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第3節 墜落騒動/ §4

ー/ー



   ―セクション4―
 
 昼休み、大杜と研矢は、使われていなさそうな教室に忍び込み、後ろに集められていた机と椅子を出してきて、持参の弁当を食べていた。

 花鈴が大杜と一緒に食べると宣言していたが、ふたりは気付かれる前に教室を出てきている。今頃怒って探し回っているかもしれない。

「うまそうだな、それ」

 研矢は大杜の色鮮やかなおかずに驚いた。

「俺が作ったんだよ。食べてみる?」

「え、お前、料理できんのか?」

「うちはみんな仕事が忙しいから、得意分野の家事を担当してるんだ。俺は料理が得意だから、食事担当だよ」

「マジか。家事ロボットは使ってないのか?」

 大杜の部下は警官ロボットだというのに、家にはいないのかと、研矢は不思議に思った。

「母さんがロボット――特にヒューマン型ロボットが嫌いなんだ。だから家では使えない」

「抵抗ある人はいるもんな。しかしえらいな。早起きして弁当まで作んのか」

「まぁ得意分野というより、趣味なんだよ。料理が好きなんだ。いろんな食材組み合わせて、新しい味を作り出して、なんか魔法みたいだなって」

 大杜は唐揚げをひとつ彼の弁当箱の中に転がした。

「口に合わなかったらごめん」

「いや、すごくうまい」

 研矢は感心した。特務員として忙しそうなのに、料理までしているとは。

「もしかして、今朝は弁当作ってて遅くなったとか?」

「あ、違う違う」

 大杜はあからさまに面倒くさそうな表情を浮かべた。

「アイビーと揉めたんだ。付いてくるってきかなくて。なんとか置いてこれたんだけど大変だったよ」

「本当に心配性なんだな。けど、ボディガードみたいなのはいたほうがいいんじゃないのか?」

「普通に学校生活送る上でボディガードっている? それならみんなボディガード連れて歩かなきゃいけないよ」

「お前が普通じゃないからだろ」

「そんなこと言ったら、君にこそいるんじゃない?」

「どういう意味だ?」

 研矢は眉をひそめた。

「誘拐とかに気を付けなければいけないんじゃないかと思って。MatsuQ(マツキュー)社長夫婦の息子さんでしょ」

「……気付いてたか」

「うん。フルネーム聞いた時から気付いてたよ」

「さすがロボット隊率いてるだけあって、詳しいな」

「うちの部下はみんなMatsuQ製だからね」

「そういやアイビーもだよな。あの見守りロボットはうちの初期のものだろ。ボディはすでに別物みたいだが」

「そう。最初の友だちで最初の警官ロボット」

「最初?」

 研矢の疑問に、大杜はミニトマトを口に放り込みながら頷く。

「第一号ということだ」

 急な第三者の声にびっくりして、大杜がミニトマトを喉に詰まらせかけて派手に咳き込む。

 ふたりが声の方を見ると、窓枠の外側に、アイビーがちょこんと乗っかっているのが見えた。

(ひとりでやって来たのか)

 置いていかれたアイビーが追い掛けてきたのだろう。いくらロボットが世間に認知されていると言っても、おもちゃのロボットが街中を移動しているさまは、さぞかし面白かっただろうなと、研矢は思った。

「絶対に来るなって言っておいただろ! これはお願いじゃなくて、め・い・れ・い!」

「私が来ているのは、友人として心配だからだ。命令は意味をなさない」

「……」

「とにかく、この窓を開けてくれないか」

「……」

 大杜はアイビーの言葉を無視して、ふいっとそっぽを向くと、水筒に手を伸ばす。

「タイト」

 アイビーの声のトーンが変わる。

 しょんぼりしているようで、研矢はアイビーが少しかわいそうになった。

「入れてやれば?」

 研矢が言うと、大杜は首を横に振った。

「いやだ」

「残念だ。窓ガラスを割るのは忍びないが、仕方ない」

「待て!」

 研矢が慌てて止める。内緒で教室を使っているのに、窓ガラスが割られては、面倒なことになる。

 研矢は立ち上がると、鍵を外して窓を少し開けた。

 アイビーはボディを横にしてひょっこりといった仕草で教室に入り、自分で窓を閉め、軽くジャンプして鍵を掛けた。

「ありがとう、ケンヤ」

「はいはい、どういたしまして」

 研矢は答えながら、本当に人と話しているみたいだなと、改めて思った。

 アイビーは正確には見守りロボットではなく、警官ロボットとのことだから、積まれている人工知能が高性能であろうことは想像できる。しかし知能はサイズに比例する。生き物の脳と同じように、大きければ大きいほど賢い。逆もしかり。

「アイビーのサイズで、ほかの警官ロボットと同じだけの知能ってすごいな。親父の発明?」

「ハード面の性能は、確かに松宮博士の発明だ。だが私たちキューレイシリーズの人工知能は、松宮博士の発明ではない」

「そうなのか?」

 それなら誰が? と疑問に思いながら、研矢は大杜を見た。

 大杜はアイビーの行動に腹を立て、むすっとして弁当を食べ進めていたが、研矢の視線に気付いて顔を上げる。

 一瞬躊躇したのち、
「機密情報ではあるけど、松宮博士の息子さんだからいいかな。——キューレイシリーズの人工知能は、発明されたんじゃなくて、生まれたんだよ」

「……は?」

 アイビーが説明を引き継ぐ。

「ロボット製造企業はたくさんあるが、ヒューマン型の警官ロボットは、どれもすべてキューレイ以降に真似て造られたものだ。つまりは似て非なるもの」

「似て非なるもの?」

「同じものは造れない。キューレイシリーズと呼ばれているロボットと同じ性能を生み出せるのは、ただ一人だ」

 そこでアイビーが大杜の方を見た。

(特務員は、特別な能力を持つ――)

 研矢はそのことを思い出した。

「……お前は、ロボットを作り出す能力があるのか?」

 研矢が信じられないといった顔で聞くと、大杜は首を横に振った。

「ロボットは作り出せないよ。ロボットに心を生み出すことができるだけだよ」

 なんてことはない風に言う大杜に、研矢は言葉を失い、ぶわりと毛穴が開くような緊張感を覚えた。

「能力者には、能力の特徴に合わせたコードネームのようなものが与えられる。タイトは、『アーティフィシャル・インテリジェンス・マスター』と呼ばれている」

「……なっげぇよ。要はA・Iマスターってことだろ」

 研矢は呆れたように言った。が、しかし、
「俺は今、すごい機密情報を聞いてしまったんじゃないのか? 本当に大丈夫か?」

 秘密組織に消されたりはしないだろうか。変な汗を掻く。

「そんなに大層なことじゃないよ。意図的に生み出せるわけでも、大量に生み出せるわけでもないんだから」

「いや、それでも――」

「そうだ。大杜は特別なんだ」

「アイビーは黙って。俺は今日来たことを許してないんだからな」

 直後、緊張感を打ち破るような、スパンというものすごい音がして、教室の扉が開かれた。

「彼女を放って行くなんて、ひどくない!? 佐々城君!」

 仁王立ちの花鈴が立っている。

 しかも顔を真っ赤にして怒っている。

 今まで探し回っていたのだとしたら、さすがに申し訳ないなと、大杜と研矢は顔を見合わせた。

「いつから彼女になったんだ? 一、二度しか顔を合わせないうちから恋人というのは、私は断固反対だ」

「だから黙って」

 大杜がアイビーに言いながら、困ったように花鈴を見やる。

「その……彼女って触れ回るの、やめてくれないかな……?」

「どうして? 女子に取り巻かれるの、面倒そうにしていたから、助け船を出しただけじゃない。彼女いた方が便利でしょう?」

 ずいぶんな言いようだと、研矢は渋い顔をした。

「余計なお世話が過ぎるだろ。カモフラージュ彼女がいたら、大杜に他の女子が近付けねぇだろうが」

「えー、彼女、欲しかったの?」

 花鈴が不機嫌そうに言う。

「いや、別に」

「え?」
 大杜の言葉に、研矢が驚きの声を上げる。
「お前、彼女欲しくないのか?」

「とりあえず、俺は平穏な学校生活が送れれば満足だよ」

「そうでしょう? 平穏に過ごしたいなら、私を側に置いておいた方が都合がいいわよ。佐々城君モテるから、女性トラブルの防止にもなるし」

「……」

 ふざけた提案の割に、彼女の口調は真剣だった。大杜は、提案の裏に何か事情があるのではないかと考えた。

 大杜が無言の間、花鈴は強い視線で大杜を見つめ、その視線を見つめ返した大杜は、覚悟を決める。

 どんな事情があるにせよ、友だちが増えるきっかけだと思えばいい― ―そう思うことにした。

「それじゃあ――よろしく?」

「え、いいのか⁉」

 研矢が驚く。

「フリだけだし――羽曳野さんがもういいってなるまで、ね」

「何が?」

 大杜の表現に、研矢は不思議そうな顔をしたが、花鈴はびくりと大杜を見返した。

 大杜は柔らかく笑うと、今度ははっきりと言った。

「よろしく」

「あ、う、うん。よろしく。――あ、花鈴(すず)って呼んでくれていいから」

「じゃあ俺も名前で……」

「うん! 大杜(たいと)君、楽しく過ごそうね!」

 花鈴はほっとしたように表情を柔らかくした。その表情に、研矢が内心どきりとする。

「松宮君も特別に名前で呼んでいいわよ。みんな仲良くなった証しにね」

「仲良くなった証し?」

 研矢はあえて納得いかなさそうに顔をして見せたが、内心は少し気持ちが高揚していた。

「あ、君付けはいらないから」

 大杜がそう言うと、花鈴は頷いた。

「じゃ、さっそくだけど、大杜に研矢」

 花鈴が悪戯っぽい表情を浮かべて、教室の後ろの机をびしりと指差した。

「私の分の机と椅子、早く用意してくれる?」



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   ―セクション4―
 昼休み、大杜と研矢は、使われていなさそうな教室に忍び込み、後ろに集められていた机と椅子を出してきて、持参の弁当を食べていた。
 花鈴が大杜と一緒に食べると宣言していたが、ふたりは気付かれる前に教室を出てきている。今頃怒って探し回っているかもしれない。
「うまそうだな、それ」
 研矢は大杜の色鮮やかなおかずに驚いた。
「俺が作ったんだよ。食べてみる?」
「え、お前、料理できんのか?」
「うちはみんな仕事が忙しいから、得意分野の家事を担当してるんだ。俺は料理が得意だから、食事担当だよ」
「マジか。家事ロボットは使ってないのか?」
 大杜の部下は警官ロボットだというのに、家にはいないのかと、研矢は不思議に思った。
「母さんがロボット――特にヒューマン型ロボットが嫌いなんだ。だから家では使えない」
「抵抗ある人はいるもんな。しかしえらいな。早起きして弁当まで作んのか」
「まぁ得意分野というより、趣味なんだよ。料理が好きなんだ。いろんな食材組み合わせて、新しい味を作り出して、なんか魔法みたいだなって」
 大杜は唐揚げをひとつ彼の弁当箱の中に転がした。
「口に合わなかったらごめん」
「いや、すごくうまい」
 研矢は感心した。特務員として忙しそうなのに、料理までしているとは。
「もしかして、今朝は弁当作ってて遅くなったとか?」
「あ、違う違う」
 大杜はあからさまに面倒くさそうな表情を浮かべた。
「アイビーと揉めたんだ。付いてくるってきかなくて。なんとか置いてこれたんだけど大変だったよ」
「本当に心配性なんだな。けど、ボディガードみたいなのはいたほうがいいんじゃないのか?」
「普通に学校生活送る上でボディガードっている? それならみんなボディガード連れて歩かなきゃいけないよ」
「お前が普通じゃないからだろ」
「そんなこと言ったら、君にこそいるんじゃない?」
「どういう意味だ?」
 研矢は眉をひそめた。
「誘拐とかに気を付けなければいけないんじゃないかと思って。|MatsuQ《マツキュー》社長夫婦の息子さんでしょ」
「……気付いてたか」
「うん。フルネーム聞いた時から気付いてたよ」
「さすがロボット隊率いてるだけあって、詳しいな」
「うちの部下はみんなMatsuQ製だからね」
「そういやアイビーもだよな。あの見守りロボットはうちの初期のものだろ。ボディはすでに別物みたいだが」
「そう。最初の友だちで最初の警官ロボット」
「最初?」
 研矢の疑問に、大杜はミニトマトを口に放り込みながら頷く。
「第一号ということだ」
 急な第三者の声にびっくりして、大杜がミニトマトを喉に詰まらせかけて派手に咳き込む。
 ふたりが声の方を見ると、窓枠の外側に、アイビーがちょこんと乗っかっているのが見えた。
(ひとりでやって来たのか)
 置いていかれたアイビーが追い掛けてきたのだろう。いくらロボットが世間に認知されていると言っても、おもちゃのロボットが街中を移動しているさまは、さぞかし面白かっただろうなと、研矢は思った。
「絶対に来るなって言っておいただろ! これはお願いじゃなくて、め・い・れ・い!」
「私が来ているのは、友人として心配だからだ。命令は意味をなさない」
「……」
「とにかく、この窓を開けてくれないか」
「……」
 大杜はアイビーの言葉を無視して、ふいっとそっぽを向くと、水筒に手を伸ばす。
「タイト」
 アイビーの声のトーンが変わる。
 しょんぼりしているようで、研矢はアイビーが少しかわいそうになった。
「入れてやれば?」
 研矢が言うと、大杜は首を横に振った。
「いやだ」
「残念だ。窓ガラスを割るのは忍びないが、仕方ない」
「待て!」
 研矢が慌てて止める。内緒で教室を使っているのに、窓ガラスが割られては、面倒なことになる。
 研矢は立ち上がると、鍵を外して窓を少し開けた。
 アイビーはボディを横にしてひょっこりといった仕草で教室に入り、自分で窓を閉め、軽くジャンプして鍵を掛けた。
「ありがとう、ケンヤ」
「はいはい、どういたしまして」
 研矢は答えながら、本当に人と話しているみたいだなと、改めて思った。
 アイビーは正確には見守りロボットではなく、警官ロボットとのことだから、積まれている人工知能が高性能であろうことは想像できる。しかし知能はサイズに比例する。生き物の脳と同じように、大きければ大きいほど賢い。逆もしかり。
「アイビーのサイズで、ほかの警官ロボットと同じだけの知能ってすごいな。親父の発明?」
「ハード面の性能は、確かに松宮博士の発明だ。だが私たちキューレイシリーズの人工知能は、松宮博士の発明ではない」
「そうなのか?」
 それなら誰が? と疑問に思いながら、研矢は大杜を見た。
 大杜はアイビーの行動に腹を立て、むすっとして弁当を食べ進めていたが、研矢の視線に気付いて顔を上げる。
 一瞬躊躇したのち、
「機密情報ではあるけど、松宮博士の息子さんだからいいかな。——キューレイシリーズの人工知能は、発明されたんじゃなくて、生まれたんだよ」
「……は?」
 アイビーが説明を引き継ぐ。
「ロボット製造企業はたくさんあるが、ヒューマン型の警官ロボットは、どれもすべてキューレイ以降に真似て造られたものだ。つまりは似て非なるもの」
「似て非なるもの?」
「同じものは造れない。キューレイシリーズと呼ばれているロボットと同じ性能を生み出せるのは、ただ一人だ」
 そこでアイビーが大杜の方を見た。
(特務員は、特別な能力を持つ――)
 研矢はそのことを思い出した。
「……お前は、ロボットを作り出す能力があるのか?」
 研矢が信じられないといった顔で聞くと、大杜は首を横に振った。
「ロボットは作り出せないよ。ロボットに心を生み出すことができるだけだよ」
 なんてことはない風に言う大杜に、研矢は言葉を失い、ぶわりと毛穴が開くような緊張感を覚えた。
「能力者には、能力の特徴に合わせたコードネームのようなものが与えられる。タイトは、『アーティフィシャル・インテリジェンス・マスター』と呼ばれている」
「……なっげぇよ。要はA・Iマスターってことだろ」
 研矢は呆れたように言った。が、しかし、
「俺は今、すごい機密情報を聞いてしまったんじゃないのか? 本当に大丈夫か?」
 秘密組織に消されたりはしないだろうか。変な汗を掻く。
「そんなに大層なことじゃないよ。意図的に生み出せるわけでも、大量に生み出せるわけでもないんだから」
「いや、それでも――」
「そうだ。大杜は特別なんだ」
「アイビーは黙って。俺は今日来たことを許してないんだからな」
 直後、緊張感を打ち破るような、スパンというものすごい音がして、教室の扉が開かれた。
「彼女を放って行くなんて、ひどくない!? 佐々城君!」
 仁王立ちの花鈴が立っている。
 しかも顔を真っ赤にして怒っている。
 今まで探し回っていたのだとしたら、さすがに申し訳ないなと、大杜と研矢は顔を見合わせた。
「いつから彼女になったんだ? 一、二度しか顔を合わせないうちから恋人というのは、私は断固反対だ」
「だから黙って」
 大杜がアイビーに言いながら、困ったように花鈴を見やる。
「その……彼女って触れ回るの、やめてくれないかな……?」
「どうして? 女子に取り巻かれるの、面倒そうにしていたから、助け船を出しただけじゃない。彼女いた方が便利でしょう?」
 ずいぶんな言いようだと、研矢は渋い顔をした。
「余計なお世話が過ぎるだろ。カモフラージュ彼女がいたら、大杜に他の女子が近付けねぇだろうが」
「えー、彼女、欲しかったの?」
 花鈴が不機嫌そうに言う。
「いや、別に」
「え?」
 大杜の言葉に、研矢が驚きの声を上げる。
「お前、彼女欲しくないのか?」
「とりあえず、俺は平穏な学校生活が送れれば満足だよ」
「そうでしょう? 平穏に過ごしたいなら、私を側に置いておいた方が都合がいいわよ。佐々城君モテるから、女性トラブルの防止にもなるし」
「……」
 ふざけた提案の割に、彼女の口調は真剣だった。大杜は、提案の裏に何か事情があるのではないかと考えた。
 大杜が無言の間、花鈴は強い視線で大杜を見つめ、その視線を見つめ返した大杜は、覚悟を決める。
 どんな事情があるにせよ、友だちが増えるきっかけだと思えばいい― ―そう思うことにした。
「それじゃあ――よろしく?」
「え、いいのか⁉」
 研矢が驚く。
「フリだけだし――羽曳野さんがもういいってなるまで、ね」
「何が?」
 大杜の表現に、研矢は不思議そうな顔をしたが、花鈴はびくりと大杜を見返した。
 大杜は柔らかく笑うと、今度ははっきりと言った。
「よろしく」
「あ、う、うん。よろしく。――あ、|花鈴《すず》って呼んでくれていいから」
「じゃあ俺も名前で……」
「うん! |大杜《たいと》君、楽しく過ごそうね!」
 花鈴はほっとしたように表情を柔らかくした。その表情に、研矢が内心どきりとする。
「松宮君も特別に名前で呼んでいいわよ。みんな仲良くなった証しにね」
「仲良くなった証し?」
 研矢はあえて納得いかなさそうに顔をして見せたが、内心は少し気持ちが高揚していた。
「あ、君付けはいらないから」
 大杜がそう言うと、花鈴は頷いた。
「じゃ、さっそくだけど、大杜に研矢」
 花鈴が悪戯っぽい表情を浮かべて、教室の後ろの机をびしりと指差した。
「私の分の机と椅子、早く用意してくれる?」