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第10話 番人たちの捕縛

ー/ー



 エイダが引き起こした一方的な殲滅劇の後、ジャンクション・セブンの街角には、機械たちの残骸と、不気味な静寂だけが残された。俺は、腕の中で力の抜けたエイダを抱えながら、彼女に「こんなのは間違ってる」と呟くことしかできなかった。イリスはその言葉と、エイダを庇うように抱きかかえる俺の姿を、瓦礫の陰から黙って見つめていた。

 だが、安堵する暇はなかった。周囲にはまだ、武装したイージス・セキュリティの傭兵たちと、混乱した治安維持部隊が残っている。

 その静寂を破ったのは、ガシュレー・ウォードの低い声だった。
「話は後で聞かせてもらう」

 彼と、その部下であるイージス・セキュリティの傭兵たちが、瓦礫を踏みしめる音だけを響かせながら、ゆっくりと、しかし確実に俺たちを取り囲んでいく。その動きには一切の無駄がなく、感情の読めないヘルメットのバイザーの奥から、冷たい視線が突き刺さってくるようだった。彼らの動きに敵意というよりは、プロフェッショナルな任務遂行の、機械のような意思を感じた。

「我々の任務は、そのアーティファクトが、このような悲劇を二度と引き起こさないように、確保・管理することだ」ガシュレーは、俺が抱えるエイダを見下ろし、続けた。「……抵抗はするな。お前たちに、その力はもう残っていないはずだ」
 その通りだった。イリスは弾切れ、俺は先の戦闘の疲労で立っているのがやっとだ。そして何より、エイダは低電力モードに入り、その瞳から光は消え、反応も鈍い。

 抵抗は、無意味だった。
 ガシュレーの言葉を聞いていたのか、あるいは力の行使の反動が限界に達したのか、エイダの身体が最後の力を振り絞るように、わずかに俺の腕にしがみついた。そして、彼女の瞳から完全に光が消え、首筋の「AIDA」という刻印の微かな光もふっと消灯する。彼女は完全にスリープモードに移行し、本当にただの人形のようになってしまった。

 イージスの傭兵たちは、その様子を確認すると、俺の腕から力なく動かないエイダを取り上げ、俺とイリスの手を、慣れた手つきで後ろ手に縛り上げた。
「こいつをどうするつもりだ……!」俺は、エイダを担いでいく傭兵に叫んだ。

「言ったはずだ。我々が『管理』する」ガシュレーはそれだけを言うと、部隊に撤退の合図を送った。「治安維持部隊の本格的な介入が始まる前に、ここを離れるぞ」
 彼らはエイダを装甲車に乗せると、無言のまま、混乱が残る街の闇へと消えていく。

 残されたのは、縛られたままの俺とイリス、そして破壊されたドローンたちの残骸だけ。
「……最悪だ……」
 エイダを連れ去られ、借金返済の望みも絶たれた。俺は、アスファルトの上に座り込み、自嘲気味に呟いた。

「だから言ったでしょう。あなた一人で守り切れる相手じゃないと」隣で同じように縛られているイリスが、悔しそうに言った。
「……うるせえよ」

 俺たちがそんなやり取りをしていると、一台の、クロームメッキとけばけばしいピンク色で塗装された派手な大型ジープが、耳障りなエンジン音を立てて急ブレーキをかけ、俺たちの目の前に停まった。運転席から、まるで舞台女優のように優雅に降り立ったのは、あの巨大な影。マダム・プラムだ。

 彼女は、先ほどのオークションの時と同じ、スパンコールがきらめくドレス姿のまま、呆れたような、しかしどこか楽しんでいるような複雑な笑みを浮かべていた。
「あらあら、見てごらんなさい、この無様な格好。これじゃアタシの貸した金が、みすみす焦げ付いちゃうじゃないの」
 プラムは、呆れたように言いながらも、その手にしたナイフで、俺とイリスの縄をいとも簡単に断ち切った。

「ほら、さっさと乗んなさい。行くわよ!」
「行くって、どこへ!?」
「決まってるでしょ! アタシの大事な『担保』を取り返しに、あの無粋な傭兵どもを追いかけるのよ!」
 プラムはそう言うと、俺たちをジープに押し込み、自らハンドルを握って、イージス・セキュリティが消えた方向へと、猛然と車を走らせた。

 走行中の車内で、プラムはバックミラー越しに俺たちを睨みつけ、言った。
「アイツらのおかげで、アタシのオークションは台無し。おまけに、一番高く買ってくれそうだったオムニテックは壊滅。アンタたちの『お宝』はイージスに横取りされる。これじゃ、アタシ、大損じゃないの」

 彼女は、俺とイリスに取引を持ちかけた。
「この借りはアイツらに、きっちり精算させるわ。アンタたちが、あの『お宝』を取り返してくれるっていうなら、アタシへの借金返済はチャラにしてあげるわ」
 借金が、チャラに……? その言葉は、今の俺にとって悪魔の誘惑だった。だが、もう目的はそれだけじゃない。
「……どうするの、ザック」イリスが、真剣な目で俺を見ていた。
 俺は、プラムの顔と、イリスの顔を交互に見た。そして、スリープモードに入る直前の、エイダの静かな顔を思い出した。もう、彼女は「お宝」じゃない。

「……分かった」俺は、プラムに言った。「取引成立だ。ただし、あんたにも死ぬ気で協力してもらうぜ」
「ふふ、望むところよ」
 プラムは、不敵な笑みを浮かべた。

 こうして、ジャンク屋と、エージェントと、ドラァグクイーンの高利貸しという、あり得ない三人組のチームが、たった一人のアンドロイドを奪還するために、結成されたのだった。


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 エイダが引き起こした一方的な殲滅劇の後、ジャンクション・セブンの街角には、機械たちの残骸と、不気味な静寂だけが残された。俺は、腕の中で力の抜けたエイダを抱えながら、彼女に「こんなのは間違ってる」と呟くことしかできなかった。イリスはその言葉と、エイダを庇うように抱きかかえる俺の姿を、瓦礫の陰から黙って見つめていた。
 だが、安堵する暇はなかった。周囲にはまだ、武装したイージス・セキュリティの傭兵たちと、混乱した治安維持部隊が残っている。
 その静寂を破ったのは、ガシュレー・ウォードの低い声だった。
「話は後で聞かせてもらう」
 彼と、その部下であるイージス・セキュリティの傭兵たちが、瓦礫を踏みしめる音だけを響かせながら、ゆっくりと、しかし確実に俺たちを取り囲んでいく。その動きには一切の無駄がなく、感情の読めないヘルメットのバイザーの奥から、冷たい視線が突き刺さってくるようだった。彼らの動きに敵意というよりは、プロフェッショナルな任務遂行の、機械のような意思を感じた。
「我々の任務は、そのアーティファクトが、このような悲劇を二度と引き起こさないように、確保・管理することだ」ガシュレーは、俺が抱えるエイダを見下ろし、続けた。「……抵抗はするな。お前たちに、その力はもう残っていないはずだ」
 その通りだった。イリスは弾切れ、俺は先の戦闘の疲労で立っているのがやっとだ。そして何より、エイダは低電力モードに入り、その瞳から光は消え、反応も鈍い。
 抵抗は、無意味だった。
 ガシュレーの言葉を聞いていたのか、あるいは力の行使の反動が限界に達したのか、エイダの身体が最後の力を振り絞るように、わずかに俺の腕にしがみついた。そして、彼女の瞳から完全に光が消え、首筋の「AIDA」という刻印の微かな光もふっと消灯する。彼女は完全にスリープモードに移行し、本当にただの人形のようになってしまった。
 イージスの傭兵たちは、その様子を確認すると、俺の腕から力なく動かないエイダを取り上げ、俺とイリスの手を、慣れた手つきで後ろ手に縛り上げた。
「こいつをどうするつもりだ……!」俺は、エイダを担いでいく傭兵に叫んだ。
「言ったはずだ。我々が『管理』する」ガシュレーはそれだけを言うと、部隊に撤退の合図を送った。「治安維持部隊の本格的な介入が始まる前に、ここを離れるぞ」
 彼らはエイダを装甲車に乗せると、無言のまま、混乱が残る街の闇へと消えていく。
 残されたのは、縛られたままの俺とイリス、そして破壊されたドローンたちの残骸だけ。
「……最悪だ……」
 エイダを連れ去られ、借金返済の望みも絶たれた。俺は、アスファルトの上に座り込み、自嘲気味に呟いた。
「だから言ったでしょう。あなた一人で守り切れる相手じゃないと」隣で同じように縛られているイリスが、悔しそうに言った。
「……うるせえよ」
 俺たちがそんなやり取りをしていると、一台の、クロームメッキとけばけばしいピンク色で塗装された派手な大型ジープが、耳障りなエンジン音を立てて急ブレーキをかけ、俺たちの目の前に停まった。運転席から、まるで舞台女優のように優雅に降り立ったのは、あの巨大な影。マダム・プラムだ。
 彼女は、先ほどのオークションの時と同じ、スパンコールがきらめくドレス姿のまま、呆れたような、しかしどこか楽しんでいるような複雑な笑みを浮かべていた。
「あらあら、見てごらんなさい、この無様な格好。これじゃアタシの貸した金が、みすみす焦げ付いちゃうじゃないの」
 プラムは、呆れたように言いながらも、その手にしたナイフで、俺とイリスの縄をいとも簡単に断ち切った。
「ほら、さっさと乗んなさい。行くわよ!」
「行くって、どこへ!?」
「決まってるでしょ! アタシの大事な『担保』を取り返しに、あの無粋な傭兵どもを追いかけるのよ!」
 プラムはそう言うと、俺たちをジープに押し込み、自らハンドルを握って、イージス・セキュリティが消えた方向へと、猛然と車を走らせた。
 走行中の車内で、プラムはバックミラー越しに俺たちを睨みつけ、言った。
「アイツらのおかげで、アタシのオークションは台無し。おまけに、一番高く買ってくれそうだったオムニテックは壊滅。アンタたちの『お宝』はイージスに横取りされる。これじゃ、アタシ、大損じゃないの」
 彼女は、俺とイリスに取引を持ちかけた。
「この借りはアイツらに、きっちり精算させるわ。アンタたちが、あの『お宝』を取り返してくれるっていうなら、アタシへの借金返済はチャラにしてあげるわ」
 借金が、チャラに……? その言葉は、今の俺にとって悪魔の誘惑だった。だが、もう目的はそれだけじゃない。
「……どうするの、ザック」イリスが、真剣な目で俺を見ていた。
 俺は、プラムの顔と、イリスの顔を交互に見た。そして、スリープモードに入る直前の、エイダの静かな顔を思い出した。もう、彼女は「お宝」じゃない。
「……分かった」俺は、プラムに言った。「取引成立だ。ただし、あんたにも死ぬ気で協力してもらうぜ」
「ふふ、望むところよ」
 プラムは、不敵な笑みを浮かべた。
 こうして、ジャンク屋と、エージェントと、ドラァグクイーンの高利貸しという、あり得ない三人組のチームが、たった一人のアンドロイドを奪還するために、結成されたのだった。