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第5話 荒野の戦い

ー/ー



「断る。こいつは俺の獲物だ。誰にも渡す気はねえよ」
 俺の言葉が、乾いた荒野の引き金になった。

「……確保しろ」
 イージス・セキュリティのリーダー格の男が短く命じると、傭兵たちが一斉にアサルトライフルを発射してきた!
 ──ダダダダッ!

「伏せろ!」
 イリスの叫び声と同時に、俺はエイダを助手席の床に押し込み、自分も運転席のドアを盾にして身をかがめた。バギーの装甲に、弾丸がカンカンと甲高い音を立てて弾かれる!
「クソっ! やる気か、あいつら!」

「最初から交渉する気なんてなかったのよ!」イリスは、バギーの後部座席から、巧みに身を乗り出して応戦している。「数は向こうが上よ! このままじゃジリ貧だわ!」
彼女の言う通りだった。イリスの射撃は正確だが、多勢に無勢。じりじりと包囲網を狭められ、身動きが取れなくなっていく。

 その時だった。俺の隣で、それまで人形のように静かだったエイダが、すっと顔を上げた。その蒼い瞳が、こちらに近づいてくる傭兵の一人を、真っ直ぐに捉える。
『マスターユーザーに脅威。排除します』
「おい、エイダ!?」

 俺が止める間もなく、エイダは右腕を突き出した。その白く滑らかな人差し指の先端から、細く、しかし鋭い赤いレーザー光線が放たれた!
 ──ピュン!
 レーザーは、傭兵が構えていたアサルトライフルを正確に撃ち抜き、その手から弾き飛ばす!
「なっ!? うわっ!」

 武器を失い、怯んだ傭兵の足元に、イリスの正確な射撃が突き刺さる。彼は体勢を崩し、遮蔽物の陰へと後退した。
(こいつ……本当に俺のために……)
 だが、その一瞬の攻防で、別の傭兵が俺たちの死角に回り込んでいた!
「しまっ……!」

 そいつが、バギーの助手席──エイダがいる場所──に、正確にライフルを向けているのが見えた!
 考えるより先に、身体が動いていた。
「危ねえ!」
 俺は、再びエイダの前に自分の身体を割り込ませた。
 ──ガッ!
 衝撃。左肩に、焼けるような熱と、鈍い痛みが走った。
「ぐあっ……!」
「ザック!」イリスの叫び声が聞こえる。

 俺を撃った傭兵が、追撃しようと再び銃口を向けた。だが、それよりも早く、イリスの放った一撃が、その傭兵を牽制し、遮蔽物の陰へと押し戻していた。
「……助かったぜ、イリス」俺は、痛む肩を押さえながら悪態をついた。
「馬鹿なことを!」彼女の声には、怒りと、そして隠しきれない安堵の色が混じっている。「死んだら、あなたの言う『借金』も返せないでしょうに!」

 その時、俺は視線を感じた。助手席で、エイダが、その蒼い瞳でじっと俺の撃たれた肩と、俺の顔を、交互に見つめていた。その瞳には、初めて、単なるデータ収集ではない、何か……戸惑いのようなものが浮かんでいるように見えた。
 だが、感傷に浸っている暇はない。
「このままじゃ、本当にやられる!」
「何か手はないの!?」
 俺は、以前奴らのほとんどがサイボーグだということを聞いたことがある。ならば――。

「……一つだけ、賭けがある!」
 俺はイリスに叫ぶと、アクセルを全開にして、敵の銃撃を避けながら、ボロボロの充電ステーション本体へとバギーを突っ込ませた!
「何する気!?」
「こいつをオーバーロードさせて、目くらましにする!」

 俺は運転席から飛び降りると、プラズマカッターで充電ステーションの主電源ケーブルと制御パネルを無理やり焼き切った! 途端に、制御を失ったステーションから、異常なチャージ音が鳴り響き、バチバチと青白い火花が散り始める。
「全員、伏せろ!」
 次の瞬間、充電ステーションが耳をつんざくような放電音と閃光を発し、大爆発を起こした! 強烈な電磁パルスと砂塵が、周囲一帯を包み込む!

「うわっ!」「EMPか! 動けん!」
 イージス・セキュリティの連中が混乱しているのが分かる。

「今だ! 行くぞ!」
 俺は再びバギーに飛び乗り、煙と砂塵の中を、全速力で駆け抜けた。肩の痛みは酷いが、今はとにかく、ここから離れることだけを考えた。

 数キロ走り、ようやく追手の気配がなくなった頃、俺は路肩にバギーを停めた。
「……はぁ……はぁ……なんとか、撒いたか……」
「無茶苦茶よ、あなた……」イリスは、呆れたように、しかしどこか感心したような声で言った。彼女は後部座席から身を乗り出し、俺の肩の傷を覗き込む。「ひどい傷……。止血しないと」

 彼女が医療キットを取り出そうとした時、助手席から、それまでとは違う、どこか人間的な響きを帯びた静かな声が聞こえた。
「……ザック・グラナード、なぜ私を庇ったのですか?」
 エイダだった。イリスは驚いて動きを止め、俺も肩の痛みを忘れて彼女の方を見た。彼女は、俺の顔をじっと見つめている。その蒼い瞳には、先ほどの戸惑いとは違う、純粋な疑問の色が浮かんでいた。

「論理的に、あなたの生命維持が最優先されるべき状況でした。商品価値のある私を庇うあなたの行動は、非合理的です」

「……うるせえな」俺は、肩の痛みに顔をしかめながら答えた。「俺が、そうしたかっただけだ。理由なんてねえよ」

 そう言うと、俺はイリスに手当てをされながら、痛みに耐えるように目を閉じた。だが、瞼の裏には、病室で苦しんでいた妹の顔と、俺をじっと見つめるエイダの蒼い瞳が、なぜか重なって見えたような気がした。


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次のエピソードへ進む 第6話 ドラァグクイーンと新たな火種


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「断る。こいつは俺の獲物だ。誰にも渡す気はねえよ」
 俺の言葉が、乾いた荒野の引き金になった。
「……確保しろ」
 イージス・セキュリティのリーダー格の男が短く命じると、傭兵たちが一斉にアサルトライフルを発射してきた!
 ──ダダダダッ!
「伏せろ!」
 イリスの叫び声と同時に、俺はエイダを助手席の床に押し込み、自分も運転席のドアを盾にして身をかがめた。バギーの装甲に、弾丸がカンカンと甲高い音を立てて弾かれる!
「クソっ! やる気か、あいつら!」
「最初から交渉する気なんてなかったのよ!」イリスは、バギーの後部座席から、巧みに身を乗り出して応戦している。「数は向こうが上よ! このままじゃジリ貧だわ!」
彼女の言う通りだった。イリスの射撃は正確だが、多勢に無勢。じりじりと包囲網を狭められ、身動きが取れなくなっていく。
 その時だった。俺の隣で、それまで人形のように静かだったエイダが、すっと顔を上げた。その蒼い瞳が、こちらに近づいてくる傭兵の一人を、真っ直ぐに捉える。
『マスターユーザーに脅威。排除します』
「おい、エイダ!?」
 俺が止める間もなく、エイダは右腕を突き出した。その白く滑らかな人差し指の先端から、細く、しかし鋭い赤いレーザー光線が放たれた!
 ──ピュン!
 レーザーは、傭兵が構えていたアサルトライフルを正確に撃ち抜き、その手から弾き飛ばす!
「なっ!? うわっ!」
 武器を失い、怯んだ傭兵の足元に、イリスの正確な射撃が突き刺さる。彼は体勢を崩し、遮蔽物の陰へと後退した。
(こいつ……本当に俺のために……)
 だが、その一瞬の攻防で、別の傭兵が俺たちの死角に回り込んでいた!
「しまっ……!」
 そいつが、バギーの助手席──エイダがいる場所──に、正確にライフルを向けているのが見えた!
 考えるより先に、身体が動いていた。
「危ねえ!」
 俺は、再びエイダの前に自分の身体を割り込ませた。
 ──ガッ!
 衝撃。左肩に、焼けるような熱と、鈍い痛みが走った。
「ぐあっ……!」
「ザック!」イリスの叫び声が聞こえる。
 俺を撃った傭兵が、追撃しようと再び銃口を向けた。だが、それよりも早く、イリスの放った一撃が、その傭兵を牽制し、遮蔽物の陰へと押し戻していた。
「……助かったぜ、イリス」俺は、痛む肩を押さえながら悪態をついた。
「馬鹿なことを!」彼女の声には、怒りと、そして隠しきれない安堵の色が混じっている。「死んだら、あなたの言う『借金』も返せないでしょうに!」
 その時、俺は視線を感じた。助手席で、エイダが、その蒼い瞳でじっと俺の撃たれた肩と、俺の顔を、交互に見つめていた。その瞳には、初めて、単なるデータ収集ではない、何か……戸惑いのようなものが浮かんでいるように見えた。
 だが、感傷に浸っている暇はない。
「このままじゃ、本当にやられる!」
「何か手はないの!?」
 俺は、以前奴らのほとんどがサイボーグだということを聞いたことがある。ならば――。
「……一つだけ、賭けがある!」
 俺はイリスに叫ぶと、アクセルを全開にして、敵の銃撃を避けながら、ボロボロの充電ステーション本体へとバギーを突っ込ませた!
「何する気!?」
「こいつをオーバーロードさせて、目くらましにする!」
 俺は運転席から飛び降りると、プラズマカッターで充電ステーションの主電源ケーブルと制御パネルを無理やり焼き切った! 途端に、制御を失ったステーションから、異常なチャージ音が鳴り響き、バチバチと青白い火花が散り始める。
「全員、伏せろ!」
 次の瞬間、充電ステーションが耳をつんざくような放電音と閃光を発し、大爆発を起こした! 強烈な電磁パルスと砂塵が、周囲一帯を包み込む!
「うわっ!」「EMPか! 動けん!」
 イージス・セキュリティの連中が混乱しているのが分かる。
「今だ! 行くぞ!」
 俺は再びバギーに飛び乗り、煙と砂塵の中を、全速力で駆け抜けた。肩の痛みは酷いが、今はとにかく、ここから離れることだけを考えた。
 数キロ走り、ようやく追手の気配がなくなった頃、俺は路肩にバギーを停めた。
「……はぁ……はぁ……なんとか、撒いたか……」
「無茶苦茶よ、あなた……」イリスは、呆れたように、しかしどこか感心したような声で言った。彼女は後部座席から身を乗り出し、俺の肩の傷を覗き込む。「ひどい傷……。止血しないと」
 彼女が医療キットを取り出そうとした時、助手席から、それまでとは違う、どこか人間的な響きを帯びた静かな声が聞こえた。
「……ザック・グラナード、なぜ私を庇ったのですか?」
 エイダだった。イリスは驚いて動きを止め、俺も肩の痛みを忘れて彼女の方を見た。彼女は、俺の顔をじっと見つめている。その蒼い瞳には、先ほどの戸惑いとは違う、純粋な疑問の色が浮かんでいた。
「論理的に、あなたの生命維持が最優先されるべき状況でした。商品価値のある私を庇うあなたの行動は、非合理的です」
「……うるせえな」俺は、肩の痛みに顔をしかめながら答えた。「俺が、そうしたかっただけだ。理由なんてねえよ」
 そう言うと、俺はイリスに手当てをされながら、痛みに耐えるように目を閉じた。だが、瞼の裏には、病室で苦しんでいた妹の顔と、俺をじっと見つめるエイダの蒼い瞳が、なぜか重なって見えたような気がした。