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4 真面目すぎるけど……

ー/ー



 翌日はギルド前で、リオさんと待ち合わせることになった。

 バスケットを持って、軽やかに外へ出た。
 何だか空気がおいしい。
 不安が一つ解消されたからかな?

 優雅を気取って、足を交互に出す。
 いつもと同じだと思うけど、雲が多い空なのに気持ちは晴れやかだ。

 きっと、昨夜はぐっすり眠れたからだろう。
 ギルドが近づいてきた辺りで、自分がスキップしていることに気付いた。慌てて足を止め、淑女を真似て歩みを進める。

「おはようございます」
 挨拶前に、こほん、と喉の声を確かめてから、リオさんに声をかけた。
 リオさんは胸の前で組んでいた太い腕を解いて、私に向き直る。

「おはようございます」
 リオさんは着任した兵士のように、顔を引き締めた。
 真面目、なんだよな、この人。

 いや、仕事に忠実なのはいいことだし、依頼人としてもありがたいんだけど。
 少しくらい気を楽にしてくれてもいいのにな。
 おはようと言うには遅い時間を、二人で並んで歩く。

 リオさんは眉間にしわを寄せて、すれ違う人を怯えさせるほどの形相で観察している。
 昨日のことがあったからなんだろうけど、さすがに顔が怖すぎでは?
 私のためだってことは分かってる。でも、もう少し肩の力を抜いてもいいんだよ?

「あの、リオさん?」
「何ですか?」
「リラックス」
 私は肩を揺らした。

「……ああ」
 納得したように頷き、リオさんは私の行為を真似した。

「怖い顔してました?」
「けっこう……」
「昔からよく母に言われてたんですよ。『あんたは顔が不愛想なんだから、もっと笑いなさい』って」

「それ、分かります」
 お母さんは、リオさんのこと、よく見てたんだな。
 思わず笑ってしまい、不愛想なのを肯定してしまったことに気付く。
 慌てて両手を振った。

「違います。不愛想ってことじゃなくて。笑顔になると可愛いというか……」
 口を押えて言葉を押し戻す。

「えっと、変な意味じゃなくて、笑顔が……」
 昨日の不器用な笑顔を思い出して顔が火照った。
 この流れだと、どんな表現をしても、好意を出しているように受け取られないか……?

「いいですよ、無理にお世辞言わなくても。顔は不愛想、人付き合いは不器用。おまけに、お前は真面目すぎるって、おやっさんにもよく言われます。でもこういうのって、なかなか治らないんですよね」

 ごめんなさい、私も同じこと思ってました。
 でも。

「昨日、そして、今日話してみて分かったんですけど、それがリオさんの個性、なんだと思います」
 きっと感覚的なもの。説明しろと言われてもできない。

 ただ彼のじれったさを感じるくらいの笑顔が、私の中でくすぶっているのは、リオさんが不愛想で不器用で、真面目すぎるからだ。

「そんなこと、初めて言われました……」
 リオさんは、変わり者でも見るかのように、私の目を見た。

「そっか、話してみて分かることってあるんですね。知りませんでした」
「あるんです。急いては事を仕損じるって言葉もありますし」
「身に覚えがありすぎて」
 ようやく彼の表情も緩んできた。リオさんは少し、気張りすぎなんだ。

「ライナさんも……」
 え……?
 その言葉で、少し、胸の苦しみを、感じた。
 初めてだ、彼の口から、私の名前が出たのは……

「ライナさんのイメージも変わりました」
「そう、ですか?」
 平静さを装う。平静さ……って私ってどんな人だったっけ?
 混乱、してる?

「雰囲気は冷静そうなのに、実は臆病、それでいて世話焼き、でしょ?」
「世話焼きでしょうか?」
 持ってきたバスケットに意識を向けた。

「ええ。昨日の応急手当ありがたかったです。こうして、今日も買い出しされてますし」
 そっか。世話焼きなのかな、私。
 だったら、この流れなら、言ってもいいのかな。

 迷惑がられないかなと思いつつも、朝から作ってきたもの。昨日のせめてものお礼。
 世話焼きだから、私は。
 この流れなら違和感、ないよね?

「ご迷惑でなければ、良かったらサンドイッチとか、どうですか」
 私はバスケットをリオさんの眼前に突き出した。


 -----------


「たまごサンドなら、嫌いな方も少ないのかな、と思って作ったんですけど」
 広場のベンチに並んで座ると、バスケットを開いて目を瞑った。
 差し出す。

「昨日の、口の中の、ケガもありますし、食べやすいのかなと」
 次々と言い訳がましい言葉が出てくる。

「いただきます」
 暗闇の中、彼の言葉を聞いた。
 反応なんて見れるわけがない。

「うん、おいしい」
 弾んだ声に顔を上げていた。

「本当ですか!」
「え、ええ」

 思わず声を張り上げていた。
 リオさんは気圧されたように苦笑し、バスケットのたまごサンドを摘まんで、口に押し込んだ。

「一気に口に入れすぎです」
 お茶を入れて渡す。リオさんは、豪快にお茶を流し込んだ。

「ほら、世話焼きだ」
「からかわないでください」

 私たちは周囲からどのように見られているんだろう?
 子供連れの家族を眺めながら、たまごサンドを一口齧った。

「たまごサンド、子供の頃からの好物なんです」
 競争しているわけでもないのに、リオさんは両手にたまごサンドを摘まんでいる。
 勝ち誇ってなんだか嬉しそう。

「誕生日、クリスマス、事あるごとに作ってもらってました。その度に……」
 また、たまごサンドを一口で頬張る。
 その仕草はまるで子供だ。
 リオさんは、お茶を飲み込んだ。

「こんなふうに食べて、母に叱られました」
「しっかり噛んで食べてくださいね」
「そうですね、懐かしくてつい……」

 リオさんが手を伸ばす。
 バスケットは空になっていた。

「あ……」
 リオさんの指は行き場をなくしてさ迷った。

「ふふ」
 困った顔を見て、笑いが込み上げてきた。

「食い意地張ってるのバレたかな」
 リオさんが冗談を言った。
 二人で顔を見合わせて笑う。

「もし、迷惑でなければ、ですけど」
 あまり距離を詰めすぎるのは危険だ。
 少し、離れておくくらいがちょうどいいはずなのに。
 心を閉じ込める蓋が欲しい。

「良かったら、また明日作ってきますよ」
 それでも私は、そんな提案をしていた。
 私たちは、ギルドの冒険者と依頼人。お金でつながる関係。明日には、解消される。


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 翌日はギルド前で、リオさんと待ち合わせることになった。
 バスケットを持って、軽やかに外へ出た。
 何だか空気がおいしい。
 不安が一つ解消されたからかな?
 優雅を気取って、足を交互に出す。
 いつもと同じだと思うけど、雲が多い空なのに気持ちは晴れやかだ。
 きっと、昨夜はぐっすり眠れたからだろう。
 ギルドが近づいてきた辺りで、自分がスキップしていることに気付いた。慌てて足を止め、淑女を真似て歩みを進める。
「おはようございます」
 挨拶前に、こほん、と喉の声を確かめてから、リオさんに声をかけた。
 リオさんは胸の前で組んでいた太い腕を解いて、私に向き直る。
「おはようございます」
 リオさんは着任した兵士のように、顔を引き締めた。
 真面目、なんだよな、この人。
 いや、仕事に忠実なのはいいことだし、依頼人としてもありがたいんだけど。
 少しくらい気を楽にしてくれてもいいのにな。
 おはようと言うには遅い時間を、二人で並んで歩く。
 リオさんは眉間にしわを寄せて、すれ違う人を怯えさせるほどの形相で観察している。
 昨日のことがあったからなんだろうけど、さすがに顔が怖すぎでは?
 私のためだってことは分かってる。でも、もう少し肩の力を抜いてもいいんだよ?
「あの、リオさん?」
「何ですか?」
「リラックス」
 私は肩を揺らした。
「……ああ」
 納得したように頷き、リオさんは私の行為を真似した。
「怖い顔してました?」
「けっこう……」
「昔からよく母に言われてたんですよ。『あんたは顔が不愛想なんだから、もっと笑いなさい』って」
「それ、分かります」
 お母さんは、リオさんのこと、よく見てたんだな。
 思わず笑ってしまい、不愛想なのを肯定してしまったことに気付く。
 慌てて両手を振った。
「違います。不愛想ってことじゃなくて。笑顔になると可愛いというか……」
 口を押えて言葉を押し戻す。
「えっと、変な意味じゃなくて、笑顔が……」
 昨日の不器用な笑顔を思い出して顔が火照った。
 この流れだと、どんな表現をしても、好意を出しているように受け取られないか……?
「いいですよ、無理にお世辞言わなくても。顔は不愛想、人付き合いは不器用。おまけに、お前は真面目すぎるって、おやっさんにもよく言われます。でもこういうのって、なかなか治らないんですよね」
 ごめんなさい、私も同じこと思ってました。
 でも。
「昨日、そして、今日話してみて分かったんですけど、それがリオさんの個性、なんだと思います」
 きっと感覚的なもの。説明しろと言われてもできない。
 ただ彼のじれったさを感じるくらいの笑顔が、私の中でくすぶっているのは、リオさんが不愛想で不器用で、真面目すぎるからだ。
「そんなこと、初めて言われました……」
 リオさんは、変わり者でも見るかのように、私の目を見た。
「そっか、話してみて分かることってあるんですね。知りませんでした」
「あるんです。急いては事を仕損じるって言葉もありますし」
「身に覚えがありすぎて」
 ようやく彼の表情も緩んできた。リオさんは少し、気張りすぎなんだ。
「ライナさんも……」
 え……?
 その言葉で、少し、胸の苦しみを、感じた。
 初めてだ、彼の口から、私の名前が出たのは……
「ライナさんのイメージも変わりました」
「そう、ですか?」
 平静さを装う。平静さ……って私ってどんな人だったっけ?
 混乱、してる?
「雰囲気は冷静そうなのに、実は臆病、それでいて世話焼き、でしょ?」
「世話焼きでしょうか?」
 持ってきたバスケットに意識を向けた。
「ええ。昨日の応急手当ありがたかったです。こうして、今日も買い出しされてますし」
 そっか。世話焼きなのかな、私。
 だったら、この流れなら、言ってもいいのかな。
 迷惑がられないかなと思いつつも、朝から作ってきたもの。昨日のせめてものお礼。
 世話焼きだから、私は。
 この流れなら違和感、ないよね?
「ご迷惑でなければ、良かったらサンドイッチとか、どうですか」
 私はバスケットをリオさんの眼前に突き出した。
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「たまごサンドなら、嫌いな方も少ないのかな、と思って作ったんですけど」
 広場のベンチに並んで座ると、バスケットを開いて目を瞑った。
 差し出す。
「昨日の、口の中の、ケガもありますし、食べやすいのかなと」
 次々と言い訳がましい言葉が出てくる。
「いただきます」
 暗闇の中、彼の言葉を聞いた。
 反応なんて見れるわけがない。
「うん、おいしい」
 弾んだ声に顔を上げていた。
「本当ですか!」
「え、ええ」
 思わず声を張り上げていた。
 リオさんは気圧されたように苦笑し、バスケットのたまごサンドを摘まんで、口に押し込んだ。
「一気に口に入れすぎです」
 お茶を入れて渡す。リオさんは、豪快にお茶を流し込んだ。
「ほら、世話焼きだ」
「からかわないでください」
 私たちは周囲からどのように見られているんだろう?
 子供連れの家族を眺めながら、たまごサンドを一口齧った。
「たまごサンド、子供の頃からの好物なんです」
 競争しているわけでもないのに、リオさんは両手にたまごサンドを摘まんでいる。
 勝ち誇ってなんだか嬉しそう。
「誕生日、クリスマス、事あるごとに作ってもらってました。その度に……」
 また、たまごサンドを一口で頬張る。
 その仕草はまるで子供だ。
 リオさんは、お茶を飲み込んだ。
「こんなふうに食べて、母に叱られました」
「しっかり噛んで食べてくださいね」
「そうですね、懐かしくてつい……」
 リオさんが手を伸ばす。
 バスケットは空になっていた。
「あ……」
 リオさんの指は行き場をなくしてさ迷った。
「ふふ」
 困った顔を見て、笑いが込み上げてきた。
「食い意地張ってるのバレたかな」
 リオさんが冗談を言った。
 二人で顔を見合わせて笑う。
「もし、迷惑でなければ、ですけど」
 あまり距離を詰めすぎるのは危険だ。
 少し、離れておくくらいがちょうどいいはずなのに。
 心を閉じ込める蓋が欲しい。
「良かったら、また明日作ってきますよ」
 それでも私は、そんな提案をしていた。
 私たちは、ギルドの冒険者と依頼人。お金でつながる関係。明日には、解消される。