「イリス!!!」
俺の絶叫が、静まり返った宇宙港に響き渡った。後ろから聞こえた銃声。俺を庇うように覆いかぶさったイリスが、ゆっくりと俺の横に崩れ落ちる。彼女のアッシュカラーの髪の間から、赤い血が流れているのが見えた。
「くそっ!」
俺は、彼女を抱えながら、銃撃があった方向──通路の入り口──を睨みつけた。だが、敵の姿は見えない。
その間にも、マダム・プラムはアサルトライフルを構え、銃撃のあった方向に向かって、牽制射撃を繰り返していた。
「くそっ! どこにいやがる! プラム! やつの姿を見たか?」俺はイライラしつつ、プラムに尋ねた。
「いいえ! アタシにも見えなかったわ!」
(まさか、光学迷彩か?)
「プラム! ヤツは光学迷彩で姿を消しているかもしれん! 気をつけろ!」
「気をつけろって、どうすりゃいいってのよ?!」
このままでは、なぶり殺しにされるだけだ。俺は、気を失ったイリスの脈があることを確認すると、そっと彼女を壁際に寝かせた。そして、覚悟を決める。
(今ヤツを倒せなければ、妹の時のように、イリスまで死ぬ! 集中しろ! ザック!)
俺は自分の頬を両手で強く叩き、気合を入れた。「プラム、頼む! 牽制射撃をしてくれ!」
「って、どっちによ!?」
俺は目をつむった。
……プラムの荒い息遣いも、遠くで響く電子音も、全てが遠ざかっていく……。意識の奥底で、神経が一本の研ぎ澄まされた針のようになっていくのを感じる……。
ほんの一瞬、闇の中に、人の形をした、熱の揺らぎのような「何か」の気配を感じ取れた気がした。
「あっちだ!」俺は、銃撃が来た方向とは正反対の通路を指さした。「牽制射撃をしたら、その方向に走り出してくれ。その都度、俺が牽制射撃の指示を出す!」
「もう訳分かんないわね。まぁいいわ。このままじゃなぶり殺しにされるだけだしね。女は度胸よ!」
「それを言うなら、男は度胸だろ?」俺が呆れて言う。
「いちいちウルサイわね! やるの? やらないの!?」
「やるぞ……今だ!」
俺の声を合図に、プラムが牽制射撃を放つ!
「行くぞ!」俺とプラムは走り出した。牽制射撃をした方向から、すぐに反撃の射撃が返ってくる。
何発かが俺たちを掠めるが、構わない。俺は、さっき感じた気配の場所へ、拳銃を二発撃った。
ドサッ、という鈍い音。何かがうずくまり、光学迷彩のマントが揺らめいて、ちらちらと本体が覗いた。
俺とプラムは、銃を構え、慎重に近づいた。
「なんでこんな真似をした? てめぇは、一体何をしたかったんだ?」俺は、銃を構え、警戒しながら聞いた。
「……私は若い頃、AI技術者だった」うずくまったローウェル・ケインが、苦しげに答えた。
「あの頃は大学で、革新的なAIを作ろうという野心に燃えていた。しかしだ、研究予算が突然カットされ、研究の変更を余儀なくされた。後になって知ったよ。今の世界では、新しいAIの研究は御法度だってことを。……私は、それを変えたかった」
「ふん、別のやり方があったろうに!」
「……お前に何がわかる!!」突然ローウェルは獣のように咆哮し、俺に飛びかかってきた! 俺を床に押し倒すと、その細い腕からは想像もつかない、まるで油圧プレスのような凄まじい力で首を締め上げてくる! 骨がきしむ音が聞こえる!
「ぐっ……かはっ……!」
(……こいつ……人間の力じゃねえ……アンドロイドだ!……)
そこへ、プラムがローウェルの姿をしたアンドロイドに向かって、アサルトライフルの銃弾を叩き込んだ!
ダダダダッ!
動かなくなるまで銃弾を浴びせ続け、ようやく俺は締め付けていた腕から解放された。
「はぁ……はぁ……」肩で息をする俺。
(じゃあ、本物のローウェルはどこだ?)
「よくも、私のアンドロイドを壊してくれたな」
銃声が響き、プラムが呻き声を上げて倒れた。
(……プラム!)
俺は、気力を振り絞って転がりながらその場を離れ、起き上がって銃を握りしめた。
「あれは軌道戦争時代の貴重な『遺物』だったのだぞ! 報いを受けろ!」
本物のローウェルの声だ。だが姿は見えない。俺の足を銃弾がかすめる。
(……くそっ!……まだ光学迷彩を持ってやがったか!)
「……ザック……!」
フラフラとした足取りで、頭から血を流したイリスが、俺の方へ向かおうとしていた。
「イリス! 来るんじゃない! そこを動くな!」
俺は驚き、叫んだ。しかし同時に、ローウェルが俺ではなく、イリスを先に撃とうとしていると、なぜかはっきりと感じた。
そして、俺は、まるで機械のような正確さで、イリスに銃口を向けようとする「気配」に対し自然と銃を撃っていた。
──パンッ!
何もない空間に一瞬だけオレンジ色の火花が散り、そこに人型の影が揺らめきながら現れ、そして何かが倒れる鈍い音が響いた。光学迷彩が解け、床に倒れ伏したのは、紛れもなくローウェル・ケイン本人だった。俺の銃弾は、正確に彼の胴体を撃ち抜いていた。