第十話 思いもよらない提案

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 映画館を出た僕たちは喫茶すみれに向かった。
 時刻は午後四時を少しまわっていた。
 野平さんとはいつか食事に行きたいなと思いつつ、僕たちは喫茶すみれに入る。
 あの上品な老婦人が出迎えてくれた。
 この日も喫茶すみれはお客さんでいっぱいだった。
 奥の二人席が空いているということで、その席に案内された。
「ねえ、水樹さん、何か食べませんか?」
 野平さんの誘いは僕の心を読んだかのようだった。
「良いですね。パンケーキなんかどうですか」
 僕は提案する。メニュー表にあるパンケーキの写真は実に美味しそうだ。
「そうですね。プラス百円でアイスもつけられるそうですよ」
 うふふっと可愛らしい微笑みで野平案が出されるので僕は賛成する。
 なんだか、もうつきあっている彼女とのやりとりみたいだ。
 ということで僕はアイスコーヒー、野平さんはレモネードを注文した。パンケーキにアイスのトッピングも注文する。
 野平さんと劇場版「仮面の幻想」について語りあっていると老婦人花子さんがメニューを運んできた。
 アイスコーヒーを僕にレモネードを野平さんの前に置く。昔ながらのパンケーキいやこれはホットケーキだな。それにアイスが添えられたものがテーブル中央に置かれる。
 老婦人花子さんはそれぞれに小皿を置く。
 フォークとナイフも二つセットだ。
 これはますますカップル感が出て良いな。

「仮面の幻想面白かったてすね」
 野平さんは改めて映画の感想を言い、一口サイズに切ったパンケーキを食べる。例によってマスクをちょこんとあげて器用に食べる。
 パンケーキは二枚あるので一枚ずつ食べることができる。しかし、野平さんは自分が切った方を僕にほら美味しいですよとすすめる。
 コーラに続き、パンケーキでも間接キスをする。
 僕の勘違いでなければ良いんだけど今日一日でぐっと距離が縮まった気がする。

「そうですね。こうやって映画の感想を言い合えるのは楽しいですね」
 これは僕の素直な感想だ。
 いつもは映画はサブスクで一人で見ている。映画館に見に行くのは久しぶりだ。やはり映画館で見る迫力は抜群に良い。そこでしか味わえない経験がある。

「ですよね。私、映画が好きなんですけど一人で見て帰ったらなんか不完全燃焼な気持ちになるんですよね。水樹さんがつきあってくれて良かっです」
 野平さんは美巨乳の前で指を組み合わせている。顔で表情を読むことはできないが、こうやって仕草で示してくれるから分かりやすい。それにしてもまた巨乳がテーブルに乗っているな。
 僕がつきあうというフレーズに心臓をときめかせていると彼女は次のプランをプレゼンしてきた。

「今度、良かったら食事でもどうですか?私もっと野平さんとじっくりお話したいです」
 それは積極的なプレゼンであった。
 ただ野平さんとの食事には越えなければいけないハードルがある。
 それは野平さんの顔にかかるあのクレヨンのぐちゃぐちゃしたモザイクだ。
 僕は知っているから良いとしても店員さんなんかが見たら腰を抜かすかも知れない。

 僕が黙っていると野平さんはサングラスをちょっとずらす。ずらした部分はクレヨンのぐちゃぐちゃを薄くしたモザイクになっている。
 映画館で見たモザイクとクレヨンのぐちゃぐちゃとの間のような感じだ。
 視線はわからないけどじっと見られている気がする。
「あの……お嫌ですか……」
 その声はどこか寂し気だ。少なくとも僕にはそう聞こえた。
「嫌ではないです。むしろうれしいです。でも野平さん、お店どうしますか」
 そう、お店はどうしたらいいのだろうか?
 普通のレストランはきっと厳しいだろう。
 ウェイターの人がびっくりする。喫茶店の軽食ぐらいなら今みたいにマスクをちょっとあげて食べられる。だが普通のレストランでそれはやりづらいだろう。
 なら、個室のある店ならどうだろうか?
 野平さんのクレヨンのぐちゃぐちゃモザイクを見られるリスクは下がる。しかし、食器なんかを下げに来た店員さんに見られるリスクはある。
 
 僕が頭を悩ませていると野平さんがちょいちょいと手招きする。
 ぐっとテーブルに身を乗り出す。
 野平さんもぐぐ、ぐいっと身を乗り出す。巨乳がさらにテーブルに乗り、その存在感を証明する。

「私のお家に来てください。一緒に宅飲みしませんか?」
 僕は我が耳を疑った。
 まだ会うのは二回目だ。デートは一度目だ。
 それで家に行くなんてのは展開が速すぎないか。
 たしか前にラインでやりとりした時に一人暮らしだと言っていた。
 これは否応なしにエッチな展開を妄想してしまう。
 僕は思わず生唾を飲み込む。

 すっと野平さんは元の姿勢に戻る。
 僕は平静を装いながら、元に戻る。装ってはいるが頭の中の血管内に熱い血液が走るのを自覚した。
「こ、これは私の事情によるものです。そ、その水樹さんがお嫌でなけらばの話ですけど……」
 いやいや、お嫌なはずがない。
 むしろ飛び上がるほどうれしいのだけど展開の速さに脳内の処理が追いつかないのだ。
「一緒にご飯を食べて、お酒を飲んでアニメを見ましょうね」
 野平さんの言葉はそれ以上はしませんよという意思表示だろうか。しかし独身男性を家に招くとはそういうエッチな関係になっても良いよという意思表示にも捉えられる。
 いやいや考え過ぎだ。
 いくら野平さんが僕の好きなむっちり巨乳お姉さんだとは言え、妄想が過ぎるというものだ。

 とりあえずこの提案に乗らないという選択肢は無い。むしろ女子である野平さんがここまで踏み込んで提案してくれたのだ。全力で乗っかろう。

「じゃ、じゃ、じゃあお呼ばれいたします」
 緊張で声が震えて変な日本語になってしまった。
 もしかしてもしかすると僕はついに童貞を捨てられるかも知れない。瑞樹とはそういうのはできなかったからね。
 ということで来週金曜日の夕方に僕は野平さんの最寄り駅である近鉄奈良駅まで行くことになった。


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 映画館を出た僕たちは喫茶すみれに向かった。
 時刻は午後四時を少しまわっていた。
 野平さんとはいつか食事に行きたいなと思いつつ、僕たちは喫茶すみれに入る。
 あの上品な老婦人が出迎えてくれた。
 この日も喫茶すみれはお客さんでいっぱいだった。
 奥の二人席が空いているということで、その席に案内された。
「ねえ、水樹さん、何か食べませんか?」
 野平さんの誘いは僕の心を読んだかのようだった。
「良いですね。パンケーキなんかどうですか」
 僕は提案する。メニュー表にあるパンケーキの写真は実に美味しそうだ。
「そうですね。プラス百円でアイスもつけられるそうですよ」
 うふふっと可愛らしい微笑みで野平案が出されるので僕は賛成する。
 なんだか、もうつきあっている彼女とのやりとりみたいだ。
 ということで僕はアイスコーヒー、野平さんはレモネードを注文した。パンケーキにアイスのトッピングも注文する。
 野平さんと劇場版「仮面の幻想」について語りあっていると老婦人花子さんがメニューを運んできた。
 アイスコーヒーを僕にレモネードを野平さんの前に置く。昔ながらのパンケーキいやこれはホットケーキだな。それにアイスが添えられたものがテーブル中央に置かれる。
 老婦人花子さんはそれぞれに小皿を置く。
 フォークとナイフも二つセットだ。
 これはますますカップル感が出て良いな。
「仮面の幻想面白かったてすね」
 野平さんは改めて映画の感想を言い、一口サイズに切ったパンケーキを食べる。例によってマスクをちょこんとあげて器用に食べる。
 パンケーキは二枚あるので一枚ずつ食べることができる。しかし、野平さんは自分が切った方を僕にほら美味しいですよとすすめる。
 コーラに続き、パンケーキでも間接キスをする。
 僕の勘違いでなければ良いんだけど今日一日でぐっと距離が縮まった気がする。
「そうですね。こうやって映画の感想を言い合えるのは楽しいですね」
 これは僕の素直な感想だ。
 いつもは映画はサブスクで一人で見ている。映画館に見に行くのは久しぶりだ。やはり映画館で見る迫力は抜群に良い。そこでしか味わえない経験がある。
「ですよね。私、映画が好きなんですけど一人で見て帰ったらなんか不完全燃焼な気持ちになるんですよね。水樹さんがつきあってくれて良かっです」
 野平さんは美巨乳の前で指を組み合わせている。顔で表情を読むことはできないが、こうやって仕草で示してくれるから分かりやすい。それにしてもまた巨乳がテーブルに乗っているな。
 僕がつきあうというフレーズに心臓をときめかせていると彼女は次のプランをプレゼンしてきた。
「今度、良かったら食事でもどうですか?私もっと野平さんとじっくりお話したいです」
 それは積極的なプレゼンであった。
 ただ野平さんとの食事には越えなければいけないハードルがある。
 それは野平さんの顔にかかるあのクレヨンのぐちゃぐちゃしたモザイクだ。
 僕は知っているから良いとしても店員さんなんかが見たら腰を抜かすかも知れない。
 僕が黙っていると野平さんはサングラスをちょっとずらす。ずらした部分はクレヨンのぐちゃぐちゃを薄くしたモザイクになっている。
 映画館で見たモザイクとクレヨンのぐちゃぐちゃとの間のような感じだ。
 視線はわからないけどじっと見られている気がする。
「あの……お嫌ですか……」
 その声はどこか寂し気だ。少なくとも僕にはそう聞こえた。
「嫌ではないです。むしろうれしいです。でも野平さん、お店どうしますか」
 そう、お店はどうしたらいいのだろうか?
 普通のレストランはきっと厳しいだろう。
 ウェイターの人がびっくりする。喫茶店の軽食ぐらいなら今みたいにマスクをちょっとあげて食べられる。だが普通のレストランでそれはやりづらいだろう。
 なら、個室のある店ならどうだろうか?
 野平さんのクレヨンのぐちゃぐちゃモザイクを見られるリスクは下がる。しかし、食器なんかを下げに来た店員さんに見られるリスクはある。
 僕が頭を悩ませていると野平さんがちょいちょいと手招きする。
 ぐっとテーブルに身を乗り出す。
 野平さんもぐぐ、ぐいっと身を乗り出す。巨乳がさらにテーブルに乗り、その存在感を証明する。
「私のお家に来てください。一緒に宅飲みしませんか?」
 僕は我が耳を疑った。
 まだ会うのは二回目だ。デートは一度目だ。
 それで家に行くなんてのは展開が速すぎないか。
 たしか前にラインでやりとりした時に一人暮らしだと言っていた。
 これは否応なしにエッチな展開を妄想してしまう。
 僕は思わず生唾を飲み込む。
 すっと野平さんは元の姿勢に戻る。
 僕は平静を装いながら、元に戻る。装ってはいるが頭の中の血管内に熱い血液が走るのを自覚した。
「こ、これは私の事情によるものです。そ、その水樹さんがお嫌でなけらばの話ですけど……」
 いやいや、お嫌なはずがない。
 むしろ飛び上がるほどうれしいのだけど展開の速さに脳内の処理が追いつかないのだ。
「一緒にご飯を食べて、お酒を飲んでアニメを見ましょうね」
 野平さんの言葉はそれ以上はしませんよという意思表示だろうか。しかし独身男性を家に招くとはそういうエッチな関係になっても良いよという意思表示にも捉えられる。
 いやいや考え過ぎだ。
 いくら野平さんが僕の好きなむっちり巨乳お姉さんだとは言え、妄想が過ぎるというものだ。
 とりあえずこの提案に乗らないという選択肢は無い。むしろ女子である野平さんがここまで踏み込んで提案してくれたのだ。全力で乗っかろう。
「じゃ、じゃ、じゃあお呼ばれいたします」
 緊張で声が震えて変な日本語になってしまった。
 もしかしてもしかすると僕はついに童貞を捨てられるかも知れない。瑞樹とはそういうのはできなかったからね。
 ということで来週金曜日の夕方に僕は野平さんの最寄り駅である近鉄奈良駅まで行くことになった。