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第11話 クイーンパイピング①

ー/ー



音無(おとなし)、昨日のテストでなにかわかったことってあったの?」

 幼なじみのケンタをはじめ、野球部のメンバーを被験者にした『視線のカスケード現象』とかいう実験が終わった翌日、私が教室に登校すると、実験で最初の被験者となった福島くんが声をかけてきた。

「あっ、え〜と……私は、見学させてもらっただけだから、詳しいことは良くわからないんだ。ゴメンね」

 例の実験の内容とネコ先輩の本来の目的を伝えない方が良い、と判断した私は、曖昧な笑みを浮かべながら誤魔化すことにした。

「ほ〜ん、そっか……あの()()()()()()()()()に、わざわざ聞きに行くのもナンダカ……って感じだしさ〜。なにか、わかったことがあったら、また教えてよ」

 そう言って、福島くんは私の元を去って行った。クラスメートから、あの()()()()()()()()()というキーワードが出たことで、私は「ハァ〜〜〜」と盛大なため息をつく。

 昨日は、またも強引に生物心理学研究会の勧誘を受けた上に、

「残念ですが、ネコ先輩には協力できません。幼なじみ同士のラブコメ小説を書いてほしければ、他を当たってください」

と断ると、上級生女子はあろうことか、またも先週と同じような脅し文句で対抗してきた。

「ほう、そういう態度を取っても良いのかな? このままでは、ワタシが自宅PCに保存している恋愛ジャンルの小説が学内に流出してしまうことになるかも知れない。たしか、タイトルは――――――

『放課後、キミの隣。』 (日常的な学園ラブコメ)
『星屑のティアドロップ』 (切ない片想いを描く)
『桜色のイノセンス』 (初恋の甘酸っぱさを表現)
『運命は、夜明けに囁く』 (ドラマチックな展開) 

だったかな? 文才あふれる乙梨稔珠美(おとなしねずみ)先生の作品をあまねく学内に広めようじゃないか!」

「わかりました、わかりましたから! ちょっとだけ、考える時間をください」

 そう答えて、私のクラブ活動の入部に関する話しは先送りになっていた。

 そして、その日の昼休み――――――。

 LANEの連絡先を交換したネコ先輩から呼び出されていた私は、彼女の根城と化している第二理科準備室に向かう。

 準備室のドアをノックして入室すると、上級生女子は、

「よく来たね、ネズコくん」

と笑顔で私を出迎える(別に嬉しくないけど……)。
 相変わらず不敵な笑みを上級生に対して、私はたずねる。

「どうして、昼休みに私を呼んだんですか?」

「実は今日の放課後、ワタシのクラスで興味深い光景が見られそうなのでね。昼休み中にその概要を伝えて、放課後に実地見学をしてもらおうと思ったんだ」

「なんですか、興味深い光景って?」

「フフ……ソレはね……我がクラスにおけるクラス内ヒエラルキーの女王決定戦さ」

「クラス内ヒエラルキーの女王決定戦?」

「あぁ、キミも認識していると思うが、クラス内ヒエラルキーの頂点に立つ女子生徒は通常一人と相場が決まっている。海外では、このポジションに居る女子生徒のことをクイーンビーと言ったりするらしい」

「クイーンビー……女王蜂のことですか?」

「そのとおり! そして、今年度の我がクラスでは、昨年度、学年内で人気を二分した九院姫奈(くいんひめな)桑来葉丹衣(くわきはにい)という女子生徒二名が同時に所属することになったんだ」

「あ〜、それは揉め事が起こりそうですね」

 完全に他人事ということもあって、私は苦笑しながら返答する。

「そうだろう? クラス内ヒエラルキーにおいても、ミツバチなどの生態においても、女王は一人だけと決まっている。そのたった1枠を巡って、どんな争いが繰り広げられるか、キミは興味が無いか?」

「前から思っていたんですけど、ネコ先輩って、メチャクチャ性格が悪いですよね? そして、先輩の言う女王決定戦に興味があるか無いかと言えば、当然、興味はあります!」

「フフフ……キミなら、そう言うと思っていたよ。人間関係の揉め事に興味を持てない人間など、創作者(クリエイター)とは言えないからね」

「それは、大いなる偏見だと思いますけど……」

「まあ、見解の相違はおいておくとして……まずは前提知識として、ここではミツバチの女王蜂の選定に関する過程を説明させてもらおう。女王蜂候補の幼虫は、特別に作られた『王台』という部屋に産み付けられるのだが……ミツバチの女王蜂は、働き蜂の幼虫から栄養価の高いローヤルゼリーのみを与えられた者の中から選ばれるということは知っているかい?」

「えぇ、その話しは聞いたことがあります」

「そして、最初に羽化した女王蜂候補は、他の王台を攻撃して中のさなぎを殺害し、また同時に羽化した場合は、殺し合いによって生き残った一匹だけが新しい女王蜂となるんだ」

「へぇ〜、ハチってそんなに厳しい生存競争があるんですね? 知りませんでした」

「あぁ、女王蜂になるのはそう簡単ではないんだ。女王選定の際、蜂の巣の中に王台は10個ほど作られるという。女王蜂候補の幼虫は、当然その数だけ産まれることになるんだ。命をかけた決闘の末に勝ち残ったモノだけが新たな女王として、そのコミュニティーの中心に君臨し、同時にその命運を託されることになる。さて、我がクラスの女王決定戦は、どんな結果になるかな?」

 自分のクラスで起こりそうな揉め事を楽しげに話す上級生の表情を見ながら、自分もクラスの女王決定戦の行く末を楽しみにしていることに気づいて、創作者の業というものを感じずにいられなかった。


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次のエピソードへ進む 第12話 クイーンパイピング②


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「|音無《おとなし》、昨日のテストでなにかわかったことってあったの?」
 幼なじみのケンタをはじめ、野球部のメンバーを被験者にした『視線のカスケード現象』とかいう実験が終わった翌日、私が教室に登校すると、実験で最初の被験者となった福島くんが声をかけてきた。
「あっ、え〜と……私は、見学させてもらっただけだから、詳しいことは良くわからないんだ。ゴメンね」
 例の実験の内容とネコ先輩の本来の目的を伝えない方が良い、と判断した私は、曖昧な笑みを浮かべながら誤魔化すことにした。
「ほ〜ん、そっか……あの|ち《・》|ょ《・》|っ《・》|と《・》|怪《・》|し《・》|い《・》|先《・》|輩《・》に、わざわざ聞きに行くのもナンダカ……って感じだしさ〜。なにか、わかったことがあったら、また教えてよ」
 そう言って、福島くんは私の元を去って行った。クラスメートから、あの|ち《・》|ょ《・》|っ《・》|と《・》|怪《・》|し《・》|い《・》|先《・》|輩《・》というキーワードが出たことで、私は「ハァ〜〜〜」と盛大なため息をつく。
 昨日は、またも強引に生物心理学研究会の勧誘を受けた上に、
「残念ですが、ネコ先輩には協力できません。幼なじみ同士のラブコメ小説を書いてほしければ、他を当たってください」
と断ると、上級生女子はあろうことか、またも先週と同じような脅し文句で対抗してきた。
「ほう、そういう態度を取っても良いのかな? このままでは、ワタシが自宅PCに保存している恋愛ジャンルの小説が学内に流出してしまうことになるかも知れない。たしか、タイトルは――――――
『放課後、キミの隣。』 (日常的な学園ラブコメ)
『星屑のティアドロップ』 (切ない片想いを描く)
『桜色のイノセンス』 (初恋の甘酸っぱさを表現)
『運命は、夜明けに囁く』 (ドラマチックな展開) 
だったかな? 文才あふれる|乙梨稔珠美《おとなしねずみ》先生の作品をあまねく学内に広めようじゃないか!」
「わかりました、わかりましたから! ちょっとだけ、考える時間をください」
 そう答えて、私のクラブ活動の入部に関する話しは先送りになっていた。
 そして、その日の昼休み――――――。
 LANEの連絡先を交換したネコ先輩から呼び出されていた私は、彼女の根城と化している第二理科準備室に向かう。
 準備室のドアをノックして入室すると、上級生女子は、
「よく来たね、ネズコくん」
と笑顔で私を出迎える(別に嬉しくないけど……)。
 相変わらず不敵な笑みを上級生に対して、私はたずねる。
「どうして、昼休みに私を呼んだんですか?」
「実は今日の放課後、ワタシのクラスで興味深い光景が見られそうなのでね。昼休み中にその概要を伝えて、放課後に実地見学をしてもらおうと思ったんだ」
「なんですか、興味深い光景って?」
「フフ……ソレはね……我がクラスにおけるクラス内ヒエラルキーの女王決定戦さ」
「クラス内ヒエラルキーの女王決定戦?」
「あぁ、キミも認識していると思うが、クラス内ヒエラルキーの頂点に立つ女子生徒は通常一人と相場が決まっている。海外では、このポジションに居る女子生徒のことをクイーンビーと言ったりするらしい」
「クイーンビー……女王蜂のことですか?」
「そのとおり! そして、今年度の我がクラスでは、昨年度、学年内で人気を二分した|九院姫奈《くいんひめな》と|桑来葉丹衣《くわきはにい》という女子生徒二名が同時に所属することになったんだ」
「あ〜、それは揉め事が起こりそうですね」
 完全に他人事ということもあって、私は苦笑しながら返答する。
「そうだろう? クラス内ヒエラルキーにおいても、ミツバチなどの生態においても、女王は一人だけと決まっている。そのたった1枠を巡って、どんな争いが繰り広げられるか、キミは興味が無いか?」
「前から思っていたんですけど、ネコ先輩って、メチャクチャ性格が悪いですよね? そして、先輩の言う女王決定戦に興味があるか無いかと言えば、当然、興味はあります!」
「フフフ……キミなら、そう言うと思っていたよ。人間関係の揉め事に興味を持てない人間など、|創作者《クリエイター》とは言えないからね」
「それは、大いなる偏見だと思いますけど……」
「まあ、見解の相違はおいておくとして……まずは前提知識として、ここではミツバチの女王蜂の選定に関する過程を説明させてもらおう。女王蜂候補の幼虫は、特別に作られた『王台』という部屋に産み付けられるのだが……ミツバチの女王蜂は、働き蜂の幼虫から栄養価の高いローヤルゼリーのみを与えられた者の中から選ばれるということは知っているかい?」
「えぇ、その話しは聞いたことがあります」
「そして、最初に羽化した女王蜂候補は、他の王台を攻撃して中のさなぎを殺害し、また同時に羽化した場合は、殺し合いによって生き残った一匹だけが新しい女王蜂となるんだ」
「へぇ〜、ハチってそんなに厳しい生存競争があるんですね? 知りませんでした」
「あぁ、女王蜂になるのはそう簡単ではないんだ。女王選定の際、蜂の巣の中に王台は10個ほど作られるという。女王蜂候補の幼虫は、当然その数だけ産まれることになるんだ。命をかけた決闘の末に勝ち残ったモノだけが新たな女王として、そのコミュニティーの中心に君臨し、同時にその命運を託されることになる。さて、我がクラスの女王決定戦は、どんな結果になるかな?」
 自分のクラスで起こりそうな揉め事を楽しげに話す上級生の表情を見ながら、自分もクラスの女王決定戦の行く末を楽しみにしていることに気づいて、創作者の業というものを感じずにいられなかった。