお洒落だ。リズはハイヒールを履いていたが、あれは勿論例外で、ユノは黒い編み上げブーツを履いている。裾は長く、膝までを隠れているので、隊服の下は見えないが、リゼラがあぐらを掻いた時に見えるのは白いズボンだ。そう言えば、隊服の合わせ部分は、女性は右前、男性は左前になっている。
左袖の付け根……肩口に腕章のような、白い布が縫い付けてある。これは部隊の色かもしれない。フォーンも同じく白だったが――確かリズは黒色と、もう二本金色が入っていた。あれは総隊長の印だろう。
「これは今朝の座学の実演になります。フォーンさんも隣で一緒にお願いします」
同じくマントを脱いだフォーンが、少し離れて、見やすいように隣に立った。
――今日、午前中の座学では『戦闘時のプレートの扱い』について軽く学んでいた。
その際に、午後に実際見せて説明があると言われていた。前方の候補生は座り、後方の候補生は立ったまま話を聞いた。場所節約の為、ナダ=エルタは霊体に戻り、プラグは後方一列目で立っている。
ユノがプレートケースから、左手でプレートを五枚取り出した。
「今後、プレートを起動させるときは、こうやって、なるべく左手で取り出すようにして下さい。これは右利きの場合、短刀や長剣を構えたまま取り出すためです。左利きの場合は逆の手で大丈夫です。このように、プレートケースの下に、長剣の鞘が来ます」
ユノが腰のプレートケースを見せた。
ユノのプレートケースはベルトの左側に二つ並んで付いていて、その下に長剣が斜めに吊してあった。長剣のベルトも白。皮を染めているようだ。色が揃っていて、統一感がある。
「そうだ……長剣、これは、私の場合は騎士団標準の女性用の剣を愛用しています。フォーンさんは男性用の標準長剣ですね。精霊使いは良く飛び跳ねるので、体力の消費を減らすため、やや短めで、軽めの剣を使う事が多いです。が……やはり好みです。得意な武器や慣れた武器で構いません。例えば……リゼラさん、こちらへ」
「あっ、はい」
リゼラが立ち上がって来る。ユノは女子としては背が高いので、リゼラと並ぶと頭一つ分は違いがある。年は一つ違いだが、雰囲気も全く違うので、大人と子供にさえ見える。
「マントを脱いで下さい」
「あ。はい」
リゼラがマントを脱いで地面に置くと、候補生達がどよめいた。同じ隊服なのだが――リゼラは武器を一杯……背中にもベルトを斜めに二本渡して双刀が着けてあり、二の腕、腰の後ろにも短刀を何本か身に着けていて、投擲用のナイフも複数あった。
「リゼラさんは武器を多く使うタイプなので、マントの下がこんな事になっています」
ユノが言って苦笑する。
「武器集めが趣味で……語ると長いので今日は説明はなしで」
リゼラが笑った。
するとフォーンが小さく手を挙げた。
「――あ。そうだ。一ついいかな。リゼラみたいに、隊士の中には武器を色々身につけている人がいます。そういう方が飛んでくると危ないので、受け止める時はその人がどこに武器を持っているか、一応知っておくと安全です。受け止められる側も、受け止める側も、変に体を痛める事があるので……ここなら持っても安全、という場所を知っておくといいですね。実は僕、飛んで来たリゼラさんを受け止めて、肋骨を折った事があります。鞘がぐさって刺さりました。まさかこんなに持ってると思わなくて。『治療』で治る程度でしたが、痛かったなぁ」
フォーンが笑いながら肋骨を押さえた。
「その節はどうも……」
リゼラが頭を下げて苦笑する。候補生達も苦笑した。
確かにこれだけ武器を持っている女性が飛んで来たら、危ないことこの上ない。リゼラを受け止める時は横抱きにするか、肩の上を掴めば良さそうだ。そんな機会があるか分からないが、一応覚えておいた。
この調子だとおそらく、あの袖にも何か隠してある。後は隊服の裾の下……下手したらブーツにもきっと何かあるだろう。
プラグはリゼラと武器や暗器の話がしたいと思った。
するとフォーンが、隊服の袖に触れた。隊服の袖は白色で、大分長めになっている。
「ああそうだ。人によりますが、この隊服、この長めの付け袖に、プレートとか、金属や武器を仕込めます。付け袖の裏に、隠しポケットがあるんですよ。手紙のプレートとか、盾のプレートはここに入れてしまうこともあります」
今度は、ユノがリゼラを自分の前に立たせる。
「リゼラさんの場合は、腰の剣はショートソードですね。これは彼女愛用の物です」
すると、フォーンが剣を抜いて、「長さ、比べてみる?」と言った。
ユノとリゼラも剣を抜いて、柄を同じ位置に合わせて比べて見せた。
ちなみに――コリントは一人、残った武器の数を数え、もう一度、記録と照らし合わせている。部隊にこう言う丁寧な人間がいるととても心強い。無事確認が終わったらしく、コリントは説明の合間に、ユノに「あ、確認が終わったんで、報告してきます」と声を掛けて、リズ達の元へ向かった。ユノも微笑み頷いた。
……リゼラの剣が一番短く、ユノの剣とフォーンの剣の方は拳一つ分の差がある。
フォーンが説明する。
「これがこの騎士団の、男性用の長剣です、長さは自由に決めて、個人に合わせて作るけど、デザインはほぼ一緒です。僕の場合は、長さは女性用とあんまり変わらないかな。男性隊士は成長してしまうので、初めから少し長めの剣を使う場合もあります。体格の良い人はもっと大きい剣とか、長い剣を使う事もありますね。――この騎士団の剣は軽いし丈夫だし、本当に使いやすいので、おすすめです。形は練習用の剣とほとんど一緒なのですぐ慣れると思います」
フォーンは言った後、再び剣を腰に戻す。リゼラとユノもそれぞれ鞘に収めた。
「では戦闘時の、プレートの起動について説明します。これは見ているだけで大丈夫です」
ユノが言って、プレートをケースから五枚、左手で取り出した。
「プレートは『ル・フィーラ』!で複数枚、手に持って展開すると、このように、手に持った物が全て周囲に浮き上がります」
――ユノの周囲に光った状態のプレートが浮かぶ。
候補生達が「おお」と言った。候補生達は、今まで一枚ずつ手にもったまま使う事はあったが、こうして実際に見るのは初めてなのだ。
ユノが説明する。
「起動状態のプレートは、こうして、手で寄せる事が可能です。触らなくても、少し扇ぐ感じでしょうか? 左手でも右手でも。これは難しく無いと思います」
ユノが左手を軽く動かすと、プレートが正面に綺麗に五枚並んだ。
「そして、しまうときは、こうして、手を横に動かして、まとめて取ると、上手く重なります。ですが起動したままなので、収納する際は、まとめて握って『ル・レーナ』と唱えて下さい。もしくは――この方が多いのですが、隊士のプレートケースは特別製になっていて、収めてしまえば霊力が遮断されます。とても便利ですが、皆さんはまだ『ル・レーナ』でその都度、消して下さい」
ユノは左手をさっと右側に動かし、宙に浮かぶプレートを手の中に収めた。
そして解除し、慣れた手つきでプレートケースに収納した。
「プレートを一度に展開できる枚数は、個人の霊力次第です。六枚、七枚と起動できますが、ひとまず五枚で慣れて、霊力が余り、かつ精霊が足りなくなったら増やす、という感じで大丈夫です。皆さん、プレートケースを開いて下さい」
プラグもプレートケースを開いた。
今入っているのは銀プレートの『ナダ=エルタ(水/削氷)』と、赤プレートの『盾』『手紙』『治療』『翻訳』『火』『水』だ。他には仕切りとして薄い木の板が三枚ある。
「――プレートケースには薄い仕切り板が幾つかついていますから、それを使って、よく使う五枚を取りやすいように分けておいて下さい。仕切りは自分で追加しても大丈夫です。木なので、突起部分を加工して、例えば丸とか、四角とか、どのプレートなのか手探りで分かるようにしても大丈夫です。このケースは使い回しですが、板は毎年入れ替えるので、削って大丈夫です。治療、翻訳、手紙は分かりやすいようにしておくと便利です。好きな順で大丈夫ですが、入れた順番は覚えておいて下さい」
ユノがはきはきと喋る。彼女の声は良く響き聞き取りやすい。
プラグの順番は一番上に『盾』、仕切りがあって『ナダ=エルタ』。すぐに仕切りがあって後は『手紙』『治療』『火』『水』『翻訳』が入っている。
これは好みがあるし、増えたら都度、変える必要がある。
「起動状態のプレートを浮かせたくない場合は、例えば『翻訳』など、常に浮いていると鬱陶しいので――手に持って使うか、霊力遮断の無いケースを別途用意します。起動させたまま、そこに入れておくという事ですね。あるいは、隊服の場合は袖や内ポケットに仕込んでしまうのもいいと思います。袖には二つポケットがあり、一つのポケットに二枚まで、片手で最大四枚入れられます。私は四枚だと、ちょっと厚みが邪魔なので、一、二枚くらい……がいいと思います。プレートは通常の剣を通さないので、防御にも使えます。過信は禁物ですが。そうだ。手袋についてですが」
「あ。重要なやつ」
フォーンが呟いてユノは首を傾げた。
「重要……なんでしょうか……? ええと、皆さんも気づいているかもしれませんが。隊士は皆、黒皮の手袋をしています。これは手の皮を保護する為なのですが、プレートは素手で持たなくても、手袋や薄い布越しでも発動可能です。だから袖に仕込んでも大丈夫なのです。ただあまり厚手の手袋……ミトンなどの場合、反応しないこともあります。で、良かったでしょうか?」
ユノがフォーンに尋ねた。
「そうだね。袖は便利だよ。手袋はそろそろ配布されるのかな」
「私達の時は……精霊剣の後に貰いましたよね」
「――アプリアさん?」
フォーンが尋ねると、少し近づいて来ていたアプリアが「そろそろ、支給します」と答えた。
「だそうです。手袋に慣れた方が絶対いいので、慣れるようにして下さい」
フォーンが言った。
「プレートが増えると、私達のように、ケースが二つ必要になる場合があります。その場合は横にもう一つケースを付けます。精霊と、それ以外で分けてもいいし、よく使う組み合わせで分けても大丈夫です。このくらいでいいしょうか……? フォーンさん?」
「大丈夫です。アプリアさんからは何か?」
フォーンが尋ねると、アプリアは「大丈夫です。分かりやすかったですよ」と答えた。
リズは木の近くで鳥に餌をやっていた。
■ ■ ■
その後、形状変えする候補生だけ集まり、後は結界を使って昨日と同じく、精霊剣の訓練を始めた。
「じゃあ、説明した通りに作ってみて、一度でできるとは限らないから、本当に根気よくね」
形状変えに挑戦するのは、ほとんどが事務クラスの者達だった。
あまり話した事がない女子、男子もいる。事務クラスなら十六名だが、精霊剣ができた者は結界に行ったので、残ったのは女子八名、男子二名だった。
事務志望(?)のキールは当然のごとく結界の中だ。
後は、プラグのすぐ左側でアドニスが挑戦している。
プラグは「珍しいな」と思わず呟いてしまった。
アドニスは精霊剣を扱えていたので、実技の方へ行くと思ったが、わざわざこちらに来た。
「ええ、形状変えできるなんて、こんな貴重な機会無いです。ぜひやってみたくて!」
アドニスの隣には実体化した『水泡(すいほう)』の精霊、ニア=エルタがいて、プラグに会釈した。ニア=エルタは、横まっすぐに切りそろえた前髪を持つ、垂れ目のおっとりした精霊だ。薄水色の髪を腰の後ろまで伸ばしているのだが、髪の先端は泡のように丸まっている。何故か日差しが嫌いで、いつも日傘を差している。この日傘は生まれた時からあったらしい。袖は半袖で、膨らんでいて、ドレスは白で胸の下をリボンで絞る、簡単な構造になっている。日傘にもドレスにも優雅なレースがついている。
「そうか。さてやるか……できるかどうか……」
リゼラの説明は、分かったような、分からないような。だ。
正直できる気がしない――やるのはナダ=エルタだが。
まず、見本の短剣を精霊に持たせる。
「持ちました!」
「よし。じゃあ頼む」
「はい……! 私の精霊剣は、この形になります。私の精霊剣はこの形になります……!」
ナダ=エルタは短剣をしっかり眺めながら、十回唱えた。
他の精霊も同じ事をしている。何かもっと難しい手順があるのかと思っていたので、拍子抜けだ。しかしこれで、本当にできるのだろうか。
「――できそうか?」
「できる気がしてきました! 私の精霊剣はこの形です!」
ナダ=エルタが頷いた。
「じゃあ、次の結界でやってみよう」
「はい!」
はっきりいって、簡単だ。ただ、精霊によってはできない場合もあるという。
他の女子や男子達も、アドニスも「これでいいのかなぁ」と言いつつ、全員、次の結界で試す事になった。
「プラグ君ってアルスちゃんと同室なんだよね?」
と話しかけて来た女子がいた。真っ直ぐな茶髪を一つにまとめている。目は橙色で、かなり細身の少女だ。
「ん? うん」
プラグは頷いた。確か名前は――ガーラ、だったと思う。
「どんな感じ? 女子と一緒で大変じゃない?」
「いや、そこまでじゃない。アルスは何て言うかわからないけど」
「すごく楽しいって言ってたわよ」
ガーラが微笑んだ。
「そうなのか? 意外だ」
「アドニス君も、初めて近くに来たと言うか」
もう一人の少女が苦笑した。こちらの少女は金髪の巻き毛で、茶色の瞳だった。名前は――何だっただろう。アドニスが答えた。
「そうですね。そういえば。はじめまして? かな。お名前は?」
「私はエマ。そっちはキャンベルとガーラ」
金髪の少女はエマと名乗り、ガーラの側にいた、キャンベルという少女を紹介した。
キャンベルは濃いめの青髪で、長い三つ編みをしていた。目は金色で眼鏡をかけている。
「私も眼鏡だから、気になってたの。アドニス君も目が悪いの?」
と言って苦笑した。
「ええ。本の読み過ぎで……」
「分かるわ……。精霊灯、持って帰れないかしら……便利すぎよあれ」
和やかな会話にプラグは苦笑した。
ナダ=エルタはまだ「私の剣は~!」と唱えている。
「よし、終わるみたいだな。ナダ、プレートに戻ってやってみよう。剣を」
「はい!」
プラグは短剣をベルトの鞘に収めて、ナダ=エルタのプレートを、ベルト左前に付けたプレートケースから取り出して、差し出した。ナダ=エルタが消え、プレートに描かれた姿がはっきりと浮かび上がる。プレートのナダ=エルタは右側を向き、天を仰いで、手を伸ばし、宙に浮かせた氷の結晶を掲げている。その横顔は美しい。プラグは、自分には勿体ないくらい良い精霊だと思った。
リゼラが作り替え組を見て頷いた。
「準備はいいー? よし、頑張ってね。上手く行くかは、精霊の器用さ次第かしら。では――二回目、お願いします!」
『レシアス・クロスティア!』
巫女三人の祈りにより、再び結界が張られる。
プラグはプレートを持って、集中して、短剣をイメージする。そして霊力を入れすぎないように調整した。
この感覚は羽を無くしてから、以前より分かりにくくなっているが、慣れた感覚だ。
リゼラは気合いと言っていたが、自分の持つ霊力を自覚して、風を起こす感じだ。プラグは風の精霊では無いが、いつもそう考えている。風でなくても、たとえば光、たとえば炎。
霊力でプレートを操るというのは、無から有を生み出す感覚なのだ。
これはプレートの属性に合わせる必要はないので、プラグはその都度選んでいる。
風は精霊剣の時で、光はプレート起動の時。祝詞の時は燃えさかる炎。
……生み出す物が大きければ『気合い』が沢山いる。リゼラの教えは正しい。
「ル・ガルド・ディアセス……!」
抑え気味に『風』で霊力をイメージすると、プレートが光り――短剣の形になった。
「――! やった!」
プラグは目を輝かせた。見事に同じ剣ができている。
「おおっ……凄いですね!」
「……ん?」
アドニスを見て、プラグは目を丸くした。
「アドニス、それ……傘?」
アドニスが作っていたのは、ニア=エルタが持っている、日傘にそっくりな物だ。
「はい……しっぱいしました……」
アドニスが苦笑したので、プラグは声を上げて笑ってしまった。