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第13話 クイーンパイピング③

ー/ー



 クラス旗のデザインの選定という重大(?)な局面を迎えた放課後の教室内の空気は、緊迫の瞬間を迎えるかと思ったんだけど――――――。

「ねぇ、ちょっと、良いかな?」

 黒髪のネイル女子が手を挙げ、その言葉にすぐに反応した委員長さんが彼女に返答する。

「どうしたの、桑来(くわき)さん?」

「うん、ちょっと、思ったんだけど、このクラス旗って体育大会のあとも使うんだよね?」

「そうだね、文化祭とか球技大会のときにも使われるかな?」

「そうだよね、じゃあ、文化祭のときに『勝利をつかめ!』ってメッセージは、なんか変かな? いや、自分でアイデアを出しておいて言うのもなんだけどさ……」

「そっか……『NEVER GIVE UP』なら、文化祭の準備のときとかにも、『あきらめるな』っていうメッセージは、有効かもしれないけど……」

 委員長さんが、つぶやくように言うと、ネイル女子の桑来(くわき)さんが即答する。

「だよね〜。だから、メッセージとしては、姫奈たちが考えた『NEVER GIVE UP』の方が良いと思うんだ」

「えっ、それじゃあ、九院(くいん)さんたちのデザインで良いのかな?」

「いや、ちょっと待って! ウチらのデザイン案に登場するミミちゃん先生は、ミサがデザインしてくれたんだよね? 姫奈たちのデザインに、ミミちゃんのキャラクターを出せない?」

 桑来(くわき)さんの提案に対し、委員長さんが、もう一方のグループにお伺いを立てる。

「桑来さんは、こう言ってるけど……どうかな、九院(くいん)さん?」

「あたしとしては、シンプルなデザインが気に入ってるんだけど、ミサが頑張って描いてくれたのなら、ミミちゃんのキャラを配置しても良いかなって思うよ。二人は、どう思う?」

 明るい髪色の九院さんが、自分の取り巻きのような女子二人にたずねると、彼女たちは、

「良いんじゃないかな?」

「私も問題ないと思う」

と、相づちを打った。

「じゃあ、決まりだね! あとは、タブレットに両方のデザインを取り込んで、トリミングしたミミちゃんの画像をどの場所に配置するか考えよう。ミサも、それで良いよね」

 桑来(くわき)さんが、キャラクターをデザインしたと思われる女子にたずねると、彼女は、

「うん!」

と嬉しそうにうなずいた。

 そのようすを目にしたネコ先輩は、

「ふむ……これは、なかなか興味深い」

と、感慨深げにつぶやいてから、クラスメートに声をかける。

「みんな、ありがとう。ネズコくんにも、ワタシたちのクラス旗の選考の過程は大いに参考になったと思う。それでは、これで失礼するよ」

「うい〜、じゃ、また明日ね〜」

 一方的に別れを告げるネコ先輩に返事をしてくれた桑来さんたちに対して、

「ありがとうございました。失礼します」

とあいさつをしてた私は、そそくさと2年1組の教室をあとにする。
 そして、ネコ先輩のあとに続いて、第二理科準備室にたどり着くと、彼女に気になっていたことを問いかけた。

「さっきの教室での出来事が興味深いって、どういうことですか? てっきり、ネコ先輩は揉め事が起こることを期待していたのかと思ってたんですけど」

「おいおい! キミは、いったいワタシをなんだと思っているんだい? ワタシが興味深いと言ったのは、彼女たちの行動が、ミツバチの女王選定の過程と似ていると思ったからなんだ。ところで、ネズコくん、キミはミツバチの鳴き声というモノを聞いたことはあるかい?」

「いえ、そんなの聞いたことありません。そもそも、ハチって鳴くものなんですか?」

「あぁ、ミツバチは色々な鳴き声を出すことがわかっている。なかでも、未交尾の女王候補のハチが出す鳴き声をクイーンパイピングと言うんだ」

「クイーンパイピング?」

「そう、クイーンパイピングとは、昼休みに説明した王台から出てきた女王候補と王台の中にいる女王候補が出す音で、トゥーティングとクワッキングの二種類がある。トゥーティングは、王台から出た王女が巣内を歩き回りながら鳴らす音で、クワッキングは、まだ王台の中から出ていない王女がトゥーティングに応えて鳴く音のことだ。羽化している王女はその音でその場所が突き止められるんだ。そして、トゥーティングをした王女は、クワッキングで答えた王女の王台を破って刺し殺す――――――」

「えっ! それじゃあ、クワッキングをしなければ、その女王候補は殺されないんじゃ……?」

「たしかに、そうだな。このクワッキングについて、ある研究者は『私を殺してくれ』と主張しているという見解を示している。なぜかと言えば、これ以上、女王が増えてしまったら、巣全体が存続できなくなってしまうからだ。王台の中にいる女王蜂候補は、いま以上に女王が増えて分蜂し、コミュニティ内の蜂の数が減ることで巣全体が弱くならないよう、クワッキングで本能的に位置を教えて自ら殺される、という研究予測があるそうだ」

「そうなんですか!? じゃあ、桑来(くわき)さんが、九院(くいん)さんたちにクラス旗のデザイン案を譲ったのは――――――」

「あぁ、ミツバチで言うところのクワッキング的な行為と言えるかもな。彼女は、自分のエゴよりも穏便なクラス生活というコミュニティーの安全性を優先したのかも知れない。ただ、ミツバチの生態については、まだまだ研究途上なので、人間社会との関係性を明言することはできないがね」

 珍しく慎重な口ぶりで語るネコ先輩だったけど、私は、生き物の不思議な生態について感心せざるを得なかった。


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 クラス旗のデザインの選定という重大(?)な局面を迎えた放課後の教室内の空気は、緊迫の瞬間を迎えるかと思ったんだけど――――――。
「ねぇ、ちょっと、良いかな?」
 黒髪のネイル女子が手を挙げ、その言葉にすぐに反応した委員長さんが彼女に返答する。
「どうしたの、|桑来《くわき》さん?」
「うん、ちょっと、思ったんだけど、このクラス旗って体育大会のあとも使うんだよね?」
「そうだね、文化祭とか球技大会のときにも使われるかな?」
「そうだよね、じゃあ、文化祭のときに『勝利をつかめ!』ってメッセージは、なんか変かな? いや、自分でアイデアを出しておいて言うのもなんだけどさ……」
「そっか……『NEVER GIVE UP』なら、文化祭の準備のときとかにも、『あきらめるな』っていうメッセージは、有効かもしれないけど……」
 委員長さんが、つぶやくように言うと、ネイル女子の|桑来《くわき》さんが即答する。
「だよね〜。だから、メッセージとしては、姫奈たちが考えた『NEVER GIVE UP』の方が良いと思うんだ」
「えっ、それじゃあ、|九院《くいん》さんたちのデザインで良いのかな?」
「いや、ちょっと待って! ウチらのデザイン案に登場するミミちゃん先生は、ミサがデザインしてくれたんだよね? 姫奈たちのデザインに、ミミちゃんのキャラクターを出せない?」
 |桑来《くわき》さんの提案に対し、委員長さんが、もう一方のグループにお伺いを立てる。
「桑来さんは、こう言ってるけど……どうかな、|九院《くいん》さん?」
「あたしとしては、シンプルなデザインが気に入ってるんだけど、ミサが頑張って描いてくれたのなら、ミミちゃんのキャラを配置しても良いかなって思うよ。二人は、どう思う?」
 明るい髪色の九院さんが、自分の取り巻きのような女子二人にたずねると、彼女たちは、
「良いんじゃないかな?」
「私も問題ないと思う」
と、相づちを打った。
「じゃあ、決まりだね! あとは、タブレットに両方のデザインを取り込んで、トリミングしたミミちゃんの画像をどの場所に配置するか考えよう。ミサも、それで良いよね」
 |桑来《くわき》さんが、キャラクターをデザインしたと思われる女子にたずねると、彼女は、
「うん!」
と嬉しそうにうなずいた。
 そのようすを目にしたネコ先輩は、
「ふむ……これは、なかなか興味深い」
と、感慨深げにつぶやいてから、クラスメートに声をかける。
「みんな、ありがとう。ネズコくんにも、ワタシたちのクラス旗の選考の過程は大いに参考になったと思う。それでは、これで失礼するよ」
「うい〜、じゃ、また明日ね〜」
 一方的に別れを告げるネコ先輩に返事をしてくれた桑来さんたちに対して、
「ありがとうございました。失礼します」
とあいさつをしてた私は、そそくさと2年1組の教室をあとにする。
 そして、ネコ先輩のあとに続いて、第二理科準備室にたどり着くと、彼女に気になっていたことを問いかけた。
「さっきの教室での出来事が興味深いって、どういうことですか? てっきり、ネコ先輩は揉め事が起こることを期待していたのかと思ってたんですけど」
「おいおい! キミは、いったいワタシをなんだと思っているんだい? ワタシが興味深いと言ったのは、彼女たちの行動が、ミツバチの女王選定の過程と似ていると思ったからなんだ。ところで、ネズコくん、キミはミツバチの鳴き声というモノを聞いたことはあるかい?」
「いえ、そんなの聞いたことありません。そもそも、ハチって鳴くものなんですか?」
「あぁ、ミツバチは色々な鳴き声を出すことがわかっている。なかでも、未交尾の女王候補のハチが出す鳴き声をクイーンパイピングと言うんだ」
「クイーンパイピング?」
「そう、クイーンパイピングとは、昼休みに説明した王台から出てきた女王候補と王台の中にいる女王候補が出す音で、トゥーティングとクワッキングの二種類がある。トゥーティングは、王台から出た王女が巣内を歩き回りながら鳴らす音で、クワッキングは、まだ王台の中から出ていない王女がトゥーティングに応えて鳴く音のことだ。羽化している王女はその音でその場所が突き止められるんだ。そして、トゥーティングをした王女は、クワッキングで答えた王女の王台を破って刺し殺す――――――」
「えっ! それじゃあ、クワッキングをしなければ、その女王候補は殺されないんじゃ……?」
「たしかに、そうだな。このクワッキングについて、ある研究者は『私を殺してくれ』と主張しているという見解を示している。なぜかと言えば、これ以上、女王が増えてしまったら、巣全体が存続できなくなってしまうからだ。王台の中にいる女王蜂候補は、いま以上に女王が増えて分蜂し、コミュニティ内の蜂の数が減ることで巣全体が弱くならないよう、クワッキングで本能的に位置を教えて自ら殺される、という研究予測があるそうだ」
「そうなんですか!? じゃあ、|桑来《くわき》さんが、|九院《くいん》さんたちにクラス旗のデザイン案を譲ったのは――――――」
「あぁ、ミツバチで言うところのクワッキング的な行為と言えるかもな。彼女は、自分のエゴよりも穏便なクラス生活というコミュニティーの安全性を優先したのかも知れない。ただ、ミツバチの生態については、まだまだ研究途上なので、人間社会との関係性を明言することはできないがね」
 珍しく慎重な口ぶりで語るネコ先輩だったけど、私は、生き物の不思議な生態について感心せざるを得なかった。