表示設定
表示設定
目次 目次




私怨が暴走

ー/ー



 * * *

 部屋を出て中庭に降り立つ。そこにいた雑兵に、どこの家の者かを聞いて、全員を惨殺。あっという間に中庭を骸の山で埋めた彼は、眉間にしわを寄せた。人を殺めることが愉しいわけではなく、ただ不快だと思った。
 所詮は雑兵。彼らの言うことなどはなからアテにしてはいない。少しの情報が手に入ったというくらいにしか思わなかった。彼は立ちはだかる敵を全員屠りながら、次々に屋敷を制圧していく。傷を一切負わずに。齢八の男児にやられっぱなしの敵達は、最終的に尻尾を巻いて逃げた。
 ――命拾いしたのはあいつらの方か。
 彼はそんなことを思いながら、中庭を一瞥。
 深追いの必要もないし、こうなった原因を作った武家の名だけでも、分かっているだけまだましかと思う。
 腐臭に塗れる屋敷でしばし過ごした。

 それから誰も近寄らなくなった腐臭に塗れた屋敷で二年の歳月を過ごした。
 すべてを奪われ、絶望に突き落とされた彼の私怨は、時をかけてより深く、より純度の高いモノへと昇華した。十となった彼は刀の検分をしてから、朝になるのを待つ。

 日が顔を覗かせるのと同時に、屋敷を出て武家屋敷を目指す。
 正面きって突撃してもよかったが、情報がほしい彼は、屋根裏から忍び込んだ。

 とある部屋の会話に耳を澄ませる。
「なんと!? あの事件の生き残りがいるだと!?」
「そやつ、腕が滅法立つようで、誰も太刀打ちできないのです……」
 仕えている者が、自信なく言っている。
「数で押して、わし自らとどめを刺してくれる!」
 その言葉を聞くやいなや、彼は天井の板をずらし、部屋に降り立った。

「誰を殺めるって?」
 彼は冷ややかな笑みを浮かべて、言い放つ。
「なにっ!?」
 目的の男が目の前にあらわれたことに、部屋にいた男達は面食らっていた。
「邪魔な奴を片づけるか」
 彼は言いながら仕えている男の心臓を刺し貫く。
「おのれっ!」
「貴様らを殺めたところで、なんの得にもなりはしねぇ」
 骸から刀を引き抜いて、彼が言う。
「ならば何故、わしらを殺めるのだ!」
 この屋敷の主と思われる男が叫ぶ。
「理由なんざ、どうでもいいだろう。ただ、殺めずにはいられんだけだ。貴様には洗いざらい話してもらうが」
 冷ややかな声で彼が吐き捨てる。
「なにをじゃ!」
 突きつけられた刀の切っ先に怯えながら、男が叫ぶ。
「すべて、に決まっているだろう。何故、俺達は根絶やしにされなければならなかった?」
 問いかける彼の姿は脅しにしか見えない。
「わしらが生きるために、身代わりにさせたのだ」
 その一言が、彼の逆鱗に触れる。
「面倒事を俺らに押しつけて、口封じのための根絶やし? 俺達は罪などひとつも犯していなかったんだぞ!?」
 忌々しげに顔を歪めて彼が叫ぶ。
「そなたさえ葬れば、口封じはなったも同然」
 怯えつつ、男が口にする。
「はっ、どちらが生き残るか、勝負でもしてみるか?」
 ふっかける彼の目は恐ろしく鋭い。
「よかろう! かかれっ!」
 次々に出てきた家臣らを一撃で殺めながら、彼は言葉を発す。
「己の手を汚さず、高みの見物か。ただの弱者が。偉ぶるんじゃねぇよ」
「殿を愚弄するな!」
「黙れ、雑魚が」
 彼は刀を振り抜いて、叫んだ家臣の首を刎ねる。
 大勢の家臣らを斬って、盛大な血祭へと変化させていく。
 
 数多くの骸が転がる中、彼はあえて残していた当主の男に視線を投げる。
「なんじゃ、こいつは! 何故、歯が立たんのだ!」
 怯えきった男を冷ややかに睨んで、彼が言う。
「この二年、ただ生きてきたわけじゃねぇよ。貴様を殺めたところで、俺の気が晴れるわけじゃない。大事な人達が戻ってくるわけでもない。だがな、俺達を死に至らしめた奴らを生かしてはおけねぇ。殺めなければ、意味がないんだよ」
 彼は無様な命乞いを完全に無視し、男の命を奪った。
 返り血に染まった刀を引き摺って屋敷を出た。

 廃墟に戻った彼は、心の内で思う。
 ――俺は二年前、心が死んだのかもしれない。無傷の勝利がこんなにも不快だとは思わなかった。どうせ、人を斬ることでしか生きられないし、誰かに仕える気なんざさらさらない。まっぴらごめんだ。

 * * *
 
 慚愧が低い声で淡々と、最初も復讐を果たしたことを告げ、酒を呑んだ。


次のエピソードへ進む 〝悪魔の翁〟の誕生


みんなのリアクション

 * * *
 部屋を出て中庭に降り立つ。そこにいた雑兵に、どこの家の者かを聞いて、全員を惨殺。あっという間に中庭を骸の山で埋めた彼は、眉間にしわを寄せた。人を殺めることが愉しいわけではなく、ただ不快だと思った。
 所詮は雑兵。彼らの言うことなどはなからアテにしてはいない。少しの情報が手に入ったというくらいにしか思わなかった。彼は立ちはだかる敵を全員屠りながら、次々に屋敷を制圧していく。傷を一切負わずに。齢八の男児にやられっぱなしの敵達は、最終的に尻尾を巻いて逃げた。
 ――命拾いしたのはあいつらの方か。
 彼はそんなことを思いながら、中庭を一瞥。
 深追いの必要もないし、こうなった原因を作った武家の名だけでも、分かっているだけまだましかと思う。
 腐臭に塗れる屋敷でしばし過ごした。
 それから誰も近寄らなくなった腐臭に塗れた屋敷で二年の歳月を過ごした。
 すべてを奪われ、絶望に突き落とされた彼の私怨は、時をかけてより深く、より純度の高いモノへと昇華した。十となった彼は刀の検分をしてから、朝になるのを待つ。
 日が顔を覗かせるのと同時に、屋敷を出て武家屋敷を目指す。
 正面きって突撃してもよかったが、情報がほしい彼は、屋根裏から忍び込んだ。
 とある部屋の会話に耳を澄ませる。
「なんと!? あの事件の生き残りがいるだと!?」
「そやつ、腕が滅法立つようで、誰も太刀打ちできないのです……」
 仕えている者が、自信なく言っている。
「数で押して、わし自らとどめを刺してくれる!」
 その言葉を聞くやいなや、彼は天井の板をずらし、部屋に降り立った。
「誰を殺めるって?」
 彼は冷ややかな笑みを浮かべて、言い放つ。
「なにっ!?」
 目的の男が目の前にあらわれたことに、部屋にいた男達は面食らっていた。
「邪魔な奴を片づけるか」
 彼は言いながら仕えている男の心臓を刺し貫く。
「おのれっ!」
「貴様らを殺めたところで、なんの得にもなりはしねぇ」
 骸から刀を引き抜いて、彼が言う。
「ならば何故、わしらを殺めるのだ!」
 この屋敷の主と思われる男が叫ぶ。
「理由なんざ、どうでもいいだろう。ただ、殺めずにはいられんだけだ。貴様には洗いざらい話してもらうが」
 冷ややかな声で彼が吐き捨てる。
「なにをじゃ!」
 突きつけられた刀の切っ先に怯えながら、男が叫ぶ。
「すべて、に決まっているだろう。何故、俺達は根絶やしにされなければならなかった?」
 問いかける彼の姿は脅しにしか見えない。
「わしらが生きるために、身代わりにさせたのだ」
 その一言が、彼の逆鱗に触れる。
「面倒事を俺らに押しつけて、口封じのための根絶やし? 俺達は罪などひとつも犯していなかったんだぞ!?」
 忌々しげに顔を歪めて彼が叫ぶ。
「そなたさえ葬れば、口封じはなったも同然」
 怯えつつ、男が口にする。
「はっ、どちらが生き残るか、勝負でもしてみるか?」
 ふっかける彼の目は恐ろしく鋭い。
「よかろう! かかれっ!」
 次々に出てきた家臣らを一撃で殺めながら、彼は言葉を発す。
「己の手を汚さず、高みの見物か。ただの弱者が。偉ぶるんじゃねぇよ」
「殿を愚弄するな!」
「黙れ、雑魚が」
 彼は刀を振り抜いて、叫んだ家臣の首を刎ねる。
 大勢の家臣らを斬って、盛大な血祭へと変化させていく。
 数多くの骸が転がる中、彼はあえて残していた当主の男に視線を投げる。
「なんじゃ、こいつは! 何故、歯が立たんのだ!」
 怯えきった男を冷ややかに睨んで、彼が言う。
「この二年、ただ生きてきたわけじゃねぇよ。貴様を殺めたところで、俺の気が晴れるわけじゃない。大事な人達が戻ってくるわけでもない。だがな、俺達を死に至らしめた奴らを生かしてはおけねぇ。殺めなければ、意味がないんだよ」
 彼は無様な命乞いを完全に無視し、男の命を奪った。
 返り血に染まった刀を引き摺って屋敷を出た。
 廃墟に戻った彼は、心の内で思う。
 ――俺は二年前、心が死んだのかもしれない。無傷の勝利がこんなにも不快だとは思わなかった。どうせ、人を斬ることでしか生きられないし、誰かに仕える気なんざさらさらない。まっぴらごめんだ。
 * * *
 慚愧が低い声で淡々と、最初も復讐を果たしたことを告げ、酒を呑んだ。