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第13話 裏切りと分断

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 マダム・プラムの絶叫を合図に、テントの入り口を引き裂いて、黒豹のようにしなやかで、滑らかな漆黒の装甲を持つ大型の犬型戦闘ドローンが五機、低い駆動音を立てながらなだれ込んできた。その赤いバイザーが、冷たく俺たちを捉える。その動きは、獲物を前にした肉食獣の群れそのものだ。ドローンたちは、俺たちだけでなく、ガシュレーたちイージス・セキュリティにも一斉に銃口を向け、テント内は三つの勢力が銃口を向け合う、絶望的な緊張感に満ちていた。

「あら、ガシュレー。こんなところで『にらめっこ』している場合かしら?」
 プラムは、背後にドローン部隊を控えさせ、余裕の笑みを崩さずに言った。
 テントの外から、傭兵たちのうめき声が聞こえてきた。
「隊長! ホルヘの奴がやられました!」

「くそっ!」ガシュレーは悪態をつき、プラムを睨みつけた。彼は銃でドローンを牽制したが、その攻撃はドローンの装甲に弾かれる。数の上でも、火力の面でも、状況は圧倒的に不利だった。彼は、残った部下と共に、体勢を立て直すために一旦テントから出ていった。

「さて、これで五対二ね」プラムは、俺とイリスに視線を戻した。
「知らない仲じゃないし、別にあんたたちを蜂の巣にしたいわけじゃないわ。大人しくあのアンドロイドを渡しなさい」
 イリスが、諦めたように、手にしていたアサルトライフルをカチャリと音を立てて地面に置いた。

「おいおい、何だよ。あっさり諦めんのか?」俺が問うと、
「ザック、今のままじゃ勝ち目がないわ。あなたも手を上げて」
 そう言ってイリスが両手を上げた。

 それを見たプラムは、満足げに笑みを浮かべた。
「ふん。物わかりの良い人間は好きよ」そして、エイダに向かって顎をしゃくる。「さあ、こっちに来なさい」
 エイダは、判断を仰ぐように、俺に顔を向けた。その蒼い瞳には、戸惑いの色が浮かんでいる。

 俺は、彼女にだけ聞こえるように、小さな声で言った。「今はあの女に従うんだ。後で必ず助けに行くからな。待ってろ」
 プラムは、そんな俺の言葉を聞いて、せせら笑った。
「あらあら、どうしちゃったのかしら? こんな『お人形』さんに入れ込んじゃって」

「うるせえ」俺はプラムを睨みつけた。
「まぁ、いいわ」プラムはエイダの手を取り、近くに引き寄せた。
「この『お人形』さんは、頂いていくわね」
 俺は、悔しさに呻くことしかできなかった。

 プラムは、エイダを連れてゆっくりとテントから出ていく。犬型ドローンも、それに続くようにテントから出ようとした──その時だった。
 それまで諦めたように両手を上げていたイリスの表情が、一瞬で凍てつくような戦士のそれに変わった。彼女は、床に置いていたアサルトライフルを、まるで手品のような電光石火の速さで拾い上げると、ほとんど狙いを定める時間もなかったはずなのに、瞬く間に五機いたドローンのうち三機の頭部を正確に撃ち抜き、火花を散らして沈黙させる!
「なっ!?」プラムが驚いて振り返る。

 残った二機のドローンが、即座に俺とイリスにそれぞれ狙いを定めてくる!
「やるじゃねえか、イリス!」
 俺たちは、協力して残りのドローンをなんとか破壊すると、すぐにプラムの後を追った!

「ちっ!」プラムは舌打ちすると、エイダを抱えるようにして、自分のジープに向かって走り出した。
「エイダ! 待ってろ、今行く!」俺は叫んだ。
 その声に反応したのか、プラムに腕を引かれていたエイダが、突然激しく暴れ出した!
「なっ、このアマ!」
 プラムは苛立ちを隠しもせず、抵抗するエイダを手放すと、ホルスターから大型の拳銃を抜き、起き上がって俺の方へ走ろうとするエイダの首元めがけて、容赦なく引き金を引いた!
 ──バン!
 乾いた発射音が響き、俺の世界の時間が、まるで粘性を帯びたようにゆっくりと流れる。スローモーションの中で、エイダの身体が、まるで糸が切れた操り人形のように、がくりとその場に崩れ落ちるのが見えた。最後にこちらを向いた彼女の蒼い瞳から、光が消えていく……。

 俺は、声にならないうめき声をあげた。
 銃弾の衝撃で、エイダの首と胴体が、ありえない角度で折れ曲がり、いくつかのケーブルが火花を散らして断線していた。メンテナンス用に外れるようにはなっていたが、これは……。
 なぜか、プラムは動かなくなったエイダの胴体だけを、乱暴に担ぎ上げると、自分のジープまで走り、そのまま猛スピードで走り去っていった。

 俺は、その場に転がっているエイダの首──頭部ユニット──に駆け寄り、それを恐る恐る抱きしめた。まだ、かすかに温かい気がした。
 いつの間にか、戦闘も終わったようだ。ガシュレーが、厳しい表情でこちらへ近づいてきた。
「無事だったか。……エイダはどうなった?」
 俺は、腕の中のエイダの首を、彼に見せた。そして、簡単に事情を説明した。
「……連中、胴体だけで一体何をする気だ?」

 ガシュレーの問いに、俺は答えることができなかった。ただ、腕の中のエイダの重みだけが、残酷な現実を物語っていた。


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 マダム・プラムの絶叫を合図に、テントの入り口を引き裂いて、黒豹のようにしなやかで、滑らかな漆黒の装甲を持つ大型の犬型戦闘ドローンが五機、低い駆動音を立てながらなだれ込んできた。その赤いバイザーが、冷たく俺たちを捉える。その動きは、獲物を前にした肉食獣の群れそのものだ。ドローンたちは、俺たちだけでなく、ガシュレーたちイージス・セキュリティにも一斉に銃口を向け、テント内は三つの勢力が銃口を向け合う、絶望的な緊張感に満ちていた。
「あら、ガシュレー。こんなところで『にらめっこ』している場合かしら?」
 プラムは、背後にドローン部隊を控えさせ、余裕の笑みを崩さずに言った。
 テントの外から、傭兵たちのうめき声が聞こえてきた。
「隊長! ホルヘの奴がやられました!」
「くそっ!」ガシュレーは悪態をつき、プラムを睨みつけた。彼は銃でドローンを牽制したが、その攻撃はドローンの装甲に弾かれる。数の上でも、火力の面でも、状況は圧倒的に不利だった。彼は、残った部下と共に、体勢を立て直すために一旦テントから出ていった。
「さて、これで五対二ね」プラムは、俺とイリスに視線を戻した。
「知らない仲じゃないし、別にあんたたちを蜂の巣にしたいわけじゃないわ。大人しくあのアンドロイドを渡しなさい」
 イリスが、諦めたように、手にしていたアサルトライフルをカチャリと音を立てて地面に置いた。
「おいおい、何だよ。あっさり諦めんのか?」俺が問うと、
「ザック、今のままじゃ勝ち目がないわ。あなたも手を上げて」
 そう言ってイリスが両手を上げた。
 それを見たプラムは、満足げに笑みを浮かべた。
「ふん。物わかりの良い人間は好きよ」そして、エイダに向かって顎をしゃくる。「さあ、こっちに来なさい」
 エイダは、判断を仰ぐように、俺に顔を向けた。その蒼い瞳には、戸惑いの色が浮かんでいる。
 俺は、彼女にだけ聞こえるように、小さな声で言った。「今はあの女に従うんだ。後で必ず助けに行くからな。待ってろ」
 プラムは、そんな俺の言葉を聞いて、せせら笑った。
「あらあら、どうしちゃったのかしら? こんな『お人形』さんに入れ込んじゃって」
「うるせえ」俺はプラムを睨みつけた。
「まぁ、いいわ」プラムはエイダの手を取り、近くに引き寄せた。
「この『お人形』さんは、頂いていくわね」
 俺は、悔しさに呻くことしかできなかった。
 プラムは、エイダを連れてゆっくりとテントから出ていく。犬型ドローンも、それに続くようにテントから出ようとした──その時だった。
 それまで諦めたように両手を上げていたイリスの表情が、一瞬で凍てつくような戦士のそれに変わった。彼女は、床に置いていたアサルトライフルを、まるで手品のような電光石火の速さで拾い上げると、ほとんど狙いを定める時間もなかったはずなのに、瞬く間に五機いたドローンのうち三機の頭部を正確に撃ち抜き、火花を散らして沈黙させる!
「なっ!?」プラムが驚いて振り返る。
 残った二機のドローンが、即座に俺とイリスにそれぞれ狙いを定めてくる!
「やるじゃねえか、イリス!」
 俺たちは、協力して残りのドローンをなんとか破壊すると、すぐにプラムの後を追った!
「ちっ!」プラムは舌打ちすると、エイダを抱えるようにして、自分のジープに向かって走り出した。
「エイダ! 待ってろ、今行く!」俺は叫んだ。
 その声に反応したのか、プラムに腕を引かれていたエイダが、突然激しく暴れ出した!
「なっ、このアマ!」
 プラムは苛立ちを隠しもせず、抵抗するエイダを手放すと、ホルスターから大型の拳銃を抜き、起き上がって俺の方へ走ろうとするエイダの首元めがけて、容赦なく引き金を引いた!
 ──バン!
 乾いた発射音が響き、俺の世界の時間が、まるで粘性を帯びたようにゆっくりと流れる。スローモーションの中で、エイダの身体が、まるで糸が切れた操り人形のように、がくりとその場に崩れ落ちるのが見えた。最後にこちらを向いた彼女の蒼い瞳から、光が消えていく……。
 俺は、声にならないうめき声をあげた。
 銃弾の衝撃で、エイダの首と胴体が、ありえない角度で折れ曲がり、いくつかのケーブルが火花を散らして断線していた。メンテナンス用に外れるようにはなっていたが、これは……。
 なぜか、プラムは動かなくなったエイダの胴体だけを、乱暴に担ぎ上げると、自分のジープまで走り、そのまま猛スピードで走り去っていった。
 俺は、その場に転がっているエイダの首──頭部ユニット──に駆け寄り、それを恐る恐る抱きしめた。まだ、かすかに温かい気がした。
 いつの間にか、戦闘も終わったようだ。ガシュレーが、厳しい表情でこちらへ近づいてきた。
「無事だったか。……エイダはどうなった?」
 俺は、腕の中のエイダの首を、彼に見せた。そして、簡単に事情を説明した。
「……連中、胴体だけで一体何をする気だ?」
 ガシュレーの問いに、俺は答えることができなかった。ただ、腕の中のエイダの重みだけが、残酷な現実を物語っていた。