第2話:奇妙な共闘
ー/ー
(クソッ……挟み撃ちかよ……!)
前には地球再生局の制服を着た女、後ろには高性能な戦闘ドローン。そして、俺の傍らには、まだ状況を理解できずに蒼い瞳で俺を見つめている、美しいアンドロイド。人生最大のお宝を見つけたはずが、どうやら最悪の形で幕を開けたらしい。
「そこまでよ、ジャンク屋」女は、アサルトライフルの銃口を微動だにさせず、冷静な声で言った。「その『遺物』は、私が回収する」
「悪いが、そいつは俺が見つけたんだ。早い者勝ちってのが、この世界のルールだろ?」俺は、アンドロイドを背後に庇いながら、軽口を叩いて時間を稼ごうとした。
だが、俺たちの交渉を待ってくれるほど、機械の兵隊はお行儀が良くなかった。
──タンッ!タンッ!
背後のドローン部隊が、警告なくコイルガンを発射してきた! しかも、その銃口は俺だけでなく、前方の女にも向けられている!
「ちぃっ!」彼女は舌打ちすると、咄嗟に近くの瓦礫の陰へと飛び込んだ。
「こいつら、俺たちごとやる気か!」
俺もアンドロイドを抱え、崩れかけた壁の陰へと転がり込む。背後のドローン部隊が、警告なくコイルガンを発射してきた! 複数機から放たれる弾丸が、俺たちが隠れる崩れかけたコンクリートの壁を容赦なく抉り、火花と共に破片を撒き散らす。この壁も、そう長くはもたないだろう。
「おい、あんた!」俺は、数メートル離れた瓦礫の山に隠れる彼女に向かって叫んだ。「あんたの目的もこいつ(アンドロイド)なんだろ!? このままじゃ、あんたのお宝も、ドローンの餌食になるぜ!」
女は、瓦礫の隙間からこちらを鋭く睨みつけた。彼女も状況は理解しているはずだ。
「……一時休戦よ、ジャンク屋!」彼女は叫び返してきた。「あのドローンを黙らせるのが先決! 援護しなさい!」
「へいへい、仰せのままに!」 奇妙な共闘関係が、一瞬で成立した。彼女はプロの兵士だった。遮蔽物から遮蔽物へと、流れるような動きで移動しながら、アサルトライフルで的確にドローンへ反撃を加えていく。
「すげえな、あの女……!」
俺だって、負けてはいられない。「おい、お前(アンドロイド)! 自分の身を守ってくれ!」俺は彼女にそう言うと、背負っていたプラズマカッターを起動させた。
(何かないか……!)
俺は、ジャンク屋の知識を総動員した。この区画の動力源……確か、古い予備電源のコンデンサが、あの通路の先にあったはずだ!
俺は、わざとドローンをその通路へと誘い込むと、壁のメンテナンスハッチを蹴破り、内部の巨大なコンデンサにプラズマカッターを突き立てた!
「吹っ飛べ!」
コンデンサが甲高い音を立ててショートし、強烈な電磁パルスを放つ! バチバチッ!と青白い光が走り、追ってきたドローン数機が、火花を散らして機能停止した。
「よし!」
その時だった。俺の死角から、別のドローンが音もなく現れ、その銃口を真っ直ぐに俺へと向けた!
「しまっ……!」
彼女の援護も間に合わない! 絶体絶命の、その瞬間。
──ピュン!
俺の腕の中にいたアンドロイドが、俺を守るように、無表情のまま自らの右腕を俺の前に突き出していた。その白く滑らかな人差し指の先端から、細く、しかし鋭い赤いレーザー光線が放たれ、ドローンのカメラアイを寸分の狂いもなく撃ち抜いていたのだ! カメラを破壊されたドローンは、明後日の方向へ乱射しながら壁に激突し、動かなくなった。
「……マスターユーザーを守ります」
俺は、目の前で起こったことを、一瞬、理解できなかった。そして、すぐに気づく。
(そういや……。起動時に、マスターユーザーがどうとか言ってたな……。俺を……守ってくれるのか?)
アンドロイドを起動した時の、あの無機質な音声が頭の中で蘇る。「マスターユーザーとして登録します」──その言葉の意味を、今、初めて実感として理解した。彼女は、ただの「お宝」ではない。俺の身を守るために、自らの意志で行動する、特別な存在なのだ。
「今よ、ジャンク屋! ぼさっとしないで!」イリスの叫び声で、俺ははっと我に返った。
戦闘の衝撃で、遺跡自体の崩壊が始まっていた。天井から、巨大なコンクリートの塊が次々と落下してくる。
「ダメだ、キリがない! ここからずらかるぞ!」俺は叫んだ。
「出口はこっちよ!」彼女が、俺たちが来たルートとは別の、サービス用の通路らしき方向を指さす。
俺たちは、今度は俺がアンドロイドの手を強く引き、彼女を守るようにして、崩れ落ちる瓦礫とドローンの銃撃を掻い潜り、必死で走った。咄嗟に右へ避けた直後、左側の通路が完全に崩落した。相変わらず、俺の悪運の強さは、こういう土壇場で仕事をする。
息も絶え絶えに、俺たちはなんとか遺跡の外へと脱出した。背後で、研究施設が完全に崩壊する轟音が響き渡る。薄暗い遺跡の中から、真昼の眩しい光が目に飛び込んできて、思わず目を細めた。
「……はぁ……はぁ……」
俺は、オンボロの装甲バギーを隠しておいた場所までたどり着くと、アンドロイドを助手席に押し込み、自分も運転席に滑り込んだ。女も、ためらうことなく後部座席へと飛び乗る。
アクセルを目一杯踏み込む。オンボロの装甲バギーは、悲鳴のようなモーター音を上げ、車体全体をガタガタと軋ませながら砂塵を巻き上げ、どこまでも続く荒野へと駆け出した。
しばらくの間、車内には俺と、後部座席の彼女の荒い息遣いと、甲高いモーターの駆動音、そしてタイヤが地面を叩く音だけが響いていた。助手席のアンドロイドは、ただ静かに前を見つめている。背後の遺跡からは、もう追ってくる気配はない。
「……これで、話は終わりじゃないわよ」後部座席から、彼女の冷静な声が飛んできた。「状況は変わらない。そのアンドロイドは、地球再生局が管理すべき危険な遺物だわ」
俺はバックミラー越しに彼女を睨みつけた。以前の俺なら、ここでハッタリをかましたかもしれない。だが、今は違う。
「へっ、言うじゃねえか。あんた一人で、あのアンドロイドをどうやって奪うってんだ?」
俺の言葉は、もう単なる強がりではなかった。腕の中で彼女が俺を守った感触が、まだ残っている。
俺の言葉のニュアンスの変化に気づいたのか、彼女は一瞬言葉に詰まったようだった。「……今は、ね。でも、あのドローンを送ってきた連中も、そしておそらく他の勢力も、彼女を狙っている。あなた一人で、アレだけの連中から守り切れると思ってるの?」
その言葉に、俺はぐっと詰まった。確かに、彼女の言う通りだ。
「……目的地は?」彼女が尋ねる。
「ジャンクション・セブンだ」俺は、吐き捨てるように言った。「あそこなら、ゴロツキも、企業の犬も、連邦の役人も、ごちゃ混ぜだ。しばらく身を隠すには、うってつけのクソ溜めさ。それに……こいつの価値を正しく判断できて、高く買ってくれる物好きな連中もいるかもしれねえ」
「……無法都市ね。合理的ではあるわ」彼女はため息をついた。「いいでしょう。そこまで同行する。ただし、監視させてもらうわよ。変な気を起こさないことね、ジャンク屋」
「ザックだ」俺は、乾いた荒野の先、陽炎が揺れる地平線を見つめながら言った。「俺の名前は、ザック・グラナードだ」
バックミラー越しに、彼女の目がわずかに見開かれるのが分かった。一瞬の沈黙の後、彼女は静かに、しかしはっきりとした声で答えた。
「……イリス。イリス・ソーン。地球再生局の査察官よ。」
こうして、俺と、記憶を失ったアンドロイド、そして任務に忠実な女エージェントの、奇妙で、そして危険な逃避行が始まったんだ。
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「そこまでよ、ジャンク屋」女は、アサルトライフルの銃口を微動だにさせず、冷静な声で言った。「その『遺物』は、私が回収する」
「悪いが、そいつは俺が見つけたんだ。早い者勝ちってのが、この世界のルールだろ?」俺は、アンドロイドを背後に庇いながら、軽口を叩いて時間を稼ごうとした。
だが、俺たちの交渉を待ってくれるほど、機械の兵隊はお行儀が良くなかった。
──タンッ!タンッ!
背後のドローン部隊が、警告なくコイルガンを発射してきた! しかも、その銃口は俺だけでなく、前方の女にも向けられている!
「ちぃっ!」彼女は舌打ちすると、咄嗟に近くの瓦礫の陰へと飛び込んだ。
「こいつら、俺たちごとやる気か!」
俺もアンドロイドを抱え、崩れかけた壁の陰へと転がり込む。背後のドローン部隊が、警告なくコイルガンを発射してきた! 複数機から放たれる弾丸が、俺たちが隠れる崩れかけたコンクリートの壁を容赦なく抉り、火花と共に破片を撒き散らす。この壁も、そう長くはもたないだろう。
「おい、あんた!」俺は、数メートル離れた瓦礫の山に隠れる彼女に向かって叫んだ。「あんたの目的もこいつ(アンドロイド)なんだろ!? このままじゃ、あんたのお宝も、ドローンの餌食になるぜ!」
女は、瓦礫の隙間からこちらを鋭く睨みつけた。彼女も状況は理解しているはずだ。
「……一時休戦よ、ジャンク屋!」彼女は叫び返してきた。「あのドローンを黙らせるのが先決! 援護しなさい!」
「へいへい、仰せのままに!」 奇妙な共闘関係が、一瞬で成立した。彼女はプロの兵士だった。遮蔽物から遮蔽物へと、流れるような動きで移動しながら、アサルトライフルで的確にドローンへ反撃を加えていく。
「すげえな、あの女……!」
俺だって、負けてはいられない。「おい、お前(アンドロイド)! 自分の身を守ってくれ!」俺は彼女にそう言うと、背負っていたプラズマカッターを起動させた。
(何かないか……!)
俺は、ジャンク屋の知識を総動員した。この区画の動力源……確か、古い予備電源のコンデンサが、あの通路の先にあったはずだ!
俺は、わざとドローンをその通路へと誘い込むと、壁のメンテナンスハッチを蹴破り、内部の巨大なコンデンサにプラズマカッターを突き立てた!
「吹っ飛べ!」
コンデンサが甲高い音を立ててショートし、強烈な電磁パルスを放つ! バチバチッ!と青白い光が走り、追ってきたドローン数機が、火花を散らして機能停止した。
「よし!」
その時だった。俺の死角から、別のドローンが音もなく現れ、その銃口を真っ直ぐに俺へと向けた!
「しまっ……!」
彼女の援護も間に合わない! 絶体絶命の、その瞬間。
──ピュン!
俺の腕の中にいたアンドロイドが、俺を守るように、無表情のまま自らの右腕を俺の前に突き出していた。その白く滑らかな人差し指の先端から、細く、しかし鋭い赤いレーザー光線が放たれ、ドローンのカメラアイを寸分の狂いもなく撃ち抜いていたのだ! カメラを破壊されたドローンは、明後日の方向へ乱射しながら壁に激突し、動かなくなった。
「……マスターユーザーを守ります」
俺は、目の前で起こったことを、一瞬、理解できなかった。そして、すぐに気づく。
(そういや……。起動時に、マスターユーザーがどうとか言ってたな……。俺を……守ってくれるのか?)
アンドロイドを起動した時の、あの無機質な音声が頭の中で蘇る。「マスターユーザーとして登録します」──その言葉の意味を、今、初めて実感として理解した。彼女は、ただの「お宝」ではない。俺の身を守るために、自らの|意志《プログラム》で行動する、特別な存在なのだ。
「今よ、ジャンク屋! ぼさっとしないで!」イリスの叫び声で、俺ははっと我に返った。
戦闘の衝撃で、遺跡自体の崩壊が始まっていた。天井から、巨大なコンクリートの塊が次々と落下してくる。
「ダメだ、キリがない! ここからずらかるぞ!」俺は叫んだ。
「出口はこっちよ!」彼女が、俺たちが来たルートとは別の、サービス用の通路らしき方向を指さす。
俺たちは、今度は俺がアンドロイドの手を強く引き、彼女を守るようにして、崩れ落ちる瓦礫とドローンの銃撃を掻い潜り、必死で走った。咄嗟に右へ避けた直後、左側の通路が完全に崩落した。相変わらず、俺の悪運の強さは、こういう土壇場で仕事をする。
息も絶え絶えに、俺たちはなんとか遺跡の外へと脱出した。背後で、研究施設が完全に崩壊する轟音が響き渡る。薄暗い遺跡の中から、真昼の眩しい光が目に飛び込んできて、思わず目を細めた。
「……はぁ……はぁ……」
俺は、オンボロの装甲バギーを隠しておいた場所までたどり着くと、アンドロイドを助手席に押し込み、自分も運転席に滑り込んだ。女も、ためらうことなく後部座席へと飛び乗る。
アクセルを目一杯踏み込む。オンボロの装甲バギーは、悲鳴のようなモーター音を上げ、車体全体をガタガタと軋ませながら砂塵を巻き上げ、どこまでも続く荒野へと駆け出した。
しばらくの間、車内には俺と、後部座席の彼女の荒い息遣いと、甲高いモーターの駆動音、そしてタイヤが地面を叩く音だけが響いていた。助手席のアンドロイドは、ただ静かに前を見つめている。背後の遺跡からは、もう追ってくる気配はない。
「……これで、話は終わりじゃないわよ」後部座席から、彼女の冷静な声が飛んできた。「状況は変わらない。そのアンドロイドは、地球再生局が管理すべき危険な遺物だわ」
俺はバックミラー越しに彼女を睨みつけた。以前の俺なら、ここでハッタリをかましたかもしれない。だが、今は違う。
「へっ、言うじゃねえか。あんた一人で、あのアンドロイドをどうやって奪うってんだ?」
俺の言葉は、もう単なる強がりではなかった。腕の中で彼女が俺を守った感触が、まだ残っている。
俺の言葉のニュアンスの変化に気づいたのか、彼女は一瞬言葉に詰まったようだった。「……今は、ね。でも、あのドローンを送ってきた連中も、そしておそらく他の勢力も、彼女を狙っている。あなた一人で、アレだけの連中から守り切れると思ってるの?」
その言葉に、俺はぐっと詰まった。確かに、彼女の言う通りだ。
「……目的地は?」彼女が尋ねる。
「ジャンクション・セブンだ」俺は、吐き捨てるように言った。「あそこなら、ゴロツキも、企業の犬も、連邦の役人も、ごちゃ混ぜだ。しばらく身を隠すには、うってつけのクソ溜めさ。それに……こいつの価値を正しく判断できて、高く買ってくれる物好きな連中もいるかもしれねえ」
「……無法都市ね。合理的ではあるわ」彼女はため息をついた。「いいでしょう。そこまで同行する。ただし、監視させてもらうわよ。変な気を起こさないことね、ジャンク屋」
「ザックだ」俺は、乾いた荒野の先、陽炎が揺れる地平線を見つめながら言った。「俺の名前は、ザック・グラナードだ」
バックミラー越しに、彼女の目がわずかに見開かれるのが分かった。一瞬の沈黙の後、彼女は静かに、しかしはっきりとした声で答えた。
「……イリス。イリス・ソーン。地球再生局の|査察官《エージェント》よ。」
こうして、俺と、記憶を失ったアンドロイド、そして任務に忠実な女エージェントの、奇妙で、そして危険な逃避行が始まったんだ。