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素顔を見せる

ー/ー



 鎖那を連れ、柳の診療所を訪れた。
 ぽかんとしている彼女を促して、中に入る。
 鎖那は前の部屋に通され、治療が終わるまで待ってもらうことに。
「ささ、奥へどうぞ」
 部屋に入った慚愧は、胡座をかいて刀を鞘ごと抜く。それを傍らに置くと、斬られた着物を、少々雑に脱いだ。
 半裸になった慚愧の身体を診た柳が、悲しそうに言う。
「これは酷い……。しばらく休んでいただきますからね」
「そうかよ」
 慚愧は本当に嫌そうな顔をして言葉を返す。
 柳ははあと溜息を吐き、右腕と右脇腹の傷を縫う。
 その上に塗り薬を塗り、念のため油紙をつける。さらにその上から晒し木綿をきつめに巻く。
「……終わりました。完治までは十四日かかると思っていてください。三日後またきていただければ」
「分かったよ。……こればかりは仕方ねぇか」
 溜息混じりに言い放った慚愧は、身支度をして銭五枚を払った。
 
 前の部屋に顔を出すと、心配そうな顔をしている鎖那と目が合う。
「手当ては受けたんだ。そんな顔するな」
 思ったより雑な言い方だったと思い、慚愧は面の下で苦笑する。
「でも……」
 鎖那は不安そうに言葉を紡ごうとしたが、口を噤んだ。
「まあいい。少し話がある。付き合え」
 ぶっきらぼうな口調で言った慚愧は、首をかしげた鎖那とともに診療所を出た。

 慚愧は家の前までいき、鎖那を先に入れる。
 引き戸を閉め、そこに背を預けた慚愧が呟く。
「大事な話がある。他人には決して言うな」
 低い声で言う慚愧は、威嚇するような雰囲気を纏っている。
「口は堅いもの。大丈夫」
 その雰囲気に怯えつつ、鎖那が板の間に腰かける。
「お前は言ったな。〝悪魔の翁〟は悪ではないかもしれない、と」
「なんで、それを知ってるの……?」
 鎖那は戸惑いを隠せないでいる。
「そりゃ気になるよな。〝悪魔の翁〟は殺人剣の使い手で、目印は……」
 慚愧はそこで言葉を切る。腰に帯びた刀に手をかけ、少し抜いてみせる。
 そこには緑青の刀が一振り。とても美しく、人の命を奪う得物だとは誰も思わない。
「なんて……綺麗なの?」
「人の命を奪うモノに、綺麗も醜いもねぇよ」
 慚愧は苦笑しつつ言い放つ。
「でも、本当に綺麗なんだもの」
 鎖那は本音を口にする。
「まあ、いい。問いに答えるとしよう。〝悪魔の翁〟に繋がる場所というのは、表向きの噂にすぎない」
 慚愧は低い声で言う。
「え、え? じゃあ、どういうこと?」
 鎖那は戸惑う。
「ここの主は……」
 慚愧はそこで言葉を切り、面を固定していた紐をほどき、それをずらす。
「え、そんなことって……!」
 鎖那はただ口を押さえていることしかできない。
「前にも言ったはずだ。主は、この俺だ」
 慚愧は面を外し、複雑な表情で鎖那を見つめた。


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 鎖那を連れ、柳の診療所を訪れた。
 ぽかんとしている彼女を促して、中に入る。
 鎖那は前の部屋に通され、治療が終わるまで待ってもらうことに。
「ささ、奥へどうぞ」
 部屋に入った慚愧は、胡座をかいて刀を鞘ごと抜く。それを傍らに置くと、斬られた着物を、少々雑に脱いだ。
 半裸になった慚愧の身体を診た柳が、悲しそうに言う。
「これは酷い……。しばらく休んでいただきますからね」
「そうかよ」
 慚愧は本当に嫌そうな顔をして言葉を返す。
 柳ははあと溜息を吐き、右腕と右脇腹の傷を縫う。
 その上に塗り薬を塗り、念のため油紙をつける。さらにその上から晒し木綿をきつめに巻く。
「……終わりました。完治までは十四日かかると思っていてください。三日後またきていただければ」
「分かったよ。……こればかりは仕方ねぇか」
 溜息混じりに言い放った慚愧は、身支度をして銭五枚を払った。
 前の部屋に顔を出すと、心配そうな顔をしている鎖那と目が合う。
「手当ては受けたんだ。そんな顔するな」
 思ったより雑な言い方だったと思い、慚愧は面の下で苦笑する。
「でも……」
 鎖那は不安そうに言葉を紡ごうとしたが、口を噤んだ。
「まあいい。少し話がある。付き合え」
 ぶっきらぼうな口調で言った慚愧は、首をかしげた鎖那とともに診療所を出た。
 慚愧は家の前までいき、鎖那を先に入れる。
 引き戸を閉め、そこに背を預けた慚愧が呟く。
「大事な話がある。他人には決して言うな」
 低い声で言う慚愧は、威嚇するような雰囲気を纏っている。
「口は堅いもの。大丈夫」
 その雰囲気に怯えつつ、鎖那が板の間に腰かける。
「お前は言ったな。〝悪魔の翁〟は悪ではないかもしれない、と」
「なんで、それを知ってるの……?」
 鎖那は戸惑いを隠せないでいる。
「そりゃ気になるよな。〝悪魔の翁〟は殺人剣の使い手で、目印は……」
 慚愧はそこで言葉を切る。腰に帯びた刀に手をかけ、少し抜いてみせる。
 そこには緑青の刀が一振り。とても美しく、人の命を奪う得物だとは誰も思わない。
「なんて……綺麗なの?」
「人の命を奪うモノに、綺麗も醜いもねぇよ」
 慚愧は苦笑しつつ言い放つ。
「でも、本当に綺麗なんだもの」
 鎖那は本音を口にする。
「まあ、いい。問いに答えるとしよう。〝悪魔の翁〟に繋がる場所というのは、表向きの噂にすぎない」
 慚愧は低い声で言う。
「え、え? じゃあ、どういうこと?」
 鎖那は戸惑う。
「ここの主は……」
 慚愧はそこで言葉を切り、面を固定していた紐をほどき、それをずらす。
「え、そんなことって……!」
 鎖那はただ口を押さえていることしかできない。
「前にも言ったはずだ。主は、この俺だ」
 慚愧は面を外し、複雑な表情で鎖那を見つめた。