ぶうん、と扇風機が首を振る音を聞きながら、僕はベッドに横たわった。
「僕は貴女なしでは生きていけない。でも、貴女は僕なしでも生きていける」
ため息が出た。どんなに考えを巡らせても、最後に辿り着くのは、そんな答えばかり。
貴女は僕と生きたいと言っていたはずだ。あれは嘘だったのか。いや、嘘であるはずがない。貴女は嘘なんて吐かない人だった。
わしゃわしゃと髪を掻き回す。癖になっていた。貴女を頭の中から追い出したかった。
けれども貴女の声が、耳にこびりついている。貴女の指の温度が、今も残っている。貴女の笑顔が、目に焼き付いている。
出会わなければ。貴女と出会わなければ、僕は一人でも生きていけたのに。
じめっとした夜気が身体を包み込む。肺に酸素が入ってこない。水底にいるみたいだ。苦しい。苦しい。
浅い呼吸を繰り返しながら、天に向かって腕を伸ばす。何かを掴もうとするように。
つう、と涙が一筋、目尻から溢れた。僕は伸ばした腕を引き戻し、額に当てた。
「なんで」
嗚咽混じりの声を漏らす。陸にあげられた魚みたいに、口をぱくぱくと開けて、喘いだ。
澱んだ空気が部屋を巡る。
不意に、怒りが込み上げてきた。
信じていたのに。僕はこんなにも貴女を想っていたのに。どうして。どうして。どうして。
いつの間にか、僕は唇をぎゅっと噛んでいた。隙間から、熱い息が漏れ出る。
ころころと鈴のように笑う貴女の声が聞こえた。〝咲《わら》う〟とはよく言ったものだ。貴女の笑顔は向日葵のようだった。
涙が洪水のように流れ落ちた。怒りは瞬く間に冷めていった。
もう貴女が語りかけてくることはない。僕の隣で笑ってくれる人はいない。僕は一層顔を歪めた。
僕を愛して。貴女が好きです。愛しています。だから、そばにいて。
僕は掌で顔を覆った。
貴女の隣に、知らない男がいる。貴女は僕の知らない顔をする。そんなの耐えられない。嫌だ。その男と幸せになる貴女なんて見たくない。
なんて卑しい人間なんだろう。僕は貴女の幸せを願うことができない。
ああ、瑕疵《きず》になりたい。貴女に一生残る瑕疵になりたい。そうして、一緒に……。
扇風機が首を降っている。
窓の向こうでは、騒がしいくらいに虫が鳴いている。
タイマーが作動した。止まった。